心霊便利屋

皐月 秋也

第9章 国の暗部①

 クレアは少し不安そうな表情を浮かべていた。
 無理もない。頭では理解できていても、武装した部隊の人間が自分達の事務所にいるのだから。

 「クレア、大丈夫だ。」
 「うん…。」
 クレアは俺にしがみついた。
 
 「ふん、ガキどもが…」

 消え入りそうな声だったが俺はその言葉を聞き逃さなかった。
 声の主の方に目をやると坂本さん、いや坂本が侮蔑の視線を俺に送っていた。

 「おいあんた、何が言いたい?」
 「他意はない。君達が羨ましいだけだよ。」
 「…なんだと?」
 「まぁ、そう怒らないでくれ。私だってなんだかわからない素人を守るために自分の部隊を派遣させられるんだ。この屈辱に比べたら軽いものだろ?
 私も君達のように物見遊山な気分で参加したかったよ。」
 この野郎…

 「おぃ!もう一回…」
 バキィ!!
 「…っ、うぶっ?!」

 俺が殴ろうと思った瞬間、坂本が殴り飛ばされていた。
 篤だ。
 「そうだよな、おっさん。俺等みたいな素人と一緒じゃあ不満だよなぁ…。」

 「…き、貴様!」

 篤は坂本に近付くと胸ぐらを掴んだ。

 「貴様、何してる!離れろ!!」

 特殊部隊の一人が篤に向かって銃を向ける。

 「うるせぇ!自分のダチをバカにされて黙ってられっかよ!」
 …馬鹿野郎が。
 「篤、もういい、やめとけ。あんた等も銃下ろせよ。」

 今度は銃口を俺に向ける。

 「…くっ。もういい、銃を下ろせ。」

 坂本は立ち上がると、篤の方を向いた。

 「ガキが。公務執行妨害だ、こいつを逮捕しろ。」
 「やめなさい!あなたもあなたです!この子達を挑発してるのは私も見てましたよ。篤さんを逮捕するなら、この事を警視総監に報告します。公安部長の耳にも入るでしょうね。」
 「…っ、しかし…」
 「…まだなにか?」
 「いえ…おい、もういい。」

 坂本は部下に指示した。

 「おい篤、お前どこにいたんだ?」
 「俺がコンビニ行ってる間に知らねぇ奴らが事務所にいたから終わるまで外にいたわ。鍵かけられて中にも入れなかったし。」
 「じゃぁお前、自分が殴ったやつが誰かもわかってなかったのか?」
 「おう、誰だよあのオヤジ。」
 「はぁ…警視庁公安部の参事官だよ。」
 「なんだよ、それ。あいつ偉いやつなのか?」
 「あぁ、かなりな。」
 「ふーん、瀬戸さんの方が上に見えたけど。」
 「それは間違いないかもな。」
 「だろぉ?」
 「晃さん、篤さん!」
 『は、はい!』
 「気持ちはわかりますが、暴力は感心できませんよ!」
 「すみません。」
 「俺が勝手に殴ったんで俺に言ってくださいよ!」
 「…ふふ。そのチームワークを戦いに活かしなさいね。」

 中々話がわかる人だな。
 
 「それと篤さん、本当はこの話全部知っているのでしょう?」
 「え、あ…」
 「あなたのことだから、自分が何も知らないことにしておけば、心配をかけずに彼等を助けられると思っていたのではないですか?」
 「う…」

 篤が珍しく言葉を詰まらせている。
 篤はコンビニから帰ると、事務所の中が騒がしくなってるのを見て、巻き込まれたくなくて急騰室でこっそり話を聞いていたらしい。

 「では、あなたも参加で異論はないですね?」
 「瀬戸さんちょっと待って下さい!コイツは…」
 「晃!俺が決めたことだ、受け入れてくれ。」
 「…すまん、ありがとな。」
 「篤くん、すごくかっこよかったよ!」
 「お、俺が?!やめてくれよぉ。」
 照れてやがる。

 徹を呼んで篤のことを話した。

 最初こそ反対したが、篤の気持ちを聞き渋々受け入れた感じだ。
 その後、坂本の野郎から俺達三人分の武器と、防弾ベストが支給された。
 特殊警棒と、ガスブローのアサルトライフル、ショットガン、ハンドガンだ。
 ヤツはこの武器がどう化け物相手に効果的なのか聞いてきたが教えてはやらなかった。
 少しムッとした表情をしたが自業自得だ。
 俺は、警棒とそれぞれの弾に力を込めた。

 皆が防弾ベストを着込んだ後、
 クレアはハンドガンと、肩掛けストラップを付けたアサルトライフル。
 徹はショットガンと、アサルトライフル。
 篤は警棒とハンドガンだ。
 俺も飛び道具が欲しかったので、警棒とアサルトライフルを手に取った。

