何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

15.遮る雲



  中院 結衣
 「誰だろう……」


 結衣が私を机の上に置いてからドアを開けると前には肩で息をしている結衣の兄の明人が立っている。


 そういえば、明人もこの学園の服を着ていたということはここの学生だったな。


  お兄ちゃん
 「はぁはぁはぁ……良かった」


 明人の上にはお兄ちゃんという文字。
 ほう、名前だけじゃなくて愛称などでも表示されるのか




  中院 結衣
 「……何?」


  お兄ちゃん
 「は、はぁ……いや。い、一緒に夕飯でもどうか――」


 明人は言葉を途切らせ、部屋の中にいる伊藤とムーアを見てからそのまま目を机の上にいる私に目を向け表情を曇らせる。




  中院 結衣
 「どうしたの?」




 結衣は首を傾けながら明人に問いかける。




  お兄ちゃん
 「いや、すまない結衣。何でもないんだ。特に学校生活で問題などないか?」


  中院 結衣
 「特に何もないよ」


  お兄ちゃん
 「そっか、それならいいんだ。悪かったな友達といた時に」


  中院 結衣
 「平気、用事はもうないの?」


  お兄ちゃん
 「あ……うん、もうないよ。じゃあね」


 明人は結衣に笑顔を向け部屋の前から去っていった。
 結衣のことが心配になったのだろうか? あの人は結衣のことになると人が変わったかのようになる。


 死んでしまった時のことは考えないのだろうか? 積み上げるだけ後々辛くなるだけだというのに……。




  伊藤
 「わぁ、中院さん今の金髪のかっこいい人誰?」


 結衣がドアを閉め戻ってくると、伊藤が驚愕したような表情を浮かべそう口に出す。


  中院 結衣
 「兄だけど……」


  伊藤
 「ぇっ……遺伝?」


  中院 結衣
 「遺伝……」


 結衣は少し固まり、その言葉を呟く。


  伊藤
 「そろいもそろって美男美女っていみぃ……。はぁあ、嫌になっちゃね、ムーア」


 ダルそうにムーアの肩に片手を当て、もたれ掛かる伊藤。


  ムーア
 「っちょ、僕は別にどうでもいいけど」


  伊藤
 「あーはいはいそうだね。ムーアもどっちかというとあっち側だもんね」


 伊藤は空いた手で結衣とムーアの間をぶらぶらと左右に揺らしながら指さす。そして硬直から直った結衣は伊藤を見て。


  中院 結衣
 「ん……? よくわかんないけど、伊藤さんは独りぼっちってこと?」


  伊藤
 「ちがう……、私は多い方だと信じたい……」


  中院 結衣
 「じゃ良かったねー仲間が沢山いて」


 結衣が純粋無垢な笑顔を向け、伊藤はムーアにもたれ掛かったまま顔をあげ結衣の表情を見る。


  伊藤
 「っうーん良くはないと思う」


  ムーア
 「……っふふ、ッあはっはは」


 ムーアはその光景が面白かったのか、腹に手を当て笑う。


  伊藤
 「ちょっと、何笑ってるの」


  ムーア
 「はは、いや何でもないごめん」


 涙を手でふき取りながらムーアは体をびくびくさせ答え、結衣はその間に再び私のところに来て抱き上げる。


  中院 結衣
 「それでまだ時間あるけど、これから二人はどうする?」


  ムーア
 「あー、僕は部屋に戻るよ」


  伊藤
 「じゃ、私も戻ろうかなぁ」


  中院 結衣
 「そう、分かった」


  ムーア
 「じゃ、またね」


  伊藤
 「ばいばいー」


  中院 結衣
 「うん、ばいばい」


 ムーアたちは軽く手を振って帰っていく。その背中を見つめる結衣が寂しそうに見えるが、私にはその心情は分からない。考えもしない。


 そして結衣は私を抱きしめベットの上で残りの時間を過ごした。






 私と話せると分かってから一人で部屋にいるときは結衣は私に話しかけるようになった。しかし数日が過ぎ、異変は起こった。


 朝、教室に入ると生徒の雰囲気がまるで結衣を追い返すように感じる。
 それは無視でも直視でもない。


 一定間隔視線、誰かの視線が終わるとまた誰かの視線が来るもの。




  中院 結衣
 「?」


 結衣も視線は感じたみたいだが大して気にしていないようで教室の中を歩いて席に着く。




  中院 結衣
 「伊藤さん、みんなどうして私を見てるの?」


 話しかけられた伊藤は初めてそれで結衣の方を向く、その表情は笑顔ではあるが、どこかぎこちなさを感じるものである。


  伊藤
 「いや、ごめんね。私もよく分からないんだー」


 実はというとこの数日の間で伊藤は結衣から徐々に距離を置いているような気がするのだ。今のだって表情からは本当のこととは思えない。




  中院 結衣
 「ムーアは?」


 結衣は振り返り、後ろで苦笑いをしているムーアに問いかける。


  ムーア
 「あー、うん。たぶんだけど……そのネズミかな」


 ムーアはほほを掻きながら私を指さす。


  中院 結衣
 「きなこ?」


  ムーア
 「そう」


 「なー、中院さんさー聞きたいことがあるんだけど」


 ムーアとの会話の途中で教室前方から二人組。アクセサリーを体に沢山つけ耳にピアスまでしている金髪の男が結衣に声をかける。もう片方は彼の荷物持ちのようで黒髪で目が隠れている男。


