俺の彼女は死刑囚
天玖、苦しく、痛ましく
「顔は全く違ったけれど、仲が良すぎて姉妹と呼ばれるくらいの間柄だった。どっちが姉でどっちが妹なのかは見た人によるけれども、まあ親友と言っても差し支えない間柄だったのは間違いないね。あの頃の薬子は表情豊かでねえ。今の何倍も可愛かったと思うよ」
「それがどうして仲が悪化したんですか?」
「……さあね。でも間違いなく言えるのは、彼女は私を捕まえる気なんて更々ないという事だ。テレビでどんな調子の良い事を言ってるか知らないけど、捕まれば私は殺されるだろう。確実にね」
「……雫だってあんなに強いじゃないですか」
「私の強さは所詮特殊能力頼りさ。昔からアイツには敵わない。何を手に入れたとしてもね」
「そう言えば雫の特殊能力って生まれつきなんですか?」
「生まれつきこんなものがあったらさぞ私の家庭は荒んでいたのだろうね。残念ながらこれは後天的なものだよ」
改造でもされたのだろうか。天玖村が何処にあるかという情報さえそもそも知らないが、政府直属の秘密組織が雫を捕まえて普通の人間に超能力を与える放射能を…………
映画の見過ぎか。
「薬子には特殊能力ってありますか?」
雫は意味深な笑みを浮かべて頷いた。
「強いて言うならあのふざけた身体能力が特殊なんじゃないかな」
「物は言い様じゃないですか。そうじゃなくて雫みたいな能力の有無を尋ねてるんです」
初めて会った時、彼女は言っていた。徒歩で良かった、と。引ったくりという犯罪に乗物は付き物であり、敢えて自らの足に頼った事が命拾いさせたと。身体能力が人類を超越しているなら相手が何を使っても関係ない筈。
わざわざ乗物と限定した所に秘密がある筈だ。
雫は意味深な笑みを浮かべて、頷いた。
「視界内の人間の視覚を操作出来る」
「え?」
「特殊には違いないけれど、どう考えてもあの身体能力の方がおかしいからね。君に付き纏っているならその内分かると思うけど。因みにこれも後天的なものだ。昔のアイツはどちらかと言えば運動音痴だったよ」
合点がいった。乗物に乗った方が危険というのはよそ見運転という意味だったか。確かにそれなら納得が行く。よそ見しながら走っても余程の事がない限り死にはしないが、バイクにしろ車にしろよそ見運転をすれば確実に事故る。
「抜け道は?」
「盲目には当たり前だけど効果がないだろうね」
そういうのを対策とは言わない。疎遠になって久しいだろうが、とはいえ情報が役立たな過ぎて返事に困ってしまった。犯罪者でもない限りその力が行使される事はないだろうが、そういえば俺は犯罪者だった。
雫の逃走幇助をした時点で薬子の司法では一審で死刑が確定している。俺には関係ないと安心は出来ない。
「他に質問はある?」
「―――じゃあ、その。後天的に得たって言ってましたよね。一体何が起きたらそんな力が手に入るんですか?」
何でも教えてくれるならと調子に乗ったが、雫の周囲を取り巻く空気が一瞬にして冷え込んだのを俺は見逃さなかった。この晴天に体感気温が冷え込むなどあってはならない事だ。今の季節を言ってみろ。
「あ、嫌なら別に教えなくてもッ」
「いや、教えるよ。只、一つだけ約束して欲しい。私の話を決して信じないでくれ。妄想、虚言、何でも良い。絶対に信じちゃ駄目だ。いい?」
何か情報を話そうという時に信じるな、なんて聞いた事もない。好奇心に負けた俺が唾を呑みながら頷くと、雫は周囲に散った子供達を全員親元へ返し、二人きりの状況を作り上げた。或は今の質問こそ全ての核心に迫るものだったのかもしれない。念入りに人払いをしたのがその証拠だ。
季節に似つかわしくない生ぬるい風が俺達の間を通り過ぎる。今、正に彼女が話し出そうとした瞬間。
