俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
023. 面倒な揉め事がさらに揉め事を呼ぶらしい
「俺は犯人を絶対当てられるような探偵でもないし、真実を解決する刑事でもない。かといって正当な判決を言い渡すことが出来るような裁判官でもない。そもそもそんな能力持ってないし、やる気だってない」
俺は自分が言っていることに反するように、堂々とまるで舞台に立ったような面持ちで話し始める。
「何だって俺なんかがそんなことしなきゃならないんだって、そう思ってさえいる始末だ」
珍しくも沈黙を取り続けている如月、普段なら「なんだか羽音がうるさいわね」なんて俺を小馬鹿にするのだが、今はそうしない。
「だが、だがな。こいつだけは言えるんだよ、『あんたが犯人』だってことをよ」
「別に明確な証拠とか、訳とかあるわけじゃないんだが、それでも何か言うとするなら…………それしかないと感じたからだ」
閉じていた口をようやく開き始めるようだ、さてどんな言葉を投げてくるか。
「…………支離滅裂ね。まるで物語の主人公みたいな言い方」
現れた言葉は転調変わらぬ曲のようで、それが逆に俺を安心させた。
「別に嫌いではないから、今日のところは何も言わないわ」
一瞬、納得したような表情を醸し出した後、目を瞬かせたその刹那というべきかその穏やかな姿の如月はもうそこにはいなかった。
「けど、やはり何も理由なしで他人に罪を擦り付けようとするのね、あなたいつか冤罪事件とか作れるんじゃない?」
むしろされた側なんですけど……と言ってもこの状況下では無意味なので何も口答えしなかった。というか論争することがそもそも面倒になっていた。
「あーーはいはい。んで結局あんたが犯人なんですか?そうなんですか?あーーそうですね」
一方的に押し付けるように疑問から、同調に切り替える俺、もうMPという名の気力が尽きているのだ。
「ここで『はい、そうです』とあなたの口車に乗せられたような言い方をすると私にしては虫ケラに敗北したようで納得がいかない、からあえて言うわ。『私が犯人ですーーーー許してください』」
棒読みで語る真実なんて誰が信じるんだよ……
「言ってるじゃねーかよ、そこまで否定しときながら最後には肯定かい」
「いや違うわ、今ここで認めるのとまた別日に認めるのとではあまりに差が大きすぎるのにどうして気付かないの?ああ、気付かないのではなくて気付けないのよね、羽虫だから」
平常運転、遅延なし、いわゆる普段のままの口調で今までの緊張がほどけたような気がする。
「俺が羽虫なのは変わらないわけだが……まあいい、結局あんたが首謀者ってことは…………」
俺は横の女にほんの少しだけ1センチいくかいかないかぐらいの距離だけ間合いを詰めて言った。
「ま、まあまあね、そうなるよね--。ってことでここでおさらばっ」
「させるかってーーのーー」
Uターンして戻ろうとする神無月の襟元を掴み、逃げられないように固定。
「う~~~~」
うーーーーじゃない、逃がすわけがなかろう。
「共謀者だったのかああ、俺をはめやがってええ」
鋭く寄せる俺の目線を逸らすように俺の顔を直視しようとしない、何故だか俺自身でないはずなのに神無月が冷や汗をかいていることが分かってしまう。
「だってーーねえ……うん、そだよ」
「何も言ってねーじゃねーーか!うん、そだよ、って勝手に自己解決すんなーー」
オウム返しになってしまうが関係ない、俺は訊かなくてはならないのだ、真実とやらを。
「どういうことなんだ?あの宣伝効果を利用するためじゃなかったのか…………?」
俺は面倒なことは極力避ける主義だ。ということはつまり犯人を特定するなんて行為自体も俺自体することはよっぽどのことが無い限り有り得ない。
だが、そのよっぽどのことが今回のケースなのだ。現時点で俺が求めているのは部室……ではなく平穏な仕事場の確保。そしてその生存が今や部活動の結果に委ねられている。
だから俺は今こうやって行動しているのだ、ビラを配った奴を入部させ魅惑的な記事を書かせるために。
「そうよ」
一言、俺の神無月に向ける言葉を代わりに応える声は如月のものだった。
