何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

30.幻聴、幻視、幻臭、幻覚。幻肢痛



 「…………君はいったい誰?」


 何を間違えた? 何か決まりの挨拶がムーア黒須にあったのか? いや、今はそんなことに付き合っている暇はない。ムーアは果物をもっている。ならば目的はお見舞いだろう。相手は考えるまでもない。


 「私が誰などこの際どうでもいいことだ。結衣が危ないかもしれない。部屋を教えてくれ」


 もはや黒須ではないとバレた今、偽る必要もない。


 そしてこれがダメなら仕方がない。使えるかどうかわからないが別に壊れても構わないから魂の砂場をムーアに使う。


 足に力を入れ準備する。


 「……わかった」


 だが予想と違ってムーアは随分あっさりと承諾した。
 ……嘘? 
 いやそんなことして何の得がある。時間稼ぎか?


 「この手前の曲がり角を右に曲がって一番奥の左の部屋だよ」


 曲がり角を指差し、私に背中を向け歩き出す。罠かもしれない……。


 「どうしたの? ついてこないの? 急がなきゃダメなんでしょ」


 ……黙ってついていくことにする。何があっても俺のせいで死ぬことは絶対にあってはならない。


 「嘘だったら殺す」


 「嘘なんかつかないよ。君が誰なのか大体分かってるし。でも、しかし君は随分可愛げがなくなったね。あの時はまだちまちましてたのに」


 ——バレている。しかし分からない。そんなに情報を与えてはいないはずだが……。


 「……何で分かった?」


 「あ、当たった? まぁ、適当に言っただけだよ。でも強いて言うならあの時、君は上着を中院さんに被せてもう1回刺した辺りかな。あれは無意味だもん、そのあと君が消えたしね」


 だがそんなことで私が黒須に入ったと確信できるものではない。


 「そして何より君は喋りすぎだよ。喉を火傷してるんだ。普通は1日ではそんなに回復しないよ」


 ……違う。


 「さぁ、ついたよ。ここが中院さんの病室だよ」


 そこには中院 結衣と文字が表示されたドアがあった。
 名前が書いてあるなら教えてくれなくても探せたな。ムーアは特に私の反応を見るまでもなくそう言って中に入る。


 「こんにちわー。あれ、中院さんのお兄さんしか居ないの? 結衣さんは?」


 私の部屋とそう変わらない部屋。そこには空のベットでうつ伏せになっていた明人しかいなかった。


 「……ああ、ムーアく——っどうしてそいつを連れてきたッ!」


 明人が力無く振り返りが、私の顔を見るとすぐに顔を変えて立ち上がりせまってくる。目元が赤い、泣いていたのだろう。
 ……遅かったか。


 「ああ、お兄さん違います」


 フルーツを床に置き、間に入ろうとするムーア。だが明人はムーアの手を気にする事なく払い除け私を掴み上げる。


 「お前が……お前がナイフなんか使わ——」


 だが、明人が怒りに任せ罵倒しようとしたその時だった。


 唐突に自分の頭に衝撃が走る。


 それに合わせて明人の手の力も抜ける。


 額から一筋の感触が伝わり、懐かしい匂いが鼻に刺さる。


 固まった表情のままの明人がこちらに寄りかかってくる。……構うことなくそれを払い除けて手に巻かれた包帯を破り自分の額を触る。


 そこには穴があった。


 本来なら皮膚と骨があり脳を守るはずの頭には穴が開いていた。


 「……お兄さん大丈夫ですか?」


 「額に穴が開いてる……」


 ムーアが明人に駆け寄る中、そう呟く。


 「——」


 穴の中に指を2本入れ、ッ——中に入ってる脳を掻き出し手を眺める。


 綺麗だった。


 私の手には確かに掻き出したはずの脳が無く、それどころか手には血が付いていない。


 ぬめりと血が混ざった何とも言えない柔らかい感触は確かにある。光の魔法使い……それも見たことのないほど精巧な幻を作れるほどの。


 完全に結衣がバレてしまっている……私のせいで。


 「——誰かここにいるなら返事をして!」


 ムーアがとち狂ったのか大声で姿を隠してる奴に返事を求める。


 私が殺すべき存在。私が恨まれながらその恨みに満ちた顔を焼き付けなければいけない存在。


 それが理由も分からないまま死ぬ。私のせいで。


 「黒須ッ! 右から2つ目の窓1メートル手前に——」


 私のせいで。


 心に掛けていたフィルターという名の鉄板が歪み、さらなる深みに落ちて行く。無音という名の音が聞こえる。


 ああ、そうだ。


 頭に2方向から衝撃が走る


 私はそうだった。


 3方向。下顎から上が転げ落ちる。切断面に目玉を生やす。


 私は、私は皆を不老不死にするんだ。


 この体で40年待つ? 長すぎる。そんなのではダメだ。もっと皆が生きれる方法を模索しなくては


 喋り途中で倒れ込んだムーアを横目に私は部屋を出る。


 そうだ……実験をしなくては、誰もが幸せになれる実験をしなくては。




 部屋から一歩踏み出た時だった。




 「ァアアアアアアアアアアアアアアアア」


 一瞬にして頭が握り潰されたかのように突如、激痛が走る。おかしいおかしいおかしいおかしい頭がないはず、違うこれは直接私の私の頭に届いてる。おかしい同化しているはずなのに頭なんていう部分も無いはずないないないない毒物いや食べていない私はそんなの食手術の時に腕に流し込まれていた水か


 既に下顎と首だけになった首の断面に手を当て、力一杯握りえぐりながら痛みをごまかそうとする。痛覚の感度も数倍に上げるがそれでも誤魔化せない————。


 「はっはぁ、はぁ……はぁ」


 1分? いや10分。永遠にも思えた痛みがようやく収まった私は頭を押さえ倒れないようドアに寄りかかる。


 ……頭? 


 なぜ頭がついているんだ。


 頭に両手をやるがまるで固定されているかのように指が動かない。


 手を見る。


 そこには解いたはずの包帯があった。


 ……なぜ、解いて捨てたはずだ。


 「っぁ」


 聞いた覚えのある声を目の前を見ると後ろの部屋に倒れていたはずのムーアが果物を、持ちながら横切っていた。


 「おはよう、黒須くんももう歩けるようになったんだね」


 なぜ。


 では部屋に倒れていたのは誰だ。後ろを振り返り部屋を見渡す。倒れていたはずの明人とムーアの姿は消え、部屋の窓から覗く建物の配置が結衣の病室ではなく私の部屋ということを表している。


 ッ一体どうゆう事だ。さっきのは光魔法による幻? いや抉り出した脳の感触は確かにあったし匂いもあった。


 部屋の明人が倒れていた場所に手を当てるが、床に触れる。明人が掴みかかってきた感触も確かにあったはず。
 部屋全体を歩き回るがつまづくような事は起きない。
 死体が消えている。


 分からない。


 一体何が起きている。


 「黒須くん部屋を歩き回ってどうしたの?」


 「——煩いッ」


 ムーアを押し除け、結衣の病室のはずの場所に向かう。


 「ちょ——」


 ムーアが持っていた果物が地面に撒き散らかるが気にする事ではない。


 死体は消え、ムーアがドアの前にいる。


 記憶が本当にあっていたのかすら頭痛のせいで今は自信がない。




 思考しながら一刻も速く確かめなければと廊下を走る。




 だが、結衣の病室の前に着いた私が目にしたのは


 中院 結衣と書かれたドアも何も無いただただ真っ白な壁だった。



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