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Me262, ドイツ・ジェット戦闘機奮戦す。

いわのふ

Operation 2 デーニッツ、ドイツ掌握・進撃開始

ヒトラーはもう廃人同然になっている。とち狂った作戦を次々に立案するヒトラーに、まともに従う人間なぞおらず、ドイツ軍上層部は混乱状態に陥っていた。ある者は南米に逃げようと画策し、またある者は敗戦工作を始めようとする始末だ。しかし、既に二度の組織的暗殺計画を逃れたヒトラーは自分を不死身だと思うに至り、さらに狂いを深めている。

ヒトラーに対する不信を深めるドイツ軍幹部は、作戦立案能力に優れたカール・デーニッツに事実上の総指揮をゆだねたいと考えた。デーニッツと支持者らは慎重かつ下手からヒトラーに近づいていった。かつての仲間の裏切り行為を憎むヒトラーは、デーニッツらを自分を信頼する部下として重用しはじめた。

すぐに空軍戦略の概容はデーニッツが、戦術指揮や陸軍との協力はヘルマン・ゲーリングが担当することになった。問題は陸軍で、ロンメル亡き後、有望かつデーニッツに従う指導者もない。主要な戦車戦力はデーニッツが嫌うSSナチス親衛隊配属である。しかし、現時点では航空優勢であり、西部戦線ではゲーリングと陸軍首脳陣でやっていけそうではあった。

ヘルマン・ゲーリングは地上攻撃機としてMe262Zを小改良するようにメッサーシュミットに嘆願した。これは、ヒトラーがジェット戦闘機を爆撃機としようとした悪夢を思い出させるものだ、だが、今のドイツにはそれが必要になっている。メッサーシュミットとその部下は地上攻撃用にV1ミサイルの改良型を搭載することを提案した。V2はあまりに過剰性能で、かつ重い。大気圏内で使うにはV1の方がいい。それでもV1は重過ぎる。

メッサーシュミット博士はフォン・ブラウンに相談を持ち掛けた。だが、フォン・ブラウンの頭にはV2ロケットしかない。彼の本当の夢は月旅行だ。しかたない、自分と部下でVシリーズを小型化しよう、そうメッサーシュミット博士は思った。

メッサーシュミット社に移管、結集された新型巡航ミサイル技術は新たなミサイルV0を生んだ。開発されたV0ミサイルは当初から目標への誘導装置が内蔵されることになった。困難なようにもおもえたが、V1開発の段階ですでに簡易な慣性誘導装置や電子誘導技術が完成しており、さらなる改良もドイツの技術を結集すれば可能であることが分かった。すぐに開発にとりかかり、わずか二週間で試作機開発まで達成した。あとはこれを搭載できるように簡素化するだけだ。

V0は三月中旬には量産ラインが完成し、生産されたV0はすべてのMe262Zに標準搭載された。ただし、一発だけだ。だから遠距離から一発撃って、効果があれば突入するというスタイルが確立された。ただでさえ、速度と高高度性能で不利な連合国航空隊はもはやMe262Zから逃れることはできない。つまり、ドイツを空襲する能力はない。制空権はドイツの手に戻ったのだ。

Me262Zの最高速度は量産が進むにつれ、わずかづつだが向上した。もはや亜音速での飛行まで目前になりつつあり、メッサーシュミット博士は主翼を改造することにした。つまり後退角の最適化である。

Me262は当初から後退翼であったが、理由は重量配分の問題からであった。飛行試験の成功後になって後退翼は音速に近づくほど有効であることが発見された。まだ、どの国も後退翼の秘密には気づいていない。型番はそのままZを引き継ぎ、後退翼の最適化が実施された。最高速度は時速一千キロまで到達した。もはや敵はいない。あとは地上攻撃用ミサイルの効果を見定めるのみだ。

地上攻撃用V0は戦車破壊に有効であることがすぐに立証された。高い位置から高速で発射されるV0は、一発で米国のM4中戦車を破壊した。米軍は打つ手がなくなってしまった。なぜなら、量産性に優れるM4が主力戦車でこれ以上のものはないと考えていたからだ。

M4はトータル・バランスと量産性に優れている。しかし所詮は兵士が乗り込む高価な装甲車であり、熟練兵士と物量への対価としてV0は安い選択だ。日本が硫黄島攻防戦でやったように、敵に「対価の高さ」を知らしめることこそ、物量の不足する枢軸軍には重要なのだ。硫黄島の栗林忠道司令は戦死したようだが、彼の意思をつぐ残党がいまだ米軍を悩ませ続けているという。栗林は対価の高さを追求した。それが米軍にためらいをおこさせている。

M4への対抗手段として、Me262ZとV0のカップリングは成功だった。軽量のV0を搭載しても増槽ほどの重さもない。各地で陸軍を撃破した。爆撃機の迎撃が確実になるにつれ、空襲も頻度が激減した。片っ端から撃ち落されるのに空襲するバカはいないからだ。後は陸軍だのみだが、重量戦車ばかりにこだわっていて、進軍も容易ではない。

