Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

5-6.狂信者

 カーディナルは、オブラティオの子だった。神に授けられし捨て子である。マホ教の孤児院で育てられた。12歳のときに魔法の才を見出されて、読師レクターに抜擢された。聖書を読んで聞かせる仕事である。


 マホ教の聖書に、カーディナルは世界を見出した。魔法とは、神から授かりし恩恵。そしてマホ教は、人々に魔法を伝授することを、神より許されたゆいいつの組織。


 自分は捨てられたのではない。
 選ばれたのだ。


 そう思うことで、オブラティオを肯定的に受け止めることができた。親の愛情に飢えていた。その飢餓を、マホ教への忠誠心で埋めていった。


 マホ教は神より選ばれし組織。そのトップに立つ教皇さまはゼッタイ。逆らう者は、どんな手段を使ってでも排除する。


「この邪教徒どもがッ」


 アリルの剣を、カーディナルはペンチで受け止めた。そして魔法弾マジック・バレットを撃ちつける。青白い魔法の弾だ。


 アリルに直撃する。


 打撃系にたいして強い布の鎧クロス・アーマーが緩和したようだが、アリルは石室の壁に背中を打ちつけていた。


 シュパッ――


 矢が飛んでくる。
 ピピの矢だ。


魔防壁シールド


 青白い魔法陣を展開すると、半透明の膜が張られた。矢は簡単にはじくことが出来た。


「愚かな者たちです。大人しくマホ教を信仰せよ。偉大なる神々に逆らうとは、愚者のおこないなり」


「うるさい!」
 アリルがふたたび剣を構える。


「あなたたちに勝機はありません。あなたたちはFランク冒険者。私はマホ教の枢機卿として取り立てられるぐらいの魔力を持っているのですから」


 マホ教は、魔力の強い者こそが重宝される傾向にある。


「レイは返してもらうわ」
「ふんっ」
 と、カーディナルは鼻を鳴らした。


 ふと後ろに目を向ける。壁に張り付けたレイがいる。殺してはいけない。まだ生きているはずだ。とはいえ、精神が正常であるかはわからない。


 魔王ドヴォルハイドだと感じた。たとえ違っても、それ相応のチカラがあるところをカーディナルは見ている。しかし、レイは抵抗しなかった。魔法で拷問から脱するぐらいのことは出来たはずである。奇妙な存在だ。


 なににせよ――。


 レイが赤黒い魔法陣によって、魔法を発現するところは見ている。あれは魔界ゲヘナの者による魔法だ。どこで学んだのか、どうやって習得したのか、まだまだ拷問の余地はある。


「うおおぉッ」


 レイに意識を奪われていた。その間隙に、アリルが斬りかかってきた。少し油断しすぎていた。法衣を浅く斬られた。こんな者たちに、枢機卿の法衣を斬られた。そのことに怒りをおぼえた。


「よくも!」
 ペンチでアリルの剣の刀身を受け止める。そして奪い取った。


 アリルの頬を殴りつける。床に倒れたアリルの手に向かって、剣を突き刺した。


「ぐあぁぁぁッ!」
 と、アリルが絶叫をあげた。


 仮面の奥でカーディナルはほくそ笑んだ。他人が痛みにのた打ち回るさまは、見ていると喜悦が走る。特に相手が女性であれば、性的興奮がともなう。


「マホ教に逆らったのだ。セッカクだからユックリと遊んでやろう」


 床に倒れているアリルをナめ回すように視姦した。冒険者のくせにキレイなブロンドの髪をしている。青い双眸は凛然と輝きを放っている。まるでビー玉のようだ。女としてはまだ萌芽していないが、充分に汚しがいのあるカラダだった。


「陵遅の刑にでも処するか。マホ教を冒涜したその口に、苦悩の梨でも詰め込んでやろうか」


 剣でアリルの手や顔を薄く切りつけていくたびに、アリルは悲鳴をあげた。その悲鳴に、カーディナルは恍惚となっていた。ピピが矢を撃っても、魔防壁シールドで簡単に跳ね返すことが出来る。


 バキ――ッ


 と、カーディナルの恍惚を破る音が響いた。振り向く。瞠目する。信じられないことが起きていた。壁に張り付けるようにして拘束していたはずのレイが、その拘束を引っぺがしていたのだ。


 壁から伸びている手錠が、壁ごと引きちぎられていた。石壁の一部が崩れている。レイの腕には手錠がかけられたままになっていた。


 拷問によって潰れていたはずの顔が、みるみるうちに戻っていく。まるでスライムのような変形具合だった。


「なに!」


 レイの全身には、黒々とした魔力が立ち上っていた。魔術師であるカーディナルには、それが異様な魔力であることがわかった。全身の肌を小さな針で突き刺すかのような魔力だった。


