俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
065.俺の妹がこんな〇〇〇〇なはずがない 5days
夏休み5日前。
蒸し暑さの真骨頂が現れ始める七月中旬。俺は重石が乗せられているのではないかと勘違いしてしまうほどの肩を起こすと猫背になった背中をピンと伸ばし、鳴るはずのないアラームを確認してからようやく頭を働かせた。
ーー10:00ーー
俺は驚き慌てふためくことなく、よろよろと体をベッドから起こす。眠気眼な瞼を擦りながら俺は自室から出た。
まるでナマケモノのように起床した理由はただ一つ、すなわち今日は土曜日ということだ。はい、これで寝坊する心配もないし万事解決!!となるわけもなく、実際に肩に重石が乗っているわけでもなく、自分が作り出したこの状況の責任の重さに心押しつぶされようとしていたのだ。
「あんた、こんな時間まで寝てたの?」
日勤中の母親も会社員の父親もいるはずはなくリビングのソファーに座っていたのは俺の妹、曲谷時雨だった。そういえばラフな私服姿を見るのは久しぶりだ。平日は俺よりも先に起床し制服に着替えてから俺を起こしに来るし、休日も俺は一人自室にこもって小説を書き進めることが多い。
「仕方ないだろ、昨日も執筆で忙しかったんだから」
一応言っておくが俺が小説を書いてネットに投稿していることを父親や母親は知らない……がこの威勢のよい、いや良すぎる妹とやらは知っている。だから「ああ、そうだったんだ」とか「お疲れ様」なんてまるで仕事帰りのサラリーマンに取るような振る舞いをするのが一般的だろうが……
「っつ、ふっざけんなぁぁ!!」
時雨は突如パジャマ姿の俺にソファーのクッションを投げつけてきたが俺はすかさず右手で受け止める。そう、血の繋がっていない妹は俺の小説アレルギーなのだ。
「またあんな卑猥な想像をさせるような誘引剤でも作っているの?ほんっとあり得ない!!」
息切れを起こし頬が赤面している時雨。前髪を留めていた猫型のピンも外れてしまい、ロングヘアの整えられた黒髪がもはや見るも無残なほどに。
次から次へと投げつけてくるクッションの猛攻。いやそんな量のクッションどこにあったんだか。
だからといって俺が責められ続けるのも納得がいかないので反抗する、そういつもこの繰り返しだ。言っておくがこのやり取りを家族の目の前ですることはまずない。今までに一度もないのだ。
それは俺が小説家であることを時雨に言わないように、口止めしていることもあるが、もっとも俺が「小説を書いている」と発言しない限り時雨の中の火が燃え上がることはないのだ。
「それでも俺の作品を好んで読んでいる読者がいるんだ」
小さな声で「神無月とかな」とつぶやく、が当然そんな言葉は時雨の耳に届くはずがない。まあ聞かれても聞かれなくても平気だろうが、念には念をだ。
「そんな読者のためにエンターテインメントを提供してやっているんだよ。こう言えば分かるだろう、人に楽しみを与えているってことだ」
「それでも…………」
「それでもなんだ?お前はこの世に生まれて一度も、娯楽に浸っていないっていうのか?それは嘘だ。お前は一度だけでなく何度も『映画』を観ている。それは俺の小説と変わらないクリエイターが作ったものだ」
なんともまあ、強引に俺は事を結びつけるのが得意なことだ。自分ながらに笑えてくる、それに気付いたのか時雨は俺の反抗を押し込むように問い詰めてきた。
「あんたの作った作品と私が観る作品を混ぜんなっ!!あんたのソレは公序良俗に反するほかないって言ってんだよ!!」
Oh……それを言われたら返す言葉もない……
よくよく考えてみれば「いもいもワンダーランド」なんてタイトルも相当な危ない要素をひっくるめているようだし、それにあの事件だ。
「私がこの家に来た時もそうだった!!突然、妹ってどんな感じなの?嬉しいの?とか質問責めにあったし」
「ああーーそういや風呂に出くわした時もあったな」
時雨がこの家に来た時、つまりは俺の母親が再婚したときに事件は起こった。夜中に執筆していた時、俺は目まぐるしいほどの眠気が寄せてきたので洗面所に行って顔を洗おうとしたのだ。
