きみのとなり

佳川鈴奈

エピローグ






「おいっ、氷夢華まだ買うのかよ」




兄貴にみっちりと治療されたアタシは、
あの後、二週間以上ベッドに縛り付けられてようやく昨日兄貴のマンションに戻った。


アタシが大嫌いな桜の季節は、すでに過ぎて新緑が眩しい季節へと変わっていた。


あの日、事故ったアタシの相棒は入院中に兄貴が修理に出してくれているみたいで今はいない。


次に戻ってきたときは兄貴のマンションの地下駐車場にとめることが出来るように手続きしてくれたらしい。



久しぶりに帰宅したマンションは兄貴の香りがして心地よかった。

だけどアタシの部屋を準備しといてやるって言ってた兄貴なのに、
殆ど何も出来てなくて今日は急遽、兄貴の休日を強引に奪い取ってショッピング。




兄貴のシルエイティを奪って、
兄貴を助手席に買いものへと引きづりまわす。


今は三か所目のお店。



「だって、兄貴アタシの部屋のもの買ってやるって言ったじゃん」


「Macだろ、ベッドだろ。
 鏡台にタンスに本棚、他に何が居るんだよ」


「まだまだあるじゃん。

 アタシの茶碗でしょ、マグカップでしょ。
 オーディオにソファーにお布団でしょ」


後、兄貴と色違いのお揃いの歯ブラシに、うがい用のコップ。


茶碗もマグカップも本当は夫婦茶碗みたいな奴だったら、
もっと嬉しいけど、それは何時かのタイミング。


「お前なー」

「さっ、行くよっ。
 兄貴……とっとと買い物終わらせないと日が暮れちゃうよ」


「はいはい」


渋がる兄貴を引きづりまわしながら、
アタシの退院の翌日はゆっくりと過ぎて行く。




アタシたち……外から見たら、どんな関係に移るのかな?



兄妹?
それとも恋人同士?





今はどっちでもいい。






一番近くで大好きな兄貴を見つめて兄貴を感じ続けることが出来れば、
それでいい。





……きみのとなりに……。










兄貴のとなりはアタシの特等席なんだから。












誰かを信じるのはやめたんだ。



今まで自分にそう言い聞かせていた。


裏切られるのが怖いから信じるのはやめたんだって。



けどアタシはずっと求めてた。




アタシを受け止めてくれる、ただ一人の安心できる腕の中を……。
そんな場所を見つけたから……アタシはまた歩き出せる。





……そう……。


闇の森を一人彷徨い続けるアタシに、
光を教えてくれた貴方が今は、こんなにも近くにいるから。



もう迷わないよ……アタシがこの先、歩き続ける道を。

アタシの中に生まれた大切な希望の光。






第一章 13話 完結



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