俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
030. これから俺の小説家人生が始まるのですか……?
高校生活五日目。
月曜日に行われた入学式からもう五日も経過した。入学式、体育座りをしながら決心した目立たない部活に入り、穏やかな場所で執筆をするという当初の心意気は、すでに失っている。
いや失っているというのは言葉の綾というやつで失ってはいない、ただ失っているように見えるだけなのだ。
初日(といっても高校生活二日目だが)から部活動の代表者として駆り出され、現部活の状況を伝えられても何が何だか珍紛漢紛。それもそうだろう、出社して間もなくすぐに上司なしで他社に駆り出されればハードルも高いことこの上ない。
しかも俺の小説の編集者もあろうお方があろうことか事実でもないはったりを校内中に噂をばら撒いたことで一時は有名人になりかけた(間もなくそれも片が付いたが、まだ噂話が解消されたわけではない)。
そんなこんなで波乱万丈な高校生活も始まり、一日中寝ることも出来る穏健主義の俺にとっては居心地が良いとは到底呼べないのである。
「その暗く淀んだ目、まるで蛾ね。夜行性なら昼間は動かない方が良いんじゃないかしら」
「なんか羽虫からレベルアップしているのか退化しているのかよくわからん…………とりあえずサイズはデカくなったぐらいか」
「図体だけ……ね。体だけ肥大化して代わりに脳が萎縮するなんてあなたらしいわ。正解だわ」
「喜んでいいのか、よくないのか。分からないのだが、とりあえず俺のことを侮辱していることだけはよーーく伝わったぞ」
「あら、珍しく理解が早いのね」と水無月。
どうやら昨日の小説に関する感想のことは禁句なようで、部室に入ってから一度も語ろうとしない。
それは俺の感想が悪かったからなのか?
または世間上話してはならない制約でもあるのか?
念のため言っておくが、俺の作品は未だに書籍化はしていない。その一歩手前というわけだ。つまりはこの女の編集度合や俺の努力次第で、書籍化がパーになる可能性もあるのだ。
だから小説家になった際に心に留めておかなくてはならないような教訓とかは全くといっていいほど俺は知らない。
「あ…………あのさ」
だが、気兼ねしてもなお俺は知りたいという欲求に駆られた。まるで旅人が次の旅路へ待望するかのように。興味に背中を押された憧憬心溢れる少年のように。
「……あんたの小説どうなったんだ?」
ためらいながら、彼女の顔色を伺うように俺は呟くような小声で問いかけた。
「ふん…………」
対して俺の向こう側の長机に座りながらパソコンを覗く女、水無月桜は俺の方へ向いてきた。相変わらず冷徹な眼差しである。俺は少しばかり安心した。
「無事に出版出来るようになったわよ」
水無月は俺の想像通りの回答を答えてくれた。かにも思ったのだが…………
「それと一応言っておくけど……」
何かに気後れするかのように口ごもる水無月。普段と何か違うと勘づき始めた時にはもうすでに時は遅し。
「明日から……あなたが私のアシスタントマネージャーよ」
光陰矢のごとし。俺は思考する時間もなく、
「……………………は?」
と腑抜けた声を発してしまった。
これがまさか小説家になる道への第一歩だとは俺にしても分からなかったが。
今、ようやく俺の、小説家になるであろう俺だけの高校生活が幕を開いたようだ。
月曜日に行われた入学式からもう五日も経過した。入学式、体育座りをしながら決心した目立たない部活に入り、穏やかな場所で執筆をするという当初の心意気は、すでに失っている。
いや失っているというのは言葉の綾というやつで失ってはいない、ただ失っているように見えるだけなのだ。
初日(といっても高校生活二日目だが)から部活動の代表者として駆り出され、現部活の状況を伝えられても何が何だか珍紛漢紛。それもそうだろう、出社して間もなくすぐに上司なしで他社に駆り出されればハードルも高いことこの上ない。
しかも俺の小説の編集者もあろうお方があろうことか事実でもないはったりを校内中に噂をばら撒いたことで一時は有名人になりかけた(間もなくそれも片が付いたが、まだ噂話が解消されたわけではない)。
そんなこんなで波乱万丈な高校生活も始まり、一日中寝ることも出来る穏健主義の俺にとっては居心地が良いとは到底呼べないのである。
「その暗く淀んだ目、まるで蛾ね。夜行性なら昼間は動かない方が良いんじゃないかしら」
「なんか羽虫からレベルアップしているのか退化しているのかよくわからん…………とりあえずサイズはデカくなったぐらいか」
「図体だけ……ね。体だけ肥大化して代わりに脳が萎縮するなんてあなたらしいわ。正解だわ」
「喜んでいいのか、よくないのか。分からないのだが、とりあえず俺のことを侮辱していることだけはよーーく伝わったぞ」
「あら、珍しく理解が早いのね」と水無月。
どうやら昨日の小説に関する感想のことは禁句なようで、部室に入ってから一度も語ろうとしない。
それは俺の感想が悪かったからなのか?
または世間上話してはならない制約でもあるのか?
念のため言っておくが、俺の作品は未だに書籍化はしていない。その一歩手前というわけだ。つまりはこの女の編集度合や俺の努力次第で、書籍化がパーになる可能性もあるのだ。
だから小説家になった際に心に留めておかなくてはならないような教訓とかは全くといっていいほど俺は知らない。
「あ…………あのさ」
だが、気兼ねしてもなお俺は知りたいという欲求に駆られた。まるで旅人が次の旅路へ待望するかのように。興味に背中を押された憧憬心溢れる少年のように。
「……あんたの小説どうなったんだ?」
ためらいながら、彼女の顔色を伺うように俺は呟くような小声で問いかけた。
「ふん…………」
対して俺の向こう側の長机に座りながらパソコンを覗く女、水無月桜は俺の方へ向いてきた。相変わらず冷徹な眼差しである。俺は少しばかり安心した。
「無事に出版出来るようになったわよ」
水無月は俺の想像通りの回答を答えてくれた。かにも思ったのだが…………
「それと一応言っておくけど……」
何かに気後れするかのように口ごもる水無月。普段と何か違うと勘づき始めた時にはもうすでに時は遅し。
「明日から……あなたが私のアシスタントマネージャーよ」
光陰矢のごとし。俺は思考する時間もなく、
「……………………は?」
と腑抜けた声を発してしまった。
これがまさか小説家になる道への第一歩だとは俺にしても分からなかったが。
今、ようやく俺の、小説家になるであろう俺だけの高校生活が幕を開いたようだ。
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