刹那、脳裏にある思案が過った、通過したのだ。いやいやいや、まさかこいつは…………ないない。とある議題に対して繰り広げられる試行錯誤、YESかNOかと考えてみると、やはりNOだと決定。
「疑問を自分で解決して自己満足するのやめてもらえる?考えるのは構わないのだけれど勝手に私のことを決めつけられると心底腹が立つのだけれど。ムシが良すぎるんじゃないかしら?」
さらっと砲丸を投げてくるところM1エイブラムス並みの戦力じゃないのか、いやそれは砲弾か。
「だったら、だったらだ。一応聞くが、なら俺のこの面倒事に携わってくれるってのか?あの如月が?」
「……………………そうよ」
俺にはこいつの沈黙した訳が分からなかったのだが、それは性格上の問題なんだと自己暗示させた。別に深い意味はないが、何か心残りがあるようなわだかまりみたいなものがあった。
なんというか、本来そうであると信じていたはずのものがそうではなく、偽りだったというような裏切りに似たものだ。
「幻聴じゃないだろうな……本当に手伝ってくれるのか?絶対か?嘘じゃないよな?」
小学生並みな好奇心であれやこれやと問い質すとあきれた親のような表情を作った。どうやら元の如月に戻ったようだ。
「疑問符を連鎖させないでくれる?それとも疑問は浮かぶのにそれを解決出来ない脳なのかしら。それはそれはごめんなさい、前言撤回させて頂くわ、子供にはそれ相応の話し方をしなくてはいけなかったわね」
もう毒舌の域を超えて名誉棄損で訴えられるのではないかと呆れつつ、俺はひとまず質問を再度一つに絞って訊くことにした。
「はいはい、さいですか。んで結局手伝ってくれるのか?」
「いいと言っているでしょう。…………何度言ったらわかるのよ」
一度黙ってから喋りだした言葉があまりにも小さく聞き取れなかったので「何か言ったか?」とでも言おうかと考えたが、どうせまた「人の話を聞けないのね、幼児レベルじゃないの?」などと罵倒されるのでやめておいた。
「おお、それはありがたい。感謝するよ…………」
と、ひとまず感謝しつつも「なんて回りくどいんだよ」だとかやり方に異論を呈するために何か突っ込みを入れようとしたのだが、
「なら私がここにいる理由もなくなったわね、今日は忙しいから先に帰るわ」
俺の言わんとすることを察知したかのように、そそくさとパソコンを右手に提げて部室を後にした。なんだ、あの女レーダーでも何か持っているんじゃないか?
二人取り残された静寂極めた地、文芸部員通う部室。四角形に囲んだ長机の上にはなんと……資料が重なっているだけだ。なんとつまらない。
「……んと、帰っちゃったね……」
この沈黙に先制したのは残った一方の神無月だった。
「なんか、面倒なことになってごめんね」
頭を下げる姿、さっきとはまた別のような雰囲気で誠心誠意で謝っているのだと察しが悪い俺でも気がづいた。
「ま、なんというか意味の取り違えというか俺も悪かったよ。そこまで神無月に責めるつもりは無かったんだ」
「あのときは犯人を探そうと躍起になってた、すまない」
同じく俺も頭を下げ間違いを改める。二人互いに向き合いながら頭を下げている状況にシュールだと思ったのか、突如笑い声が響く。
「…………ふふふふ……」
あーーこれは違うな。もう笑い方で何を意図しているのか分かってしまう俺、何か能力使いかも……と冗談ながらに思い詰めてもこの状況で笑うこと自体もう揶揄してるじゃないか。
「ふっふふ、あははははははは」
「何がそんなに可笑しいんだ、俺はただ謝っただけだぞ」
俺はその答えを知るべく訊くことにした、こいつが俺の何がそんなに面白いと感じたのかを。
「いーや、こんな光景というか姿が珍しいなって」  
なんと、今日は的を射た答えだ。世界が終わるんじゃないか……は言い過ぎかもしれないがこれこそ驚天動地だ。何かが起こるんじゃないかと疑心暗鬼に俺は陥る。
「そ、そうか他にはないのか?」
俺はどうしてかその疑問を解消しようと自ら突き進んでいた。
「??ないけど?」
期待外れではないが、期待通りでもないような気がした。俺はこのままこの場に残ってもすることがなく、ただ暇な時間を過ごすだけなので部屋を出ようとしたときだった。
「待って……ひとつだけ私からも訊いていい?」
