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Me262, ドイツ・ジェット戦闘機奮戦す。

いわのふ

Operation 1 博士、ジェットを改造す

一九四四年、夏。大戦下、ドイツ。

ノルマンディ上陸作戦で連合国に大陸への進軍を許したドイツ軍は、劣勢に次ぐ劣勢であり、領内の爆撃と侵攻する連合国陸軍に苦戦を強いられていた。いずれ負けるであろう、そう将官たちは考えた。連合国陸軍は機動的なM4中戦車を主力として構成されている。その生産車両数はドイツ戦車に比較して桁違いに多く、戦線は徐々に東に向かっていった。いずれベルリンに近づくであろう。いや、その前にソ連軍に背後からベルリンを刺されるかもしれない。ヒトラーは相変わらずで、負けに耳をふさいで頭が半ばおかしくなっている。

技術陣であるメッサーシュミット博士も、技術的な観点から悩んでいた。この爆撃のひどさ、博士の開発した期待の星、新型ジェット戦闘機Me262もジェット燃料の不足と拠点爆撃で生産が滞っている。さらに爆撃よりひどいのは、ユンカース社のユモ・ジェットエンジンの信頼性のなさだ。いずれも素晴らしい性能を誇るメッサーシュミットMe262の性能をスポイルする。

燃料が不足している理由は明らかで、ドイツは石炭を産出してはいても、石油には恵まれない。そこで、不足する石油をフィッシャー・トロプシュ合成法で石炭から合成して補う。ところが、現方法により合成した石油にはガソリン成分が多く、ジェット用燃料が十分確保できない。重戦車のように低回転で大トルクを必要とする車両でさえ、ディーゼルではなくガソリンエンジンやガソリン・エレクトリックを積載している有様である。

化学屋は石油化触媒を改良しようと躍起になった。この結果、ようやくジェット燃料、ディーゼル燃料も量産可能な新たな新触媒とパイロットプラントが完成したところだ。

あとは、爆撃を避けて効率よくMe262を生産すれば良い、とそう思った。現に、アルベルト・シュペーア軍需相の努力により軍需品生産量がこの爆撃にもかかわらず伸びている。しかしながら、連合軍に目をつけられたMe262はアウトバーンのトンネルを利用した掩蔽壕でほそぼそと製造されている状態である。改良もさることながら、生産拠点確保が大事だ。

しかし、ある日、女性テストパイロット、ハンナ・ライチュがメッサーシュミット博士に面会にやってきて、ヒステリーを爆発させた。鉄十字賞をもらった女性パイロット、すごい豪傑女だ。

「あんたが、作った戦闘機、加速が悪いったらありゃしないよ。まったく使いにくい。燃費も酷いもんだわ」

「ジェットなんてそんなものだ。そりゃ、初期加速は悪いかもしれんが、最高速といったらないだろう」

「その代わり、急旋回なんかしようものなら、即座に失速よ。戦闘機としてどうかと思うね」

「使い方の問題だといったじゃないか。決して急旋回なんかしてはいかん。速度を落としたら命取りだ」

「じゃあ、燃費が悪いのはどうしてくれるのよ」

「それは仕方なかろう、燃焼ガスの噴射が速すぎる上に少ないからさ。初速と燃費を上げるには、燃焼ガスの速度をすこし抑えて、噴出ガスの量を増やさねばならん。そこは、微妙なバランスが必要なんだ。ユモのエンジン設計者だってウチのMe262担当だって分かってるはずだ」

「でも、それを考えるのが、あんたの仕事じゃないの?」

「そんなことは知らん。Me262の最高速は君も体験しただろう、あれほどの速度で突っ込まれたら迎撃などできん」

「そのかわり、一撃したらもうそれで帰るよりないわよね。急上昇もできないし」

「迎撃ならそれでよかろう」

「数がたりないんだってば。ランカスターとボーイングにどれほど爆撃されたか知ってるでしょ」

「ああ、迎撃がうまくいってないのは、Me262の生産量とジェットエンジンの信頼性だな。B17はフォッケウルフでは手に負えない相手だ。Me262の信頼性はジェットエンジンのコアの耐熱性によるものだ。ユモ・エンジンだってたいしたものだと思うが」

「だから、それをなんとかしてよ、と言いに来たのよ」

「なんとかって、英米でさえ実用化できなかったものをわたしは作ったのだぞ。やつらはレシプロ機にも劣るジェットしか作れんのだ。クソジェットなんぞ、燃費は悪い、速度は遅い、それこそ役立たずの最たるものだ。英軍もクソジェット作ったらしいがどうしようもない」

