何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

12.二限道中





 「じゃ2限始まるわよ。早速だけどまずはみんな校舎の隣にあるグランドに出てー」




 神田先生は手にケースを持ちながら生徒をグランドの方に案内し始めた。




 「何するのかな……」




 「わかんない。でもほら、先生が持っているケースってペット用のやつだよねー」




 「そうだね、あれは犬用だね。中に犬も入ってるみたいだし」




 「へー、犬の魔獣なのかな?」




 「ただの犬を持ってきても仕方ないし、そうだと思うよ」




 犬…………。ニュースなど映像で見たことがある、ベロ出しながら自分の尻尾を追いかけ回す動物。




 私は結衣にケースにも入っていない状態で抱きしめられたままついてきてしまった。




 あんまり私を触ったりしない方がいいと思う。結衣は感じてないのかもしれないが、教室に入った時から周囲の目線を私は感じていた。


 驚き、そしてそれ以降は汚いものを見るような……そんな目。


 最初こそ私の方に目線を感じていたが、それはもはや結衣と私、両方を見ているものに変わっている。






 そのことに伊藤とムーアは気付いていないのだろうか……?




 結衣を挟んだ状態でムーアと伊藤は一緒に歩いている。その表情は明るく、そんなことに気付いているような雰囲気は感じない。




 「中院さん、ネズミをケースに入れて持ってこなかったけど大丈夫?」




 「きなこは逃げないから大丈夫」




 「ムーアも見てたでしょ、きなこは大人しいのよ。きっと何されても大抵は動かないよ」




 「それは見てたけどさ……クマネズミって本来警戒心が強いネズミのはずなのに知らない人に触られても動かないって流石に変でしょ」




 「っあ、ムーアは排泄をしないネズミって聞いたことある?」




 「…………」




 「……っえ? そんなの聞いたことないけど…………そもそも排泄しなかったら食べた物はずっとお腹の中にあることになるだろうから長生きできないしね」




 「っえ? 中院さんそのネズミって本当に排泄してなかったの?!」




 「そのネズミしてないの?!」




 二人の突然の大声に周りの生徒が見てくるかと思ったが、意外とみんな興味がないのか注目はされていなかった。




 「伊藤には前言ったのに…………」




 「いや、その時は中院さんなりのジョークかと思って…………えへ」




 「……ちょっと中院さん、ネズミを見してもらえる?」




 「いいよ、……はい」




 「ありがとう」




 結衣からムーアに渡され、じっくり目を見つめられた。


 「…………ちょっと、このネズミの映像記録を見してもらってもいい?」




 ムーアはそういい、私を片手で抱きもう片方を指をこめかみに当ててから空中に向かって何やら弄り回していた。




 「きなこの閲覧許可……?」




 「中院さんの姿は映らないようになっているからネズミの映像だけ見してもらいたいんだ」




 「ならいいよ」




  結衣も指で操作し、ムーアはまた片方の指だけで何やら弄っていた。




  不味いな、結衣がそのことをここまで引きずるとは思わなかった。
 映像で確認されても問題はないだろうが、排泄をしてないということで実験の道具などにされてしまうかも知れない。




 「ムーアが一生懸命になってきたね」




 「うん」




 ……仕方がない。ここは一踏ん張りして出すか。




 ちょうど便意が来ていたことだし、私はお腹に力を入れホカホカなのを1本出した。








 …………ムーアの手の中で












 「…………中院さん」




 「何?」




 「このネズミ、僕の手の上でうんこしたんだけど…………っは、はは」




 「っえ?! 見して」




 「…………ほら」




 ムーアは自分の左手を広げ私の出した糞を見せた。




 「本当だー! 中院さん、きなこやっぱり排泄してるじゃん!」




 「っえ……ちがう…………、私も今初めて見た」




 「っえー…………」




 伊藤が疑わしそうな目を結衣に向けていた。だがしかし、糞を手のひらの上にされたのにムーアは未だに右手で何かを操作していた…………。もはや糞をしたところで止まってはくれなかったか……




 「でも始めちゃったし、最後までやるよ。それで中院さんが嘘をついていたかどうかも分かることだしね。…………・・あー、うん。本当みたいだ……だって排泄で映像を検索しても今のこの瞬間の1件しか引っかからなかったから」




