Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
4-5.勘当の理由
一本の巨木から、縄梯子がおろされていた。それをのぼって行く。ダダダは、縄梯子を使うことなく器用に木の節や枝をつかんで上って行った。猿のように軽快な身のこなしである。
オレが縄梯子を上りきったさいには、ひたいから汗がだらだらと流れていた。オレが先頭だった。アリルを引き上げて、さらに次から上ってくるノウノとピピも引き上げた。
木の枝を土台にして、その上に木の板が広げられている。そして木の板の上に家が建てられているというカッコウだ。家そのものが、巨木になっている大きな実にも見えた。
その家に招かれた。
家のなかに入ると、よりいっそう木のにおいが強く香った。
木によってつくられた棚の上には、水の入った瓶がいくつも置かれていた。そこに蔓性植物やらハーブなどがいろいろと挿されていた。どうやら色んな植物を水栽培しているらしい。
家のなかだというのに、森のなかにいるのと変わりないほど鬱蒼としている。
「やっぱり我が家は落ちつくのぉ」
と、ピピは床にゴロンと寝転がった。
「呆れたわ。チッとは成長したかと思うたが、相変わらずその怠け癖は変わっておらんようじゃな」
と、ダダダがホントウに呆れたように言った。厳しい表情をしていたが、そのエメラルドグリーンの瞳には、親の愛情がやどっているようにも見えた。
そのダダダが不意に表情をひきしめて、オレたちに向けてきた。
「とりあえず、うちのピピが世話になっている礼を言う」
「いえ。私たちも、ピピには助けられてますから」
と、アリルが代表しておうじていた。
「たしか『黄金のたまご』とか言ったか。まずは『新狩祭』の優勝におめでとうと言っておこう」
「よくご存知で」
「ワシも人の親じゃからな。いくら追い出したとはいえ、無責任に放り出したわけではない」
と、ダダダはほんの少しだけ照れ臭そうに言った。
ピピのことを心配していた――ということだろう。
「どうして他の冒険者は追い返したのに、私たちを招き入れてくれたのですか?」
「簡単なことじゃ。自分の手柄をあげたいがために、エルフの都に踏み入ろうとする者など用はない。しかし、貴様らは違う。ピピの助けとして来たのならば、この地に足を踏み入れる義がある。仲間の故郷を助けたいという気持ちは、文句なき正義である」
とのことだった。
その言葉の意味は、なんとなくわかる気がする。冒険者たちも何も自分たちのことしか考えずに、やって来たわけではないだろう。仕事だから来ているのだ。しかし、特別な正義をもっていないのなら、わざわざ来るな――とダダダは言いたいのだろう。
そういった、細かいところが気になる男なのかもしれない。あるいは、人をまとめる王だからこその視点なのかもしれない。
気難しそうな人だという印象をうけた。
「魔界の開門が、この辺りで起きると予測されています」
「であろうな。森の動物がなにやら落ち着かぬようじゃ。我らはそういったところから、異変を察する」
「ならば、冒険者の手を借りるのも、ひとつの手だったのではありませんか?」
アリルが言うと、ダダダはすこし笑った。
「エルフとて無力ではない。これまで何度か魔界開門はあったが、迎撃しておる。助けは必要ない。貴様たちをエルフの森に通したが、協力を求めているわけではない。我らの戦いを見ているだけで良い」
「そうですか……」
エルフたちが自力でどうにか出来るというのなら、それは喜ばしいことだった。だが、わざわざ脚を運んだのが徒労になりそうなのは残念でもある。
茶が運ばれてきた。
土を焼いてつくったコップに、葉っぱが浮いていた。飲めるんだろうかと不安に思った。口をつけてみると、意外と甘くておいしかった。ノドが渇いていた。いっきに飲み干した。
「しかし、『新狩祭』を優勝するとは思わなんだ。ピピは冒険者として役に立っておるか? もし役に立てないようであれば、容赦なく追放してくれればよろしい」
そりゃ酷いじゃろう、とピピが口をはさんでいた。
やかましい、と一言のもとに言い伏せられていた。
そのヤリトリのテンポが良くて、さすが親子だなと感じた。
「すこし怠け癖があるところが難儀なところですが、ピピは大切な戦力です。役に立ってくれています」
と、アリルは言った。
オレも忘れてはいない。
