幸福戦争
3、虚無を塗りつくした大地
午前0時、闇夜に光を灯した簡易型のテントの中でとある密会が開かれる。草木、その他の動物群のほとんどは寝静まる中で僕たちが住むこの住居には光がジャングルへと漏洩しないための光遮断専用スプレーを噴射してある。ゆえに夜行性の捕食者のサーチエリアに属さないようなある意味必然性が保たれている。
一言、僕と対をなす男の口から現実を突きつけられる言葉を出した。
「何も見つからないな」
「うん」
この人工と呼ぶものが限りなく消された土地で二匹の獣が呼応するように語り合いが始まる。
「ヒトの集団的営み、コロニーが見つからん。集落を発見することがこうも難関な問題だとは思ってもみなかったぜ」
「僕ら以外のは簡単に見つかるのにね」
「ホンっとそうだよな!やっと足場が固められた道が見つかったと思いきや、これがただの獣道ときた。変な冗談、やめてくれよ」
上陸からおよそ一週間は経っただろうか、僕らは二人のみのグループでこの母国から離れた地、アフリカ大陸で過ごしていた。食糧には困らないのは不幸中の幸いだったが、作戦自体にイレギュラーな事態が起こってしまうと精神的なダメージが増えてしまう。過去の軍隊はそのようなケースが頻繁に起こったために僕らよりもそれらの対応は素晴らしい。その代償として人間性を剥奪されてしまうが。
「まあね。けど僕らが特別なだけで動物と呼ばれる僕たち以外の生物にとってその道こそが整備された道なんだけどね」
「僕たちが勝手に定義をすり替えているだけ」
彼、ケリーは顎に手を伸ばし少しばかり考えたのちに応えた。
「そりゃあ定義の問題だな。知恵を身に付けたヒトとそうでない生きもん、どちらの感覚が正しいのかは俺たちゃにはわからん」
禁断の実をその手に乗せた者には贖罪という名の罰が与えられる。けどそれが基になって善者なのか愚者なのか判断の材料にはいささか足りない。
「って、いつからそんな哲学的な内容になってんだよ。俺が言いたいのはいつまでこんなちんたらした生活を過ごさなきゃならねーんだって話だ」
「まさか、移ったんじゃないだろうな。お前と話した奴とよ」
僕は人間という者の不合理を何度も何度も思い返し問い返す。それは昔から変わらない一種の慣例みたいなものだったけれど彼、琴塚と話した時から知らぬ間にその頻度も多くなってきた気がした。
ーー僕は果たしてこの生き方でいいんだろうかーー
それはきっと誰かに聞くべきであるはずの問いに気付いた時にはもう遅かった。
「なああ、起きたか?」
不甲斐なく意味もなしに伸びた間抜けな声。目覚めが悪いその声音に起こされた僕はというとやはり気持ち良い目覚めとはほど遠いようだった。
「起きてるよ」
瞼を擦りながら声が発せられたテントの外へと身を投げ出す。開けた森に差す朝日の直射日光が寝起きのせいもあってか眩しく、視界が一瞬真っ白になる。
「なんだか御伽噺に出てくるような朝の出迎えだね」
僕よりも早くに準備が整った彼、
「呑気なこと言ってんなよ。もうすぐここを出るぞ」
簡単に言えば防具と呼ばれる情報バイタリティー素材を使用したボディアーマーを装着する。右腕に身体モニター、左腕には外部環境データ。それら対象の部位にモーションを与えると空間にそれらの情報が視覚的に展開されるのだ。
早速、その中の技術の一部分を使用した彼は面白そうに話し始めた。
「昨日の夜によ、この土地の土壌形成がどうなってるか調べたんだよ。経済的な利益がここにあるかどうかとマザーからの伝達があってさ」
「んでちょうど今さっきその探査が終わったようでよ。小型マイクロ機から情報が受信されたんだよ」
彼は左手の人差し指と中指だけを伸ばし、そして再び握る。たったそれだけで空中に文字と周辺の地図が同時に投影された。
「これがその結果だ」
そこには何の変哲もないただアフリカ大陸をそのまま見下ろした地図。希少金属が含むとされる土地のマーキングがされていないことにはこの時代に生まれたこともあって不思議には思えなかった。
「どこか、変なところでも?」
彼は本当に?と言わんばかりの表情を顔に浮かべそして言い放った。
「全てがその変なところだと気付かないのか?」
「こいつを見てくれ」
突如展開される新しい地図、いやそれはさっきまで見ていた同等の、同一地の地図でただ一点見方を変えたのが異なっていた。
「この空白の連続はなんだ?そしてなぜまた地盤が続くんだ?」
空中に示されたのは横からこの地を覗いたもので、地下2kmを超えた辺りで巨大な空間が形成されまた再び土壌がひたすら下に続いていく。
