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きみのとなり

佳川鈴奈

7.すれ違う時間 I -氷夢華-


兄貴に口聞いてきいて貰って就職した鷹宮総合病院。
此処に勤務し始めて、約一ヵ月。



アタシが嵩兄の家に乗り込んだ三日目くらいから、嵩兄は一度もマンションに帰ってこない。


……そう……ERオンコールだとかで、わけわかんないシフトを口走って呼び出しがあったあの日から、
一度も帰ってこない。


あの日の日中、私の携帯に届いた採用連絡。


真っ先に、兄貴に祝って欲しかったのに兄貴はマンションに戻らない。



兄貴の携帯にメールをいれると『おめでとう』だけの短い返信。


返信だけじゃなくて、もっとちゃんと祝ってよ。
アタシの夢が叶うんだから。



翌日、鷹宮に初出勤の日。


病院内でチラっと兄貴を見かけるものの擦れ違いばかり。

嵩兄、どうして家に帰ってこないの?
アタシが邪魔なら言葉にして言えばいいだろ。


あの時もアタシが邪魔で勝手に居なくなったんだろ?
嵩兄はさ。


嵩兄がアタシの前から消えたあの日、ウチは家族全員唖然としたんだ。



嵩兄の母さんが亡くなった時もアタシは兄貴の傍に居たかった。
何が出来るわけじゃないけど、ずっと兄貴の傍に居たかったのにオトンとオカンが反対した。




『子供が出る場所じゃない』

『嵩継くんは今、一番大変な時だから』



大変な時だからアタシは居たかったんだ。

なのに両親によってそれは阻止されて、
嵩兄の母さんの葬式もアタシは学校に行かされた。



帰宅後、まだ慌しかった嵩兄の家にはアタシは行かせて貰えるわけでもなく。


その翌日の夕方、学校から帰って慌てて嵩兄の家に出かけた。
その時には兄貴はすでに家を引き払って姿を消してた。


同じように嵩兄に置いて行かれた海兄も無言で、
その場に立ち尽くしてた。


壁を何度も自分の手で叩きながら、その手から血が滲み出るまで
怒りに拳を震わせていた。



そんなにアタシたちが嫌いだったら、今もアタシを追い出せばいいのに。



嵩兄は何も言わない。



アタシが要求したように嵩兄の病院に就職できるように話をしてくれて、
嵩兄のマンションにアタシを住ませてくれる。



嵩兄がマンションの経営者にも話を通してくれてるから、
アタシがマンション内をウロウロしていても何も言われない。


経営者って紹介された神威って呼ばれてた少年も、
アタシの姿を見ると会釈してくれる。



ただ一つ、あの日から兄貴は一度も帰ってきていないってことをのぞいては。


病院内で兄貴を見かけても声なんてかけられない。


今日も……そう……放射線技師だから医師の兄貴とは仕事上のパートナーであることは多々ある。


そして、それはアタシが技師を続けている限り兄貴と組むこともあるわけで外来患者の検査の時間に、
それは起きた。


難しい検査ってわけじゃない。
何時ものアタシなら余裕で終わらせられる検査。


だけど今のアタシは兄貴が気になって仕方がない。


上手く撮影できないアタシ。
そんな焦りが、また自分を追い込んで責めたてていく。


「氷夢華、オレが変わる。
  すいません、すぐに終わらせます。
  
 もう少し我慢してくださいね」



兄貴でも扱える検査だった為、嵩兄によってアタシは検査から外され兄貴は機械を操って、
早々に検査を終わらせて患者さんを検査室から退室させる。



その場に立ち尽くすアタシ。



アタシは何も言えず、ただ兄貴を黙って見ることしか出来なかった。



「おいっ、氷夢華。
 さっきのは何だ?

 この病院には集中力がないスタッフは必要ない。
 あの検査が一分一秒を争う検査だったらどうするつもりだったんだ?

 お前のせいで、患者は一人死んだかも知れない」



何時も乱暴でぶっきらぼうだけど怒ったことがない兄貴が、
トーンを低くしてアタシを責める。



……兄貴じゃないみたいだよ……。







「氷夢華、聞いてんのか」


「聞いてるよ。
 兄貴こそ、アタシばっかり責めて信じられないよ。

 アタシにこんな思いさせてんの誰よっ!!

 兄貴でしょ。
 兄貴が帰ってこないからっ」


「おいっ、氷夢華。
 仕事中にプライベートは持ち出すな」


「プライベートも何も関係ないよ。
 兄貴のせいだよ。

 何もかも全部さ」



そう言ったアタシの頬を兄貴がぶって、
そんな兄貴を睨みつけて検査室から飛び出したアタシ。



早々に着替えを済ませると駐車場へと飛び出す。



その途中、誰かに声をかけられたけどアタシは無視して、
相棒に乗り込むと鍵を回してエンジンをかけて、
一気にアクセルを踏み込んで病院の外に飛び出す。


一人で出掛けるカラオケも、流石に一ヶ月もしてたら飽きてきたし、
久しぶりに弥英と華奈子に電話で連絡して久々のF峠。



下りの攻め。



三人で何度も何度も峠を攻め続けて、
その後も居酒屋を何箇所か梯子して明け方近くに帰宅。


誰もいない部屋を何時ものように開ける。


そんな感覚で開いた扉。



えっ、どうして……リビングの扉が開いて嵩兄が姿を見せる。




「氷夢華、こんな時間まで何してた?」

「別に、兄貴には関係ないじゃん。
 アタシも、もうガキじゃないんだからさ」

「ガキじゃねぇヤツが無断退勤なんかするかよ」

「五月蝿いっ。
 一ヶ月も帰ってこなかったくせに、 たまに帰ってきたら説教かよ。

 ウザイよ兄貴。

 アタシがこうなったのも今がこうなのも 何もかも兄貴が悪いんだから。

 兄貴のせいなんだから……兄貴がアタシを責めたり叱ったりなんて出来ないんだから」



玄関で怒鳴りあって足早にキッチンからビールを取り出してプルタブを引っ張る。



一気に飲もうとしたビールを兄貴が取り上げる。



「何よっ!!」

「明日も仕事だろ。
 ったく、飲酒運転しやがって。

 すでに飲んで来たんだろうがっ、もうやめとけ」



兄貴を無言で睨むと慌てて自分の部屋へと駆け込む。
そして扉を閉めて扉を背に崩れるように座り込む。

部屋の外では兄貴がアタシの名前を連呼してる。


それを全て無視してアタシは壁に持たれかかったまま、
鞄の中からMP3プレーヤーを取り出してイヤホンを耳に差し込んで再生。



最低だよ、兄貴。




何で……気がつかないんだよ。
アタシの気持ちにさ。



兄貴なんて……兄貴なんて最低だよ。


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