その時は物音立てれば誰だって気付くはずの静けさだったので、当然ながら俺も気付くはずだった。時雨がシャワーを浴びていることを。
だがしかし!!俺は眠気で頭が一杯だったのだ。五感も当然ながら鈍くなり、洗面所で顔を洗い終わるまでは気付けなかったのだ。
そして、シャワールームから出てきた時雨とタオルで顔を拭いていた俺はご対面してしまった、ということである。
「なななななな、まだ覚えているのか……消す、あんたのその記憶絶対消してやる!!」
出会った初日に全くの他人に裸を見られた時雨はそれ以降、俺を見る目は愚弄という一言に尽きる(まあ、両親には俺も時雨からもそのことを話してはないが)。
俺は記憶を消そうと武力行使に出る時雨を抑えようと肩を掴んでその場に留めた。
「分かった!!分かったからもう言わないから、禁句にするから。その証拠に俺は両親にそのことを話していないだろ?な?言わないからその右手を下げてくれないか?今にも俺の顔面に入れようとするのを止めてくれ、いやください」
なんとか普段は使わない敬語を使うことで時雨の暴走を止めることは出来たが、これでは次に止める手段が消えてしまった。次に逆鱗に触れたらなんて言い訳をしたらよいのやら。
「ふんっ。そんなのあんたの都合上そうしているだけでしょ!!」
「違うって!!もし俺が小説の事を家族団らんの中で取り上げたら一番最初に訊かれるのはお前だろ?なんで知っているのかってよ。だからその予防策のために俺は一度も口にしてこなかったんだ」
腕を組みながら俺をじろりと眺めると小さな溜息を溢す時雨はひとまず怒りが収まったようだ。
「そこまで言うのなら……あきらめてあげる。もう喋らない事ね、もし一言でもそれに関わるようなことを話しでもしたら……どうなるかわかるよね?」
「OK。もう言わない言いません」
俺は二度押すように妹の時雨に誓いを立てる。まさか、あの編集者様だけでなく妹までにも頭を下げなくてはならないとは……ホント、小説家って大変だな。
「ん…………でも」
それでも俺はこの小説家を心の底から気に入っている、誰かから好かれたり、人気になれるようなモデルでもスポーツ選手でもないこの職業を。地味だ、何をしているのか真相が分からないと言いふらされるような、仕事でも俺は進んで受け入れる。
「作家なら作家なりに頑張りなさいよ。私からすれば何が面白いのかさっぱりだけど、むしろキモイくらいで蔑視したいけど。でも私以外の誰かの愉しみになるんだったら、なおさらね」
俺の血の繋がりのない妹は生徒会長をやっていたこともあり、やはり優秀だ。他人がしていることの重要性というか、なぜしているのか、自分には共感できないのにそれを信じてやるべきだと信用する心の強靭さ。
「あと、何か相談があるのなら言いなよ。私が出来る限りのことぐらいはアドバイスできるから」
自分には分からない心の不安や淀めきをいち早く察知する姿も、俺には無いものをこの妹は持っている。それは俺が神無月が嘘をついている時に口角が吊り上がることときっと同じなのだろう。顔に表情として出ていなくても声色やトーンなどですぐにばれてしまう。俺と似ているところを持ちながらそうでないものを持つのが、俺の妹、曲谷時雨。
「お気遣いありがとよ。なんかあったら…………そうだな相談に乗ってくれると助かる」
「もうあると思うけど」
「いや、あったとしてもそれは今の俺が対処するべきことなんだろう。それでも手に余るような、荷が重過ぎる問題だったら、その時は相談に乗ってくれると助かる」
俺は酷く落ち着いて言う。水無月のことで頭が詰まっている中で強引にも、早くなる心臓の鼓動をこの自らの手で押さえつけるように。心の平穏を創り出す。
「ふんっ。また格好つけること言って、それで考え事が溢れても知らないから」
なるほど、俺の心を見据えた原因は未だ思いつかないが、逆にこの妹の心の不安定さは見出したぞ。
「お前は分かりやすいほどのツン・デレだな」
顔を紅潮させた時雨は座っていたソファーから立ち上がると、避ける間もなく俺の顔面にまるでタイで習得したムエタイ式の膝蹴りが入った。俺はそこまでの記憶しかなく起きたのは夕方で。両親はパジャマ姿のままリビングで伸びている俺の姿を見てどこまで寝相が悪いのか、と笑われたのだった。
