心霊便利屋

皐月 秋也

第7章 決戦の夜

 俺、クレア、徹、篤の4人は各々入念に戦いの準備をしている。

 クレアは軽食を買いに行っているし、徹は竹刀で素振り中だ。

 篤の武器をまだ用意していなかったため、昔使っていたというボクシンググローブを持って来させた。

 「それより晃、俺は霊なんて一度も見たことないのにどう戦ったらいいんだよ。」

 「瀬戸さんが張った結界内では誰でも霊の姿が見えるらしいから大丈夫だ。」

 「…いやいや、全然大丈夫じゃねぇよ。」

 「よし、これでいい。」

 俺はグローブに力を注いで、篤に渡した。

 「見た目は変わってねぇけど、これで大丈夫なんだよな?」

 「あぁ、そのはずだ。」

 篤は不安そうにグローブを見つめている。

 「ただいまー!」

 クレアが帰ってきたようだ。

 「おかえり、ありがとな。」

 「うん!ねぇ、見て見て!ついでにホルスターも買ってきた!」

 言うなりクレアはスカートをたくしあげ、太ももに装着した銃とホルスターを見せた。

 『おぉぉぉ!!』

 俺、徹、篤の歓声が重なる。

 「どう?かわいい?」

 徹と篤は食い入るようにクレアの太ももを見ている。

 …俺も人のことは言えないが。

 「これなら、怪しまれないでしょ?」

 「クレア、こいつらにまで見せなくていい。」

 「え!妬いてるの?」

 「当たり前だろ…」

 「えへへ、嬉しいな♡あ、篤さん鼻血。」

 「お前ら、もうそれくらいにしてくれ…」

 篤が鼻にティッシュを押し込みながら苦言を呈した。

 鼻血ってわかりやす過ぎるだろお前。

 「わりぃ、つい…な。」

 「気を付けまぁす!」

 「これから死ぬかもしれないってときに呑気な奴等だな。」

 と、徹。

 俺達は軽い食事をしながら作戦を立てていた。

 「まずは晃と、篤は正面玄関から突入。晃の顔は悪霊共もしっかり覚えてるだろうから思いっきり暴れて注意を引いてくれ。」

 「なるほど、陽動作戦か。」

 「ああ。晃達が暴れ出したら俺とクレアちゃんは裏側の勝手口をぶち破って侵入。各個撃破していく。」

 うん、これならいけそうだな。

 「母親が一人になった時に俺達全員で潰すってことで。」

 「あのー。」

 クレアが手を上げている。

 「クレアどうした?」

 「弟ちゃんの霊は?」

 う、うーん…

 「やるしかないよな…」

 いくら悪霊とはいえ子供を倒すのは…
倒すことが救いになるんだと自分に言い聞かせる他ないな。

 「何とか助けてあげたいな…」

 クレアの気持ちもわかるが相手は悪霊だ。危険すぎる。

 徹が立ち上がった。

 「さぁ、そろそろ時間だ。」

 いよいよか。相手は数に勝るし俺達もタダでは済まないだろう。
 だからといってあの家をそのままにはしておけないし、俺もみんなもこんなところで死ぬわけにはいかない。

「さぁ、いくぞ!」
気合いを入れて俺達は事務所を後にした。

 事務所から現場までは車で40分程度だが、実際の時間よりもかなり早く感じた。
 いくら人数が増え装備を整えていたとしても、間違いなく数では敵の方が勝っている。
 少しの油断も許されない。

 柳田家の近くに到着すると俺達は車を降りた。

 「ここからは二手に別れたほうがいいな。」

 「晃、暴れるのはいいが通報されない程度にな。」

 「そん時はそん時だ。」

 …キィィィン

 なに?!

 「晃!」

 クレアが指差す方向を見ると、暗闇に白い影がはっきりと浮かんでいた。
 …柳田梨花だ。

 「篤見えるか?」

 徹が篤に聞くと、

 「み、見えるって何が?!」

 やはり見えていないな。

 「柳田梨花、あの家で焼け死んだ女だよ。」

 「あなたは何がしたいの?」

 クレアが梨花の霊に問いかけている。

 {………}

 くそ、ノイズが酷くて聞き取れない。

 「早く逃げてって言ってる。家族に殺されるって。」

 「クレアには聞こえるのか?」

 「うん。でも、家族を救って欲しいとも言ってる。」

 どっちなんだ。

 「どうやって?!あれだけの悪霊を浄化するなんて無理だ!」

 クレアは梨花の霊に向かって何回も頷いている。交信しているんだろう。

 「家族は悪い霊に捕まって操られてるって言ってる!」

 なるほど、魂を引っ張られているのか。だが…

 「そうだとしてもその悪い霊とやらがいなきゃなにもできないぞ!」

 「お母さんと一緒にいるって。」

 どういうことなんだ、あの時はそんなやついなかっただろ。

 「強力な結界が張ってあるのにどうやってその悪い霊は中に入ったんだ?」

 クレアは再び梨花の霊と交信する。

 「最初からいるって。見えていたはずだって言ってる!」

 …そんな馬鹿な。

 だがもう時間がない。

 「みんな、作戦通りにいくぞ。」

 俺達はそれぞれの配置についた。
 高橋の奇襲に備えながら戦うしかない。
 まずは俺と篤が突入だ。

 「行くぞ、篤。」

 「ああ。いつでもいいぞ。」

 バン!!