 「林さん、あんたは?」
 「私にはこれがあるので結構です。」

 そう言うと、懐から何かを取り出した。

 「え?お札…ですか?」
 クレアだ。よくそんなもの知っているな。
 「はい、相手が怪異なら十分戦えます。」
 ほぅ、手並み拝見といこうじゃないか。
 さぁ…いよいよだな。

 装甲車が三台あり、一台目には坂本と、瀬戸さん、捜査官4人、二台目には捜査官6人、俺達4人は三台目に乗り込んだ。
 まるで今から戦争に行くみたいだ。まぁ、大きくは違いないのかも知れない。

 この仕事を始めたときはこんな日が来るなんて考えたこともなかった。
 もちろんクレアのような素晴らしい女性に出会えるなんてことも。
 …何があってもこいつ等だけは守ってみせる。

 キィキキィィィ…!
 プシュゥゥゥ…

 着いたようだ。
 暗闇の中、まず特殊部隊がフラッシュライト付きの銃を構えて先行した。

 プシュップシュッ…

 見張りが気付くや否や、次々とサプレッサー(消音器)付きの銃で次々無力化(恐らく殺害している)して行く。

 プシュップシュップシュッ…

 「?!おい…!」
 ドンッ!
 「うぐっ…」

 瞬く間に広場にいた複数の敵を撃ち抜いた後、異変に気付いた最後の見張りの鳩尾に銃のストックを叩き込み沈黙させた。
 …さすがだ、日本にもこんな部隊がいるのには驚いた。

 「おいおい、海外ドラマ見てるみたいだったな。」
 「あいつ等、死んだんだよな…」
 「私、やっぱりあの人達怖い…」

 クレアは俺の腕にしがみついていた。
 俺の上腕部にクレアの胸が当たって…

 だ、ダメだ!集中しないと!
 
 「…今、エッチなこと考えてたでしょ?」
 「ち、ちが!」

 『突入準備はできてるか?』
 坂本からの通信だ。

 「はい!いつでも突入出来ますっ」
 
 「少し待っていてください。」

 瀬戸さんが降りてきた。
 以前のように印を組み施設全体へ結界を張った。
 これで化け物どもは外に出られないし、捜査官達にも奴等の姿が見えるようになる。

 …良いのか悪いのかだが。

 「終わりました。皆さんご無事で。」

 『よし、突入だ!』

 隊長が右腕でグーの形を作った後、前方に指を差すサインを出した。

 ガンッ!!!!
 バキャァァ!!
 「警視庁公安部だ!手を上げて投降しろ!!」
 「くそ!」
 「警察だ!殺せ!!」

 特殊部隊の連中は俺達を囲むように前進していく。

 プシュッ
 「グァ!」

 プシュップシュッ
 「おごぉ!」
 「でぁ?!」

 …俺達の出番はあるのか?

 「隊長!前方に何かがいます!」
 「な、なんだあれは!!」
 こいつらは初めて見るんだろうな。瀬戸さんの結界、恐るべしだ。
 「撃てー!!!!」
 バンッバンッ…!
 ドドドドド…!!
 ドゴンッドゴンッ!!
 案の定、ただの銃で撃っても怯みもしな い。
 「化け物めー!!」
 「来るな!来るなぁ!」
 「助けてぇ!!!」
 …情けない。さっきまでのかっこよさはどこ行ったよ。
 『アルファリーダー!何をやってる?!』
 「ば、化け物です!銃が効きません!」
 『馬鹿な…そんなものがいるわけないだろう!』
 …何?坂本は化け物の存在を信じてなかったのか?
 ちょっと待て、政府主導でそのために組まれた部隊じゃなかったのか?!

 「晃、おかしくないか?」
 「あぁ、どうなってる?」
 くそ、考えるのは後だ!
 化け物が長い腕を振りかぶり、その腕が隊長に直撃した。

 ドガァ!!

 「?!ぐぁぁぁ!!」
 隊長はふっ飛び壁に叩きつきられた。
 「ひぃぃぃ!」
 「助けてぇ!!!」
 捜査官の何人かがチリチリに逃げ出す。
 「やれやれ、これでは困りますね。」
 林がお札を化け物に向かって飛ばした。
 {アギィィィィ…}
 断末魔の悲鳴を残しその場で霧散した。
 …やるじゃないか。

 その後を続くように3体の化け物が現れた。

 『おい、どうなってる!応答しろ!おい!』
 俺は下に落ちている無線機を拾った。
 『しっかりしろ!私の出世が…』
 もう我慢の限界だ。
 「うるせぇよ!くそが!」
 ガンッ!
 バババババ…!