「柳馬君! ね、一回でいいからお茶しよッ」
二人の死角から飛び出してきた人影。馴れ馴れしくも駆け寄ってきた女性の正体は相倉美鶴。誰がどう見たってデートの最中なのに、空気の読めない女性も居たものだ。傍から見ても浮気を疑うだろうし、雫からすれば猶更そう見えるだろう。特に俺は散々雫に対して愛を語ってきた。胸も揉んだ。名実ともに俺は一途だが、彼女からすればとんだ浮気野郎である。
「うわあ! な、何ですか何ですかッ」
「ね、お願い。いいでしょ? ね、ね、ね!」
「だからデート中だって……ていうか何で俺の名前を―――」
「たまたま通りがかった親切な人に教えてもらったの。柳馬君なんてかっこいい名前だね!」
「馴れ馴れしいんですけど! 同年代なのはともかくせめて敬語くらい使って下さいよ!」
「今絶対に暇でしょ? ね、お茶! すぐ終わる。三十分だけ!」
「いやだからデート……」
「誰と?」
「誰とってそりゃ―――」
そこに居る女性……など居なかった。タイヤの上に座っていた雫の姿は何処へやら、雲梯の周辺には俺しか居なかった。七凪雫の存在など空想であったかのように。
「え……」
隠れる場所はない。あったとしてもこの一瞬で視界から消えられるだろうか。草陰に隠れるなら音がするだろうし、それ以外の場所には……どうやっても隠れられない。しかし今までの事件が全て俺の妄想だったというオチはそれこそ非現実的過ぎる。比較的リアリティのある結論を導くために無理筋を通すのはナンセンスだ。
「私とデートしたくないからって、そういう嘘は酷いよ柳馬君」
「……いや、嘘じゃないって」
「分かった。じゃあそういう事にしておくからデートしましょッ!」
「ちょ、やだよ。やめろって―――」
雫がデートを途中で放り出す様な人間とは思えない。きっとどこかに隠れているのだと信じて、俺は一目散に逃げだした。本当はもっとこの公園でのんびりする予定だったのだが仕方ない。美鶴を撒きつつ次の場所へ行くとしよう。
「はあ……はあ…………」
信号無視、不法侵入、不特定多数との身体接触。
警察が近くにいない事を幸運に思うばかりだ。心なしか死刑囚を匿ってから善性というものが薄れている気がする。いや、悪いのは美鶴だ。正攻法では撒けないと思ったからこんな手段を取らなければいけなかった訳で。しかも不法侵入に関しては彼女もやらかしている。
「……いってえ」
植木を囲うベンチに腰を下ろすと、痛みの残る右足を抑えて蹲る。二度とパルクールの真似事なんかしないと心に固く誓った瞬間でもある。いや、仕方ないのだ。美鶴を撒く為には必要な犠牲だった。とはいえ廃墟の非常階段―――それも三階から飛び降りたのはやりすぎだったか。
怪我らしい怪我はしていないが、足への負担が強すぎる。五点着地などやろうと思って出来る物ではない。やってはみたが明らかに付け焼刃だ。衝撃を殺しきれていない。今まで走れたのは火事場の馬鹿力という他ない。
その証拠に、今は一歩も動きたくない。
「大丈夫かい?」
「………ぁ。しず、く?」
「ふむ。足をやってしまったみたいだね。軽傷なのが不幸中の幸いかな」
顔を上げて彼女の姿を確認したい所だが、脚の痛みに意識を向ける程その痛みは増してしまう。会話が精一杯だ。
「ど、何処へ行ってたん……ですか!」
「いやすまない。薬子の気配を感じたものでつい隠れてしまった」
「薬子じゃなくて……変な奴……でしたよ!」
「ふむ、私のセンサーも鈍ったかな。お詫びに痛みを忘れるおまじないを教えてあげよう」
「お、おまじ……ないッ?」
雫の両手が俺の足首を掴むのに伴い患部から手を離す。代わりに包み込んでくれた彼女の両手は本人以上に優しく、俺の足を労っていた。
