俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
029. 裏の顔
「ほれほれえ~~、言った通りだろう?」
曲谷孔という一人の作家が退出した後のスペース、空き時間。ファミリーレストランのボックス席に相対するように座る女子高生とその仮親?にしては若すぎるような女性の姿。
この時間の当初の予定では今すぐにでも勉強会ならぬ小説懇談会を行うはずなのだが。
「いくらあなたでもそこまでされると私としても反抗する立場に成りかねないのだけれど」
男一人が消えた会談には見かけ上、何一つ変わらない冷徹な女の姿がそこにはあった。
「え?え?それは違うでしょうようーー、それでマガト君とやらとはうまくいってるの?いってるの?」と明嵜。
「いつも思っていたことなのだけれど、二回連続で疑問を投げかけてくるのは治りませんか?」
スーツ姿のエセ淑女は目の前に座る女子高生を煽ろうとするが効果はあまりないよう。女子高生ーー水無月桜は珍しくもからかい口調の明嵜に丁寧語を使っている、つまりは彼女なりの感謝の印である証なのだ。
「あ、はいはい。ごめんねえ……これって癖なんだよね、あははは…………」
しかしそんな珍しい光景であるはずなのに全く気付いていない編集者はショートヘアの頭を掻いている。
「で、でも否定しないってことはまさか…………」
はっと何かを閃いたように口をポカンと開けて必死に右手で塞ごうとする明嵜。水無月はもう何度目だろうかと何かに諦めた表情をして、自分が書いたこの忌々しく地下に埋没させたい原稿用紙を取りまとめる。
「では、なんだか今日は作業をしない雰囲気なので失礼します」
すたすたと行動が早く席を立とうとした水無月を止めるように、
「分かった分かった!!ごめん私が悪かったよ、だからねっ、このとおーーり、ね?ね?」
数秒前の口調と変わらない淑女?はなんだかどこかで見たような両手を合わせて頭を下げる姿勢をとる。
心象を損ないながらも再び信用を取り戻した冷徹?な目をした少女は再び原稿用紙をテーブルに戻し、段落によって振り分ける。
するとふと脳裏に過ったのだろうか。まるで気まぐれに、別に深い意味はないような口ぶりで明嵜は呟いた。
「でもさーー、今の子がアシスタントマネージャーなんだよ~~?」
編集者であり小説家でもある水無月桜は見かけ上、平常心を装おうと冷ややかな、クールともいうべきかそんな態度を取っている。だがそれは見かけ上でしかなくて…………
「やめてください…………これ以上余計なことをおっしゃるなら私……帰ります」
どうしてなのか自分でも分からないと何かにすがるように。必死さと純粋さに満ちていた彼女は。
どこかほんのりと頬を赤面させていた。
静寂極めた空間、焙煎機から漂う芳醇な香りで瞬時にここは珈琲を売る場所、すなわち喫茶店なのだと分かるはずである。バロック音楽が流れ始めることで、部屋全体に重圧さが増し空気の流れも変調するよう。
しかしそれを味わうのは創り出した自身である喫茶店のマスターと、何一つ理解していそうにもない一人の女教師だけであって、勿体無いほどである。
マスターは新しく珈琲豆を専用の樽から小皿に取り出し、焙煎機に注いでいる。
どうやらダッチコーヒーを作るようで実験器具のようなガラスの容器が3つ(上から順に金魚鉢、ビーカー、三角フラスコのような容器)縦に並んでいるサーバーが焙煎機の横に置いてある。
対してもう一人の人物はというとマスターがいる入り口に近いカウンターから遠ざかるテーブル席に独り、ポツンと座っている。
テーブルの上には誰かがいたであろう形跡、要は空になったグラスが取り残されている。
彼女の方は自身が注文したであろうキャラメルマキアート(以下省略)を完食したようでクリームやソーダがガラスの内面に付着した容器が傍に置いてある。
静かな音響が触媒となって過ごしやすい雰囲気を、知らず知らずのうちに破壊するかのように、二人用テーブル席に座る彼女は懐に潜めてあるスマートフォンでとある番号に電話をかけるようだ。
