東大卒でコミュ症持ちの僕が魔王の息子として転生した結果〜魔王の力を受け継いでいる僕ですが人間界で勇者のパーティメンバーとして楽しく暮らしていこうと思います〜

皇城咲依

4.勇者との出会い

僕は今、木の下で地面に木の枝でガリガリと絵を描いている。
別に「SOS」とか描いているわけではない。
魔法陣とかいう物でもない。
キリンや象、犬などを描いているだけだ。
僕は絵画コンクールで最優秀賞を何回もとったとこがあるから案外絵は上手いと思う。

では、何故意味もないものを描いているか。

結論から言うと、道に迷ったのだ。

どうすればいいか分からない僕は途方に暮れ、暇だから絵を描き始めたのだ。

「あーあー。もうここがどこか分かんなーい。ってかここ、まだ魔界?それとも人間界?でも人間界だと僕の魔力を察知して騎士とか飛んでくるはずだから魔界かなー?」

独り言ならいくらで喋れる僕はやっぱり怪しいよね。うん、自覚してる!

その時だった。僕の真上から大きな影が落ちてきた。
恐る恐る見てみると、大きな龍の姿が。

「あ。人界だった。てへ!って、そんな事言ってる場合じゃなかった…。僕、殺されちゃいますけど?」

どうしよ…。うーん…。

僕は前世で培った膨大な知識量に頼ってみる。

「そうだ!僕は魔王と女神という正反対の力を持つ…。だったら、正反対の力を打ち消す、"中和"なら、力を相殺できるんじゃないか?!」

早速やってみよう!

僕は魔界では抑えていた聖魔力を開放した。

「…どうだ!」

僕は頭上で徘徊する龍を眺める。
すると、龍は突然止まったあと、混乱したようにふらふらとあちこち飛び回ったあと、どこかへ飛んでいった。

「おぉー!」

僕は声を上げた。
やった!大成功!!
両手で拳を作る。
が、

「あ。」

僕は拳を開いた。

捕まって、人間の国に行ったほうが良かった?
やば。
とんだミス犯した。

しかし、ションボリしても仕方ないので僕は描いた絵を消すと立ち上がり、歩いてきた方向から反対の方角に歩き始めた。

「はは…。僕って馬鹿だ…。」

そう呟きながら。

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  ーーーーーーーー

ヴェンティが向っている方角にある人界の「ヴェース国」の王宮にて。

そこには豪華な椅子に座っているびげを生やした定年すぎだろう、おじさんとその前に跪いている少女がひとり。

「ふむ。魔神の気配が消えた、か。」
「はい。そこにいたのはだけでした。性別は男。歳は6歳くらいかと。」

その部屋に響くのは先程龍に乗っていた幼女。
幼くして「勇者」の称号を授かった天才中の天才。

「ユイフィエ・ナーニャ・ビスタ。まだ幼いお前にこのようなことを頼むのはいささか不本意だが…」

言い淀む王に幼女は笑いかける。

「なんなりと。」

彼女の言葉に聞いて王は目を閉じ、頷く。

「その森にいた人間に近づき、監視に当たれ。その者と歳が近いお前なら簡単だろう?」

幼女…。5歳のユイフィエはその年に似合わない大人びた笑顔で頭を垂れる。

「承知しました。」

ーーーーーー
  ーーーーーーーー

「あーあー。やっぱ着かないよぉ…。戻ろっかな…。」

苦言を吐く僕。

だって、三日間ずっと歩いているのに国の痕跡も見えないし!人間一人いないし!

心の名で叫ぶ。

「あれ、君、何してるの?」

いきなり隣から声が聞こえてきた。

「わあっ?!」

僕は驚き、半歩下がる。
しかし、そこには可愛らしい金髪の少女がいるだけだった。

(人間…だ…。角、ない…。)

僕は久しぶりに見る人間を見て驚いていた。

「ここは子供が入るとこじゃないよ?って、私も入っちゃってるけど。」

僕よりも…年下…だよな?
うわぁ…。大人びてて僕のほうが年下に見える…。
って、僕、喋ることできないし。よけいに幼く見える…か…?
ははははは…。

「おーい、どうしたの?あ、緊張してるの?私はね、ユイっていうの!ユイ・ミラ!よろしくね!」

僕は目を瞬かせながら少女が差し出してきた細い手を優しく握る。

「ぼ…僕…は……。」

え、どうしよう、名前。
本名…は駄目だろ。
前世の名前は…駄目だ。
この子と同じだから。

むう……………。

「おーい?」

ひょこっと可愛らしく覗き込んできたユイに僕は慌てて名乗る。

「エ、エール!エール・フワ!」

名字は前世のを使ったけど、別にいいよね?
っていうか僕ってネーミングセンス皆無ね!
今気づいたよ!

