有名野球エリートが甲子園常連校に入学し、血の滲む努力で仲間を引っ張る話

かじ

9

白組の投手は淺沼。身長が2メートル近くある大男だ。淺沼はさっきまでの肘井の投球とはうって変わって、闘志溢れる投げっぷりを見せた。
が、しかし、赤組の先頭打者は三遊間に痛烈な打球をひっぱたいた。





かキィーン!!!!!







「よっしゃ!」






打者はヒットを決め込んで、既にオーバーランの為に緩く走っていた。その時だった。










「おけい!」








「うい、ファースト!」





「う、うイ!」






「アウトォー!!!」






?!?!?!?!?!



なんと、サードを守っていたタッパのある金串は、手を伸ばして痛烈な打球をいとも簡単に捕球し、ファーストへめがけ豪速球を投げ、アウトをひとつ、もぎ取ったのだった。





「やっぱり、金串は1年の中でも別格だな」






「こりゃあ、俺たちもうかうかしていられないぜ」








2、3年生までもが口々に金串のプレイを褒め出す。









「うーいワンナウトォーー!!!」








絶対聞こえているであろう2、3年生たちの褒め言葉に浮かれることなく、金串は引き締めた。
幸い、金串のプレイが白組の流れを引き寄せ、
その後は何事も無く攻守交代を迎えた。





2回目のマウンドに立つのは、初回に引き続いて肘井である。4番、5番と、いずれのバッターもストレートで効率的に追い込まれ、最後は外角スライダーで三振を取られてしまう。肘井の投げ込むキレのあるスライダーは、分かっていても打てないらしい。








「じゃあ、行ってくるわ。自信ないけど。」







「おお、頑張れ、矢澤!」








「プレイ!!!」








さて、次のバッターは矢澤だ。身長は170後半くらいと、決して小柄なわけではないが、安室高校野球部の中にいるととても小さく見える。

矢澤は左バッターボックスにゆったりと立ち、真剣な表情で肘井を睨み付けた。その小さく構えたフォームは、ヤクルトスワローズの青木宣親のようだ。




1球目。..........見逃し。ストライク。




2球目。..........空振り。



ここで、矢澤はうん、うん、と頷き、二度三度、バットを振った。何かが掴めたようだ。
金串はこの勝負に注目せずにはいられなかった。何故なら、今回、矢澤が初めての左バッターであるからだ。右バッターには外に逃げるスライダーで三振を取りに行く肘井は、左バッター相手に何を投げ込むか。
きっとこれは、金串だけでなく誰もが注目したことだろう。




さぁ、ツーストライクノーボールから、肘井はゆっくりとノーワインドアップで投球を始めた。

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