それはいわゆる地下空間という類のもののようだった。
一言、僕と対をなす男の口から現実を突きつけられる言葉を出した。
「何も見つからないな」
「うん」
この人工と呼ぶものが限りなく消された土地で二匹の獣が呼応するように語り合いが始まる。
「ヒトの集団的営み、コロニーが見つからん。集落を発見することがこうも難関な問題だとは思ってもみなかったぜ」
「僕ら以外のは簡単に見つかるのにね」
「ホンっとそうだよな!やっと足場が固められた道が見つかったと思いきや、これがただの獣道ときた。変な冗談、やめてくれよ」
上陸からおよそ一週間は経っただろうか、僕らは二人のみのグループでこの母国から離れた地、アフリカ大陸で過ごしていた。食糧には困らないのは不幸中の幸いだったが、作戦自体にイレギュラーな事態が起こってしまうと精神的なダメージが増えてしまう。過去の軍隊はそのようなケースが頻繁に起こったために僕らよりもそれらの対応は素晴らしい。その代償として人間性を剥奪されてしまうが。
「まあね。けど僕らが特別なだけで動物と呼ばれる僕たち以外の生物にとってその道こそが整備された道なんだけどね」
「僕たちが勝手に定義をすり替えているだけ」
彼、ケリーは顎に手を伸ばし少しばかり考えたのちに応えた。
「そりゃあ定義の問題だな。知恵を身に付けたヒトとそうでない生きもん、どちらの感覚が正しいのかは俺たちゃにはわからん」
禁断の実をその手に乗せた者には贖罪という名の罰が与えられる。けどそれが基になって善者なのか愚者なのか判断の材料にはいささか足りない。
「って、いつからそんな哲学的な内容になってんだよ。俺が言いたいのはいつまでこんなちんたらした生活を過ごさなきゃならねーんだって話だ」
「まさか、移ったんじゃないだろうな。お前と話した奴とよ」
僕は人間という者の不合理を何度も何度も思い返し問い返す。それは昔から変わらない一種の慣例みたいなものだったけれど彼、琴塚と話した時から知らぬ間にその頻度も多くなってきた気がした。
ーー僕は果たしてこの生き方でいいんだろうかーー
それはきっと誰かに聞くべきであるはずの問いに気付いた時にはもう遅かった。
「なああ、起きたか?」
不甲斐なく意味もなしに伸びた間抜けな声。目覚めが悪いその声音に起こされた僕はというとやはり気持ち良い目覚めとはほど遠いようだった。
「起きてるよ」
瞼を擦りながら声が発せられたテントの外へと身を投げ出す。開けた森に差す朝日の直射日光が寝起きのせいもあってか眩しく、視界が一瞬真っ白になる。
「なんだか御伽噺に出てくるような朝の出迎えだね」
僕よりも早くに準備が整った彼、
「呑気なこと言ってんなよ。もうすぐここを出るぞ」
簡単に言えば防具と呼ばれる情報バイタリティー素材を使用したボディアーマーを装着する。右腕に身体モニター、左腕には外部環境データ。それら対象の部位にモーションを与えると空間にそれらの情報が視覚的に展開されるのだ。
早速、その中の技術の一部分を使用した彼は面白そうに話し始めた。
「昨日の夜によ、この土地の土壌形成がどうなってるか調べたんだよ。経済的な利益がここにあるかどうかとマザーからの伝達があってさ」
「んでちょうど今さっきその探査が終わったようでよ。小型マイクロ機から情報が受信されたんだよ」
彼は左手の人差し指と中指だけを伸ばし、そして再び握る。たったそれだけで空中に文字と周辺の地図が同時に投影された。
「これがその結果だ」
そこには何の変哲もないただアフリカ大陸をそのまま見下ろした地図。希少金属が含むとされる土地のマーキングがされていないことにはこの時代に生まれたこともあって不思議には思えなかった。
「どこか、変なところでも?」
彼は本当に?と言わんばかりの表情を顔に浮かべそして言い放った。
「全てがその変なところだと気付かないのか?」
「こいつを見てくれ」
突如展開される新しい地図、いやそれはさっきまで見ていた同等の、同一地の地図でただ一点見方を変えたのが異なっていた。
「この空白の連続はなんだ?そしてなぜまた地盤が続くんだ?」
空中に示されたのは横からこの地を覗いたもので、地下2kmを超えた辺りで巨大な空間が形成されまた再び土壌がひたすら下に続いていく。
それはいわゆる地下空間という類のもののようだった。
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