有名野球エリートが甲子園常連校に入学し、血の滲む努力で仲間を引っ張る話

かじ

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この日は日曜日。よって、学校の授業は無い。
そして東京都春季大会を真近に控えた安室高校野球部は、他校との練習試合を予定していた。
勿論、昨日入部したばかりである1年生はこの試合においては全くの蚊帳の外で、「応援」と銘打たれた見学に参加させられた。









「よし、今日は新年度始まって初めての対外試合だ。練習試合とは言え、緊張感持ってやろうぜ!!!」







「ウッス!!!!!」







狭い部室の壁が破けんばかりの大声が張り上げられた。石原は横で静かに円陣の様子を見守っている。そうしていたかと思えば、円陣が終わるや否やおもむろに立ち上がり、メンバーの前へ立った。すると部員たちの円陣は、石原を中心としたものに変形する。









「スタメンを発表する。壁に貼っておくから見ておいてくれ。」






それだけを言い残し、石原は部室を後にした。
スターティングオーダーを自らの口で発表しないのも珍しい、と思った事に関しては、金串も例外ではなかった。




まず、壁に貼られたオーダー表の元に2、3年生が集まる。そこで特別リアクションを取るわけでもなく、暫く眺めたら皆、部室の外へと威勢良く飛び出して行った。








「どれどれ!どんなメンバーかな〜」







2、3年生がいなくなった後、先陣を切ったのは肘井だった。肘井はスターティングオーダー表をまじまじと見つめ、他の1年生たちを手招きした。








「へぇー、先発は3番手の岩田さんか」







「御木本キャプテンは何番?」








「これ、ベストオーダー?」






「いや違うだろ」






「エースは?」







これから始まるたかだか練習試合のスタメンの何がそんなに気になるんだか、と金串は半ば呆れ、呑気な事を口にした。








「キャプテン、普段あんなに偉そうにしてるくらいだからさ、猛打賞くらいはやって欲しいもんだね」






一瞬、部室が静まり返る。






「あ、やべ、まただ」







すぐに金串は自分の不用意な発言に後悔したが、やがてどっと笑い声が湧いた。








「ははははは!!そうだよな!いつもあんなに張り切って4タコじゃ、顔が立たんよな!」






「ほんとほんと!」







少しの間ではあったが、1年生の間の緊張感が少しだけ溶け、ムードが良くなったと感じたのは金串本人だけでは無いだろう。

ほんの少しだけではあるが、1年生の中に一体感が生まれた。

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