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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

怪物が僕を襲ってきた

 僕は、背中に嫌な汗を感じ、一歩ずつ後ろに下がりだした。怪物を刺激しないように、一歩ずつゆっくりとだ。
 だが、五メートルはあるだろう距離を、怪物が急に僕に向かって走りだしてきた。僕は向きを変えて一目散に逃げだした。だが、怖さで身体が緊張してしまって上手く走れない。
 足がすぐにでももつれて、転んでしまいそうだった。そして、大して走れてもいないのに、背中にドスンという重みと、左肩に痛みを感じた。
「ギャアー」
 僕は、叫びながら前のめりに倒れた。背中の重みは、一瞬で僕の背中を蹴り飛ばして、怪物は地面に着地していた。左肩が、ドクドクと脈打ちながら、痛みを僕に感じさせた。
僕は右手で肩を押さえた。
[今日はいったい、何故こんな目にばかり合うんだ]
 僕は、自分の運命を呪いながら、再び立ち上がって逃げようとした。その時に、目の前にあった直径十センチくらいの石が目に留まった。僕はそれを掴んで立ち上がり、怪物目掛けて投げつけた。
 見事怪物の顔にヒットし、怪物は呻き声をあげて顔を抑え込んだ。僕はそれには目もくれないで再び逃げ出した。
[肩が、肩が…きっと肉をえぐられた]
 他にも石がないか、辺りを見回しながら逃げていると、さっきと同じくらいの大きさの石が二つほど落ちていた。
 僕は両手で一つずつそれを掴んで、すぐ後ろまで来ている怪物に投げつけた。二つとも同時に投げつけた。怪物はさっきよりも大きく呻き声を上げた。
 僕は再び石を探しながら逃げ出した。しかし、僕に石を何度も投げつけられた怪物は、相当に頭に来ていたらしく、凄い速さで僕の正面に回り、飛び掛かってきた。
 僕の身体は、怪物によって後ろに倒された。怪物は、僕の首筋目掛けて噛みつこうとしてきた。その瞬間、僕の脳裏に、学校で僕の右手から出した剣の姿が過った。
「剣よ、刺され」
 僕は、怪物に噛まれる瞬間にそう叫んだ。それと同時に、僕の右手から剣が、今度は切っ先から上へ向って伸びる様に現れた。そして、怪物の胴体を見事に貫いた。
 緑色の液体が飛び散るのと同時に、悲痛な叫び声が聞こえてきて、僕を押し倒していた霊長類の怪物は、その姿を跡形もなく消した。僕の身体は、一気に力が抜けた。
 怪物が消えてしまうと、すぐに僕は自分の家であるマンションに戻っていた。体勢はそのままだった。僕は、身体をすぐに起こしてみた。身体の何処にも痛みが感じられなかった。
 左肩の痛みも、傷跡もなかった。噛まれたときに、当然制服のワイシャツも穴が開いたか破れたかしたはずなのに、それも全くなかった。見渡す限りの広い草原へ行く前と違うことは、立っていた僕が横たわっていたことと、少し息が切れているだけだった。
 時計を見てみるが、さっき家に着いたときに、何気なく見た時間から一分くらいしか経っていなかった。あんなに逃げて痛い思いした時間が一分のはずは、流石にないだろうと僕は思った。
 考えられるのは、僕が草原へ行っていた時間は、こっちの時間に反映されないということだった。しかも、衣服や怪我まで元通りだった。校舎をあんなにして、全く元通りにしておく訳だから、むしろこんなことはあの白い奴にとって、造作もないことなんだろうと僕は思った。
 しかし、まださっきの戦いの緊張が抜けなかった。教室での出来事は、もっと無意識的に身体が動いていたことだった。
 これは、白い奴が、無理やり僕に仕組んだ鍛錬だったのかもしれない
少しの間、僕は座って考えていたが、さっき買って来たもののことを思い出して立ち上がった。すると、脳裏に日付と時間が二つ浮かんだ。まるで視覚的にみているかのように浮かんできた。
 一つは、今日の日付と、たった今の時間で、丁寧にENDと横にあった。もう一つは、明日の七時で、STATOの文字が浮かんだ。これが意味するものは考えなくても分かりやすかった。 
 つまり、今日の分は終わって明日は朝7時から、また僕は、他の空間へ強制的に連れて行かれるということなのだろう。
 本当に、とんでもないことに巻き込まれてしまった。その時フッと足元に何かが絡みついてきた。足元には、今の僕の唯一の家族と呼べる猫のミャアがいた。
「ミャア、ただいま。ちょっとごめんな。今片付けるから」
 僕は、すぐに弁当とカップ麺以外の買って来たものを冷蔵庫に入れた。カップ麺にお湯を入れてから、僕はミャアを抱き上げて、キャットフードを取りにいった。ミャアの食事を用意してやってから、僕も買って来た弁当とカップ麺を食べ始めた。
 さっきの浮かんできた日付は、とっくに消えてしまった。だが、明日はまた七時にあんな目に合うのかもしれない。さっきの僕なんて、そもそも靴も履いていなかった。靴下しか履いていないで、あんな場所に放り出されたのだ。
 僕は食事を平らげて、片付けてからドッと疲れを感じた。だが、とにかくシャワーだけは浴びた。
 寝る支度を済ませて、自分の部屋のベッドにゴロンと横になった。まだ八時にもなっていない。ミャアは僕の部屋の自分の寝床へ収まっている。僕が部屋に入ってしまうと、冷房はこの部屋だけ点いているということを、ちゃんとわかっているのだ。
 僕は右手を眺めて見た。そして、剣を再び出してみた。剣は、その姿全体を一度に現した。そして、少し眺めてから、消してみる。今度は先から出てこいと思ってみると、さっきの怪物を倒したときみたいに、先の方から姿を現した。
「確か、これは水瀬さんを守りたいという気持ちがあれば、出てくるんだっけか? 」
 僕に、彼女を守りたいという気持ちがあるのかどうか、さっぱり分からなかった。でも、今はこれが出てこなければ、僕は凄く困ることになるのだろう。
 剣の重さは全く感じない。だけど、重くないということは、切れるものも限られてくるのか?僕はそんな疑問を抱きながら、暫く剣を眺めてみた。
「確か、最初に左肩をやられたな…でも、あの後に、僕は左でも石を怪物に投げつけた? 」
 それはおかしなことに思えた。噛まれたのかなんなのか分からなかったが、その直後に左腕は、動かすこともままならなかったはずだったから。
「無我夢中だったからか? 」
 僕は疑問を抱き始めたが、これは明日にはもしかしたら解決するかもしれない。僕はそんな風に思いながら、いつもよりも随分早く眠りについた。

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