「エールくん…。そっか!よろしくね!」

ニコニコ笑顔で手を差し出してきたユイ。
こくこく頷く僕。

……本当にこの子可愛い…。

「で、エールくんはなんでここに居るの?ここは魔界との境目の森だから危険だよ?私が言うべきことじゃないけどね!私も入ってるし!」

「ま、迷子…。」

と呟く。

うぅぅぅ…。緊張する…!口の中が乾いてきたよ…。

「お父さんたちとはぐれたの?」

はは…。まるでデパートの迷子センターに来た気分だ…。

「お父さん、お母さん…。ここに…いない…。だから、ずっと、一人……。」

これだけは言っておかなくちゃ。「なら探そうっ!」って言われて人界にいもしない父と母を探しに行くことになるのは勘弁だ。

ユイは僕のたどたどしい言葉に一瞬驚いたようだが、すぐにっこり笑い、

「じゃ、うちに来なよ!」

とすでに僕の腕を引っ張りながら言ってきた。

「え…。い、いい…。僕、邪魔な…だけ…。」
「そんなことない!」

クルリ、と僕を方を振り返りながら不満そうに言うユイ。

「まぁ、掃除、洗濯ぐらいはしてもらうけどね。」

……本当にこの子、僕より年下?
なんか言ってることが自宅に泊まることになった息子の嫁を嫌うお姑なんだけど…。

ペロっと可愛らしく舌を出してお茶目にウィンク。

うっわぁ……。可愛い…。

そして僕を引き連れ、道をクネクネ曲がっていくユイ。

そして歩くこと五分、目の前には高い城壁が。

「着いたよー!ここが私達の国、ヴェース王国だよ!」

…早っ。もう着いたし…。僕が一晩苦労したのに…。

ユイは僕の手を引くと門番に笑いかける。

「ユイ・ミラです!」

と可愛らしく言う。
すると直ぐに門が開いた。
そこにユイは僕の手を握ったまま走っていこうとする。
それを慌てて僕は引き止める。

「僕…よそもの…。入るの……、大丈夫?」

ユイはフフ、と可愛らしく笑う。

「別に〜!悪いことしなければ大丈夫!」
「そう…。」

そしてユイは僕を引っ張っていく。
そこで初めて人間の国を見た。

凄い……。
皆が笑ってる…。
角生えてない…。

角がないのは当たり前だが、僕にとっては皆が笑っている街というのは珍しい。

魔界ではいつでもどこでも喧嘩が起きていた。
それは魔族の殆どの人が短気で挑発されたら買ってしまうような人達ばっかりであったからだ。

もちろん、例外もいる。
例えば、父。
父は挑発されても鼻で笑い、

「くだらない」

と言うような人だった。
まぁ、ある意味挑発していると取れるかもしれないな。

妹は挑発されたら…買うのではなくて

「父様に言うよ?」

って喧嘩を他の人に流す子だったな…。

ちなみに自慢ではないが僕は喧嘩を売られたことも買ったこともない。

なんせ、他人と上手く話せないため、喧嘩にならないからだ。

そんな僕に嬉々として話しかけるユイ。

「エールくん、どう?すごいでしょ!」
「うん。」

確かにすごいこの国…。

ん?いや、待って。

そういえば、なんで僕はこの国に一番近い森に居たのにこの国の人じゃないって思われてるの?

おかしくないか?
聞かなければ。恥を晒せども!

「なんで、僕が、この国の人じゃないって、分かったの?」

おお!僕にしてはうまく言えた!
心の中で歓喜する僕とは正反対にユイはしまった、という表情をしたあと、

「え…とね、な、なんとなく…だよ!」

嘘だ。

「…僕、嘘、嫌い。」

はっきりと言ってやった。
するとユイは悔しそうに顔を歪めた。

「くっ…。ここまでか…。」

なにその悪役に追い詰められた少年漫画の主人公のようなセリフ…。
って、僕って魔王の息子だから一応悪役か?