 あの時――。
 クローレルの森で感じた魔力と同じものだ。


「あなたは何者なのですか。やはり魔王ドヴォルハイド……」


 ならばなぜ、拷問のさいにそのチカラを発揮しなかったのか。おかげで、教皇に見せることが出来なかった。


 レイは魔王ドヴォルハイドではない――と断定して教皇は立ち去ってしまったのだ。



 レイが歩み寄ってくる。
 カーディナルは、それに合わせて後ずさった。


 カーディナル自身の魔法では太刀打ちできないことは明白だった。


 しかし、魔王ドヴォルハイドを相手にすることは想定して来ている。それ相応の準備はしてあった。


 懐より取り出した、召喚結晶。


 マホ教の持つマジック・アイテムだ。光の神セフィラルの魔力をもとにしてつくられている。いったいどこから神の魔法を用意してくるのか、カーディナルにはわからない。教皇から渡されたものだ。


 正8面体形をしており、チョウド手におさまるぐらいの大きさだ。こんな手のひらにおさまる物体のなかに、神の魔力が込められているのかと思うと、不思議でならない。


「光の神セフィラルの子よ。矛盾をただし、欺瞞のなき我が正道に光を。世の理不尽を撃ち砕き、邪悪なる者たちに裁きをくだしたまえ!」


 手の中に召喚結晶が、白きかがやきを放った。人型の白い翼の生えた人物が召喚された。天使。かつて神話の時代には、神が私兵として持っていた軍隊とされている。その白き翼のかがやきに見惚れた。


「魔王ドヴォルハイドと、光の神セフィラルの天使。さて、どういった戦いがされるのか見物ですね」


「このオレに、天使をブツけてくるとはな。浅はかなことよ」 
 レイがしゃべった。


 その声は、レイの声色であったが、どことなくレイ・アーロンとはマッタクの別人がしゃべっているようにも聞こえた。


「強がってもムダですよ。これは光の神セフィラルの魔力による生み出された天使です。まごうことなく神の使い。人のチカラでは太刀打ちできません」


「オレと対等に戦いたいのならば、せめてセフィラル自身を連れてくることだ」


「大口をたたくなッ。我らが崇拝する神々を貶すことは、ゼッタイに許さんッ」


 やれッ――とカーディナルが言う。


 白き翼を生やした天使の手には、純白の剣が握られていた。レイに斬りかかる。レイは魔法陣を展開すると、その手に赤黒い魔法剣をにぎった。


 天使が剣を上段からふりおろす。レイが魔法剣でそれを受け流す。


 カツン――ッ
 剣と剣が衝突する音がひびいた。


 天使の剣が引かれると今度は、刺突を放った。この地下室の石壁に亀裂を与えるほどの突風を起こす刺突だった。その剣を、レイは魔法剣で上から叩き伏せた。天使の剣先がぶれる。


 つばぜり合い。
 なぎ払い。
 右八双斬り下ろし。
 そしてつばぜり合い。
 一閃に一閃。


 もはやカーディナルの目には追いつかない剣戟であった。剣と剣の交わる速度が、あまりに早いのだ。片手剣術とは思えない天使の手数にたいして、レイの魔法剣による受け流しも見事であった。カーディナルの目には、剣の放つ光流だけが見えていた。斬って受けての繰り返しである。


 良い戦いだ――と思ったのも束の間。


「つまらんな。神話の時代に比べると、この程度の相手しかおらんとはな」


 そう言うと、レイは魔法陣を展開した。


 あの魔法だ。
 赤黒い魔法陣。


 魔法陣からは巨大な蛇が生えてきて、天使のことをかみ砕いてしまった。天使が食いちぎられてゆき、光の粉となって霧散していった。


「バカな……」
 と、カーディナルはシリモチをついた。


 光の神セフィラルの魔力によって生み出された天使を、易々と屠ってしまった。人間業ではない。
 崇拝するべき神のチカラが打ち砕かれたことに、カーディナルは絶望すらおぼえた。


「オレの仲間を傷つけた礼をしなくてはな。枢機卿カーディナル」


 天使の名残である、白き翼が空中にただよっていた。その翼のなかを歩いてきた。白き翼が黒く染まって、まるで灰のように散って行く。


「貴様。やはりレイ・アーロンなどという人間ではないな。貴様はやはり魔王ドヴォルハイドだな!」


 レイがほくそ笑んだ。
 その笑みは、とても人間の浮かべるものには見えなかった。
 そして、うやうやしく頭を下げる。


「はじめまして。マホ教枢機卿のカーディナル卿。我が名はドヴォルハイド。地獄の底より蘇りし魔界ゲヘナの王だ。そして、さようならだ」


 魔法剣が、カーディナルの首を刎ねた。自分の首が斬られたという感触がなかった。なぜか視界がくらむ。


 かつて人類を滅亡に陥れようとした魔王ドヴォルハイドが復活した――。教皇に報せなくてはならない。


 やはりレイ・アーロンが、魔王ドヴォルハイドであったのだ!


 カラダが動かない。意識もモウロウとしてゆく。ユックリとまぶたを閉ざした。不思議と気持ちは安らかだ。


 カーディナルのまぶたの裏には、見たこともない両親の姿があった。自分は神ではなく、人間によって生み落とされた存在なのだと思いだして、カーディナルは息絶えた。

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