心霊便利屋

皐月 秋也

第12章 忘れ去られた妄執

 あれから数週間が過ぎ、高橋も鳴りを潜めていた。
 瀬戸さんの一件が片付いても、クレアの腕のアザは消えていない。やはり、原因は高橋なんだろうか?

 事件当時、予断を許さなかった城田さんも車椅子を使えば動けるようになるまで回復し、参事官として復帰していた。
 大倉側だった捜査官や政府要人も全員拘束され、結果的に瀬戸さんを殺害してしまった俺はどう言ったわけか無罪放免になった。

 そして俺達はまだ見習いではあるが警視庁公安部直下の超常現象対策課の特別捜査官となり、普段は心霊便利屋として活動、有事の際には捜査官としての仕事に従事すると言う感じだ。

 俺達の拠点としては、本来警視庁のビルに入る予定だったが、俺達の仕事の性質上、別に拠点を構えた方がいいという上層部の決定で、相模原にオフィスを持つことになった。今まで使っていた事務所は当然引き払うことに。

 間中は分析官として、このままうちの課へ配属され、城田さんは参事官兼、うちの局長に就任した。
今俺達は高橋の足取りを追いながら、捜査官として必要な訓練を受けているところだ。
 射撃、車両、潜入任務、ヘリからの降下、警察との共同訓練等、と、訓練は多岐にわたり俺達は毎日ヘロヘロになっていた。

 俺、徹はまだギリギリついていけていたが、林さんは寝込んだ日もあったくらいだ。
 その中でもクレアが断トツで成績も優秀だった。
 クレアの潜在能力の高さは恐ろしい…。
 篤も無事退院して今は元気だが、城田さんとも協議したうえ、捜査官とする打診は見送った。

 しかも公安は秘密重視の組織なだけに、俺達が国家公務員になったことすら話せないでいる。…まぁ、仕方ないか。

 正直俺は高揚している。日頃は超常現象専門の探偵をしてはいたが幼い頃からの夢は警察官だった。捜査官と、警察官はあり方は違うが探偵と比べたら微々たる違いだ。
 それに、探偵業務にも間中のアシストも受けられるところが非常に大きい。
来月に行われる最終試験に合格すれば俺達は正式な特別捜査官となる。
以前城田さんからIDとバッジは受け取ったが、その時限定の物であり、試験に合格すると正式なものを受け取れるらしい。

 俺達は訓練を終え、オフィスに戻った。
 「あー、もうダメだっ。」
 「今日はさすがに疲れたねぇ…」
 「俺、食欲無いわぁ…」
 「くぅぅぅ!ビール、うまいですね!」
 林はようやく打ち解けてきたのか、最近では陽気な兄ちゃん化してきている。
 「神職がアルコールあおってもいいのか?」
 「もうあなた達のせいで、今や見習い捜査官ですよ。職業が変わったので問題ありませーん!!」
 おいおい、これで5本目だよ。
 こんなに飲むから訓練中に倒れるんだよ。
 「林さん、戸惑いとか無いんですか?」
 トンッ
 林はビール瓶を置いた。
 「…そりゃ確かに混乱しましたよ、瀬戸様があんな風になられたんですから。でもね、彼女も一人の人間だったんだと思い知らされた気がしました。」
 「そうですよね…」
 「最期に、ご自分の過ちに気付かれただけでも、救いにはなったかなと。黒衣さんのお陰なのかもしれませんね。」
 「俺が瀬戸さんを救ったわけじゃねぇよ。あの人はちゃんと正しい心は持ってた。だからこそ俺達の声が最期には届いたんだ。
 怖いのはな、そんな人でも絶望には呑まれるってことだ。」
 「そうだね。力の制御についても、精神面でも私が一番危なかった。」
 クレアは一抹の不安を抱えているようだ。
 「そうならないための訓練だ。大丈夫だよ、それに俺は死なない。」
 「うん、約束だよ♡」  「あーあ、また始まったよ…」
 「うらやましい…」
 「さぁ、みんなで飯食って帰るか!」
 間中に声をかけようとすると、彼が慌ててオフィスから出てきた。
 「あー、待って!まだ帰れないよ!」
 「どうした?」
 「大田区で事件だよ!おそらく僕らの課が担当になるはず!」
 「てことは、犯人は人間じゃないってことか。」
 「それで、事件の内容は?」
 間中は巨大なモニターを使って説明し出した。
 「今日の明け方、大田区の高架下で霊体兵器と思われる事件が発生。近くの監視カメラでその姿が確認できたよ。」
 確かに。
 「お前も化け物が見えるようになったのか?」
 「残念ながらね、僕も君達同様霊体兵器に攻撃されて霊障を受けたから。」
 「じゃあ行くか。」
 ピピッ!
 着信だ。
 ピッ
 「黒衣だ。」
 『黒衣捜査官、城田だ。内容は聞いた後かな?出動してくれ。』
 「了解!」
 『まだ高橋が野放しだ。常に報告を頼む。』
 「よし!みんな行くぞ!」

 現場に到着すると、警察官が数人倒れていた。
 …みんな死んでいるな。くそ、高橋の野郎何が目的なんだ。
 「晃!高橋だ!!」
 徹が高架下にある店の前で高橋を見つけたようだ。
 俺は走って徹の元へ急いだ。
 「よう、黒衣。最近よく会うなぁ。」
 「もう会いたくねぇからこれで終わりにするぞ。」
 高橋は目を細くした。
 「ツレねえこと言うんじゃねぇよ。」
 「もうお前を縛るものはなくなったのに何が目的で動いてんだ?」
 「俺の目的はお前らを殺すことだけだ。ていうか、俺にはそれしか残ってねぇからな!」
 「哀れな奴だよ、ほんと。」
 「…なんだと?」
 「だってそうだろ。そうしてないとこの世との繋がりが持てないから人を殺してんだよな?」
 「…黙れ。」
 「だがな、放っておくこともできないんだ。」
 「浩一、もう消えて。」
 「俺をコケにしやがって!まとめて殺してやる!」
 そういうと高橋の後ろに8体の化け物…いや、霊体兵器が現れた。

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