Over the time ~時を見る~

薪槻暁

the time of life

 昼休みの一件があってからは平穏な日常風景の営みを過ごすだけだった。要するに何も変化は無かったのである。






 授業、帰りのSHRも幕を閉じ最後に残ったのはいかにも不満そうな顔をしている古来からの友人と下校するのみだった。


 人通りがあまりない両側が植林された道を通っていく。


「結局、お前が言う未来視なんてさ妄想なんじゃないか?」


 過去に起こった出来事を隈無く探るのは彼の御得意事だ。


「そうかもしれないが、昨日と今日とで連続にこんなことが起こるか?」


「確かにそう考えるとな……」


 今までに疑問に思ってきたことをさらけ出していく。


「しかも昨日から突然にだ。何が原因だ?」


「いや、俺が知るわけないだろ」


「そりゃそうだ」


 やはり答えは見つからないままだ。








 道を抜けると広い国道が露になる。いつもの登下校ルートである。国道は信号が青になるのを待つのも面倒なので毎回歩道橋を歩く。


 しかし登ろうとした時だった。


 彼、斎藤は人差し指を地面から斜め45度に傾けて呟いた。


「誰か人がいないか?」


 歩道橋の真ん中辺りに、行き交う自動車らを眺める独りの少女が立っていた。いや、佇むという言葉の方がこの場合適しているだろう。




 瞬間、望んでもなかった映像が脳の中心部に写し出される。


――少女はその小さな上半身を鉄柵から出し重心を下に傾けている――


 まさに死なんとする描写だった。






 思考回路が追い付く間もなく階段を駆け上がり、少女を止めにかかる。






 少女は一瞬戸惑いの表情を見せながらも、数秒後には頬いっぱいの涙を流していた。


 生と死の境は余程恐ろしく身近に存在するものだと実感したのはこれが初めてのことだった。


 少女のその安堵の表情を見るだけで自分の心が露になるそんな気もした。


 と、ここでその場は二人だけではないことに改めて気づく。


「はぁ、はぁ……お前まさか未来を見たのか?」


「そうだ」




 少女をひとまず安静にさせそのまま家に帰すことにした。














「まさかまた未来が見えるとはな」


「ああ、俺も自分に驚いた」




 予想もしなかった突然の出来事の後はスローペースで会話を続ける。だがやはり得たい答えは未だに見つからず結局今まで通りの日常会話で帰宅を迎えた。


























「何なんだよ、最近」




 独りごちたこの言葉はもう何度目かと不思議と疑問に感じた。


 とりあえず、今は自室のベッドの上で最近起こった不可解な現象を思い出している。


 テスト、ゲーム、恋、死か…………


 段々と事態が大きくなっていることに微量の不安を覚える。




 同時に何か忘れていることはないかと問う。




 いやないか。脳裏で議論し合った疲れを取るために深い眠りについた。





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