部屋に二人、しかも密室、生徒の大半は下校した放課後にまだ帰らないでと乞う、このシチュエーションは…………
「如月ってだれ?」
俺は自分が言っていることに反するように、堂々とまるで舞台に立ったような面持ちで話し始める。
「何だって俺なんかがそんなことしなきゃならないんだって、そう思ってさえいる始末だ」
珍しくも沈黙を取り続けている如月、普段なら「なんだか羽音がうるさいわね」なんて俺を小馬鹿にするのだが、今はそうしない。
「だが、だがな。こいつだけは言えるんだよ、『あんたが犯人』だってことをよ」
「別に明確な証拠とか、訳とかあるわけじゃないんだが、それでも何か言うとするなら…………それしかないと感じたからだ」
閉じていた口をようやく開き始めるようだ、さてどんな言葉を投げてくるか。
「…………支離滅裂ね。まるで物語の主人公みたいな言い方」
現れた言葉は転調変わらぬ曲のようで、それが逆に俺を安心させた。
「別に嫌いではないから、今日のところは何も言わないわ」
一瞬、納得したような表情を醸し出した後、目を瞬かせたその刹那というべきかその穏やかな姿の如月はもうそこにはいなかった。
「けど、やはり何も理由なしで他人に罪を擦り付けようとするのね、あなたいつか冤罪事件とか作れるんじゃない?」
むしろされた側なんですけど……と言ってもこの状況下では無意味なので何も口答えしなかった。というか論争することがそもそも面倒になっていた。
「あーーはいはい。んで結局あんたが犯人なんですか?そうなんですか?あーーそうですね」
一方的に押し付けるように疑問から、同調に切り替える俺、もうMPという名の気力が尽きているのだ。
「ここで『はい、そうです』とあなたの口車に乗せられたような言い方をすると私にしては虫ケラに敗北したようで納得がいかない、からあえて言うわ。『私が犯人ですーーーー許してください』」
棒読みで語る真実なんて誰が信じるんだよ……
「言ってるじゃねーかよ、そこまで否定しときながら最後には肯定かい」
「いや違うわ、今ここで認めるのとまた別日に認めるのとではあまりに差が大きすぎるのにどうして気付かないの?ああ、気付かないのではなくて気付けないのよね、羽虫だから」
平常運転、遅延なし、いわゆる普段のままの口調で今までの緊張がほどけたような気がする。
「俺が羽虫なのは変わらないわけだが……まあいい、結局あんたが首謀者ってことは…………」
俺は横の女にほんの少しだけ1センチいくかいかないかぐらいの距離だけ間合いを詰めて言った。
「ま、まあまあね、そうなるよね--。ってことでここでおさらばっ」
「させるかってーーのーー」
Uターンして戻ろうとする神無月の襟元を掴み、逃げられないように固定。
「う~~~~」
うーーーーじゃない、逃がすわけがなかろう。
「共謀者だったのかああ、俺をはめやがってええ」
鋭く寄せる俺の目線を逸らすように俺の顔を直視しようとしない、何故だか俺自身でないはずなのに神無月が冷や汗をかいていることが分かってしまう。
「だってーーねえ……うん、そだよ」
「何も言ってねーじゃねーーか!うん、そだよ、って勝手に自己解決すんなーー」
オウム返しになってしまうが関係ない、俺は訊かなくてはならないのだ、真実とやらを。
「どういうことなんだ?あの宣伝効果を利用するためじゃなかったのか…………?」
俺は面倒なことは極力避ける主義だ。ということはつまり犯人を特定するなんて行為自体も俺自体することはよっぽどのことが無い限り有り得ない。
だが、そのよっぽどのことが今回のケースなのだ。現時点で俺が求めているのは部室……ではなく平穏な仕事場の確保。そしてその生存が今や部活動の結果に委ねられている。
だから俺は今こうやって行動しているのだ、ビラを配った奴を入部させ魅惑的な記事を書かせるために。
「そうよ」
一言、俺の神無月に向ける言葉を代わりに応える声は如月のものだった。
刹那、脳裏にある思案が過った、通過したのだ。いやいやいや、まさかこいつは…………ないない。とある議題に対して繰り広げられる試行錯誤、YESかNOかと考えてみると、やはりNOだと決定。