 俺は一番近くにいた化け物に力を込めた警棒を叩きつけ、離れた二体にアサルトライフルを乱射した。
 『な、誰だ!』
 「黒衣だ!
 てめぇ、自分だけは安全な所から偉そうに指示してんじゃねぇ!文句あるならこっちに来て戦えよ!」
 『わ、私は司令官だ!私がいなければ君達に指示が出来ないだろう?!』
 「てめぇの指示なんて誰が聞いてんだよ!」
 『う、うるさい!生き残りたいなら私の指示に従え!』
 「…現場も知らない人間がガタガタ煩(うるさ)いんですよ。」
 ん?…隊長の声か。

 壁に叩きつけられて気絶してると思ったが、意識が戻ったようだ。

 「化け物の姿すら見ていないあなたに何がわかるんですか?」
 『なっ、化け物のなんていない!』
 「そうですか。」
 『ブチッ…ツー』
 通信が切れた?
 隊長が入り口に戻っていった。

 …逃げたのか?

 辛うじてその場に残った捜査官達が慌て出した。

 「隊長は?!」
 「通信が切れてるぞ!」
 ザザ!
 くっ、新手か。
 「奴等だ!殺せ!!」
 …ん?戦闘員と、化け物が一緒に行動している?
 奴等をコントロールできているのか?
 バンッバンッ…
 戦闘員が発砲してきた。俺達は壁を使ってカバーする。

 「くそ、やってみるか。」
 俺は右手に力を集中させた。その手をそのまま戦闘員に向かって付き出して力を放った。

 「ぁぐぁ!」
 戦闘員がその場に倒れた。
 …使えるみたいだな。

 「き、君、今何をしたんだ?」
 俺は捜査員に向かって笑った。
 「魔法だ。」

 残り、戦闘員は5人、化け物は7体だ。
 俺の力で敵は明らかに怯んでいた。

 「みんな、一気に畳み掛けるぞ!」
 俺の掛け声で、その場にいた全員が前に出た。

 ドンッ

 俺は戦闘員の一人に通常の膝蹴りをかまし、

 「はっ!」

 こちらに手を伸ばしてきた化け物に力を込めた拳を叩きつけた。

 「私だって!」
 バババババババ…!

 クレアは俺に向かって移動を始めた化け物2体を撃ち抜いた。
 
 徹は化け物の元に走り警棒を叩きつける。

 ギィン!

 次にハンドガンを手に取り、もう一体の化け物を撃ち抜いた。

 バンッバン…!

「デカイだけで見かけ倒しなんだよ!」

 ドォンッドォンッ!

 くそ!敵のショットガン持ちが来たか!
 本物の迫力は半端ないな!
 俺達は物陰に隠れた。
 まだ化け物は2体いるし、戦闘員は…減っていない。

 ちっ…膝蹴りくらいじゃすぐ立ち上がるよな。

 バンッバンッバンッ!
 ドォンッドォン!

 くっ、制圧射撃か。これじゃあ前に出られない。

 カランカラン…
 ん?乾いた金属音がなる。

 プシュゥゥゥ…

 「スモークグレネードだ。煙が充満したら突っ込むぞ。」
 この声は隊長だ。
「離せ!馬鹿者!」
「煩い、とっとと歩け!」
 ?!
 隊長はコイツを連れてきたのか。
 隊長が襟首を掴んでいるのは坂本だ。
 「皆命がけなんだよ!あんたも逃げてないで戦ってください!」
 そう言って坂本にハンドガンを渡した。
 「うぅ…」
 「君達、行けるか?!」
 「あぁ、大丈夫だ!」
 「行きましょう!」

 俺達は一斉に飛び出し、その場にいた化け物と戦闘員を制圧した。

 「ななな、なななな…」

 坂本は腰を抜かして動けなくなっているようだ。
 化け物を見て壊れたようだな。

 こんなヤツを司令官に任命するなんて政府はアホなのか?

 「ありがとう!お陰で助かった!」
 隊長がヘルメットを外してお礼を言ってきた。

 「いや、こちらこそ。」
 「すごいじゃないか!我々なんて必要なかったかもな!」
 「突入するまでは俺がそう思ってた。」
 「あっはっはっ!我々もだ!」
 「なあ、隊長さん。」
 「なんだい?」
 「化け物の事、上からはどう聞いてたんだ?」
 「あぁ、それなんだよ。不法な人体改造を受けた狂人としか聞いてなかったな。」
 「なるほど、お偉方は説明に困ったのかもな。」
 「あぁ、お陰で小便漏らすとこだったよ。」

 俺達がその場で一息ついていると。

 ドン!
 ?!
 「隊長!!」
 そんな…!
 隊長の胸から刃物のような物が生えていた。
 「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」
 「う…うぐっ」

 {よぉ、クレアァ…。俺が死んだ途端、他の男に靡(なび)くなんてひでぇじゃねぇかぁ。悲しくて死にきれねぇよぉ。}

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