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きみのとなり

佳川鈴奈

11.峠にドライブに行きたくなる時間 -嵩継-

11.峠にドライブに行きたくなる時間 -嵩継- 


時任さんが旅立って時任には慌ただしい時間が過ぎた。
葬儀屋を手配して見送りを終えたのは明け方近くだった。



「嵩継君、スタッフの皆様、父がお世話になりました」



時任はそういって静かに一礼すると、
時任さんのご遺体と共にケアセンターを後にした。



「安田先生、お疲れさまでした」

「あぁ、お疲れさまでした。
 また何かあったら声かけてください。

 オレ、とりあえず本館の仮眠室で寝てきます」

「はいっ」



ケアセンター配属の看護師に伝えると、
そのままオレは仮眠室へと直行した。


一気に重怠く疲労度が増した体で仮眠室のドアを開けると、
そこには先客は居ない。

一番身近なベッドへと転がり込むとカーテンを閉めて体を横たえた。


無意識に掴むのは、海斗のエターナルペンダント。



それを握りしめながら、オレは意識を引きずられるようにして
眠りの中へと落ちて行った。



一時間くらいで起きるはずが気が付いた時には七時をまわっていて、
オレは慌てて医局へと飛び出した。



「あっ、おはようございます。
 多少は眠れましたか?

