有名野球エリートが甲子園常連校に入学し、血の滲む努力で仲間を引っ張る話

かじ

20

学校の外へ飛び出た御木本は、もう既に2人が遠くの方に行ってしまっている事に気づき、必死で追いかけ、一定の距離を保った。
金串と高杉の2人は御木本の40メートルほど先にいて、並走している。

一定の距離を保ちつつ走るのは大変な事であったが、自分の姿が気づかれるとややこしい事になると思ったため、そうするしかなかった。
そのため、御木本からは2人の会話は聞こえてこない。










「おい、金串!いつもこんなスピードで走って帰ってるわけねえだろ!いつも通りに普通に帰れ!練習後でくたびれてんだよ!」











「ウソでしょ、高杉さん。僕いつもこんくらいで、これが普通ですよ」










はぁ、はぁ、と息を切らしながら喋る高杉とは対照的に、金串の呼吸は一切乱れていない。
それは紛れもなく、金串がいつもこの速さで走りながら帰宅しているという事実を証明するものであり、高杉自身も認めたくはないが、薄々気づいていた。


御木本はというと、体力はチームで1、2を争うものであったため、2人のペースについていく事はさほど困難なものではなかった。
しかしながらそれでも、いつも金串がこんな事をやってのけているかと思うとゾッとした。





金串、高杉の2人は、金串の家に寄り、バットを2本持ちだし、金串御用達の公園に向かった。









「はぁ、はぁ、はぁ、次は何するんだよ、金串。」










「素振りですよ、はい、高杉さん」








そう言って渡されたバットが想像していたよりも随分と重かったため、高杉は反射的に手を離し、バットを落としてしまう。









「な、なんだこれ、鉛でも入ってんのか」











「トレーニング用バットですよ、これをね、振るんですよ。日付けが変わるまで」










「ひっ。日付けが変わるまで?!ウソだろお前、ホンモノのバケモンじゃねえか!」









「毎日やってると慣れてくるもんですよ。ほら、高杉さんも一緒にやりましょう」








こうして2人は、日付けが変わるまでバットを振った。最初は金串のいけ好かない態度に疑心暗鬼だった高杉も、最後は懸命にバットを振るという事に集中していた。

それを草陰に隠れてみていた御木本は、心底感動していた。





(金串のやつ......高杉も......お前ら......)










ブンっ!!ブンっ!!ブンっ!!ブンっ!!



ブンっ!!ブンっ!!ブンっ!!ブンっ!!








「高杉さん、0時です。おつかれっす!」









「0時?!やっべ!寮の門限だ!」









「あ、高杉さん寮なんですね」










「そうだよ、早く帰んねえと怒られる。じゃ、じゃあな!明日からまた、負けねえからな!」










「こちらこそです!」








2人は別れた。

2人に刺激された御木本も、都内の自宅まで全力疾走で帰るのであった。




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