『新狩祭』のときにゴルゴンにバカにされているアリルを、ピピはその矢で牽制していた。そしてオレ自身も、ゴブリンに襲われたさいに、ピピに助けてもらっている。腕は良いのだろう。
「マッタク。そのヤル気を森にいるあいだに起こしていれば、エルフの森から追い出すことはなかったものを」
と、ダダダは舌打ちをした。
ダダダはアグラをかいて座っていたのだが、何度か細かく座り直していたから、たぶん、娘の活躍をうれしく思っているのだろう。
「立ち入ったことかもしれませんが、どうしてピピを追い出したのですか? 追い出すというのは、あまりに強引という気がしないでもないのですが」
いちおうアリルも、パーティを追い出された身であるから、何か思うところがあったのかもしれない。そう言えばノウノも、マホ教から追い出された身である。このパーティは、追い出された者たちばかりで構成されているな、と思った。オレには追い出された経験などないが。
ふむ――とダダダは気難しそうなため息を吐いてからつづけた。
「この娘は、長子なんじゃ。エルフは女であろうと男であろうと、長子が王家を継ぐことになっておる。しかしピピの怠け者は、森のなかでも有名でな。トテモではないが王位にふさわしい義があるとは思えん。修行をさせるという意味も込めて、追い出した。たくましくなれば連れ戻し、怠け者であれば次子に王位をつがせることもできるからな」
どうやらノウノのように、理不尽に追い出されたわけではなさそうだ。ピピもこうして気安く故郷に戻って来られるということは、勘当されたというほどのものではないのだろう。
王位継承権のある者を追い出すというのは、人間社会から考えれば、なかなかないことだとは思う。
人間の王子ならば、何人もの傅役に見守られて育つのだろう。自由に城下町にすら行けないと聞く。エルフにはエルフなりのやり方があると見るべきか。
王座をめぐって親兄弟のあいだで、血を血で洗うような闘争になることは珍しくもない。本人にその気がなくても、権力を得ようとする者が、王位継承権のある者を擁立することだってある。そういった血なまぐさい闘争に巻き込まれないことを考えれば、追い出すというのも、ひとつの手なのかもしれない。
「ワッチは王位なんか継ぐ気はありゃせん。将来はスローライフを過ごすんじゃから。追い出してくれてなによりじゃわ」
と、ピピも言い返している。
ダダダは、ため息とともに頭をかかえていた。
オレが縄梯子を上りきったさいには、ひたいから汗がだらだらと流れていた。オレが先頭だった。アリルを引き上げて、さらに次から上ってくるノウノとピピも引き上げた。
木の枝を土台にして、その上に木の板が広げられている。そして木の板の上に家が建てられているというカッコウだ。家そのものが、巨木になっている大きな実にも見えた。
その家に招かれた。
家のなかに入ると、よりいっそう木のにおいが強く香った。
木によってつくられた棚の上には、水の入った瓶がいくつも置かれていた。そこに蔓性植物やらハーブなどがいろいろと挿されていた。どうやら色んな植物を水栽培しているらしい。
家のなかだというのに、森のなかにいるのと変わりないほど鬱蒼としている。
「やっぱり我が家は落ちつくのぉ」
と、ピピは床にゴロンと寝転がった。
「呆れたわ。チッとは成長したかと思うたが、相変わらずその怠け癖は変わっておらんようじゃな」
と、ダダダがホントウに呆れたように言った。厳しい表情をしていたが、そのエメラルドグリーンの瞳には、親の愛情がやどっているようにも見えた。
そのダダダが不意に表情をひきしめて、オレたちに向けてきた。
「とりあえず、うちのピピが世話になっている礼を言う」
「いえ。私たちも、ピピには助けられてますから」
と、アリルが代表しておうじていた。
「たしか『黄金のたまご』とか言ったか。まずは『新狩祭』の優勝におめでとうと言っておこう」
「よくご存知で」
「ワシも人の親じゃからな。いくら追い出したとはいえ、無責任に放り出したわけではない」
と、ダダダはほんの少しだけ照れ臭そうに言った。
ピピのことを心配していた――ということだろう。
「どうして他の冒険者は追い返したのに、私たちを招き入れてくれたのですか?」
「簡単なことじゃ。自分の手柄をあげたいがために、エルフの都に踏み入ろうとする者など用はない。しかし、貴様らは違う。ピピの助けとして来たのならば、この地に足を踏み入れる義がある。仲間の故郷を助けたいという気持ちは、文句なき正義である」
とのことだった。