「あんたの誇りなんぞ、どうだっていいのよ!とにかく、なんとかしてね、わかったわよね、あたしナチ上層部ともお付き合いあるって知ってるでしょ。もちろん、あのヒゲおじさんの信頼も得てるってね」

「わたしを脅すのか」

「まあ、はっきり言うなら、そうね。できなかったらどうなるのか、あたしは楽しみだわ」

博士はハンナの怒りに恐れおののいた。命が危ない、亡命でも考えた方がいいかもしれん、と。しかし、だ。天才物理学者、ウェルナー・ハイゼンベルクはドイツのために残ると言っている。わたしだけ、ひとり逃げるというのも卑怯かもしれん、と博士は思った。焦った博士は翌日にはユモ・エンジンの開発陣と会談し、解決策を考えた。その一方で、生産拠点だ。この爆撃はますます酷くなる。掩蔽壕でのしのぐくらいしかないわけだ。博士と部下は生産拠点として適した場所を探すべく、ハンナを通じてドイツ軍幹部を動かした。

一九四五年一月、博士の部下がとある廃岩塩鉱を発見した。ベルリンから近い。しかも合成石油の原料となる炭田も同じ地域にある。岩塩鉱には都合よくも引き込み線まである。これを使わない手はない。原材料の搬入と、生産した機体部品を運ぶのに好都合だ。ここに、改良石油プラントと生産拠点を移せば、燃料と機体を同時に増産できる。

急げば、全生産設備を一カ月以内に移植できそうだ。Me262が主力戦闘機になれば、ドイツを爆撃することができなくなる。ということは、もはやインフラの破壊とドイツの崩壊を食い止めることができるかもしれない。

あとは、ユモ・エンジンだ。信頼性も耐久性もなく、燃費の悪いユモをどうしたものか......。

しばらく考えに考えた末、博士は革新的なエンジンを考案してしまった。それはターボ・ファンエンジンである。このエンジンは戦後のジェットエンジンの標準型となるものであった。

これで、エンジン・コアの過熱の問題もクリアできる。なあに、簡単なことだ、と博士は思った。余計に吸い込んだ空気を燃焼ガスと一緒に噴出してやれば、排気温度は低くなり、噴出量が増える。これで問題は解決できる。コアだって熱くはならないだろう。

最高速はMe262程度の速度なら問題なく出せそうだ。それどころか、エンジンに余裕が発生するから、むしろ速度はあがるのではないか。それがだめなら出力向上用のアフターバーナーだが、これは既に開発済みだ。

早くしなければ。既に十二月のバルジの戦いで大敗北を喫したドイツ軍は戦線維持能力を失いつつある。そもそも、この電撃戦はいかれたヒトラーが起案したもので、制空権のない状態で、動きの遅い重戦車を機動的に運用するという無理のあるものだった。前線には動けなくなった重戦車が山となって積みあがっている。バルジ作戦のために石油備蓄を切り崩したため、ジェット燃料はおろか各種燃料が不足がちである。

メッサーシュミット博士はさっそく新たなアイデアを実験で検証してみた。ジェット戦闘機を短期で開発したドイツである、実験はすぐに終わり、明らかに生産性と性能および信頼性を向上できるという結果が得られた。戦時下というプレッシャーの中、合理的な考えはすぐに実用化される。

開発された新エンジン、ユモ004Zはコンパクトではなく、現行のユモ004Bと同サイズではあったが低速時の加速性を最大で五倍にまで強化でき、排気の低温化も実現された。これならどこの飛行場であろうと、熱いジェット噴射を滑走路に晒さず、かつ短距離で離陸できる。しかも信頼性はプロペラ機並みにいい。博士は新Me262にZ(ツェット)という機種識別記号を与えた。Me262Zは今までのMe262とまるで性能は異なるが、そのことは情報統制によりわずかな人が知るのみである。

生産は一九四五年二月からはじまった。搬出口は岩塩坑を覆う森の中につくられ、近くの滑走路まで分解して鉄道で運ばれた。再構築工程を短縮するため生産技術者を総動員して、わずかな工程で組立および飛行を可能とした。当初の生産は日産十機であったが、労働集約により日産百機まで引き上げられた。労働者の慣れにより生産性はさらに向上すると考え、博士は日産二百機を目標とした。一カ月で六千機も生産するとは正気の沙汰ではない、という首脳部もいたが、部品点数のあまりの少なさと工程の簡素さにその将校は沈黙した。ジェット機用の耐熱合金材の大量調達が必要となったが、シュペーア軍需相は調達に協力した。

