有名野球エリートが甲子園常連校に入学し、血の滲む努力で仲間を引っ張る話

かじ

16

「代打、金串」




審判に交代を告げる石原を見るや否や、高杉はネクストバッターズサークルからのたのたとベンチへ戻ってきた。途中に金串とすれ違い、鬼の形相で睨みつけていた。
ここでの高杉の心中を察するに、並大抵の悔しさではない事が容易に見て取れる。無理もない。この日、高杉は無安打2三振と、全くと言っていいほど良いところがなかった。


そんな高杉の鋭い眼光にも臆する事無く、というか、全く気にする事無く金串はゆっくりとバッターボックスへと向かう。

バッターボックスの中でのルーティンは、中学時代から何ら変わることはない。ホームベースをコンコン、と叩き、ゆっくりとバットを構える。
バットのトップを頭の近くに掲げ、脇を締める。その毅然とした佇まいに、相手投手は思わずたじろいだ。








「はいツーアウトねツーアウト!!バッター右よ!締まっていこーぜー!」








キャッチャーの掛け声が終わると、主審からプレイの合図がなされる。


ツーアウトであるため、投手はランナーを気にする必要が無い。
セットポジションを経て、第1球を投じた。






...............ボール!!






「やれやれ。すっかりビビっちまってるな、ピッチャー」







「無理もないよ。相手だってさ、ていうか、野球やってるなら金串の事知らない奴はいないだろうからね。ランナー背負って対戦するなら尚更のことじゃね?」







「たしかに。それほど凄い男だって事だな。金串は」







その後も多摩川高校の投手は、金串との勝負を避け、金串ら四球につき塁に出る事となった。


それから金串に打席は回って来ず、これといった守備機会もないまま、試合は3-0で安室高校が勝利した。

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