俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
103.転生してから叶うという皮肉(ユーファ)
Re:謎の少女から謎のスープを飲み干すよう要求
登場人物:主人公、謎の少女(推定12歳)、ユーファ
本文:
今、俺は手足を動かせない。
固く雁字搦めに、縄で羽交い締めにされ、椅子に縛りつけられてしまっている。椅子の後ろ側に回されている両腕になんとか力を籠めようとしてもビクとも動かない。いや、きっとこれは別の理由があって動かせないのだろう。物理的なものじゃない、そう……まるで魔術的な何かだ(論理もクソもないけど)。
ならばこそ、椅子自体を動かしてこの場を離れれば万事解決なのではないかと考えたのが愚かだった。要するに体、全身が動こうとしないのだ。つまり、魔術か何か、まだ転生して間もない俺にとって訳が分からない因果によって縛りつけられていることが確定したのである。
今、手を動かせずに椅子に縛り付けられているのは前回、転生して起きた場所ーー寝室である。
どうやら俺の転生先というか、一番最初に生まれた地、いわゆるゲームのローディングポイントは西洋ではよくある地方の名前に似てて、少しだけ名が知られているお屋敷の寝室であったらしい。屋敷の住人は……今まさに、登場である。
「あれれえ!!起きてるぅ!!なんでよ、どうして?私の魔術が効かないってことーー??」
「魔術がどうたらこうたらは知らんが、早くこっちに来てこの縄やその魔術とやらを解いてくれないか?」
ぽけーーっと自然体に身を任せたような幼くかわいげのある、いやありすぎる少女は俺がこの世界で起きて最も初めて出会った人物である。愛嬌のあるハムスターみたいな愛玩動物らしさ満点の少女で、銀髪で耳元まで伸ばした髪の毛がまるでエルフのようだ……実際そうかもしれないが。
といっても俺は生半可な人間の力ではどうすることも出来ないようなので、身の解放を求めたが、少女は聞く耳を持たない。
「なんでさーー!!私はちゃんとかけたはずだけどな……ねえ、なんでぇーー?」
「何でと言われても、全くもって俺には分からないんだが。つーか、それよりも、そんなことよりも先に、どうして俺がこんなことになってるんだ?なんだ、人体実験でもしたいのか?俺の体を使って」
「じんた……い?なーーにーーそれって面白いの?」
はいでた、異世界に飛ばされて面倒な要件トップ3にも入りそうなぐらいの問題、それすなわち、言葉が通じない。ま、そもそも魔術めいたものが発展しているのならば文化の発達過程も全く異なったものになるのだろうし、仕方ない。
だが、何といえばいいのか。さっき確認したところ、日常的言語は普通に伝わるようだし、だったら難しい言葉を使わなければいいということだろうか。
「『人体実験』ってのは、俺や君の体をそのまま使って操ったりすることだよ、分かるか?」
「ああ!!なるほどうーー」と少女は納得したように口にした。まさか、本当に操れるとは思いもしなかった。というかそれって結構危険性がある行動なのではないか。
てなわけで俺は再度自分の身の解放を懇願する……が。
「だめだめーー、じゃあ、これは私が手掛けた『じんたーじっけぃ』なんだから。お兄ちゃんは動いちゃだーめ」
無邪気な笑顔で動くな、こいつは人体実験だ、なんて言われたらそりゃ、顔とやってることのギャップが凄すぎて滑稽かもしれないけど、俺にとってはそれ以上に怖いことはない。特に少女は本当にまずい、加減というものをまだ知らない年頃は痛い目を見る未来しか感じられん。
だから俺はせめてどんな『実験』をされるのか、試されるのかを訊くことにした。何をされるのか、知っていた方が後々楽だろうし。
「んーー、これを飲んでもらおうかなぁってさぁーー」
「はい」と掌に乗せながらこちらに見せてきたのは、ただのスープを入れる容器だった。しかし、やはりというか予想通り中身のスープはどえらいことになっていた。