 久しぶりに嵩継さんが仮眠してるの見かけたんで、
 そっとしときました。

 疲れ溜まってるんじゃないですか?」



そういってオレがソファーに座った途端にコーヒーと手作りの焼き菓子を差し出してくるのは若杉だ。


「おぉ、サンキュー」


ソファーにもたれて、コーヒーを一口飲みこむ。



「あぁ早城が昨日、嵩継さんの担当患者さんが吐血して、
 3時頃だったか処置してました。

 503号室の湯川さんです」


若杉の言葉を受けてカップをもったまま立ち上がると、
カルテを立ち上げて、湯川さんの情報を確認する。


若杉がいれる濃い目の珈琲が、意識をしっかりと覚醒させていく。




今日も新しい1日が始まる。




引継ぎを終わらせてケアセンターめぐり、外来、手術、病棟めぐりと立て続けに仕事をこなした
夕方には疲労感から交感神経が活発になりすぎてナチュラルハイ状態。



医局に戻って机の引き出しから氷夢華のシフトを確認する。


アイツは日勤。
久し振りにアイツと出掛けるか……。



「聖也さん今日、少しゆっくりしたいんで、
 余程のことがない限りオフでお願いします」

「了解。
 皆にも伝えておくよ。

 嵩継はオンコールでもないし、病棟急変があってもこちらで対処しておくから
 安心して休んでおいで」



オレの元指導医は快くオフを了承して送り出してくれた。




白衣を脱いで医局から出るとオレは氷夢華を捕まえるために、
アイツのロッカールームの方へ移動しようとした。


オレの前をエントランスに向かって通り去ったアイツを
エスコートするように迎え入れる見知らぬ男。



氷夢華は、そいつと一緒に何処かへと出掛けて行った。




アイツがオレから離れることはない。
なんとなく、オレの中でそんな驕りがあったのだと気づかされた。


ショックを隠すように、オレはケアセンターへと駆けこむ。


ケアセンターには時任さん今朝まで過ごしていた部屋に、
また新しいターミナルケアを必要とする患者さんが入居していた。




夕飯時をいいことに私服のままケアセンターで一時間ほど過ごした後、
マンションに戻る気にもならず、医局へと出戻った。





医局の中には、飛翔が帰り支度をしているみたいだった。




「おっ、お疲れ」

「嵩継さん、まだ居たんですか?
 城山先生に聞きましたよ。

 氷夢華さんとデートの為、明日までオフだって」



聖也さん……氷夢華とデートって確かにそうでしたが、
オフの理由に持ち出してないですって。


思わず突っ込みたくなるのを抑えて、
何かあったんですか?っと言いたげな表情を見せる飛翔に言葉を返した。



「あぁ、そうだったんだけどな。
 アイツもいろいろと忙しいみたいで、ふられちまったよ」



アイツは今頃、オレが知らない男と一緒に同じ時間を過ごしてる。


わかってる。
アイツが悪いんじゃねぇ。


アイツを掴み取ってなかったオレが悪いんだ。





ショッピングセンターで時任と再会して以来、
アイツの態度は急によそよそしくなった。


いきなり磨きをかけるようにお洒落なんかにも目覚めやがって、
アイツが通るたびに、オレ以外の男の視線が、アイツを追いかけているのにも気が付いてた。



気が付きながらも、今日までまた何も出来なかった。


自業自得だ。
全部、オレか招いたことなんだから。




何ども言い聞かせるようにオレは心の中で吐き出し続ける。





「ならっ、嵩継さん俺と出掛ませんか?
 今日は神威が出掛けてるんで、久々にマンションで車変えてF峠にでも行こうかと」




オレを気遣って声をかけた、飛翔にのっかるようにオレは了承した。
今日は一人で過ごすと、オレ自身を責めることしか出来なさそうだ。




二人して医局を出て同じマンションに戻ると、
それぞれが一度、自宅へと戻り車の鍵を入れ替えて再び地下駐車場で集合した。




オレの通勤用の相棒の隣には、氷夢華の愛車が止まっていた。




暫くその車を見つめた後、オレはシルエイティーのドアを久し振りに開けた。

オレが暫く運転してなかったにも拘わらずシルエイティーはちゃんとメンテされてたみたいで、
バッテリーも上がることなく軽快なエンジンをならす。


前なんか急にコイツで出掛けようと思ってもバッテリーがあがってて、
それを回復させることから必要だったから、こいつの面倒も氷夢華が適当に転がしてみてくれていたのだと感じられた。




飛翔も通勤用のブラパスベンツから、プライベート用のベンヴェとアイツが呼ぶ相棒に乗り換えてエンジンをかけると、
オレに窓越しに合図をして、サングラスをかけて車を発進させる。



オレと違って飛翔はスピード狂のようにも思えた。
あっと言う間に引き離されていく車間距離。



だがF峠の道程くらいならオレだって知っている。


オレも出来る限り速度を出しながら、
一時間半ほどかかってようやくF峠の頂上へと辿り着いた。



夜のF峠は走り屋たちで賑わう。




あちらこちらから、エンジンの音が響いて聞こえる。






氷夢華もここで良く走ってたんだよな。



アイツとここで再会して……、
アイツがこの場所で胃潰瘍でぶっ倒れて……。




この場所で下手したら、オレはアイツを失くしそうになってた。
神様はようやくオレから奪うことがなかった大切な存在をオレが……。







そんなことを考えながら、シルエイティーにもたれかかって夜風を感じていた。

ふいにオレの隣に、心地よいエンジン音を鳴り響かせながら飛翔の車が停車する。






「少し流してきました」



運転席から出てくるとアイツは、自販機で缶コーヒーを購入してオレの方へと放り投げた。


飛翔が投げた缶コーヒーはオレの手に触れることなく、地面へと叩き詰められる。


ぼっこりと一部凹んだ缶コーヒーを手に取った飛翔は『重症ですね』っと声を零して、
凹んでない方の缶コーヒーを今度はオレの手に握らせた。






プルタブを引っ張って開けると、飛翔が先にコーヒーを飲んでゆっくりと話し出した。




「勇が心配してましたよ。
 けどアイツはまだリハビリ中」




あぁ……アイツも気にかけてたのかよ。

バーロー。
お前は自分のことだけ考えてやがれ。



そんな毒を吐きながら、今は特別室を退院して院長邸の自室でリハビリをしながら、
今出来る研修を続けだした勇人を思い出した。





「悪かったな。
 勇人にも、お前さんにも、心配かけたみたいで。

 恋愛って難しいなー」




そう恋愛って難しい。
恋と愛の境目って何だろうな。



オレの心の中には気が付いたら氷夢華が居て、
いつも一緒にいることが当たり前になってた。



それは恋じゃなくて、愛だったのかも知れない。
不器用なりに、オレはいつもアイツだけを見て愛してきたつもりだ。



だけど……アイツは、それだけじゃ満足しなかった。
オレの想いは伝わらなかった。




オレたちは、恋をすることを忘れたのか?






どれだけ答えを出そうとしても、納得のいく答えなんて見つからない。




だけど……今、はっきり思えるのは、
オレにはアイツがやっぱり必要で、アイツじゃなきゃ嫌だと言う事。






その直後、見なれた赤い車がF峠の頂上へと姿を見せる。






「嵩継さん、よかったですね。
 俺はもう少し流して帰りますから」


アイツの車を見た途端、飛翔は缶コーヒーをゴミ箱へと放り込んで、
相棒の運転席へと乗り込むと、エンジンをふかして車を発進させた。



飛翔の相棒が止まっていた場所へと、
氷夢華が車を駐車する。


エンジンを止めた途端、運転席のドアを勢いよくあけた氷夢華は、
人目もはばからず、オレの胸に飛び込んできた。




「兄貴……ごめん……アタシ……」



そういって抱き着いてくるアイツを、
安心したようにそっと手を回して抱き寄せた。




嵩継……そうやって、
名前で呼ばれたときはびっくりしたけど……
なんか何時ものお前じゃなくて不安になる。




「悪かったな。氷夢華」

「うん……。バカ兄貴っ」





小さく呟いたアイツの言葉をかみしめながら、
オレはアイツの体温を強く感じていた。

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