幸福戦争

薪槻暁

第1章エピローグ

「羨望せざる人間は幸せになれず」




 僕がこの世界に誕生するずっと前から幸せを望む人々は存在していた。


 概念があやふやなものに執着する僕らは客観的に見てみれば愚かにしか思えない。


 それでも、見つからなくてもいいからと答えを探し続けようとするのを愚行と言うべきなのだろうか?


 知能を強引に押し付けられてこの世界を生きてきた彼らだって「幸せ」を願った。


 それは紛い物でもない事実。




 一体それはどんなものなのか?




 僕はあれから毎日問い続けている。


















 僕達は母国の愚行のような過去を彼ら、アンドロイドとともに国中に広めた。




 自分達が生きるために他国の住民が搾取されていること、殺されていること。非道で非人間的な行いを慣習的にしてきたことを伝えたのだ。


 無論、初めは呆然とするか信じずに呆れ返る人々ばかりだった。




 けれど街頭モニターやテレビでのライブ放送などを用いて異国の地の人間が死んでいく映像を流すと一瞬にして信じこむようになった。










「これでよかったのか?」






 いつものようにカフェテリアでケリーと世間について語る。




「僕は僕たちでこの世界の行く末を決める。それが普通なんじゃないか?」




 案の定、この国の人々はパニックに陥りライフラインも危険性がある状況。




「君はこれを望んでいたんじゃないのか?」




 ケリーが訪日し入隊した理由。それはこの国の上層部を解き明かすことだった。しかし彼が求めた願いは何百年も前に尽きていた。




 僕たち、日本の政治家はとっくのとうに逃げてしまっていたのだから。




「まさか。俺が望んだのは知ることだけだ、むしろお前の国をこんな状況にさせてしまったことに罪悪感を覚えている」


「君がそんなふうに思う必要は無いよ」


「逆に僕が思う必要があるはずだ」




 同じ人間として、立場として、彼に謝らなくてはならない。




「すまなかった」










 終わりが見えない紛争、内戦、闘争、これらすべて僕たちの誤りで引き起こしてしまった。


 そして僕もその被害者でもある。




 「幸せとは」




 僕だって毎日のようにその姿を考える。


 形、有り様、僕らが望む最善のものは一体どんなものなのだろうか。




 他者を傷つけてまで得るそれは本当に「幸せ」と呼べるのだろうか?






「ササキ、大丈夫か?」






 僕達はその答えを見つけるために軍部に居残り続けるだろう。




 きっと、いつか見つかると信じて。





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