面倒くさがり屋の異世界転生
第51話 闘技大会 ~総員戦~ ①
あれからというもの実技授業になるとみんなの身の入り方が違った。お祭り気分みたいなものでやる気が出るのだろうか?
あちらこちらで檄を飛ばす生徒を見掛けるが、各隊のリーダーなのだろう。守備隊はというと自主練習に励むように伝えてある。
武術が得意な奴は武術訓練を、魔法が得意な奴は魔法訓練を頑張っている。にわか仕込みの連携などは実戦じゃ役に立たない。個々の能力を伸ばした方がまだマシだ。
そのような中で俺はのんびりと的目がけて魔法の練習をしている。命中率を上げるために的の中心に難なく当たるようになったら、少しづつ距離を取って命中精度を上げていく。
守備隊の魔法組にもこれと同じ練習をさせている。いくら沢山魔法が撃てても当たらなければ意味がないからな。
「とうとう明日から闘技大会だね。総員戦をまずはやるらしいよ。代表戦を先にやると総員戦での手の内がある程度バレて対策されてしまうらしいし、代表戦で燃え尽きて大した働きができないからなんだって」
「それは逆でも起こりうるんじゃないか? 総員戦で目立って活躍した選手が代表戦メンバーなら対策されるだろ。というか回数を重ねるごとにあとから戦うクラスには確実に対策されてるだろ」
「それもそうだね」
「適当に戦ってればいいんだよ。総員戦は攻撃隊に任せて、代表戦は残り4人の内3人に勝ってもらえれば俺は楽ができる」
「それはズルいよ。私も楽したい」
「楽したいならサクッと敵を倒してくればいいだろ。残り時間は楽にできるぞ」
「それは難しいよ。相手は格上しかいないんだよ」
「それはクラスに当てはめたらだろ? お前個人の実技なら上位クラスのやつ相手でも引けを取らないさ」
「買い被り過ぎだよ」
そんな話をしながら今日の授業は幕を閉じた。明日はとうとう闘技大会か。できれば目立たず楽して終わりたいものだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日は闘技大会とあってか朝から生徒たちが彼方此方でピリピリしていた。かくいうFクラスも緊張からかみんなの言葉数が少ない。
「ケビン君、緊張してないの?」
「何故緊張する必要がある? 命のやり取りのないただの競技だぞ」
「それでも緊張はするよ。初めての闘技大会なんだし、上級生からも観られるだろうし」
「上級生は観れるのか?」
「知らなかったの? 闘技大会は実況中継されるんだよ。この期間だけは学院で授業免除になってるからみんな観ると思うよ。私たちも試合がなければ各等部の試合を観れるし」
「各学年じゃなくて各等部!? てことは、学院中に実況中継されるのか?」
「そうだよ」
不味い……不味い不味い不味い……確実にシーラ姉さんは見るはずだ。試合後に飛んできそうで怖すぎる。
ここ半年間、平穏無事に過ごしてきたのにここで崩れるのか!? それにクリスという変な奴にも入学していることがバレてしまう……
「悪い、急に腹が痛くなってきた。早退する」
「ダメだよ。守備隊のリーダーなんだから」
「リーダーはお前に任せる。頑張ってくれ。そして帰らせてくれ」
「急にどうしたのさ?」
「俺の存在が知られると不味いのが少なくとも2人いる。実況中継されると不味いんだ」
「大丈夫だよ。一斉に試合するわけじゃないけど同じ時間帯の試合数は結構あるから、もしかしたら試合に出てるかもしれないでしょ? それに総員戦よりも代表戦の方が人気だしね」
「“もしかしたら”なんて分の悪い賭けに乗る気はない。後生だ、帰らせてくれ」
そんなやり取りを2人でしていると、ジュディさんが教室に入ってきた。
「みんな、第1試合が始まるから野戦場へ行くわよ」
「ほら、もう始まるから行こうよ。今からじゃ早退もできないし」
「なら、体調不良ということで保健室で寝かせてくれ」
「それも無理だと思うよ。回復魔法を使われて返されるのがオチだよ」
くそっ……どう足掻いてもダメなのか!? こうなったら誰かの陰に隠れてコソコソして時間が過ぎるのを待つしかない。周りのやつが目立てばそちらに気が向くだろう。
「最初はEクラスとの対戦だね。Sクラスはトリなんだってさ」
「そんなことはどうでもいい。今は如何に目立たずに試合が終わるのを待つかだ。それに全力を注ぐしかない」
「そこは旗を守るために全力を注ごうよ」
「そうかっ!? むしろ自分で開始早々に旗を壊せばすぐ終わるんじゃないか……そうすれば実況中継されるまでもなく隠れることができるのでは……」
「それ、確実に変な人として目立つよね? 普通に試合に参加するより目立つと思うよ。テンパりすぎて正常な判断ができてないよ」
そんなこんなで俺は野戦場へ到着してしまった。まだ実用的な作戦を考えついていないのに。
「それじゃあみんな精一杯頑張ってね。勝っても負けても悔いが残らないようにするのが1番だから」
そんなことを伝えつつジュディさんは野戦場を後にするのだった。ここからは早く試合が終わるのを祈るしかない。
シーラ姉さんは身内だから諦めるとして、クリスには入学していることを知られては不味い。
「みんな聞いてくれ。今回が初戦でかなり緊張していることと思うが、いつも通りやれば勝てると思う。普段の練習通りで気負いせずにやっていこう。Eクラスに勝つぞ!!」
「「「おぉーっ!!」」」
試合前にサイモンの檄が飛び、クラスメイトがそれに応える。青春の1場面のようだがケビンからしてみたらそれどころではなかった。
「あぁ……どうしよぉ……」
そのようなケビンの悩みの種が声となって口からこぼれ落ちると、人知れず青空に消えるのであった。