 玄関の扉を蹴り破り、中に入ると、少なくとも30体は一階に悪霊どもがひしめき合ってた。
 
 ドカッ!

 俺は近くにいた一体を殴り飛ばして叫んだ。

 「おら!かかってこいよ!」

 ガンッ!

 「晃!俺は階段の踊り場に行く!」

 篤も向かってきた一体を殴りながら叫んだ。

 「ああ、頼む!」

 ガンッ…ドゴッ…ボグッ…スパン!

 俺は両足にも力を込め、リビングに続く通路を進みながら襲いかかる悪霊をパンチや回し蹴り等を叩き込み次々に倒していった。

 悪霊はどれだけ倒しても次々と湧いてくる。

 くっ!キリがないな…

 ?!

 バギッ!!!

 突然ダイニングテーブルが飛んできた。

 …あ、アブネェ!

 俺はテーブルが飛んできた方を見ると、
母親と、息子の霊がこちらを見ていた。

 気付くと俺は悪霊に囲まれていた。

 「くそ、いつの間に…」

 バンッバンッバン…!

 発砲音と共に俺を囲む霊が次々と消されていく。

 「晃!!」

 クレア達が来たようだ。

 「あぁ、まだ生きてるぞ!」

 バキィ!

 俺はクレアに答えると、くねくねした動きの悪霊を殴り飛ばした。
母親の霊が俺に近付こうとした刹那、

 「はっ!!」

 シュパンッ!!

 忍び寄っていた徹渾身の横凪ぎがまともに母親を捉えた。

 {グ…ズ}

 声にならない声を上げ、ゆっくりと徹に
振り返ると、

 バンッバンッ

 クレアの続けざまに放った弾が母親を捉える。

 {ッ………}

 俺は怯んでるところを畳み掛けるように、尖ったテーブルの破片を手に持ち力を込め、母親の霊の頭部を狙う。

 {…ヤメテェ!オ母サンヲイジメナイデェ!}

 子供のような高い声がはっきりと直接頭に響く。結界のせいだろうか?

 「どこから聞こえる?!」

 子供の霊は母親にくっついている。

 違う!ここからじゃない!

 {僕ハオ兄チャンノ後ロダヨ!}

 俺が振り向くと、きれいな生前の姿で現れた子供の姿が浮かんでいる。

 …間違いない、写真に映っていた梨花の弟だ。

 …どういうことだ?

 ガンッ

 「晃、なんでガキが二人いるんだ?」

最後の一体を殴り倒した篤が聞いてくる。

 {コノ家ノ中ニ僕トパパ、ママノ体ガアルカラ探シテ!見ツケテクレタラ皆デ天国ニ行ケルノ!}

 この家に遺体があるのか!

 {アガァァァァ!}

 突然後ろから叫び声が聞こえる!

 「キャァ!」

 しまった!

 爛れた子供の手が延び、クレアの体に巻き付いてきた。

 「クレア!」

 「だ、大丈夫!」

 クレアは爛れた子供の方を見ると、

 「…あなた浩一でしょ?」

 そう言われると、子供の顔がみるみる変化していって、青年の顔に変わった。

 「やっぱり。自分はいつも安全なところで、人を操ったり騙したり…死んでもなにも変わらないね。」

 高橋の顔が怒りに満ちたが、次の瞬間消えてしまった。
 宙に浮いていたクレアが地面に落下する。

 ドン!

 「ゔっ…」

 「大丈夫か?!」

 俺が駆け寄ると、クレアはその場で立ち上がる。

 「…大丈夫。」

 俺はクレアに肩を貸した。

 「やっぱり逃げたね。ほんとダメ男だよ。」

 クレアは苦笑いしながら、

 「みんな、あの子と両親を探してあげよ。」

 「そうだな。」

 俺達は家の中を探すと、2階の寝室だろうか?そのクローゼットに3人分の遺体がでかいビニール袋に入ったまま横たわっていた。

 「こんな堂々と遺棄してあって警察は見つけられなかったのか?」

 徹が呟く。

 確かにそうだ。見付けられないわけがない。
 だが、放置するわけにもいかないな。

 俺は警察に通報したが案の定、俺達4人は警察で厳しい取り調べを受けた。

 その後、瀬戸さんが警察署に出向いてくれ、どういうわけかその後すぐ解放された。

…瀬戸さんって一体何者なんだ?

 次の日の朝、瀬戸さんと俺達4人は柳田家の前で手を合わせた。

 目を開けると、目の前に穏やかな表情をした柳田家が立っていた。
 4人はゆっくりと俺達に頭を下げて笑顔で空に消えていった。

 …俺達は彼等を救えたんだろうか?
 クレアを見ると泣いていた。

 「良かったわね。今度こそ家族全員で天国へ行けるわよ…」

 そう言った瀬戸さんの頬に一筋の涙が伝っていた。

 「…あんた達の仇は俺が絶対取ってやる。天国で待ってろよ。」

 俺がそう呟くと背中にクレアが顔から体を預けてきた。

 「晃、浩一に1ミリも手加減しないでね。」

 「あぁ、全力で潰してやる。」

 俺達は打倒高橋を固く誓ってその場を後にした。

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