ゲームseason1

神野咲羅

第一章 第一話(2)

メールボックスを閉じ、電話帳を開いた。

登録されている連絡先はあまり多くない。

その中から『吉井透(よしいとおる)』に発信した。

地元の友人だ。とりわけ仲が良いわけではないが、保育園からの幼馴染みだし、今の僕には一番相談しやすい相手だった。


「もしもし」

透はすぐに電話に出てくれた。

「もしもし。今電話大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。どうしたの?裕之」

透は物腰が柔らかい。話していてなんだか安心する。

「実はさ、なんか変なメールが来て……」

「変なメールって?」

「なんかゲームに招待されたって……勝者には高額な賞金を用意してるって」

僕がメールの内容を明かすと、しばらく沈黙が続いた。

突飛な内容過ぎて、透はコメントに困っているのだろう。

そう思っていると、透の声が僕の耳に入ってきた。

「そのメール……僕にも来た」

思わず今度は僕が黙ってしまった。

どういうことだろう?考えれば考える程メールに対する猜疑心は募った。

そして、僕なりの結論を口にするしかなかった。

「まじか……流行ってんのかな?タチの悪い悪戯か新手の詐欺だな……やっぱり」軽く笑い飛ばすように言った。

「そうかもしれないね」

僕とは対照的な透の口調に違和感のようなものを感じた。

「ん?どうした?」

そう尋ねると、無音が続いた。何も聞こえない。

おそらく透は一人で静かな場所にいるんだろう、僕と一緒で。

そんなことを今更確信した。

そして、透が静寂を破った。

「僕、ゲームに参加したいって思ってる」

今日一番の驚きだった。

でも、同時に胸が高鳴る。

透の言葉が救いになった。そんな感覚だ。

実は僕もゲームに参加したいと思っていた。

それを正直に透に伝えた。

そして、本当に行われるかもわからないゲームに二人共参加する方向で通話を続けた。

「やっぱり賞金が気になる?……よね?」

不躾かとは思ったが聞いてしまった。

「そうだね……」

透の声からは、情けない、恥ずかしい、と言う感情が汲みとれた。少し申し訳ない気持ちになった。

透は賞金に目が眩んで危ない橋を渡ろうとしているわけじゃない。そんなこと、幼馴染みの僕にはわかっている。

ただの欲望じゃない。仕方ないのだろう。

透の事情はなんとなく知っている。

透の実家は小さな自動車修理の工場を営んでいて、透はその家業を継いだ。

しかし、この不景気の中、寂れた田舎町での経営は厳し過ぎる。

長年続いた家業はついに廃業寸前まで来てしまったらしい。

このままでは透の家族は多額の借金を背負い、路頭に迷うことになる。

でも、お金があればなんとかなるかもしれないんだ。

透の気持ちはよくわかる。

僕だって賞金目当てだから……。

「裕之はもう借金ないんだよね?」

透は良かれと思って聞いたんだろう。

「ないよ」正直に答えた。

確かにない。

でも、そういう問題じゃない。

借金を完済しても失ったものは戻って来ないし、僕は現状に満足なんかしていない。

そう、僕の場合、賞金目当てだけではない。

大層な言い方かもしれないが、僕は人生を変えたいと思っている。

ゲームが変えてくれるかもしれない。

ゲームは神様が与えてくれたチャンスなんだ。

なんとなくそう思っている。

平凡な僕だけど、昔から変な勘が働くことがよくあった。


今日中に参加のメールを送るという約束を交わし合い、僕達は電話を切った。


普段からあまり寝つきはよくないが、その夜はなぜか全然眠れなかった。

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