何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

27.それぞれの秤



 「……妹は……妹は本当に助けて……くれる?」


 暗い洞窟の中、姉は手足を壁に固定されていながらそうつぶやいた。関節という関節は全てあらぬ方向に折れ曲がっている以外は特に問題などない。
 しかし彼女はその姿になってもなお妹のことを見捨てる発言は一度も発しなかった。


 「ああ、だがまだだ。何度も言ったが妹を見捨てれば直ぐに治して帰すが?」


 作業台の引き出しから釘を1本1本と取り出しながら私は言う。もう何百回目だろうか。


 「…………」


 だが彼女は笑みを浮かべるだけだった。だから私も答えるようにさび付いている釘を彼女の折れ曲がった右手の手のひらに押し付け金槌かなづちで打ち付ける。わざと釘を歪ませながら打ち込み、時には直接手のひらに叩きつける。やはり彼女は救いを求める声を発することなく顔を歪ませ血が滴る唇を噛みしめながら耐えるだけだった。


 「なぜそこまでして妹のことを助けたい? 見捨てれば痛い思いもしなくて助かるのに」


 両手足に5本ずつ釘を打ち付け終わり。


 「……ゆ、め」


 弱弱しい声で彼女は吐き出す。


 「夢?」


 「う、ん……パン屋……ラーネはパン屋になりたいって」


 「パン屋?」


 「そう……、普段何も言わないあの子が珍しく語った夢」


 パン屋、パン屋だと……くだらない、実にくだらない。
 しかも自分の夢ですらなく他人の夢ときた。そんなくだらないものが自分の命よりも重いなんて……。


 鏡を見たらきっと私は笑顔だろう。


 「ハハハハッ……実にくだらないな」


 「そんなにおかしい……?」


 「おかしい? おかしいに決まってるさ、そんなものが命より重いはずがないんだ。それを、それを君は……はっはははは」


 「そう……そうね、そうかもしれない。でもそんなものを幸せかどうかって思えるので人生は変わるものじゃない……?」


 幸せ、幸せか……そうか、それが君達の重さか。


 ——実に狂気に溢れている。


 閉ざされた命の向こう側にある幸せの為に、幸せと信じているもののために命を捨てる。


 私の反対に生きる者たち。


 「っはは、そう、そうなのかもな……だがそれは私には分からないものだ」


 「……でも理解はしてるんでしょ?」


 再び作業台に向かう私に彼女はそう問いかける。


 理解……そうだな。苦痛を感じてもなお、そうであることが当然であると妥協できれば私の道も違っただろう。だがそれはもう私ではない。


 必ず皆が死なない方法があると信じ私は自分が作った屍を越えなければいけない。


 悲しむことのない幸せだけの世界のために。


 「……そうだ、君に言い忘れていたことがあった」


 「……?」


 「これは言っても言わなくても別に変わらないことなのだが——」


 作業台から錆びついた鉈を取り出し彼女に見せつけるかのように少し回転させる。そこには血で汚れた髪の毛が巻きついていた。


 「ッ!」


 先程までの力の抜けた顔ではなく、怒りで歪めた表情にすぐに変わる。嗚呼、彼女は察しがいい。


 「大切な、大切な君の妹は今までどこにいた?」


 「殺ぅッ、絶対に殺してやるゥ! よくもよくもよくもォォ!」


 指を鳴らす。それだけで彼女の壁の反対側に同じように手足が折れ曲がり釘が打ちつけられた妹の姿が現れる。さらに頭には複数の切り傷があり顔の半分が今にも取れかかりそうに揺らいでいる。


 「……お、……ねぇちゃん?」


 「あっ、アア゛ア゛ア゛———」


 釘で打ち付けられた両手足を必死に動かそうと姉は前後に揺れ動く。鉈の刃先に闇を這わせ切れ味をよくしながら彼女に近づく。……別に闇で刃を作ってもいいがこちらの方が見慣れただけに恐怖心が高められるだろう。


 「……さよなら、心壊れた姉妹よ」


 彼女の首が飛び、意識が消える。閉ざされた箱が消える。




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 「ラーネ、いいからあなたが逃げなさい」


 「やだッ! 私が残る」


 二人の声が洞窟の中でこだまする。


 「もういい、二人とも出てっていいぞ」


 出口を指差して言う。だが姉妹は予想外の言葉からか微動だにしないで私を見つめるだけだ。


 「……どうした?」


 力強くもう一度出口に指を挿す。


 「ぇ……、でも一人だけって……」


 「あー」


 何か都合のいい言葉がないか考えたが思い浮かばない。だから真実でいいか。


 「あれはもともと嘘だ。真実になることはない」


 頭を掻きながら


 「……ほ、ほんとうに? 帰ってもいいの?」


 姉が話したからか今度は妹の方が口を開く。


 「ああ……もう一度言わせるな」


 姉を貫いた黒槍をもう一度右手に出しながら言うと彼女達はやっと理解してくれた。


 「分かった……でも私たちここがどこだかも分からないし、このまま外出たとしてもゴブリンにでも会ったら……」


 「確か……ここはミデル山のふもとのはずだが、君たちの国はどこだ?」


 山の名前を言ったが二人とも心当たりはないのか特に反応はない。……敵国の山の名前なんて知らなくて当然か。


 「私たちは……バルリ帝国の外れにあるアルガ村に住んでいるの」


 姉は国名のところで少し口ごもったようだが話した。……帝国は自分の国民すら連れて来ていたのか。私が殺した中にも帝国の人が少しはいたのかもしれない。
 しかし、しかしだとしたら不味いな。きっと彼女たちは死ぬ前提で連れてこられている。このまま帰しては


 「そうか、ここもバルリ帝国だ」


 「えッ?! じゃ私たち帝国に連れてこられたってこと?」


 「まぁ、そうゆうことになるな」


 私は出入口のドアに向かって歩き、この時間にいるであろう門番に開くようドアを叩き合図を送る。


 「ラルクさん、どうしたんですか……」


 だが顔をのぞかせた門番のおじさんはいつもの無機質な表情と違って少しやつれているような顔だった。


 「ああ、アルガ村ってのはどこにある?」


 「アルガ村なら正面の山の一つ向こう側ありまして歩いたら半日ぐらいで着きますが……、その村がどうかなさったんですか?」


 「実はまた目を――」


 「……お父さん?」


 私を言葉を遮り後ろからそんな声が聞こえる。後ろを見ると左目に埋め込んだ腐りかけの目玉が薄汚い無数の魂が彼女たちの前を飛んでいるのを捉える。そうか……彼女たちの父親は既に私に殺されているのか。


 しかし親族なら魂が人の形に見えるのか……実に興味深いことだ。


 「そうか……それが君たちの――」


 「う……そ、嘘だろ……その声はラーネ? ラーネなのか?!」


 門番が勢いよくドアを押し開け飛び込んできた。当然ながらドアの前にいた私はドアに勢いよく頭をぶつけながら倒れこむ。


 「ラーネッ! カ、カーラも! よ、良かった! 本当に良かった、布切れを渡されてゴブリンたちに食われたと聞いたときは……本当に……本当に――」


 なんだ、門番が父親か。じゃあの魂どもはなんだよ紛らわしい。地面に両手を付きまだ近くを浮いてる無数の魂を睨め付けながら起き上がろうとする。


 『ただいまー。あれ?』


 するともう一度ドアが勢いよく開き、また頭をぶつける。 


 『ししょ? ししょ? あっ……だいじょうぶ?』


 ドアの後ろの私を見ると心配そうに屈ん……いや、普通、そう普通に屈んだエルフの少女がいた。


 

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