蒸し暑さの真骨頂が現れ始める七月中旬。俺は重石が乗せられているのではないかと勘違いしてしまうほどの肩を起こすと猫背になった背中をピンと伸ばし、鳴るはずのないアラームを確認してからようやく頭を働かせた。
ーー10:00ーー
俺は驚き慌てふためくことなく、よろよろと体をベッドから起こす。眠気眼な瞼を擦りながら俺は自室から出た。
まるでナマケモノのように起床した理由はただ一つ、すなわち今日は土曜日ということだ。はい、これで寝坊する心配もないし万事解決!!となるわけもなく、実際に肩に重石が乗っているわけでもなく、自分が作り出したこの状況の責任の重さに心押しつぶされようとしていたのだ。
「あんた、こんな時間まで寝てたの?」
日勤中の母親も会社員の父親もいるはずはなくリビングのソファーに座っていたのは俺の妹、曲谷時雨だった。そういえばラフな私服姿を見るのは久しぶりだ。平日は俺よりも先に起床し制服に着替えてから俺を起こしに来るし、休日も俺は一人自室にこもって小説を書き進めることが多い。
「仕方ないだろ、昨日も執筆で忙しかったんだから」
一応言っておくが俺が小説を書いてネットに投稿していることを父親や母親は知らない……がこの威勢のよい、いや良すぎる妹とやらは知っている。だから「ああ、そうだったんだ」とか「お疲れ様」なんてまるで仕事帰りのサラリーマンに取るような振る舞いをするのが一般的だろうが……
「っつ、ふっざけんなぁぁ!!」
時雨は突如パジャマ姿の俺にソファーのクッションを投げつけてきたが俺はすかさず右手で受け止める。そう、血の繋がっていない妹は俺の小説アレルギーなのだ。
「またあんな卑猥な想像をさせるような誘引剤でも作っているの?ほんっとあり得ない!!」
息切れを起こし頬が赤面している時雨。前髪を留めていた猫型のピンも外れてしまい、ロングヘアの整えられた黒髪がもはや見るも無残なほどに。
次から次へと投げつけてくるクッションの猛攻。いやそんな量のクッションどこにあったんだか。
だからといって俺が責められ続けるのも納得がいかないので反抗する、そういつもこの繰り返しだ。言っておくがこのやり取りを家族の目の前ですることはまずない。今までに一度もないのだ。
それは俺が小説家であることを時雨に言わないように、口止めしていることもあるが、もっとも俺が「小説を書いている」と発言しない限り時雨の中の火が燃え上がることはないのだ。
「それでも俺の作品を好んで読んでいる読者がいるんだ」
小さな声で「神無月とかな」とつぶやく、が当然そんな言葉は時雨の耳に届くはずがない。まあ聞かれても聞かれなくても平気だろうが、念には念をだ。
「そんな読者のためにエンターテインメントを提供してやっているんだよ。こう言えば分かるだろう、人に楽しみを与えているってことだ」
「それでも…………」
「それでもなんだ?お前はこの世に生まれて一度も、娯楽に浸っていないっていうのか?それは嘘だ。お前は一度だけでなく何度も『映画』を観ている。それは俺の小説と変わらないクリエイターが作ったものだ」
なんともまあ、強引に俺は事を結びつけるのが得意なことだ。自分ながらに笑えてくる、それに気付いたのか時雨は俺の反抗を押し込むように問い詰めてきた。
「あんたの作った作品と私が観る作品を混ぜんなっ!!あんたのソレは公序良俗に反するほかないって言ってんだよ!!」
Oh……それを言われたら返す言葉もない……
よくよく考えてみれば「いもいもワンダーランド」なんてタイトルも相当な危ない要素をひっくるめているようだし、それにあの事件だ。
「私がこの家に来た時もそうだった!!突然、妹ってどんな感じなの?嬉しいの?とか質問責めにあったし」
「ああーーそういや風呂に出くわした時もあったな」
時雨がこの家に来た時、つまりは俺の母親が再婚したときに事件は起こった。夜中に執筆していた時、俺は目まぐるしいほどの眠気が寄せてきたので洗面所に行って顔を洗おうとしたのだ。
その時は物音立てれば誰だって気付くはずの静けさだったので、当然ながら俺も気付くはずだった。時雨がシャワーを浴びていることを。