スープに、ゴミが浮いている、といったところでも相当ゲテモノ扱いだろうが、そのさらに上をいっていた。まず匂いは史上最高な臭さで、食べたことはないがあの世界一臭い食べ物、シュールストレミングよりも臭うだろう、色は黄でも赤でもなく、青。そう、まるでアルカリ性に成りすぎたBTB溶液ほど青々しい。見た目は毒々しく、なんだか見たこともないような、虫の幼虫やらが浮いているし。要するに。
これを一口でも食したら、一滴でも飲んだら死ぬ。
それは確かな結論である。
しかしして、俺のその絶望を理解した上でなのか、そうなのか知らないが、この少女はまるで悪魔でも憑りつかれたかのように、俺に近づき、スプーンで人さじをそれをすくい上げ、そして。
「はい、あーーん」
と唇に押し付けてきた。悪臭が鼻孔に近づいてきたので意識が遠くなりかけたが、なんとか顔を少女から避けるように、遠ざけた。
「なんで食べないのーーーー!!食べないと元気でないよぅ」
食ったら、むしろ胃液が逆流して悪化するだろうが!!とはもちろん唇を必死に閉じているので言えず、なんとか顔を逸らしていると、視界が真っ白になった。さながらスープから発される異臭の中に、致死成分でも含まれていたのだろうか。視界もろとも、あの少女も、部屋もなくなり、ただ自分の姿だけが認識できていた。
なるほど、俺はとうとう異世界でも死んでしまったのか。
あたかも手術室で麻酔にかけられて気を失うような、それとも血液が頭に昇らなくなって脳が動かなくなったともいうべきか。どちらにせよ、あり得ないことが俺の身には起こっていたようだ。
有り得ない、なんて表現してはみたが、言い換えるのならば矛盾。俺が意識を失っているということを意識しているということの辻褄がどうにもあっていないのである。そもそも一度死んでいるのだからーー死に顔は直接見ていないが、自覚しているのはとりわけ奇妙に思うことはないのだがな。
しかし、死んでいなかった。
真っ白な視界を押し広げるように、目を一杯に開き、辺りを見回す。著しく削られたような感触の鼻は、自ら感覚器官としての役割を取り戻し、周囲がどんな環境であるのか、その一因となるものを探した。
だが、一因では済まされないほど因子が多すぎる。あるところにはふわっとした花の香りと、ツンとした香水の匂い、またあるところには魚や肉を焼いて出た油や汁のような食欲をそそる香り。それに加え、様々な木のチップを使って燻された燻製肉やチーズなどの乳製品からも薫りが漂ってくる。多様複雑に流れる匂いや香りに埋もれたこの場所は、俺が再び地に足を下ろしたのは、とあるバザールの中心部であったらしい。
街並みはイタリアのフィレンツェを想像してくれればいいが、形状を言葉で言い表すと、まず所々にホイップクリームのような天井屋根を持った教会らしき建築があり、その中にあたかもイギリスの時計塔の時計が無いバージョンのような建物が伸びている感じだ。家屋は石造り、石積みのようで、屋根のない美術館とはよくいったものだ。
しかも、その中バザールというか市場が催されていて多彩な商品が売られているという現状であるが。
しかし、背を屈め、右腕を額の上らへんに留めてこちらをのぞき込んできた少女、いや女性の存在に気付いた瞬間。自分が死んでいないということを確信した。同時に、俺がいた場所、とどのつまりとある屋敷で拘束するために使われていた縄も、容疑者の少女もこの場にいない理由を察した。
「おーーーーい。どこ見てんのかな?まるで初めてこの場所に来たって感じだけどさ。異文化のカルチャーショックでもエキゾチックでも受けているのか知らないけど、今はそれどころじゃないからさ」
黒髪ロングに、青色の瞳、目鼻立ちがそこまではっきりとしているわけでもなく、それなりに整った顔立ち。俺から見て髪の毛の右斜め上側に目立たないほどの淡い黄緑色の小さな花びらのピンをつけている。だからなのか、着ているローブの色も淡い黄緑色で、いかにも魔術者っぽい容姿に仕立て上げる。
ユーファと呼ばれる少女(どうやら俺の義妹であるらしい)は俺の視線を伺うように聞いてきた。
「で、どこ見てんのかなってな疑問は置いといてーー。そのぼけっとした顔はどうも調子のよさそうな状態でもなさそうだったらしいね?何かあった?」
俺は事の経緯、ここに至るまでの顛末を全て語ると。