「あーー雅美さんですか?」
声音は普段通りの調子、つまりは高校で生徒と話すような崩したような話し方。まるで裏に何かを孕んでいるような一見あくどい声で問いかける。
『そうだ』
対して返ってきたのは全てを見透かしたような鋭い声。まさに「矛盾」という文字の矛を尖らせることに重きを置いたような返事。
しかし、自分の法則倫理にしか従わないというような声の調子で、
「いまーー、やっとのことで曲谷君が気付いたようですよーーあなたの関係性に」
わざとらしく間延びする声は自分の上に立つ者を挑発するようであるが、やはり応答する女性には何も変化は得られない。まるで全てを見据えているようだ。
『ああ、分かった。その調子で次も頼む』
淡々と物事を話す向こうからは同時平衡にパソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくる。
「あと、余談なんですけど~~。まだ自分の仕事のコトは気づいてないようで~~」
パチンッというエンターキーをたたく音が電話口が聞こえた後、数秒の沈黙が募る。そしてその数秒が経った後、
『そうか』
と、興味があるようでもないような今までとは一味変わった、まるで新しい調味料を入れた料理のような声音だった。
それでも一言であるのには変わりはないようで『では切る』という独り言に似た言葉で会話はシャットアウトされた。
突如相手の都合という自分勝手な理由で切られた発信人はそれでも物事を済ませ、安堵したような面持ち。それもそうで、彼女から突然会話がぶちぎられることは何度もあるので、慣れているのだ。
「まあ…………そうなるよね」
回線が切れたスマートフォンの画面を眺め、ふと懐古するわけではないが、いつものことだと思い返す。
光が無ければ陰もないと言われるように、私自身もまた表裏一体という言葉がお似合いだろう。
独り取り残された彼女――掛依真珠は自身しか客がいない喫茶店から何も言うことなく退出したのだった。
曲谷孔という一人の作家が退出した後のスペース、空き時間。ファミリーレストランのボックス席に相対するように座る女子高生とその仮親?にしては若すぎるような女性の姿。
この時間の当初の予定では今すぐにでも勉強会ならぬ小説懇談会を行うはずなのだが。
「いくらあなたでもそこまでされると私としても反抗する立場に成りかねないのだけれど」
男一人が消えた会談には見かけ上、何一つ変わらない冷徹な女の姿がそこにはあった。
「え?え?それは違うでしょうようーー、それでマガト君とやらとはうまくいってるの?いってるの?」と明嵜。
「いつも思っていたことなのだけれど、二回連続で疑問を投げかけてくるのは治りませんか?」
スーツ姿のエセ淑女は目の前に座る女子高生を煽ろうとするが効果はあまりないよう。女子高生ーー水無月桜は珍しくもからかい口調の明嵜に丁寧語を使っている、つまりは彼女なりの感謝の印である証なのだ。
「あ、はいはい。ごめんねえ……これって癖なんだよね、あははは…………」
しかしそんな珍しい光景であるはずなのに全く気付いていない編集者はショートヘアの頭を掻いている。
「で、でも否定しないってことはまさか…………」
はっと何かを閃いたように口をポカンと開けて必死に右手で塞ごうとする明嵜。水無月はもう何度目だろうかと何かに諦めた表情をして、自分が書いたこの忌々しく地下に埋没させたい原稿用紙を取りまとめる。
「では、なんだか今日は作業をしない雰囲気なので失礼します」
すたすたと行動が早く席を立とうとした水無月を止めるように、
「分かった分かった!!ごめん私が悪かったよ、だからねっ、このとおーーり、ね?ね?」
数秒前の口調と変わらない淑女?はなんだかどこかで見たような両手を合わせて頭を下げる姿勢をとる。
心象を損ないながらも再び信用を取り戻した冷徹?な目をした少女は再び原稿用紙をテーブルに戻し、段落によって振り分ける。
