何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

19.死と『おもい』





 ――笑顔だったんだ。


 結衣は死を全く気にしていないかのような笑顔。


 それは諦めの笑顔のような陰りのあるものではない。


 生か死など気にしない思いがそこにあるからこそなせるもの。


 それは、それは私にとって余りにもうらやましいもの。


 あらゆる思いを切り捨ててきた私では到底つかみ取ることのできないもの。


 雨音に紛れる不快な音、刃物が血肉と骨を打楽器にして奏でる音。結衣の表情


 羨ましい、妬ましい、すべてが不愉快だ。


 それは死に際でするべき顔ではない。もっと醜く切ない顔こそが相応ふさわしいはずだ。


 死んだらすべて、全てが失われる。


 君は失うものがないわけではない。家族とともに過ごしてきた思い出だってあるはずだ。なのに……なのになぜ笑顔でいられるんだ。


 ああ――――失っても笑顔でいられる思いってなんなんなんだ。


 「ハハハハハハハッは…………は?」


 ――演奏会は唐突に終わるのだった。


 体を同化し地面の中を伝って黒須の体の中に入り込み、彼の体を流れる魔力と肉体に影を溶け合わせ動きを止める。


 「あ、あ、ああ、ああああ、ああ、あああ、あああああ」


 闇の濃度を上げ、彼の魂すべてを吸い取る。口からは涎がたれ、目の焦点が合わなくなりナイフが手から零れ落ち体が小刻みに震え揺れ動く。


 『な、なんだこれ……俺はまだ桐ケ谷に復讐ぅ――


 「…………」


 そしてすぐに彼の体は器になり落ち着く。


 雨に紛れ血の匂いが鼻を突き、泥で濡れた服の感触が気持ち悪い。久しぶりの人間の体だ……両手を開閉し動きに問題がないか確認する。


 結衣を見るが既に気を失っている。腕の中では分からなかったが背中は服か皮膚なのか分からないほど赤くかき混ぜられ骨まで見えている。


 ――首元に手を当てる


 冷たい皮膚から振動が伝わる……非常に弱っているがまだ生きている。だが直に死ぬだろう。


 私はローブを脱ぎ彼女の背中に傷跡を隠すように覆いかぶせる。




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 観客席は静まり返っていた。そう、皆理解したのだ。この学園は強者の機嫌一つで殺されてしまうことに。


 「――ッ」


 伊藤は顔を手で覆う。
 数日前まで談笑していた友人がめった刺しにされ殺されたからだ。彼女は別に中院 結衣のことが嫌いではなかった。むしろ好きだった。旅館では手伝いをし友達との放課後の談笑などしたことがなかったのだから……。


 ではなぜ彼女は数日の間に距離を置こうとしたのか。


 それは周りの目だ――


 日に日に人と人が協調しグループが作られていく中で、個での嫌悪が集団での嫌悪になり絶対なる正義となる。
 それを伊藤はネズミから結衣にそしてやがて自分にも向けられ始めたのを感じたのだ。


 だから距離を置いたのだ。


 桐ケ谷は血だらけの中院に満足し、次は黒須を直接自分の手で殺そうと考え席を立とうとした。そんな時だった。
 彼の目に映ったのは、動きが突然止まったかと思うと次には体全体が小刻みに痙攣し始める黒須だった。


 「先生、黒須さんは何か病気でも持っているんですか?」


 その姿にムーアも疑問に思い神田に質問する。


 「いや孤児院からはそんな情報はないよ……」


 神田は右手を手を口に当てながら立体画面を左手でタップ・スライドしながら答えるのだった。


 「……何してるんだ?」


 その言葉を発したのは桐ケ谷。黒須が痙攣しているかと思ったら次には中院の首に手を当て自分のローブを被せたからだ。何度も何度も刺していたのに突然の不明な行動に皆が疑問に思う。だがみんなの疑問もすぐに消える。


 黒須は落ちていたナイフを拾い、再び中院の背中を刺し始めたからだ。


 何度も何度も笑いながらではなく今度はただただ無表情に刺す。


 数度にわたって刺し終わった後に、彼は観客席に歩いてきた。既に白かった制服は血や泥で汚れ、静かにどす黒い血が付いたナイフを持って近づいてくるその姿はほとんどの人に恐怖を覚えさせた。


 

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