「ああ……なるほどねえ。あの子はそういう子だから、謎の少女ばかりに謎の行動するから嫌なんだよね……まあ、これでわかったでしょ?屋敷にいても油断は禁物ってことをさ」
「というかなんで廊下で居眠りなんかしてたの?いくら屋敷の中でもそれは安心しすぎというか……他人に何も害されない場所ではあるけど、一応どこにいても油断は禁物だよ?」
「なんて面倒な転生先なんだ……」
俺はぼそっとわざとらしく独り言を吐いた。
「ん?なんかいった、カトレア?」
「え、いやいや、なにも言ってないぞ。もちろん、悪意あることなんて何一つ言ってないし、思ってもいない。それにこの場に呼び出されて感謝してるんだぜ?ユーファ」
俺が知っている屋敷の住人、家族みたいな一員で、義妹のユーファが目の前にいるということは死んで転生したわけではないということだ。ま、過去に遡ってるなんて話だったらもうお手上げだが。時間軸はどうやら椅子に縛り付けられていた時計の針と、ここから見える時計台の指針はそこまで大差ない。つまり、これは。
「なら……うん。まあいいけど。隠し事はなしだよ?私とカトレアは家族のようなもので一心同体なんだからさ」
「そうね、一応話しておくけど、この市場に呼び出したのは理由があってね……」
「つまり、俺は荷物持ちか?」
「せーーいかーーい」と両眼を閉じる程の満面な笑みで陽気で語るユーファ。
転生前の職業は自称学生、引きこもり将来の目標プロゲーマーでもいいかなんて気楽に人生を謳歌したいなんて現実逃避していた。お年玉や貰える小遣いは全てアニメやラノベ、声優に浪費し、貢ぎ、まさに消費者の先駆者たるものなんて言えば格好は良いが、結局はただのヒキニートだった。
それが俺、カトレアという名前になる前の俺だった。
無論、引きこもっているし、ネット間でもあまり交流が無かった俺にとって二次元ではない女子との付き合いだって皆無。まぁ、男子高校生でもあったし少しは恋愛をして、よくある一般的なデートというものをしてみたいとは思ったが。
まさかこうして死んでから叶うとは。
しかも買い物の為に、ワープを使うなんて破天荒な展開が待ち構えているとは、誰にも予想がつくはずないだろうが……。
登場人物:主人公、謎の少女(推定12歳)、ユーファ
本文:
今、俺は手足を動かせない。
固く雁字搦めに、縄で羽交い締めにされ、椅子に縛りつけられてしまっている。椅子の後ろ側に回されている両腕になんとか力を籠めようとしてもビクとも動かない。いや、きっとこれは別の理由があって動かせないのだろう。物理的なものじゃない、そう……まるで魔術的な何かだ(論理もクソもないけど)。
ならばこそ、椅子自体を動かしてこの場を離れれば万事解決なのではないかと考えたのが愚かだった。要するに体、全身が動こうとしないのだ。つまり、魔術か何か、まだ転生して間もない俺にとって訳が分からない因果によって縛りつけられていることが確定したのである。
今、手を動かせずに椅子に縛り付けられているのは前回、転生して起きた場所ーー寝室である。
どうやら俺の転生先というか、一番最初に生まれた地、いわゆるゲームのローディングポイントは西洋ではよくある地方の名前に似てて、少しだけ名が知られているお屋敷の寝室であったらしい。屋敷の住人は……今まさに、登場である。
「あれれえ!!起きてるぅ!!なんでよ、どうして?私の魔術が効かないってことーー??」
「魔術がどうたらこうたらは知らんが、早くこっちに来てこの縄やその魔術とやらを解いてくれないか?」
ぽけーーっと自然体に身を任せたような幼くかわいげのある、いやありすぎる少女は俺がこの世界で起きて最も初めて出会った人物である。愛嬌のあるハムスターみたいな愛玩動物らしさ満点の少女で、銀髪で耳元まで伸ばした髪の毛がまるでエルフのようだ……実際そうかもしれないが。
といっても俺は生半可な人間の力ではどうすることも出来ないようなので、身の解放を求めたが、少女は聞く耳を持たない。
「なんでさーー!!私はちゃんとかけたはずだけどな……ねえ、なんでぇーー?」
「何でと言われても、全くもって俺には分からないんだが。つーか、それよりも、そんなことよりも先に、どうして俺がこんなことになってるんだ?なんだ、人体実験でもしたいのか?俺の体を使って」