パイロットの教育はおっかない女性教官として有名なハンナ・ライチュが選ばれ、量産直前から徹底的な教育が実施された。ライチュは速度を落とすような急旋回、急上昇、低速時の格闘戦を禁止とした。ただし、低速時の加速性能が大幅に改善されているために乗員にとって習得は容易であった。

ドイツの得意技は量産立ち上げの早さだ。バルジ作戦のときも、巨大戦車を次から次へ驚異的な速度で生産し、連合軍を恐怖に陥れた。初期ロット一千機は二月末には完成した。それらはいくつかの飛行場に分散して配置され、反抗の日は二月終盤の晴天時と決められた。

メッサーシュミット博士はその日を待ちながらも、さらなる改良策を描いていた。たしかにターボ・ファンエンジンは低速時の加速力の弱さとエンジンの信頼性を引き上げる。燃費も良い。だが、最高速は上がらない。むしろ、限界領域では少し落ちる可能性さえある。

ライチュを呼んで意見を聞いてみることにした。

「ハンナ、どう思う?今回の改造で最高速度向上も期待したがそこまでは無理だった」

「博士、今の時局ではMe262Zに対抗できるほどの速度が出せる飛行機はないのよ、これでいいじゃないの」

「そうはいっても、絶対性能は乗員を助けることもある」

「それはパイロットの技量になっちゃうわね」

「そうはいってもハンナみたいな天才ばかりじゃないんだよ」

「あら、なら例のアフターバーナー、標準装備するんじゃなかったの」

「燃費がわるくなるんだ」

「非常用でいいじゃないの」

「そうだなあ。今のところのアイデアではそれでいこう」

「使いすぎ禁止は徹底しておくわ。危険だしね」

メッサーシュミットは考えた末、熟練パイロット用のみにアフターバーナーをつけることにした。

二月中盤には連合国によるドレスデン爆撃が実行された。ひどいものだ、とヘルマン・ゲーリングは思った。しかし、防空体制の不備を招いた責任はゲーリングにもある。ゲーリングは防空体制の見直しを改めて考えはじめた。そこに新開発のMe262Zの情報がもたらされた。この制空戦闘機を用いればあらゆる爆撃機の攻撃から逃れることが可能となる。ゲーリングはデーニッツに委託され、再度空軍最高責任者として復権した。また、かつてから不仲であったガーランドにも実権を与え、現場総指揮を任ずることにした。

ドレスデンにはこれといって重要な軍事拠点がなく、一般市民が住む歴史的都市だ。これは殺戮にほかならないのではないか。たったの一晩で何万という市民が死んだ。この時点で、Me262Zは飛行場周辺での最終組立工程を終了しておらず、出撃の機会はなかった。もう少し遅ければ結果は異なっていたかもしれない。ゲーリングならずともドイツ軍幹部は必ず一矢報いることを誓った。

予定されていた二月の終わりには大規模な空襲はなかった。博士とドイツ空軍は三月初旬にターゲットを定め、ジェットエンジンの安定性を高めることに腐心した。

二月末の時点で、すでに千二百機のMe262Zが準備された。B17など敵ではなかろう、なにが「空飛ぶ要塞」だ、とメッサーシュミット博士は思った。情報封鎖にもかかわらず、巷でも噂に「シュバルベII」なる戦闘機が大反抗をする、との情報が流れ、首脳部はたいそう焦った。おまけにヒトラーはもう廃人に近い状態だ。頼りになりはしない。

そして三月二日、連合軍の爆撃機大編隊がドイツにめがけてやってきた。それは昼間攻撃であった。好都合だ。Me262Zの大群がB17と護衛戦闘機P51に向けて飛び立つ。エンジンは予想を上回る良い状態で、各地で離陸に成功した。あとはぶんなぐるだけだ、と自信を深めたメッサーシュミット博士は思った。

果たしてB17はドイツ空軍を舐めてかかり、より効果を高めようと低空爆撃をしかけてきた。上空で待機していたMe262Zの大群がそれに襲い掛かった。30ミリ機関砲とR4Mロケット弾の中、次々にB17は撃墜された。おまけに米国の誇る最新鋭戦闘機、P51ときたらまるで役立たずのレシプロ飛行機だ。来襲したB17の九十パーセントが撃墜された。米航空隊の被害は甚大であった。戦果を聞いた市民は沸き返った。しかし、まだ戦闘はこれからだ。

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