  中院 結衣
 「……何?」


 「あのさー、なんで魔獣でもねぇきったねぇドブネズミなんか連れてるわけ? ケースにも入れないでよ」




 結衣の顔を見ながら男は机の上に座り、小刻みに指で机を叩く。


  中院 結衣
 「別に……」


 「あ? お前、家が金がねぇからたった1000円か4000ぐらいのハムスターも買ってもらえなかったって正直に言えよ、だから拾ってきたネズミ可愛がってんだろ」


 男の台を叩く指に力が入る。


 確かに普通に考えたらペット化されたネズミのハムスターを飼えばいいのに、わざわざ私を飼う必要はないな。


  中院 結衣
 「……違う」


 結衣が否定する。そういえば私もハムスターを飼えばいいのに何で私を飼っているのか知らない。




 「……じゃなんでそんなネズミ飼ってるんだよ」


  中院 結衣
 「別に関係ないでしょ」


 男の指が止まり、彼の顔がピクピクとつり上がる。




 「あ? 関係ねぇ? 関係ねぇっつったか? てめぇこっちはわざわざ丁寧に接してやっているってのによぉ。……一体その態度はなんなんだよ!」




 男が声を荒げ、机を力の限り叩きその音は教室中に響き渡る。
 彼はそのまま結衣の胸倉をつかみ今度は顔を殴打し始める。


 鈍い音が次から次に聴こえとても痛そうだ。




  中院 結衣
 「――ッ」


 「……なんだよその目ぇ! 貧乏人は謝ることもできねぇのか!」


 結衣の顔面は赤くはれ、口からは血が出ていた。だが男は気に入らないようでなお殴りつける。




  ムーア
 「桐ケ谷さん、そろっと止めた方がいい。彼女はもともと無礼なんだ、それに殴ってたら謝れるものも謝れないでしょ」




 後ろで眺めていた笑顔のムーアが追加で3発ほど結衣が殴られてから男に声をかけた。


  桐ケ谷
 「っち、そうだな……」


 ムーアの声にやっと桐ケ谷と呼ばれた男は胸倉を離し、結衣はそのまま涙を浮かべ倒れこみ顔を両手で押さえる。
 ……っあ、桐ケ谷と呼ばれた男の上に名前が表示された。なるほど、聞いたりすると表示される感じなのだろうか。


 ムーアは倒れこみすすり泣くそんな結衣を見ても笑顔のままだ。


  ムーア
 「中院さん、今のは君が悪いよ。さぁ桐ケ谷きりがやくんに謝りな」


 と優しく声をかける。
 言われた結衣は固まり、泣き顔で手の隙間からムーアを見つめる。




  中院 結衣
 「――っなんで……」


 だがしかし問われたムーアは依然笑顔のまま。 




  ムーア
 「どうしたの? 中院さん。彼は丁寧に接してあげたのに無礼な態度をしたのは君なんだから、ほらはやく謝りなよ」


 ムーアは今だ笑顔のまま結衣に謝るよう促す。


 そういえば伊藤は何してるんだ? と思って彼女を見てみると逆の方を向き、画面をいじっているみたいに指を動かしている。


  中院 結衣
 「……ぃゃ」


 結衣は絞り出すように声を出す。


  桐ケ谷
 「……あ?」


  中院 結衣
 「嫌!!」


 桐ケ谷が再び問うと今度ははっきりと結衣は拒絶を示し、そしてそれを聞いていたムーアの笑顔はごく一瞬だけ崩れたように見えた。


  桐ケ谷
 「おめぇえ! まだ足りないようだな!!」


 桐ケ谷は再び声を荒げ、今度は結衣の腹に向かって蹴りを入れる。


  中院 結衣
 「――っ!」


 丸まり、転がる結衣に向かって桐ケ谷は何度も何度も踏みつけ蹴り飛ばす。


  桐ケ谷
 「痛いか? 痛いだろうよ! 力もねぇ癖に生意気なことを言うからこうなるんだよ!」




 何度も何度も踏みつける。




  ムーア
 「……」




 その光景をムーアはただただ笑顔で見つめる。


  中院 結衣
 「……っう…………ッヒク……うう」




 やがて結衣が踏みつけられても特に反応を示さなくなって飽きたのか。桐ケ谷はうずくまる結衣の上に座り、休憩し始めた。


  桐ケ谷
 「はぁ……おい、何してんだ黒須くろす。飲み物よこせ」


  黒須
 「は、はい!」


 黒須と呼ばれた荷物持ちの男は、手に持っていた荷物から紙製のボトルを渡す。


  桐ケ谷
 「開けて渡せよ……お前も殴られてぇのか?」




 桐ケ谷は差し出されたボトルを見てから、黒須を睨みつける。




  黒須
 「す……すみません」


 黒須と呼ばれた男は震える手でボトルを開け、桐ケ谷に渡す。


 だが、


 怯え震える手だったからか、ボトルは手から零れ落ち。


 それは桐ケ谷とその下で椅子になっていた結衣にかる。




  桐ケ谷
 「…………」


  黒須
 「すみません、すみませんすみません!」


 黒須は地べたに頭をつけ土下座をしながら桐ケ谷に頭を下げ謝罪を連呼。




  桐ケ谷
 「ああ、大丈夫だ」


  黒須
 「……え、許していただけるんですか」


 黒須は意外だったのか口をあけ、驚いていた。


 だがしかし、次の瞬間には彼は殴られ倒れこんだ上にまたがれ何発も何発も両手で交互に殴られる。


  黒須
 「――っぐ!!」


  桐ケ谷
 「もいいや……、お前ら両方殺しあえよ……なぁ、先生いいだろ?」


 桐ケ谷は入り口を見ながらそう言った。見てみるといつの間にか来ていたのか、神田が立っていた。


  神田先生
 「ん、っああ。別に問題ないよー、桐ケ谷くんにとってあの二人はストレスみたいだしねー」


 神田は画面でも見ているのか指をスライドさせながらそう答える。

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