「じんた……い?なーーにーーそれって面白いの?」
はいでた、異世界に飛ばされて面倒な要件トップ3にも入りそうなぐらいの問題、それすなわち、言葉が通じない。ま、そもそも魔術めいたものが発展しているのならば文化の発達過程も全く異なったものになるのだろうし、仕方ない。
だが、何といえばいいのか。さっき確認したところ、日常的言語は普通に伝わるようだし、だったら難しい言葉を使わなければいいということだろうか。
「『人体実験』ってのは、俺や君の体をそのまま使って操ったりすることだよ、分かるか?」
「ああ!!なるほどうーー」と少女は納得したように口にした。まさか、本当に操れるとは思いもしなかった。というかそれって結構危険性がある行動なのではないか。
てなわけで俺は再度自分の身の解放を懇願する……が。
「だめだめーー、じゃあ、これは私が手掛けた『じんたーじっけぃ』なんだから。お兄ちゃんは動いちゃだーめ」
無邪気な笑顔で動くな、こいつは人体実験だ、なんて言われたらそりゃ、顔とやってることのギャップが凄すぎて滑稽かもしれないけど、俺にとってはそれ以上に怖いことはない。特に少女は本当にまずい、加減というものをまだ知らない年頃は痛い目を見る未来しか感じられん。
だから俺はせめてどんな『実験』をされるのか、試されるのかを訊くことにした。何をされるのか、知っていた方が後々楽だろうし。
「んーー、これを飲んでもらおうかなぁってさぁーー」
「はい」と掌に乗せながらこちらに見せてきたのは、ただのスープを入れる容器だった。しかし、やはりというか予想通り中身のスープはどえらいことになっていた。
スープに、ゴミが浮いている、といったところでも相当ゲテモノ扱いだろうが、そのさらに上をいっていた。まず匂いは史上最高な臭さで、食べたことはないがあの世界一臭い食べ物、シュールストレミングよりも臭うだろう、色は黄でも赤でもなく、青。そう、まるでアルカリ性に成りすぎたBTB溶液ほど青々しい。見た目は毒々しく、なんだか見たこともないような、虫の幼虫やらが浮いているし。要するに。
これを一口でも食したら、一滴でも飲んだら死ぬ。
それは確かな結論である。
しかしして、俺のその絶望を理解した上でなのか、そうなのか知らないが、この少女はまるで悪魔でも憑りつかれたかのように、俺に近づき、スプーンで人さじをそれをすくい上げ、そして。
「はい、あーーん」
と唇に押し付けてきた。悪臭が鼻孔に近づいてきたので意識が遠くなりかけたが、なんとか顔を少女から避けるように、遠ざけた。
「なんで食べないのーーーー!!食べないと元気でないよぅ」
食ったら、むしろ胃液が逆流して悪化するだろうが!!とはもちろん唇を必死に閉じているので言えず、なんとか顔を逸らしていると、視界が真っ白になった。さながらスープから発される異臭の中に、致死成分でも含まれていたのだろうか。視界もろとも、あの少女も、部屋もなくなり、ただ自分の姿だけが認識できていた。
なるほど、俺はとうとう異世界でも死んでしまったのか。
あたかも手術室で麻酔にかけられて気を失うような、それとも血液が頭に昇らなくなって脳が動かなくなったともいうべきか。どちらにせよ、あり得ないことが俺の身には起こっていたようだ。
有り得ない、なんて表現してはみたが、言い換えるのならば矛盾。俺が意識を失っているということを意識しているということの辻褄がどうにもあっていないのである。そもそも一度死んでいるのだからーー死に顔は直接見ていないが、自覚しているのはとりわけ奇妙に思うことはないのだがな。
しかし、死んでいなかった。
真っ白な視界を押し広げるように、目を一杯に開き、辺りを見回す。著しく削られたような感触の鼻は、自ら感覚器官としての役割を取り戻し、周囲がどんな環境であるのか、その一因となるものを探した。
だが、一因では済まされないほど因子が多すぎる。あるところにはふわっとした花の香りと、ツンとした香水の匂い、またあるところには魚や肉を焼いて出た油や汁のような食欲をそそる香り。それに加え、様々な木のチップを使って燻された燻製肉やチーズなどの乳製品からも薫りが漂ってくる。多様複雑に流れる匂いや香りに埋もれたこの場所は、俺が再び地に足を下ろしたのは、とあるバザールの中心部であったらしい。