するとふと脳裏に過ったのだろうか。まるで気まぐれに、別に深い意味はないような口ぶりで明嵜は呟いた。
「でもさーー、今の子がアシスタントマネージャーなんだよ~~?」
編集者であり小説家でもある水無月桜は見かけ上、平常心を装おうと冷ややかな、クールともいうべきかそんな態度を取っている。だがそれは見かけ上でしかなくて…………
「やめてください…………これ以上余計なことをおっしゃるなら私……帰ります」
どうしてなのか自分でも分からないと何かにすがるように。必死さと純粋さに満ちていた彼女は。
どこかほんのりと頬を赤面させていた。
静寂極めた空間、焙煎機から漂う芳醇な香りで瞬時にここは珈琲を売る場所、すなわち喫茶店なのだと分かるはずである。バロック音楽が流れ始めることで、部屋全体に重圧さが増し空気の流れも変調するよう。
しかしそれを味わうのは創り出した自身である喫茶店のマスターと、何一つ理解していそうにもない一人の女教師だけであって、勿体無いほどである。
マスターは新しく珈琲豆を専用の樽から小皿に取り出し、焙煎機に注いでいる。
どうやらダッチコーヒーを作るようで実験器具のようなガラスの容器が3つ(上から順に金魚鉢、ビーカー、三角フラスコのような容器)縦に並んでいるサーバーが焙煎機の横に置いてある。
対してもう一人の人物はというとマスターがいる入り口に近いカウンターから遠ざかるテーブル席に独り、ポツンと座っている。
テーブルの上には誰かがいたであろう形跡、要は空になったグラスが取り残されている。
彼女の方は自身が注文したであろうキャラメルマキアート(以下省略)を完食したようでクリームやソーダがガラスの内面に付着した容器が傍に置いてある。
静かな音響が触媒となって過ごしやすい雰囲気を、知らず知らずのうちに破壊するかのように、二人用テーブル席に座る彼女は懐に潜めてあるスマートフォンでとある番号に電話をかけるようだ。
「あーー雅美さんですか?」
声音は普段通りの調子、つまりは高校で生徒と話すような崩したような話し方。まるで裏に何かを孕んでいるような一見あくどい声で問いかける。
『そうだ』
対して返ってきたのは全てを見透かしたような鋭い声。まさに「矛盾」という文字の矛を尖らせることに重きを置いたような返事。
しかし、自分の法則倫理にしか従わないというような声の調子で、
「いまーー、やっとのことで曲谷君が気付いたようですよーーあなたの関係性に」
わざとらしく間延びする声は自分の上に立つ者を挑発するようであるが、やはり応答する女性には何も変化は得られない。まるで全てを見据えているようだ。
『ああ、分かった。その調子で次も頼む』
淡々と物事を話す向こうからは同時平衡にパソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくる。
「あと、余談なんですけど~~。まだ自分の仕事のコトは気づいてないようで~~」
パチンッというエンターキーをたたく音が電話口が聞こえた後、数秒の沈黙が募る。そしてその数秒が経った後、
『そうか』
と、興味があるようでもないような今までとは一味変わった、まるで新しい調味料を入れた料理のような声音だった。
それでも一言であるのには変わりはないようで『では切る』という独り言に似た言葉で会話はシャットアウトされた。
突如相手の都合という自分勝手な理由で切られた発信人はそれでも物事を済ませ、安堵したような面持ち。それもそうで、彼女から突然会話がぶちぎられることは何度もあるので、慣れているのだ。
「まあ…………そうなるよね」
回線が切れたスマートフォンの画面を眺め、ふと懐古するわけではないが、いつものことだと思い返す。
光が無ければ陰もないと言われるように、私自身もまた表裏一体という言葉がお似合いだろう。
独り取り残された彼女――掛依真珠は自身しか客がいない喫茶店から何も言うことなく退出したのだった。
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