「えにしびのら、しらみのみるいけら るふねや」
「…………?」
「からもくてにそう やはらのわするいまらな りぐのはすしくろうとくま」
日本語……日本語? 多分そうなのだが、発声の仕方が明らかに異なっている。言語を言語として認識出来ないというか……別の言葉ではないかと疑ってしまう。この耳は確実に日本語を聞いている筈なのに。
「となえて」
「…………え」
「私に他人を治す魔法みたいな能力はないよ。これは飽くまで痛みを忘れるおまじない。君が唱えなくては意味がない」
「え、えーと。 えにしひのら しらみのみるいけら るふねや からもくてにそう やはらのわするいまらな りぐのはすしくろうとくま」
「繋げて」
「えにしひのらしらみのみるいはらるふねやからもくてにそうはらのわするいまらなりぐのはすしくろうとくま!」
一体全体俺は何語を話しているんだ。いよいよ悪態を吐こうかと俺が顔を上げた―――上げられた。
「えッ」
痛みが消えている。患部までもが元通りとまではいかないが、それでもこの場で足踏みをして運動会の行進をするくらいは容易い。顔を上げられたお蔭で雫の姿も認識出来た。やはり妄想なんかではない。七凪雫は確かにここに居る。
「……今の何ですか?」
「おまじないって言ったよね。飽くまで痛みを誤魔化しただけだから、後で適切な処置をする事をお勧めするよ」
「そ、そうですか……」
まともな人間なら速やかにデートを終わらせて家に帰るべきなのだろうが、せっかくここまで来たのだ、俺は続行を希望する。幸運な事に次に予定していた場所は確実に身体を動かさないのだから。
「じゃあ、デートの続きと行きましょうか」
「大丈夫? 私はもう帰ってもいいんだけど」
「俺への気遣いなら無用です。次はほら―――ここに行く予定でしたから」
俺が指をさす方向に聳えるは大型ショッピングモール『エオン』。次の目的地とはその中に店を構えている映画館の事だ。
「映画、見ましょうよ」
「それがどうして仲が悪化したんですか?」
「……さあね。でも間違いなく言えるのは、彼女は私を捕まえる気なんて更々ないという事だ。テレビでどんな調子の良い事を言ってるか知らないけど、捕まれば私は殺されるだろう。確実にね」
「……雫だってあんなに強いじゃないですか」
「私の強さは所詮特殊能力頼りさ。昔からアイツには敵わない。何を手に入れたとしてもね」
「そう言えば雫の特殊能力って生まれつきなんですか?」
「生まれつきこんなものがあったらさぞ私の家庭は荒んでいたのだろうね。残念ながらこれは後天的なものだよ」
改造でもされたのだろうか。天玖村が何処にあるかという情報さえそもそも知らないが、政府直属の秘密組織が雫を捕まえて普通の人間に超能力を与える放射能を…………
映画の見過ぎか。
「薬子には特殊能力ってありますか?」
雫は意味深な笑みを浮かべて頷いた。
「強いて言うならあのふざけた身体能力が特殊なんじゃないかな」
「物は言い様じゃないですか。そうじゃなくて雫みたいな能力の有無を尋ねてるんです」
初めて会った時、彼女は言っていた。徒歩で良かった、と。引ったくりという犯罪に乗物は付き物であり、敢えて自らの足に頼った事が命拾いさせたと。身体能力が人類を超越しているなら相手が何を使っても関係ない筈。
わざわざ乗物と限定した所に秘密がある筈だ。
雫は意味深な笑みを浮かべて、頷いた。
「視界内の人間の視覚を操作出来る」
「え?」
「特殊には違いないけれど、どう考えてもあの身体能力の方がおかしいからね。君に付き纏っているならその内分かると思うけど。因みにこれも後天的なものだ。昔のアイツはどちらかと言えば運動音痴だったよ」
