俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。

薪槻暁

08.心の内が見え見えなのですが……?

 教室の席順にして俺の目の前に座るのは真横の嬢様気取りの奴とは真反対な性格、つまるところ穏やかだが陽気な性格の神無月茜かんなづきあかねである。


 ショートヘアで髪を外巻きにしている神無月はロングヘアの如月とはやはり対照的。


 制服ごしなので何とも言えないが、恐らく普段ではスポーティーなジャージを着ながら家の周りでランニングしているのだろう、俺にはそんな風貌の姿が見えた。




 席順によって振り分けられた掃除のグループは四人一組だったのだが、これまた二人欠けた状態で掃除をせねばならないことになってしまった。


 そのうち一人は奴ーー如月桜だ。そして俺の知らない、もう一人はとある男子生徒らしく「面倒だからやらねー」ってな感じで無責任にも放ったのなら、それはそれで俺にとっては気持ちの良いものだが、これまた聞いてみると委員会があるからという何ともつまらない理由だった。


 教室に最も近い階段にて箒で上から掃いていると下の方で空拭きをしている取り残された班員ーー神無月茜は俺に訊いてきた。




「ね、ね。みんな部活動歓迎会とか行くみたいだけど、曲谷くんはどこに行くか決めた?」


 彼女なりのジンクスなのだろう、見知らぬ人でも少しは話さなくては自分のコミュニケーション力が低下してしまうのだと本気で考えているのだ。




「運動部?それとも文化部?」




 俺はそんな世間話に付き合いたくもなかったが、それこそ俺がここで無視なんかすれば彼女にとっては自分の落ち度なのだと気弱になってしまうかもしれない。


 俺はそんな大層心優しい、大らかな心を持ち得ているのだと誇るように答えた。




「文芸部に行こうと思ってる」




 すると神無月は何を話せばいいのか、自分が次に何を議題に出したらよいのか詮索するように言葉を濁したので、つまりはネタ切れなのだと俺は確信した。




 …………無言。俺からすればこんな状況はこの上なく心地の良いものだが、神無月はあまり居心地が良さそうではないので、今度は俺から訊くことにした。


「神無月は何部に入るん……」


「私はね、新聞部!」




 速い、速すぎるッ。まるで俺が質問するのを前もって把握していたようだ。


 というか、そんな部活あっただろうか?


 ま、それよりもここまで俺とのコミュニケーションを図るのだからそれなりの理由があるのではないかと想像していたのだが。しかしまた予想とは斜め上の方向へと飛んで行ったものだ。




「……またよく分からない部活名だな」




 挙げればテニス部とか料理部とか、それなりに人付き合いが多い部活なら分かるのだが、新聞部はそんな関係必要ないのではないか。


 確かに情報収集の一環として、人との関りがあるのは必須になるのは分かるが建前上しかそんな関係は構築されない。


 例えば隣人がいくら隣に住んでいたとしても「隣人」としての立場は一向に変わらないように、部活動で出来た友人が恋人にランクアップすることなんて以ての外だ(ランクアップかどうかは置いておいて)。




「何その反応?複雑すぎて何考えてるかわかんないんですけど~~」




 確かに耳慣れない部活名と何を考えているか理解できないあなたに複雑な顔しますよ。てか、そもそも新聞部って部活動紹介でいたか?




「あ、いや。そう、そんな部活あるんだって思ってよ」




 俺は相手が考えている、感じていることに同意をすることで会話を円滑に進ませる。




「やっぱりそう思うよね。自分で作るんだけどさ、まだ入学したばかりで誰も入部する人いなくて大変なのさーー」


「だからさーー、ちょっとお願いがあるんだけどね~~」




 これはまた面倒なことに巻き込まれた。そうか、生涯において関わりを持つ理由はただの人付き合いだけではないのだと身に染みた。




「つまり、俺に入部しろと?」




 「おおーー」と驚きの表情を顔に浮かべると、瞬時に手を擦りながら俺に頭を下げてきた。




「ではでは、これからお願いしますね」




 これも計画の内なのか、そうであったのなら女というのは本当に末恐ろしい生き物だなと俺は感じる。


 いやまだ、OKとは言っていないんだけど。


 しかし、そんな俺の心の底の想いはどうやら神無月には届いていないらしく。


 頭を下げて懇願するや否や、「じゃ、また今度ねっ!!」と階段を駆け上がって行ってしまったのだった。



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