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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

夢だったのか現実だったのか?

二章
 気が付くと、僕はベッドの上で横になっていた。ベッドの周りは、カーテンで仕切られている。最初は、意識がはっきりしなくて分からなかったが、外から学生らしき話し声がした。僕は、それでここは学校なのかと思った。
ゆっくりと身体を起こしてみたが、何処にも痛みを感じなかった。噛まれて、出血がまるで、凝固しないことを喜んでいるように流れていた腕も、折れ曲がってしまった足も、元に戻っていた。
枕元にあった黒縁眼鏡を僕はかける。
「今は何時くらいなんだろう?」
僕はポツリと呟いた。と、そこへ誰かが扉を開ける音が聞こえ、そのまま僕の方へ近づいてくる足音がする。僕は反射的に少し身構えた。
その足音はすぐ近くで一瞬止まった。ベッドを取り囲んでいるカーテンの下の方から、白い少しくたびれたスニーカーが見えた。サイズ的に女性のものと分かる。カーテンを僅かに開たのは、この学校の養護教諭の平木先生だった。
確か、年齢は三十歳前後で、比較的小柄なせいで、男子に時々肩を組まれて困ったりしている。実際の年齢よりも少し若く見える先生だが、僕は今まで、ほとんど関わった事などなかった。
「あら、目が覚めたの」
そう言うと先生はカーテンを勢いよく開けた。
「すみませんでした」
僕はボソッとした声で言った。
「確か、一年C組の神崎翔平君だったっけ?」
「はい」
「何か覚えてる?」
 僕はその問いにドキリとした。ここが保健室だとしたら、僕の教室とは離れている。僕の教室の上の階は、全て無くなっていた訳ではなかったから、ここはたまたま無事だったのかもしれない。だけど、何をどう言っていいのか分からなかった。
「あなたね、机に伏せて寝ていたの。でも、五時間目の授業が始まっても起きなかったから、数学の三谷先生があなたを起こそうとしたらしいの。それでもあなたは、寝息は立てているのに起きなくて、こんなこと初めてだったから、後藤君が担いでここまで連れてきてくれたのよ」
 後藤とは柔道部で、正に柔道部でございますという感じの、縦にも横にもでかくて、筋肉の塊のような奴だ。いつも声がでかくて煩い。もちろん関わったことはほぼない。
「後で彼にお礼を言うのね」
「はい」
 関わりたくもないのに面倒なことだ。
「お家に電話したけど、誰も出なくて、お父様の携帯に連絡したけど、やっぱり出なかったのよ。神崎君をいくら起こしても起きないから、連絡したのだけどね」
[まあ、あの人に連絡が繋がるはずはないだろう、そもそも今は仕事中だろうし]
「私としては、いくら声をかけても、身体を揺さぶっても、起きないあなたに対して、どうしたものかと思ったのよ。呼吸はしているし、脈も正常だったけど、ちょっと異常だったから。でも、起きたってことは、本当にただ寝ていただけなのかもしれないわね。最近ちゃんと寝ているの?」
「実は、昨日はほとんど寝ていません」
 僕は少し考えてからそう答えた。本当は、睡眠時間は十分にとっていた。だけど、この返答が、この先を考えたら一番楽な気がした。僕は、成績も中くらいのものをいつも保持しているし、問題も起こしたことがない。だから少し注意を受けるくらいで終わるだろうと思った。
「まあ、いろいろやりたくなることもあるかもしれないけど、ちゃんと寝てね。体調に悪いところがなければもう帰ってもいいわよ」
「ありがとうございました」
 僕はそう言うと、ベッドから出て上履きを履いた。保健室を出るときに、もう一度頭を下げてから僕は教室へと向かった。
 

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