幸福戦争

薪槻暁

3、作戦遂行準備

「で。要件は何だい?まさかここまで来てもらって談笑するだけが目的ではないだろうね」




 部屋全体が古びており、室内の床一面に読みつくされた本が散らばっているので辺りが紙の匂いで充満している。


 謎の刺客ーー僕と境地に立たされたパイオニアーー琴塚は二人対峙するように木製の椅子に座る。


 厳格でも穏やかでもない雰囲気に覆われた部屋の中で僕は静かに呟く。




「テンプル騎士団についてお伺いしたいことがあります」




 彼は漸く事の顛末とやらに気付いたらしくひとつ溜息を作った。




「そうか、君は軍部の一員というわけかね。どうりで話が通じ合えると感じるわけだ」




 アカデミーに属している彼には若者にこの世の現実と解脱を教えるためだけにこの場に居残り続けているわけではない。彼は一人でにある研究を進め、それは国内では極秘裏に行われた。




「その顔じゃ、私の研究については知っているな。まさかそちらから寄ってくるとはこれまた驚いたことだよ」




 僕は頭の片隅に置かれた事実を語った。それはあまりにも楽観的過ぎて嫌気がさすほどで。




「はい。上からの命令で先生のところに伺えばこの問題も解決するだろうということでして」




 何とも雑然とした答えなのか、今となっては了承してしまった過去の僕が恥ずかしく仕方がない。




「そんな魂胆だろうとは薄々感じてたさ。何せ私に客人としてふるまう人物はこれまた世の政治家ばっかりだからね」


「むしろ君がそうではないかと勘づいてしまった時には失礼かと思ったが」




 僕はこの時だけは僕自身の立場が無くなれば良いと感じた。




「まっ、いいさいいさ。君が悪いわけではないんだ、何も自分を卑下するまでもない。では余談はここまでにして本題に入るとしようか」




 彼は乱雑に置かれた紙の断片を摘まみ上げて僕に見せた。




「恐らくこのことかね。もし君が知っていなかったら申し訳ないが……」




 彼が差し出した紙片を受け取るとそこには論文らしき文字の羅列に加え、一枚の写真が載っていた。


 それは忘れたくても忘れられない、黒色に纏われた集団が写っていた。




「そうです。片腕に紋様らしきものが刺繍されているローブ。まさにテンプル騎士団に違いありません」




 彼は物語を読み聴かせるような口調で話し始めた。




「おそらく君の記憶の既知な事実とそうでない事実。両方が書かれていることだが……一応言っておくとしよう」


「彼ら、テンプル騎士団は国際的テログループだ。名前の通り英国がその発祥地でね、メンバーは軍部でもなければ政治家でもないただの一般市民なんだ。それが故郷を遠く離れた地でも荒野と化けさせる世界の道化師に成り果ててしまったんだ」


「初めからテロ行為を?」




 彼は僕の問いに一度唸らせたらしいのだが、




「それがね……私の研究課題の一部でもあるのだけれど少しもヒントが見えそうにないんだよ」


「何というか、データ自体が丸々何物かによって消されているという感じかね」




 彼はわざとその答えを僕の前ではぐらかすような口調だった。


 だから、僕から応えることにした。彼の意向とやらを。




「国内上層部の為ですね」




 彼は一瞬表情を強張らせたのだが、緩やかにその筋肉を戻していく。




「その発言は良いのかね。聞き取り方次第で君の立ち位置が危うくなるかもしれないよ」




 僕は平然と装うつもりなど一切なく、そのまま頷いた。それは余裕があるということではないが緊張しておかしな答えを出したわけでもなかった。




「お気になさらないでください。国と軍が繋がっている以上それは避けようがない事実ですので僕が責任をとるのは当たり前な話ですよ」




 彼は一度呆気ない顔だったのだが、僕の目を見て察しがついたのか再び話を続ける。




「消されていることに関しては仕方がない圧力なのだがね。しかしだ、そこに重要な事柄が隠されているのは言うまでもないね」


「消すということは何らかの因果関係があるということだよ。関係がなかったのならばわざわざ手を加えるまでもない話なのは分かるね?」




 僕は一度彼の言葉に翻弄されながらも彼のその真意の理解に努めた。




「ということは?」




「彼らと上層部は裏で繋がっているのかもしれない。逆に考えれば何かがあるってことだよ」




 彼が長年、テログループを追求した一種の回答、それは辿り着くには程遠いように感じられる道だった。














 マザーからの臨時調査命令により僕はアカデミーまで足を運んだのだ。


 彼らは自分に関わりがあるということを知らないほど情報収集に関して抜け目などあるはずがない。ゆえに故意で僕に調査をさせたのは考えるまでもなくすぐに気が付いたのだが。


 むしろその点しか思い浮かばない僕はこれから何処へと向かえば良いのかと、長く試行錯誤するしかない。


 国外の状況と戦況を把握し、これから敵対するかもしれない者の情報を得ていくような在り来たりな方法ではない。敢えて国内組織の全容からこの問題を対処しなければならないという現実こそが逆に笑えてきてしまう。


 簡単に言えば八方塞がりだ。


 さて、どうすれば良いのだろうか……




「うおーい、生きてるかーー?」




 遠方からメガホンを使ってやっとのことで届いたような擦れた声、に聞こえたのは僕の耳が問題だったのだろう。


 脳内で問題提起、論理対策を何度もサイクルしているうちに僕の気はいつからかどこかに消えたように見えたらしい。焦点が合っていなかった目を丸テーブルの向こうに座る一人の男に再び合わせた。


 目の前で僕を病人のように見ている男の名はジョン・ケリー、貴重な友人の一人だった。
 

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