ヒトラーの妄言に右往左往していた首脳部であったが、ついにカール・デーニッツの総統補佐就任工作に成功した。ヒトラーを前面に出しながらも事実上の全権掌握である。デーニッツはさっそく陸軍改革に着手した。まず、戦車を二種に分け、対ソ連軍用重戦車と、西部戦線向け中戦車を効率よく量産すべきと考えた。巨大なティーガーⅡは即座に生産を打ち切らせた。超大型のマウス、エレファント戦車なんぞ論外である、すぐさま戦力外通告だ。この方針について軍需相アルベルト・シュペーアは全面的に協力し、軽量軽快な西部戦線向きの中戦車を量産し始めた。かつてのバルジ作戦での失敗を繰り返さないよう、戦線の拡大は計画的に実施された。

チャーチルは焦っていた。このままでは、D-DAYの成果が失われてしまう。英軍のジェット機はどれもこれもエンジンに不安定性が残り、米軍はジェット機など興味がなく試作段階である。米海軍はF6F、陸軍はP51を投入している。また爆撃機の究極で高性能なB29は太平洋に配属されている。戦線はついにフランス領にまで後退した。ここに至り、ついにカール・デーニッツは、アントワープ攻略戦を決意した。バルジ作戦での失敗を取り返さねばならない。

もはや制空権はドイツにある。イギリスの直接爆撃さえ可能だ。だが、急いではいかん、とデーニッツは考えた。通商破壊作戦も継続しなければならない。島国である英国の弱点は海上輸送路だ。となると、次はUボートの改良だな、と考えた。とにかくもアントワープを陥落させねば通商破壊も有効ではない。

四月、ついにカール・デーニッツは決断した。第二次バルジ作戦である。空軍と陸軍が協力してこれを行う。森の中を停滞なく軽快に進む中戦車とMe262Zをうまく使わねば作戦の成功はむずかしいだろう。連合軍は強い。彼はかつてUボートで実施した群狼戦で思い知っていた。

デーニッツは基本的な戦略を練り直した。東部戦線は赤軍の西進を抑えるだけにとどめ、西部戦線に注力しよう。重戦車は東部戦線だけに置き、進撃はしない。計画されていた「春の目覚め」作戦は中止した。アントワープ攻略は四月初旬に準備ができるはずだ。SSはいまだに言うことを聞かないが、活躍している空軍が主導するとなれば態度も変わるはずだ。

ドイツ版D-DAYは四月五日と決められた。戦略的には軽、中戦車を集中させて、アントワープ目指して電撃的に進軍させる。途中でサンヴィット、バストーニュを抑え、そこを拠点とする。戦術的には最初に空軍の戦闘機と陸軍のネーベル・ヴェルファーロケット砲で敵の拠点を混乱、戦力削減させ、そこに戦車が突入する格好だ。補給は輸送機を使った空軍ルートと陸軍ルートを共用し、補給不足による進軍停滞を抑制する。建設が進んでいるアウトバーンも滑走路として活用できる。

進撃は開始された。果たして、米軍のM4戦車部隊を中心とした連合国陸軍は崩壊しはじめた。かつてのバルジ作戦では空軍がネックだったが、制空権が回復された現在、それは解消されている。わざわざ悪天候の日に、空軍を避けて突入する必要はない。晴天の日であっても進撃が可能なのだ。もはやドイツ軍の破竹の進撃を止める手段はなかった。M4中戦車部隊は壊滅的打撃をうけ、四月十日にサンヴィットは陥落し、中旬にはアントワープを占領した。

アントワープを占領したにも関わらず、デーニッツは苦渋の中にあった。U-ボートの改良がすすまず、ヴァルター機関の最新鋭潜水艦がどうにも量産できないのだ。これでは通商破壊作戦に支障をきたす。そこで、Me262Zを通商破壊に利用しようと考えた。V0の小改良だけですむからだ。

V0は当初の設計から万能ミサイルであり、センサーと弾頭を変えるだけで通商破壊に活用できる。メッサーシュミット博士はそんなもの簡単だとばかりに二種のミサイルを量産しはじめた。生産はもはや堂々とかつてのドイツ領で可能である。連合国の戦略はドイツ軍拠点の再利用であるため、工場は徹底破壊されず被害は軽微であった。

四月末には英仏海峡を横断する商船はすべて撃破された。もはや、大陸に供給する陸軍師団はないのだ。これだけでいい、とデーニッツは思った。フランスを占領することもできるだろうが、反乱を抑える難しさを考えれば放置したほうがいいかもしれない。それよりも英軍をたたくことが先だ。

デーニッツは別な問題にも頭をなやませていた。彼の知らぬうちに、ユダヤ人を迫害、撲滅する隠密作戦があったことを知ったからだ。これはまずい。負ければかならず復讐を受ける。連合国との和睦を最終目標とした場合、民主国家を建前とする米国には人権問題として責められるだろう。戦争被害が少ない米国が講和するには、国内向けに建前が必要だ。ユダヤ人問題は交渉をきわめて難しいものにする。

「まったくあいつらは」

とデーニッツは更に苦悩を深くし、ヒトラーと腹心への信仰を捨てる覚悟をした。ヒトラーを処分できる立場に彼はいる。

          

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コメント

  • いわのふ

    御礼遅れて申し訳ありません。また引き続き書いていきますのでどうぞ、よろしくお願いします。

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  • 内野俊也(Toshiya Uchino)

    面白い!私も同系統の作品書いているだけに。
    お互いがんばりましょう!

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