幸福戦争

薪槻暁

プロローグ

 僕は旅をしている。それは終わりを迎えない未来永劫の旅路。前は真っ暗で何もかも見えない。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、五感の全てが麻痺したような感覚。


 記憶すら危うい僕の脳味噌も壊死しかけているのか、何を考えているのかも理解しがたい。


 歩み続けるこの両足も意味を成しているのか分からないほど感覚が無い。


 神経が切れている。むしろ消失しているといった方が良いのかもしれない。


 ただ目の前の光景に目を輝かせ、童心に返ったような心を生みながら歩く。


 あと少しでこの旅も終わるかもしれない。












 時は西暦2100年も過ぎる頃。


 僕はかつて島国と呼ばれていた日本という国で生まれた。


 高度経済成長の恩恵を享受したこの国はあらゆる分野で軒並みならぬ進化を遂げ、ついに経済成長力世界一の超大国と成り果てた。


 アメリカ、中国などの安全保障理事国を務めた国々は母国の貿易摩擦の影響で内部崩壊し、今や内戦が勃発している。


 かつて島国だった日本は自国の最先端テクノロジーや知識を乱用し、九州は韓国南部、北海道はとうとうロシアまで併合してしまった。






 今や誰にもこの国を止めることは出来ない。


 そんな状況に至ってしまった。








 再び歩みを続ける僕のものと認識できないそれに意識しようとする。




 山を下り、じきに半日は経過するだろう。暗闇の中、前方に広がる灯りの群れ群れに僕は異世界に転送されたように覚える。




 あと少しで大都市東京。この世界を破壊に導いた因果の根源。




 僕は速まるその下半身に身を任せた。




 無心論者の僕に囁くその言葉は。






 ――この世界に終焉をもたらさん――

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