合点がいった。乗物に乗った方が危険というのはよそ見運転という意味だったか。確かにそれなら納得が行く。よそ見しながら走っても余程の事がない限り死にはしないが、バイクにしろ車にしろよそ見運転をすれば確実に事故る。
「抜け道は?」
「盲目には当たり前だけど効果がないだろうね」
そういうのを対策とは言わない。疎遠になって久しいだろうが、とはいえ情報が役立たな過ぎて返事に困ってしまった。犯罪者でもない限りその力が行使される事はないだろうが、そういえば俺は犯罪者だった。
雫の逃走幇助をした時点で薬子の司法では一審で死刑が確定している。俺には関係ないと安心は出来ない。
「他に質問はある?」
「―――じゃあ、その。後天的に得たって言ってましたよね。一体何が起きたらそんな力が手に入るんですか?」
何でも教えてくれるならと調子に乗ったが、雫の周囲を取り巻く空気が一瞬にして冷え込んだのを俺は見逃さなかった。この晴天に体感気温が冷え込むなどあってはならない事だ。今の季節を言ってみろ。
「あ、嫌なら別に教えなくてもッ」
「いや、教えるよ。只、一つだけ約束して欲しい。私の話を決して信じないでくれ。妄想、虚言、何でも良い。絶対に信じちゃ駄目だ。いい?」
何か情報を話そうという時に信じるな、なんて聞いた事もない。好奇心に負けた俺が唾を呑みながら頷くと、雫は周囲に散った子供達を全員親元へ返し、二人きりの状況を作り上げた。或は今の質問こそ全ての核心に迫るものだったのかもしれない。念入りに人払いをしたのがその証拠だ。
季節に似つかわしくない生ぬるい風が俺達の間を通り過ぎる。今、正に彼女が話し出そうとした瞬間。
「柳馬君! ね、一回でいいからお茶しよッ」
二人の死角から飛び出してきた人影。馴れ馴れしくも駆け寄ってきた女性の正体は相倉美鶴。誰がどう見たってデートの最中なのに、空気の読めない女性も居たものだ。傍から見ても浮気を疑うだろうし、雫からすれば猶更そう見えるだろう。特に俺は散々雫に対して愛を語ってきた。胸も揉んだ。名実ともに俺は一途だが、彼女からすればとんだ浮気野郎である。
「うわあ! な、何ですか何ですかッ」
「ね、お願い。いいでしょ? ね、ね、ね!」
「だからデート中だって……ていうか何で俺の名前を―――」
「たまたま通りがかった親切な人に教えてもらったの。柳馬君なんてかっこいい名前だね!」
「馴れ馴れしいんですけど! 同年代なのはともかくせめて敬語くらい使って下さいよ!」
「今絶対に暇でしょ? ね、お茶! すぐ終わる。三十分だけ!」
「いやだからデート……」
「誰と?」
「誰とってそりゃ―――」
そこに居る女性……など居なかった。タイヤの上に座っていた雫の姿は何処へやら、雲梯の周辺には俺しか居なかった。七凪雫の存在など空想であったかのように。
「え……」
隠れる場所はない。あったとしてもこの一瞬で視界から消えられるだろうか。草陰に隠れるなら音がするだろうし、それ以外の場所には……どうやっても隠れられない。しかし今までの事件が全て俺の妄想だったというオチはそれこそ非現実的過ぎる。比較的リアリティのある結論を導くために無理筋を通すのはナンセンスだ。
「私とデートしたくないからって、そういう嘘は酷いよ柳馬君」
「……いや、嘘じゃないって」
「分かった。じゃあそういう事にしておくからデートしましょッ!」
「ちょ、やだよ。やめろって―――」
雫がデートを途中で放り出す様な人間とは思えない。きっとどこかに隠れているのだと信じて、俺は一目散に逃げだした。本当はもっとこの公園でのんびりする予定だったのだが仕方ない。美鶴を撒きつつ次の場所へ行くとしよう。
「はあ……はあ…………」
信号無視、不法侵入、不特定多数との身体接触。
