Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

4-8.結婚

「レイ・アーロンをピピの婿どのとしてむかえいれることは出来ないか?」
 ダダダの言葉が耳朶をうった。殴られたような衝撃をおぼえた。


 また――だ。
 記憶をなくしてぶっ倒れていたらしい。


 気づいたときには、葉っぱで編み込まれたベッドに寝かされていた。目が覚めはじめたころ、「婿どの」という言葉が聞こえて、いっきに目が覚めたのだった。


「ワッチには異論はないぞ。人とエルフでは、少々、年齢に差があるが、コワッパを婿どのにむかえるのは悪ぅない」
 と、ピピが人を食ったような顔をしてそう言っているのが見えた。


 上体を起こす。


 周囲の状況を確認するところからはじめた。記憶をなくしたときには、まずイチバンに周囲の状況確認から入る癖がついている。なんだか、記憶をうしなうことに慣れてきてしまっている。


 どうやらオレは、依然としてエルフの森にいるようだった。イフリートによって燃え上がっていたはずの森は緑を取り戻していた。ところどころに黒く焦げた場所が見受けられた。倒れてしまっている木もある。まだ、焦げ臭い。それでも、戦場の気配は吹き消えていた。


 多くのエルフたちが輪をつくって座っていた。寝かされているオレの近くには、アリルとノウノとピピの3人がいた。ダダダの筋肉質な背中も見える。どうやらオレはエルフのつくった輪の中央で寝かされているらしい。


「おう。目が覚めたか。レイどの」
 と、ダダダが満面の笑みで言った。


「すみません。眠ってしまっていたようで」


 輪をつくって座っているエルフたちの視線が、全方位からオレに向けられている。これほどの視線のなかで、眠っていたのかと思うと気恥ずかしい。


「いや。謝ることはない。あれだけの活躍をしたのじゃ。むしろエルフの森を救っていただいたことに、こちらから感謝せねばならん」
 と、ダダダはアグラをかいたまま、深々と頭を下げた。長く伸びていたはずのアゴヒゲが、チリチリと丸まってしまっている。燃えたのだろう。


「えっと……」
 助けを求めるようにアリルたちを見た。アリルたちは、何をどう受け取ったのか何度もうなずいていた。


「しかし驚いた。Fランク冒険者でありながら、あれほどの魔法を行使することが出来るとは。まさに神業。このヴェルワールドの大陸全土に、名をとどろかせても不思議ではないチカラじゃった」


「あ、いや、あのチカラは、オレの実力というわけではなくてですね」


 自分の知らぬところで、勝手に行使されるものなのだ。しかし、それをどう説明すれば良いかわからなかった。


 ダダダは豪快に笑った。


「あれだけのチカラを持っておきながら、謙遜などすることはないじゃろう」


「謙遜というわけでは……」
 と、オレの言葉は尻すぼみになる。


「そこで、どうだろうか? 貴君には是非、我がエルフの森を守る同志になっていただきたいのじゃ。率直に言えば、ピピの婿になってはもらえぬじゃろうか? ピピが厭ならば、次子のニニでも構わん。本人たちも合意しておる」


 ニニと呼ばれたエルフは、ダダダの次子――つまりはピピの妹ということになるらしい。ピピはその面立ちに大人びた色気があるが、ピピをさらに幼くした風貌をしていた。ニニと目が合う。ニニは顔を赤くして、うつむいてしまった。


 結婚。


 まだオレは意識をうしなっていて、実は夢のなかにいるんじゃないかと思った。結婚という祭典は、それほどまでにオレとは無縁なものだった。


「セッカクの申し入れですが、オレは冒険者として、やって行きたいと思っています。いずれはSランクの冒険者になりたいという夢があります。ですから、結婚というのは、まだチョット考えられないというか」


 すみません――と付け加えた。


「それは残念。しかし、それだけの実力があるならば、Sランクも夢ではなかろう。むしろ、なにゆえFランク冒険者の証を身につけているのかが不思議でならないのじゃが」
 と、ダダダはチリチリに丸まったアゴヒゲをナでつけていた。


「このチカラは、自在に使えるものではないんです」


「強すぎるあまり、制御は難しいということか」


 いや。
 チョット違う気がする。
 しかし、説明するのも難儀なので、
「そんなところです」
 と、曖昧に応じておいた。


「そのチカラを自在に使えるようになるため、修行の身ということであるか。それは感心。ならば、今すぐにとは言わん。将来的にも、ピピかニニとの縁談をかんがえていてもらいたい」


 その迫力に気圧されて、
「は、はい」
 と、つい、うなずいてしまった。


 まぁ、無碍に断るのもそれはそれで失礼だろうから、他に返答のしようもない。


「今日はユックリして行かれよ。この森を守った武勲は、まぎれもなくレイどのにある。このエルフ王の都で出来るかぎりの歓迎をいたす」


「死者の弔いや、ケガ人の手当などは?」


「エルフには治癒ヒールの魔法を使える者もいる。しかし、レイどのが心配することではない。それはエルフの問題だ。さすがにこれ以上、婿どのに甘えるわけにもいかん。それが義であろう」


 なぜかもう、婿呼ばわりである。


「ありがとうございます」


 意識を失っていたせいで、自分が助けたという実感がなかった。そのせいか、妙に過大評価を受けている気がする。


 でも……と思う。
 今度は、いつもと違っていた。


 モウロウとした意識の奥に、うっすらとイフリートを粉砕する場面が生きていた。記憶はあるが、どうも夢を見ていたという感がぬぐえない。それでもまぎれもなく、オレ自身が戦ったのだ。


 いったいあのチカラは何なのか。


 今のオレには、発現できぬチカラであることに変わりはない。それどころか、イフリートと戦った自分と、今の自分がマッタクの別人である気すらする。


「婿どの」
 と、耳元でささやきかけられた。
 ピピだ。
 急に甘い吐息を吹きかけられて、背筋がぞくっとした。


「まだ婿になるって決まったわけじゃないよ」


「コワッパがワッチの婿になれば、将来はノンビリ暮らせるに違いない。婿どのは冒険者として名を馳せて大金を稼ぐこと間違いないからの。ワッチに楽させてくりゃれ?」
 と、ピピは甘えるように、しなだれかかってきた。


 まるでオレとピピが結婚することが決定したかのように、エルフたちは囃し立てていた。

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