だがしかし!!俺は眠気で頭が一杯だったのだ。五感も当然ながら鈍くなり、洗面所で顔を洗い終わるまでは気付けなかったのだ。
そして、シャワールームから出てきた時雨とタオルで顔を拭いていた俺はご対面してしまった、ということである。
「なななななな、まだ覚えているのか……消す、あんたのその記憶絶対消してやる!!」
出会った初日に全くの他人に裸を見られた時雨はそれ以降、俺を見る目は愚弄という一言に尽きる(まあ、両親には俺も時雨からもそのことを話してはないが)。
俺は記憶を消そうと武力行使に出る時雨を抑えようと肩を掴んでその場に留めた。
「分かった!!分かったからもう言わないから、禁句にするから。その証拠に俺は両親にそのことを話していないだろ?な?言わないからその右手を下げてくれないか?今にも俺の顔面に入れようとするのを止めてくれ、いやください」
なんとか普段は使わない敬語を使うことで時雨の暴走を止めることは出来たが、これでは次に止める手段が消えてしまった。次に逆鱗に触れたらなんて言い訳をしたらよいのやら。
「ふんっ。そんなのあんたの都合上そうしているだけでしょ!!」
「違うって!!もし俺が小説の事を家族団らんの中で取り上げたら一番最初に訊かれるのはお前だろ?なんで知っているのかってよ。だからその予防策のために俺は一度も口にしてこなかったんだ」
腕を組みながら俺をじろりと眺めると小さな溜息を溢す時雨はひとまず怒りが収まったようだ。
「そこまで言うのなら……あきらめてあげる。もう喋らない事ね、もし一言でもそれに関わるようなことを話しでもしたら……どうなるかわかるよね?」
「OK。もう言わない言いません」
俺は二度押すように妹の時雨に誓いを立てる。まさか、あの編集者様だけでなく妹までにも頭を下げなくてはならないとは……ホント、小説家って大変だな。
「ん…………でも」
それでも俺はこの小説家を心の底から気に入っている、誰かから好かれたり、人気になれるようなモデルでもスポーツ選手でもないこの職業を。地味だ、何をしているのか真相が分からないと言いふらされるような、仕事でも俺は進んで受け入れる。
「作家なら作家なりに頑張りなさいよ。私からすれば何が面白いのかさっぱりだけど、むしろキモイくらいで蔑視したいけど。でも私以外の誰かの愉しみになるんだったら、なおさらね」
俺の血の繋がりのない妹は生徒会長をやっていたこともあり、やはり優秀だ。他人がしていることの重要性というか、なぜしているのか、自分には共感できないのにそれを信じてやるべきだと信用する心の強靭さ。
「あと、何か相談があるのなら言いなよ。私が出来る限りのことぐらいはアドバイスできるから」
自分には分からない心の不安や淀めきをいち早く察知する姿も、俺には無いものをこの妹は持っている。それは俺が神無月が嘘をついている時に口角が吊り上がることときっと同じなのだろう。顔に表情として出ていなくても声色やトーンなどですぐにばれてしまう。俺と似ているところを持ちながらそうでないものを持つのが、俺の妹、曲谷時雨。
「お気遣いありがとよ。なんかあったら…………そうだな相談に乗ってくれると助かる」
「もうあると思うけど」
「いや、あったとしてもそれは今の俺が対処するべきことなんだろう。それでも手に余るような、荷が重過ぎる問題だったら、その時は相談に乗ってくれると助かる」
俺は酷く落ち着いて言う。水無月のことで頭が詰まっている中で強引にも、早くなる心臓の鼓動をこの自らの手で押さえつけるように。心の平穏を創り出す。
「ふんっ。また格好つけること言って、それで考え事が溢れても知らないから」
なるほど、俺の心を見据えた原因は未だ思いつかないが、逆にこの妹の心の不安定さは見出したぞ。
「お前は分かりやすいほどのツン・デレだな」
顔を紅潮させた時雨は座っていたソファーから立ち上がると、避ける間もなく俺の顔面にまるでタイで習得したムエタイ式の膝蹴りが入った。俺はそこまでの記憶しかなく起きたのは夕方で。両親はパジャマ姿のままリビングで伸びている俺の姿を見てどこまで寝相が悪いのか、と笑われたのだった。
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