その言葉の意味は、なんとなくわかる気がする。冒険者たちも何も自分たちのことしか考えずに、やって来たわけではないだろう。仕事だから来ているのだ。しかし、特別な正義をもっていないのなら、わざわざ来るな――とダダダは言いたいのだろう。
そういった、細かいところが気になる男なのかもしれない。あるいは、人をまとめる王だからこその視点なのかもしれない。
気難しそうな人だという印象をうけた。
「魔界の開門が、この辺りで起きると予測されています」
「であろうな。森の動物がなにやら落ち着かぬようじゃ。我らはそういったところから、異変を察する」
「ならば、冒険者の手を借りるのも、ひとつの手だったのではありませんか?」
アリルが言うと、ダダダはすこし笑った。
「エルフとて無力ではない。これまで何度か魔界開門はあったが、迎撃しておる。助けは必要ない。貴様たちをエルフの森に通したが、協力を求めているわけではない。我らの戦いを見ているだけで良い」
「そうですか……」
エルフたちが自力でどうにか出来るというのなら、それは喜ばしいことだった。だが、わざわざ脚を運んだのが徒労になりそうなのは残念でもある。
茶が運ばれてきた。
土を焼いてつくったコップに、葉っぱが浮いていた。飲めるんだろうかと不安に思った。口をつけてみると、意外と甘くておいしかった。ノドが渇いていた。いっきに飲み干した。
「しかし、『新狩祭』を優勝するとは思わなんだ。ピピは冒険者として役に立っておるか? もし役に立てないようであれば、容赦なく追放してくれればよろしい」
そりゃ酷いじゃろう、とピピが口をはさんでいた。
やかましい、と一言のもとに言い伏せられていた。
そのヤリトリのテンポが良くて、さすが親子だなと感じた。
「すこし怠け癖があるところが難儀なところですが、ピピは大切な戦力です。役に立ってくれています」
と、アリルは言った。
オレも忘れてはいない。
『新狩祭』のときにゴルゴンにバカにされているアリルを、ピピはその矢で牽制していた。そしてオレ自身も、ゴブリンに襲われたさいに、ピピに助けてもらっている。腕は良いのだろう。
「マッタク。そのヤル気を森にいるあいだに起こしていれば、エルフの森から追い出すことはなかったものを」
と、ダダダは舌打ちをした。
ダダダはアグラをかいて座っていたのだが、何度か細かく座り直していたから、たぶん、娘の活躍をうれしく思っているのだろう。
「立ち入ったことかもしれませんが、どうしてピピを追い出したのですか? 追い出すというのは、あまりに強引という気がしないでもないのですが」
いちおうアリルも、パーティを追い出された身であるから、何か思うところがあったのかもしれない。そう言えばノウノも、マホ教から追い出された身である。このパーティは、追い出された者たちばかりで構成されているな、と思った。オレには追い出された経験などないが。
ふむ――とダダダは気難しそうなため息を吐いてからつづけた。
「この娘は、長子なんじゃ。エルフは女であろうと男であろうと、長子が王家を継ぐことになっておる。しかしピピの怠け者は、森のなかでも有名でな。トテモではないが王位にふさわしい義があるとは思えん。修行をさせるという意味も込めて、追い出した。たくましくなれば連れ戻し、怠け者であれば次子に王位をつがせることもできるからな」
どうやらノウノのように、理不尽に追い出されたわけではなさそうだ。ピピもこうして気安く故郷に戻って来られるということは、勘当されたというほどのものではないのだろう。
王位継承権のある者を追い出すというのは、人間社会から考えれば、なかなかないことだとは思う。
人間の王子ならば、何人もの傅役に見守られて育つのだろう。自由に城下町にすら行けないと聞く。エルフにはエルフなりのやり方があると見るべきか。
王座をめぐって親兄弟のあいだで、血を血で洗うような闘争になることは珍しくもない。本人にその気がなくても、権力を得ようとする者が、王位継承権のある者を擁立することだってある。そういった血なまぐさい闘争に巻き込まれないことを考えれば、追い出すというのも、ひとつの手なのかもしれない。
「ワッチは王位なんか継ぐ気はありゃせん。将来はスローライフを過ごすんじゃから。追い出してくれてなによりじゃわ」
と、ピピも言い返している。
ダダダは、ため息とともに頭をかかえていた。
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