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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

二度目の鍛錬

 翌朝、僕は六時に目が覚めた。いつもより一時間も早かったが、もう全く眠くなかったので起きることにした。
 朝食を済ませてから、僕はジャージに着替えた。軽く準備運動的なものもした。どうやら逃げることはできないらしいから、それなら少しは準備しておいた方がいいというものだ。
七時まで、まだ時間があったから新聞に目を通すが、落ち着いて読むことができなかった。
 七時少し前には、学校には履いていかないが、普段履き慣れているスニーカーを履いた。携帯のアラームは七時にセットされている。そのアラーム音が鳴りだすのとほぼ同時に、僕は再び別の場所へと放り出された。
 今度も昨日と同じ草原だった。そして出てきたのも同じ怪物だった。ただ、今度は三匹も出てきていた。
 だけど、僕はもう逃げなかった。どうせ逃げ道はないし、逃げるだけ痛い思いをしそうだから。既に握っている剣で、一度突き刺せば消滅させられることも知っていたから。
「うおおおおー」 
 僕は、自分の気持ちを奮い立たせる為にも、大声を出しながら、まずは僕から見て左側の怪物に向かっていった。剣を振りかざしたが、あっさりと避けられてしまった。そして、背後から、他の奴が襲い掛かってきて、わき腹を引っ掻かれた。その瞬間ブシューっと僕のわき腹が赤い噴水になる。引っ掻かれただけなのに、傷口が深いらしい。
「うわあ」
 僕は引っ掻かれた瞬間に声を上げたが、それとほぼ同時に、僕を引っ掻いてきた怪物を剣で突き刺した。昨日と同じ様に、怪物は呻き声をあげると消滅した。
「あと、二匹」
 僕は、そう自分に言い聞かせた。一匹が消滅すると、それに怯んだのか、他の二匹はすぐに襲ってはこなかった。タイミングを見計らっているようだった。
 しかし、少しずつ二匹はお互いの距離を広げていた。僕を、左右から挟もうとしているのは明らかだった。そうして、二匹は一斉に左右から飛び掛かってきた。
 知恵があるのかないのか、同時に飛びかかってくるのだから、僕は後方に二匹を避けた。僕自身、昨日よりも随分冷静でいられている気がする。
 僕は、合気道を長い時間やっている。でも、実践の経験なんてまるでない。それでも、少しでも冷静さがあれば、技を生かすことができている様だった。
 それは、不思議な感覚だった。僕は、そんなに強いはずもなかった。でも、合気道の経験は、今、確実に僕の力になってくれている。
 今度は、僕の番だと思った。僕は僅かに、僕に近い方に位置していた怪物に切りかかった。だが僕の一撃は、少し怪我を負わせた程度で、怪物は消滅しなかった。怪物も必死に避けてきたのだ。
 僕と怪物二匹の間には少し距離があり、どちらも隙を伺っていた。僕は、さっき傷を負ったわき腹を押さえた。
[あれ? 痛くない]
 わき腹を押さえた手は赤くなったし、わき腹辺りのジャージも切り裂かれた跡がある。でも、手で探っても、傷跡が無かった。さっきは確かに痛みが走ったし、やられた痕跡もある。
 僕がわき腹に気を取られていると、傷を負ってない方の怪物が僕に襲い掛かってきた。僕は、寸でのところで、攻撃をかわすことができた。
「あぶなかったー」
 怪物は尚も襲い掛かってくる。僕は、剣を振り回してそれに対抗した。その成果があり、無傷だった怪物の足に、傷を負わすことができた。しかし、致命傷には至っていないようだった。
「やっぱり突き刺さないとダメなのか? 」
 しかし、突き刺すのはなかなか難しかった。
「くっそー」
 今度は、僕が最初に傷を負わせた怪物に向かっていった。二匹と僕は、今至近距離にいた。一方の怪物を狙えば、背後からもう一匹がさっきみたいに襲ってくるだろう。僕は、フェイントのつもりで、最初に傷を負わせた怪物を切りつける寸前で、後ろにクルリと向きを変えて、僕の背後の怪物を先に切りつけた。
 もう一匹は、思った通りに僕の方に攻撃をしかけようとしていた。その勢いもあって、剣越しにも、深く切りつけた感触が伝わってきた。あまり、嬉しい感触ではなくて、少しゾクッとした。だが、その甲斐あって、怪物は消滅した。
「別に突き刺さなくても深ければいいんだな。……あと、一匹」
 怪物が、なんとなく悔しそうに唸っているように思えた。僕の身体に、今、痛みはまるでない。だけど、怪物は怪我を負ったままだった。おまけに仲間はもういない。
「おい、僕はおまえなんか殺したくない。襲わないなら逃がしてやる」
 言った後で、それではここから元の世界に戻れないのではないかと思った。しかし、怪物は僕の言葉を無視して、一匹でも襲い掛かってきた。僕は怪物の攻撃を右に避けて、怪物の横から剣を突き刺した。怪物は呻き声と共に、跡形もなく消滅した。
 僕が大きなため息をついた途端に、僕は元の僕の家のなかに戻った。昨日と同様に、ジャージの切り裂かれた後も全部元通りになっていたし、何処にも出血の痕跡はなかった。
 靴を脱いで上がると、ミャアが僕の足元によってきた。僕はミャアを抱き上げて頬を摺り寄せた。昨日と同じ様に、文字の表示が頭に浮かんできた。どうやら次は午後の七時らしかった。
 あの世界では、僕は痛みを感じるが、怪我をしてもすぐに治る。でも、怪物は違う。まるで、僕に消滅させられる為だけに存在しているみたいだ……。こんなことを考えたら、凄く気が重くなった。あれが、幻想なのか現実なのか分からない。でも、気分が重かった。
[学校へ行く支度をしないと…]
 僕はノロノロと学校へ行く支度をしてから家を出た。

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