「仕方ない……正体を晒すしか…ないのか…。」
「…………………。」

確信しよう。
この子、地球人だったら絶対ヲタクになっただろう。

「我が名はユーファイリス!ユーファイリス・ビスタ!この国、ヴェース王国の守護者、勇者なり!」

キラキラ〜。
アニメだったら後ろに謎の光と紙吹雪が舞っていただろう。

なにそれ。
僕は引っかからないぞ。

「もう一度、言う。僕、嘘、嫌い。」
「だぁぁっ!本当なの、事実なの!私は勇者!魔王を倒す役目を担っている最強の騎士よ!」

この子、本当に嘘がお好きなようで。

勇者?
父を倒すための精鋭?
この子が?
この子なら父は小指だけ使って戦っても勝てる気がする。

まぁ、憧れますよね。勇者とか、騎士とか。お年頃ですものねぇ。

っていうか、つくづく5歳っぽくない5歳だな。
口調だけは。

「…騙されない。」

僕は呻くような声で呟く。
その瞬間、試すためにちょっとだけ殺気を放出してみる。

その瞬間だった。

ユイは一気に後ろへ飛び退り、ユイの周りに護衛と思わしき男共が飛び出してくる。
なるほど、民間人に紛れ込んでいたのか。

それと同時にユイが反射なのか、投げナイフを飛ばしてくる。

僕はそのナイフを人差し指と中指で止める。

それが合図なのか、護衛が一斉に飛びかかってくる。

「……はぁ。」

やばい。とんだ誤解させちゃった。
なら、わざとやられるか?

いや、見たところ彼女はたしかに人間としては身体能力は高いな。
本当に勇者の可能性もある。
見破られるかもしれない。

僕は指に挟んだナイフを捨てながらアイテムボックスから剣と紐を取り出し、鞘と鍔を紐で縛る。

この時間、約1秒。

僕は鞘をつけたまま抜身の剣を持つ護衛を相手にする。

さて、表立った攻撃は出来ないな。
なら両手を上げて降参するか?
…それでもいいけど、それでこのお嬢さんの腹の虫が収まるかな?

ボコボコにやられるか?
嫌だな。
…痛いのは誰でもやだよね。

ユイを見るに、あれは完全に自分の獲物にふさわしいかいなかを確かめる鷹の眼だ。

僕は護衛と撃ち合いながらユイを観察してみる。
ユイは護衛の人から受け取った細いレイピアを構えている。
隙がない。
そんな彼女に僕は声をかけてみる。

「おーい、ユイ…。」
「…………。」
「ユーイー。」
「グルル…。」
「?ユイ、獣?」
「違うわよ!威嚇よ、威嚇!」
「でも、グルルって、威嚇は威嚇でも、獣の威嚇だった気がす…っ!」

僕は護衛の人が突進してきたのを慌てて避ける。

「ごめん、ちょっと、試した。」

と僕が言う。

「試すって何を?」

ユイの冷静な声が返ってくる。

「君が、勇者って話。僕は、それを試したかっただけなんだ。」

僕にとって父を狙う人間かどうかを確かめるのは大事なことだ。

なんたって僕の敵になりうる存在なんだから。

「僕にとって、勇者の存在は、大事な、案件なんだ。だから、ごめんね。殺気を…出しちゃって。」

僕が必死に訴えると、ユイは剣をおろしてくれた。

「下がってください。ありがとう。」

とユイは護衛に命じる。

「いえ。勇者様をお守りするのが我らの使命にございます。」

と言いながら下がる護衛の皆さん。
それを見ながら僕は笑う。

「ありがとう。」

ユイは優しく微笑む。

「私こそ、ごめんね。君がその気じゃないって太刀筋で分かってたのに本気になっちゃって…。でも君凄いよ!私の投げたナイフを受け止められたの、初めて!」

と叫びながら走り寄ってきて、僕の両手を握る。

「エールくん、私と魔王討伐のパーティ組んでよ!」
「…え?」

僕は口元を引つらせながら声を漏らした。

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  ーーーーーーーー

「おい、ヴェンティが居ないとはどういうことか。」

魔界を統べる魔王は激怒の最高潮にあった。

昨日のあの怒りが富士山だとすると、今の怒りはエベレストだ。

なので、魔王から吹き出てくる殺気はおされているようだが、バンバン漏れ出て、城内の者たち全てを緊張させていた。

「お父様…。」

リンファエーラが父の固く握りしめられた拳の上にその小さな手を乗せる。

「……ヴェンティエール様の机に置かれていた手紙がございます。こちらに。」

跪いている男のうちの一人がそう言って紙を渡してきた。

「僕の家族へ。

 急に家出してしまって申し訳ありません。しかし、これは僕の決断であります。
 僕がいるとどんどん魔界が悪くなっていく、そんな気がしたのです。しかし、僕は何があってもあなた方の味方です。これだけは覚えておいてくださると幸いです。

追伸

たまに風魔法でお手紙をお送りしますね!

       ヴァンティエールより」

魔王は息子の思いが詰まったその手紙を握りつぶした。

「ヴァンティの…馬鹿野郎……。うまく喋れないんじゃ、どこも上手くやっていけないよ…。」

魔王とその妻、そして娘は一斉に俯いた。

涙をこらえる顔を部下たちに見せないように。



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