Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

4-6.イフリート

 グラ――――っ


 家屋が揺れた。棚に置かれていた水栽培の植物が、そのひょうしにいくつか倒れて、水をコボしていた。


 外。


 窓からのぞくと、ちょうどエルフたちの住まう家々の真ん中あたりに、黒々とした門が生えていた。トビラが生えるというのは変かもしれないが、事実、まるで地中から生えるようにして現われるのだ。


 大きい。上枠である尖塔アーチが、木の上にいるはずのオレたちと同じ目線にあった。蝶番だけでも、人間の胴よりも太いかもしれない。その蝶番がきしむ音が、不気味に鳴りひびいた。


「もうはじまりおったか。しかも、こんな都の真っただ中に出てきおって」
 と、ダダダははじかれたように立ち上がった。


「私たちも何か手伝いましょうか」
 と、アリルが言う。


「いや。けっこう、お前たちはピピの身柄を頼む」
 と、言いのこして、ダダダは出て行った。


 窓から外の様子をうかがう。ピピとアリルとノウノも気になるようで、みんなで頬を押し付け合うようなカッコウになった。


 開いた門から、モンスターたちがあふれ出てくる。ゴブリンやオークやオーガといった面々だった。


 エルフたちは木々の上から、矢を放っていた。雨のように矢が、モンスターたちに降り注ぐ。緑色の肉体に、鏃が突き刺さってゆく。10匹、20匹……と、モンスターたちが倒れていった。


「さすが、冒険者を追い返すだけのことはあるな」
 と、オレはつぶやいた。


「エルフは、神話の時代に、森の神シルフィルドより、森番を任せられた民と言われておる。他者から森の恵みを守ろうとする任務がある。そのため、多種族にたいして排他的になるんじゃがな。しかし、森を守るその腕はホンモノじゃ」
 と、ピピが誇らしげに言った。


 エルフたちの技能はなにも弓術だけではないようだ。地上にいるエルフたちは剣を手にして、オーガたちを圧倒していた。


 モンスターの死体が積み重なってゆく。この様子だとオレたちの出番もないだろうな……と安心していた。


 しかし。
 さらなる巨大なモンスターが姿をあらわした。炎をまとうゴーレムだった。雨のようにふりそそぐ矢を、その岩石のカラダで弾きとばしている。


「あれって、イフリートじゃない?」
 と、アリルが言う。


「イフリート?」
 と、オレは問うた。


「ミノタウロスと同じくS級相当のモンスターよ。また厄介なのが出てきたわね」


 イフリートがその巨体をノソリノソリと動かして、森のなかへと進んでくる。そうかと思うと、口をパカリと開いた。まるでドラゴンのような顔をしていた。その口から吹き出る猛火によって、木々が燃え上がった。


「なッ。エルフの森が……」
 と、ピピが声をあげた。


 周囲の木々がたちまち火柱へとなってゆく。燃え上がった炎は、木の上にある家々まで包んでいった。桟橋が崩れ落ちて行く。なかには、木から落ちて行くエルフの姿も見受けられた。


「オレたちも、ここから出たほうが良いかもしれない」
「そうね」


 いつ火に包まれるかわからない。


 家を出る。
 思ったよりも早く火が燃え移っていたようだ。すでにこの木の足元にも火がついていた。燃え移るというよりも、イフリートがところかまわず、炎を吐き散らしているのだ。


 燃え上がってはいるが、まだ落ちずに持ちこたえている桟橋の向こうに、ダダダの姿があった。ロングボウさえも超える長大な弓を構えていた。槍のように太い矢がつがえられている。ダダダはその弓を引き絞っていた。精悍な筋肉が汗と炎によってかがやいていた。それだけの筋力があるからこそ引き絞ることのできる弓だろう。


「森の神シルフィルドよりあずかりし、この森を燃やすとは、愚劣なるモンスターめッ。我が義の一矢を受けるが良い!」


 槍のような太さの矢が放たれた。その一矢は空気を巻きこんでゆき、小さな竜巻のようにも見えた。矢。イフリートの肩にささる。無数に放たれる矢なかで、ゆいいつイフリートの岩肌に亀裂をいれた一矢となった。


 イフリートが苦しげに悶えていた。岩のような身体をしているが、いちおう痛みは感じるようだ。


 イフリートが暴れると、その振動がオレたちの足場となっている木も同時に揺れた。木から落っこちそうになる。その場に座りこんだ。


 ダダダは2射目の準備にとりかかっていた。


 エルフの者が槍のような矢を、ダダダに渡していた。ダダダは手際よく、ふたたび矢をつがえる。カラダ中の筋肉も一緒にギュッとひきしぼられているかのようだった。


 シュパッ


 2射目が放たれる。


 しかし今度はイフリートもやられっぱなしではなかった。その暴風のような矢めがけて、炎を吹きつけた。よく見るとただの炎ではなかった。炎をまとった岩の塊である。


 岩の塊と矢が空中で衝突した。その衝突がほんの数秒拮抗したかに見えた。矢が岩を貫くかと思った。しかし、翼のような矢羽が燃え上がり、岩を貫通することはなかった。岩はそのまま、ダダダのもとへと飛来してくる。


「うおッ」
 とダダダはあわてて躱していたが、木から落っこちそうになっていた。もはや地は火の海と化していた。


 イフリートを先頭にして、ゴブリンたちがふたたび侵攻をつづけている。地に落ちたエルフたちが、ゴブリンに食われている姿が見えて、胸が痛んだ。


「御客人がた」
 と、不意にすぐ近くで声がかかった。
 ダダダに魅入っていたため、人の接近に気付かなかった。男性のエルフだった。


「なんでしょうか?」
 と、アリルが応えている。


「エルフ王からのご命令を受けてまいりました。御客人がたとピピさまを無事に、この森から逃がすように――と」


「父はどうするのじゃ」
 と、ピピが鋭い声音でたずねる。ピピの口からこれほど切羽詰まったような声が出るのを、はじめて耳にした。


「あのモンスター相手に、エルフの森は長くは持ちません。弱点を突かれたと言ったところでしょう」
 と、エルフはかぶりを振った。


 ダダダは炎につつまれながらも、さらに3射目の準備にとりかかっていた。


「じゃから、父上はどうするのかと聞いておるッ」
 と、ピピが怒鳴った。


 その怒声に、ピピの父にたいする気持ちが込められているように感じた。追放されたからと言って、親を憎んでいるわけではないようだ。ノウノとは違うところだ。50年も怠けていたと言うから、追放される自覚はあったのかもしれない。


「エルフ王は、義をマットウするとのことです」


 詳しい意味はわからなかったが、逃げるつもりはないということだけは理解できた。ダダダが3射目を放っているところが見えた。しかし、周囲の炎によって矢羽を焼かれてしまっているようで、思うように矢が飛ばなかったようだ。イフリートに当たりさえしていなかった。


「レイ……」
 と、ピピがそっとオレの手をにぎってきた。


 チカラを貸して欲しい。そう頼られているのだとわかった。むろん、助けたいと思う。しかし思うように、チカラを発揮することが出来ないのだ。


(オレのなかに眠る魔術師としてのチカラ……)


 なぜ、オレはそのチカラを思うように使うことが出来ないのか。もし自在に使うことが出来たのなら、とっくに手助けをしている。


 隔靴掻痒の思いがふくらみ、自分への業腹となった。


 まだ出会って数日も経っていないが、ピピは大切な仲間だ。オレにとって、はじめて出来たパーティだ。その仲間の故郷が焼かれて、父親が死のうとしている。いまこそチカラを使うときだろう。


(魔法。発動しろ、発動しろッ)

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