街並みはイタリアのフィレンツェを想像してくれればいいが、形状を言葉で言い表すと、まず所々にホイップクリームのような天井屋根を持った教会らしき建築があり、その中にあたかもイギリスの時計塔の時計が無いバージョンのような建物が伸びている感じだ。家屋は石造り、石積みのようで、屋根のない美術館とはよくいったものだ。
しかも、その中バザールというか市場が催されていて多彩な商品が売られているという現状であるが。
しかし、背を屈め、右腕を額の上らへんに留めてこちらをのぞき込んできた少女、いや女性の存在に気付いた瞬間。自分が死んでいないということを確信した。同時に、俺がいた場所、とどのつまりとある屋敷で拘束するために使われていた縄も、容疑者の少女もこの場にいない理由を察した。
「おーーーーい。どこ見てんのかな?まるで初めてこの場所に来たって感じだけどさ。異文化のカルチャーショックでもエキゾチックでも受けているのか知らないけど、今はそれどころじゃないからさ」
黒髪ロングに、青色の瞳、目鼻立ちがそこまではっきりとしているわけでもなく、それなりに整った顔立ち。俺から見て髪の毛の右斜め上側に目立たないほどの淡い黄緑色の小さな花びらのピンをつけている。だからなのか、着ているローブの色も淡い黄緑色で、いかにも魔術者っぽい容姿に仕立て上げる。
ユーファと呼ばれる少女(どうやら俺の義妹であるらしい)は俺の視線を伺うように聞いてきた。
「で、どこ見てんのかなってな疑問は置いといてーー。そのぼけっとした顔はどうも調子のよさそうな状態でもなさそうだったらしいね?何かあった?」
俺は事の経緯、ここに至るまでの顛末を全て語ると。
「ああ……なるほどねえ。あの子はそういう子だから、謎の少女ばかりに謎の行動するから嫌なんだよね……まあ、これでわかったでしょ?屋敷にいても油断は禁物ってことをさ」
「というかなんで廊下で居眠りなんかしてたの?いくら屋敷の中でもそれは安心しすぎというか……他人に何も害されない場所ではあるけど、一応どこにいても油断は禁物だよ?」
「なんて面倒な転生先なんだ……」
俺はぼそっとわざとらしく独り言を吐いた。
「ん?なんかいった、カトレア?」
「え、いやいや、なにも言ってないぞ。もちろん、悪意あることなんて何一つ言ってないし、思ってもいない。それにこの場に呼び出されて感謝してるんだぜ?ユーファ」
俺が知っている屋敷の住人、家族みたいな一員で、義妹のユーファが目の前にいるということは死んで転生したわけではないということだ。ま、過去に遡ってるなんて話だったらもうお手上げだが。時間軸はどうやら椅子に縛り付けられていた時計の針と、ここから見える時計台の指針はそこまで大差ない。つまり、これは。
「なら……うん。まあいいけど。隠し事はなしだよ?私とカトレアは家族のようなもので一心同体なんだからさ」
「そうね、一応話しておくけど、この市場に呼び出したのは理由があってね……」
「つまり、俺は荷物持ちか?」
「せーーいかーーい」と両眼を閉じる程の満面な笑みで陽気で語るユーファ。
転生前の職業は自称学生、引きこもり将来の目標プロゲーマーでもいいかなんて気楽に人生を謳歌したいなんて現実逃避していた。お年玉や貰える小遣いは全てアニメやラノベ、声優に浪費し、貢ぎ、まさに消費者の先駆者たるものなんて言えば格好は良いが、結局はただのヒキニートだった。
それが俺、カトレアという名前になる前の俺だった。
無論、引きこもっているし、ネット間でもあまり交流が無かった俺にとって二次元ではない女子との付き合いだって皆無。まぁ、男子高校生でもあったし少しは恋愛をして、よくある一般的なデートというものをしてみたいとは思ったが。
まさかこうして死んでから叶うとは。
しかも買い物の為に、ワープを使うなんて破天荒な展開が待ち構えているとは、誰にも予想がつくはずないだろうが……。
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