 ムーアは画面を共有させ、二人に見せているみたいだった。




 「っえ、じゃ何、きなこの初糞はムーアの上だってこと?」




 「言ったのに……伊藤はすぐ人を疑う」




 「仕方ないじゃん! ムーアの手の上で実際に糞したんじゃ!」




 「まぁ、まぁ、二人とも喧嘩は後にして……それより興味深いことがわかったね」




 「「なにが?」」




 「今まで排泄行為をしてなかったこのネズミが、そのことを指摘され調べ始めた途端に糞をしたんだ。 二人はこのことに関してどう思う?」




 「「???」」




 「つまり、今まで排泄行為はできるのにそれを意図的に隠してたわけだ。このネズミは…………中院さん、僕はこのネズミの頭は凄くいいと思うんだ」




 ……っく、糞をしてもしなくても結局どっちにしろ実験道具にされるじゃないか。……殺すか。




 「もしかして話していることが理解できている?」




 「えー、中院さんそれは流石にないよ……だってネズミだよ?……いやでも、調べられているってわかっているわけだし…………」




 「僕はもう確信したよ。このネズミは頭がいい、それを隠そうとしているぐらいにね。おまけに排泄行為を隠す何かの方法まで使えるわけだ」




 「本当だとしたらすごいね。SNSでバズっちゃうね。ネズミに好きなポーズ頼み放題じゃん!」




 私はここで、ムーアの手を通し彼の体の中で影で魔法陣を作った。


 発動するだけで彼の体から無数の骨が臓物を突き破り飛び出し、周囲の人間にも死傷を与える魔法。




 彼らが私を有名にするのなら仕方ない……




 「…………もし頭が良くても秘密にして欲しい」




 ……私は魔法陣を消した




 「っえ、なんで? 中院さん有名になれるよ?」




 「……だって有名になったら研究したいって人絶対出てくるでしょ……、そしたらダメって言っても無理やりきなこを奪いに来るかもしれないし…………」




 正義は事後にしか来ない。事前に来るならそれはもう悪でしかない。




 「それは……殺しても奪いにくるかもしれないね」




 「そっか……中院さんが危なくなるかもしれないもんね」




 「……うん」




 「じゃ、先生たちにも秘密にした方がいいね。ここも魔術学園なんだし、知能の高いネズミがいるって知ったら欲しがると思うよ」




 「でも生徒の会話なんて全部記録されてるんじゃなかった? 秘密にできるの?」




 「生徒一人一人の会話の記録なんて一々見ないさ、なんせ一学年だけでも4000人は超えているんだからね」




 「そっか、じゃ私たちが秘密にしてれば安心だね中院さん」




 「うん……お願い」




 「任せて、私は口が硬いからね!」




  ………………………………硬い? 本当に? お前は本当に硬いか? 死んでも言わない硬さを持ってその言葉を発しているのか? 


「言う……言うから殺さないでくれ!」
「だって! 死ぬぐらいなら言った方がいいに決まってるだろ!!」
「あんなの情報が欲しかったから言っただけだ! 別に本当は硬くないさ!!」


過去に殺してきた奴らの声が蘇る。




 「僕は口が軽いんだけど……まぁ、秘密にする努力はしとく」




 「ありがとう」




 ……ぁ゛ー、吐き気がする。




 口が硬い? そんなことはなんの保証にもなりはしない。耳障りのいい言葉を選んで言っていた奴らはいつも死に際には喋る。仕方ない、死にたくはないのだからと……




 ニコニコしながら平然と嘘を喋る伊藤に私は殺意が溢れる。




 「はいっじゃー、ここがグランドだから覚えといてね。…………ちょっとー、ムーアたち遅れてるわよ、まちゃんとついてきてよねー」




 「あっ、すみません! ……あとは夜にもう一度集まってから話そうか」


 「りょうかいー」


 「分かった」




 グランドに着いたようでムーアは私を右手で掴み結衣に渡し、神田先生に謝った。




 ……そういえば糞はどうしたのかと思って左手を見たら彼の左手からは水が溢れだし、濡れていた。




 水の魔法か?




 この世界の人間も魔法が使えるという確信が得られてとりあえず安心した。
 …………魔術学園なんだし当たり前じゃね? と思うかもしれないが、魔獣を使役する奴らを魔法使いというかも知れなかったから確証を欲しかったんだ。




 「よしっ、じゃこれから魔法や魔獣の説明をするね!」




 神田は持ち歩いていたペットケース置き、蓋を開け中から白い物体も取り出した。




 「チワワ?」




 「うん、チワワだね」




 「わぁ、可愛いー」




 出てきたのはへっへっへとベロを出し尻尾を振りながら息をしているチワワだった。

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