狂ってる

薪槻暁

狂ってる

絶望した。ぴしゃりと轍を踏む音。ぐしゃりと沈む草木。じゃりといった食感。全てがこの世にないもののように感じる。いや、この世のものだと思いたくないのだろう。それはあまりにも凄惨すぎる光景だった。赤く染まった水面を通り、故意に伐採された木々を踏み、地べたをはいずったためだ。目の前で摘み取られるようにして消えていった同士は今頃どうしているだろうか。出られない迷宮に閉じ込められたか、はたまたマッサージチェアに深々と座っているのだろうか。
ふと甲高い声とともに破裂音が響いた。ついこの間までこの音を聞くと、怖い、早くここから出たいと感じていた。だが、今は違う。消える灯の音響が鳴り響くたび、至極恐悦に浸ってしまうのだ。ああ、またこの音だ。ああ、だと。
きっと狂っているんだろう。正常な判断が出来ない。思考回路もぐちゃぐちゃ。胃液が逆流して食道がむかむかする。そりゃそうだ。あの補給日から何日も食物といえるものを喉に通らせていない。狂ってる。脳を正常に働かせるにはそれなりの栄養が必須。しかし、それさえも受けつけていない。
、、また消えた。不快ではなく痛快な音が響く。鼓膜を震わせる共鳴。
ああ、もう何もかも狂ってる。





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