「疑問を自分で解決して自己満足するのやめてもらえる?考えるのは構わないのだけれど勝手に私のことを決めつけられると心底腹が立つのだけれど。ムシが良すぎるんじゃないかしら?」
さらっと砲丸を投げてくるところM1エイブラムス並みの戦力じゃないのか、いやそれは砲弾か。
「だったら、だったらだ。一応聞くが、なら俺のこの面倒事に携わってくれるってのか?あの如月が?」
「……………………そうよ」
俺にはこいつの沈黙した訳が分からなかったのだが、それは性格上の問題なんだと自己暗示させた。別に深い意味はないが、何か心残りがあるようなわだかまりみたいなものがあった。
なんというか、本来そうであると信じていたはずのものがそうではなく、偽りだったというような裏切りに似たものだ。
「幻聴じゃないだろうな……本当に手伝ってくれるのか?絶対か?嘘じゃないよな?」
小学生並みな好奇心であれやこれやと問い質すとあきれた親のような表情を作った。どうやら元の如月に戻ったようだ。
「疑問符を連鎖させないでくれる?それとも疑問は浮かぶのにそれを解決出来ない脳なのかしら。それはそれはごめんなさい、前言撤回させて頂くわ、子供にはそれ相応の話し方をしなくてはいけなかったわね」
もう毒舌の域を超えて名誉棄損で訴えられるのではないかと呆れつつ、俺はひとまず質問を再度一つに絞って訊くことにした。
「はいはい、さいですか。んで結局手伝ってくれるのか?」
「いいと言っているでしょう。…………何度言ったらわかるのよ」
一度黙ってから喋りだした言葉があまりにも小さく聞き取れなかったので「何か言ったか?」とでも言おうかと考えたが、どうせまた「人の話を聞けないのね、幼児レベルじゃないの?」などと罵倒されるのでやめておいた。
「おお、それはありがたい。感謝するよ…………」
と、ひとまず感謝しつつも「なんて回りくどいんだよ」だとかやり方に異論を呈するために何か突っ込みを入れようとしたのだが、
「なら私がここにいる理由もなくなったわね、今日は忙しいから先に帰るわ」
俺の言わんとすることを察知したかのように、そそくさとパソコンを右手に提げて部室を後にした。なんだ、あの女レーダーでも何か持っているんじゃないか?
二人取り残された静寂極めた地、文芸部員通う部室。四角形に囲んだ長机の上にはなんと……資料が重なっているだけだ。なんとつまらない。
「……んと、帰っちゃったね……」
この沈黙に先制したのは残った一方の神無月だった。
「なんか、面倒なことになってごめんね」
頭を下げる姿、さっきとはまた別のような雰囲気で誠心誠意で謝っているのだと察しが悪い俺でも気がづいた。
「ま、なんというか意味の取り違えというか俺も悪かったよ。そこまで神無月に責めるつもりは無かったんだ」
「あのときは犯人を探そうと躍起になってた、すまない」
同じく俺も頭を下げ間違いを改める。二人互いに向き合いながら頭を下げている状況にシュールだと思ったのか、突如笑い声が響く。
「…………ふふふふ……」
あーーこれは違うな。もう笑い方で何を意図しているのか分かってしまう俺、何か能力使いかも……と冗談ながらに思い詰めてもこの状況で笑うこと自体もう揶揄してるじゃないか。
「ふっふふ、あははははははは」
「何がそんなに可笑しいんだ、俺はただ謝っただけだぞ」
俺はその答えを知るべく訊くことにした、こいつが俺の何がそんなに面白いと感じたのかを。
「いーや、こんな光景というか姿が珍しいなって」  
なんと、今日は的を射た答えだ。世界が終わるんじゃないか……は言い過ぎかもしれないがこれこそ驚天動地だ。何かが起こるんじゃないかと疑心暗鬼に俺は陥る。
「そ、そうか他にはないのか?」
俺はどうしてかその疑問を解消しようと自ら突き進んでいた。
「??ないけど?」
期待外れではないが、期待通りでもないような気がした。俺はこのままこの場に残ってもすることがなく、ただ暇な時間を過ごすだけなので部屋を出ようとしたときだった。
「待って……ひとつだけ私からも訊いていい?」
部屋に二人、しかも密室、生徒の大半は下校した放課後にまだ帰らないでと乞う、このシチュエーションは…………
「如月ってだれ?」
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