警察が近くにいない事を幸運に思うばかりだ。心なしか死刑囚を匿ってから善性というものが薄れている気がする。いや、悪いのは美鶴だ。正攻法では撒けないと思ったからこんな手段を取らなければいけなかった訳で。しかも不法侵入に関しては彼女もやらかしている。
「……いってえ」
植木を囲うベンチに腰を下ろすと、痛みの残る右足を抑えて蹲る。二度とパルクールの真似事なんかしないと心に固く誓った瞬間でもある。いや、仕方ないのだ。美鶴を撒く為には必要な犠牲だった。とはいえ廃墟の非常階段―――それも三階から飛び降りたのはやりすぎだったか。
怪我らしい怪我はしていないが、足への負担が強すぎる。五点着地などやろうと思って出来る物ではない。やってはみたが明らかに付け焼刃だ。衝撃を殺しきれていない。今まで走れたのは火事場の馬鹿力という他ない。
その証拠に、今は一歩も動きたくない。
「大丈夫かい?」
「………ぁ。しず、く?」
「ふむ。足をやってしまったみたいだね。軽傷なのが不幸中の幸いかな」
顔を上げて彼女の姿を確認したい所だが、脚の痛みに意識を向ける程その痛みは増してしまう。会話が精一杯だ。
「ど、何処へ行ってたん……ですか!」
「いやすまない。薬子の気配を感じたものでつい隠れてしまった」
「薬子じゃなくて……変な奴……でしたよ!」
「ふむ、私のセンサーも鈍ったかな。お詫びに痛みを忘れるおまじないを教えてあげよう」
「お、おまじ……ないッ?」
雫の両手が俺の足首を掴むのに伴い患部から手を離す。代わりに包み込んでくれた彼女の両手は本人以上に優しく、俺の足を労っていた。
「えにしびのら、しらみのみるいけら るふねや」
「…………?」
「からもくてにそう やはらのわするいまらな りぐのはすしくろうとくま」
日本語……日本語? 多分そうなのだが、発声の仕方が明らかに異なっている。言語を言語として認識出来ないというか……別の言葉ではないかと疑ってしまう。この耳は確実に日本語を聞いている筈なのに。
「となえて」
「…………え」
「私に他人を治す魔法みたいな能力はないよ。これは飽くまで痛みを忘れるおまじない。君が唱えなくては意味がない」
「え、えーと。 えにしひのら しらみのみるいけら るふねや からもくてにそう やはらのわするいまらな りぐのはすしくろうとくま」
「繋げて」
「えにしひのらしらみのみるいはらるふねやからもくてにそうはらのわするいまらなりぐのはすしくろうとくま!」
一体全体俺は何語を話しているんだ。いよいよ悪態を吐こうかと俺が顔を上げた―――上げられた。
「えッ」
痛みが消えている。患部までもが元通りとまではいかないが、それでもこの場で足踏みをして運動会の行進をするくらいは容易い。顔を上げられたお蔭で雫の姿も認識出来た。やはり妄想なんかではない。七凪雫は確かにここに居る。
「……今の何ですか?」
「おまじないって言ったよね。飽くまで痛みを誤魔化しただけだから、後で適切な処置をする事をお勧めするよ」
「そ、そうですか……」
まともな人間なら速やかにデートを終わらせて家に帰るべきなのだろうが、せっかくここまで来たのだ、俺は続行を希望する。幸運な事に次に予定していた場所は確実に身体を動かさないのだから。
「じゃあ、デートの続きと行きましょうか」
「大丈夫? 私はもう帰ってもいいんだけど」
「俺への気遣いなら無用です。次はほら―――ここに行く予定でしたから」
俺が指をさす方向に聳えるは大型ショッピングモール『エオン』。次の目的地とはその中に店を構えている映画館の事だ。
「映画、見ましょうよ」
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