あちらこちらで檄を飛ばす生徒を見掛けるが、各隊のリーダーなのだろう。守備隊はというと自主練習に励むように伝えてある。
武術が得意な奴は武術訓練を、魔法が得意な奴は魔法訓練を頑張っている。にわか仕込みの連携などは実戦じゃ役に立たない。個々の能力を伸ばした方がまだマシだ。
そのような中で俺はのんびりと的目がけて魔法の練習をしている。命中率を上げるために的の中心に難なく当たるようになったら、少しづつ距離を取って命中精度を上げていく。
守備隊の魔法組にもこれと同じ練習をさせている。いくら沢山魔法が撃てても当たらなければ意味がないからな。
「とうとう明日から闘技大会だね。総員戦をまずはやるらしいよ。代表戦を先にやると総員戦での手の内がある程度バレて対策されてしまうらしいし、代表戦で燃え尽きて大した働きができないからなんだって」
「それは逆でも起こりうるんじゃないか? 総員戦で目立って活躍した選手が代表戦メンバーなら対策されるだろ。というか回数を重ねるごとにあとから戦うクラスには確実に対策されてるだろ」
「それもそうだね」
「適当に戦ってればいいんだよ。総員戦は攻撃隊に任せて、代表戦は残り4人の内3人に勝ってもらえれば俺は楽ができる」
「それはズルいよ。私も楽したい」
「楽したいならサクッと敵を倒してくればいいだろ。残り時間は楽にできるぞ」
「それは難しいよ。相手は格上しかいないんだよ」
「それはクラスに当てはめたらだろ? お前個人の実技なら上位クラスのやつ相手でも引けを取らないさ」
「買い被り過ぎだよ」
そんな話をしながら今日の授業は幕を閉じた。明日はとうとう闘技大会か。できれば目立たず楽して終わりたいものだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日は闘技大会とあってか朝から生徒たちが彼方此方でピリピリしていた。かくいうFクラスも緊張からかみんなの言葉数が少ない。
「ケビン君、緊張してないの?」
「何故緊張する必要がある? 命のやり取りのないただの競技だぞ」
「それでも緊張はするよ。初めての闘技大会なんだし、上級生からも観られるだろうし」
「上級生は観れるのか?」
「知らなかったの? 闘技大会は実況中継されるんだよ。この期間だけは学院で授業免除になってるからみんな観ると思うよ。私たちも試合がなければ各等部の試合を観れるし」
「各学年じゃなくて各等部!? てことは、学院中に実況中継されるのか?」
「そうだよ」
不味い……不味い不味い不味い……確実にシーラ姉さんは見るはずだ。試合後に飛んできそうで怖すぎる。
ここ半年間、平穏無事に過ごしてきたのにここで崩れるのか!? それにクリスという変な奴にも入学していることがバレてしまう……
「悪い、急に腹が痛くなってきた。早退する」
「ダメだよ。守備隊のリーダーなんだから」
「リーダーはお前に任せる。頑張ってくれ。そして帰らせてくれ」
「急にどうしたのさ?」
「俺の存在が知られると不味いのが少なくとも2人いる。実況中継されると不味いんだ」
「大丈夫だよ。一斉に試合するわけじゃないけど同じ時間帯の試合数は結構あるから、もしかしたら試合に出てるかもしれないでしょ? それに総員戦よりも代表戦の方が人気だしね」
「“もしかしたら”なんて分の悪い賭けに乗る気はない。後生だ、帰らせてくれ」
そんなやり取りを2人でしていると、ジュディさんが教室に入ってきた。
「みんな、第1試合が始まるから野戦場へ行くわよ」
「ほら、もう始まるから行こうよ。今からじゃ早退もできないし」
「なら、体調不良ということで保健室で寝かせてくれ」
「それも無理だと思うよ。回復魔法を使われて返されるのがオチだよ」
くそっ……どう足掻いてもダメなのか!? こうなったら誰かの陰に隠れてコソコソして時間が過ぎるのを待つしかない。周りのやつが目立てばそちらに気が向くだろう。
「最初はEクラスとの対戦だね。Sクラスはトリなんだってさ」
「そんなことはどうでもいい。今は如何に目立たずに試合が終わるのを待つかだ。それに全力を注ぐしかない」
「そこは旗を守るために全力を注ごうよ」
「そうかっ!? むしろ自分で開始早々に旗を壊せばすぐ終わるんじゃないか……そうすれば実況中継されるまでもなく隠れることができるのでは……」
「それ、確実に変な人として目立つよね? 普通に試合に参加するより目立つと思うよ。テンパりすぎて正常な判断ができてないよ」
そんなこんなで俺は野戦場へ到着してしまった。まだ実用的な作戦を考えついていないのに。
「それじゃあみんな精一杯頑張ってね。勝っても負けても悔いが残らないようにするのが1番だから」
そんなことを伝えつつジュディさんは野戦場を後にするのだった。ここからは早く試合が終わるのを祈るしかない。
シーラ姉さんは身内だから諦めるとして、クリスには入学していることを知られては不味い。
「みんな聞いてくれ。今回が初戦でかなり緊張していることと思うが、いつも通りやれば勝てると思う。普段の練習通りで気負いせずにやっていこう。Eクラスに勝つぞ!!」
「「「おぉーっ!!」」」
試合前にサイモンの檄が飛び、クラスメイトがそれに応える。青春の1場面のようだがケビンからしてみたらそれどころではなかった。
「あぁ……どうしよぉ……」
そのようなケビンの悩みの種が声となって口からこぼれ落ちると、人知れず青空に消えるのであった。
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