Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
4-1.宿
翌朝。
目を覚まして、周囲を見渡した。
アリルもノウノもピピもまだ、眠っていた。『新狩祭』での優勝がよほどうれしかったようで、遅くまで起きていたようだ。
オレは普段、宿をとるといっても、木賃宿の大広間で雑魚寝をするていどだった。ときおりマホ教の教会を頼ることもあった。
今日は違った。
『新狩祭』の優勝金があったので、個室をとったのだ。ベッドはないが、窓のある良い部屋だった。
窓からは、朝日がもぐりこんでいる。
(うーん)
と、他3人を起こさぬように伸びをした。
宿で個室をとるなんてはじめてのことだった。物品を盗まれる心配もなければ、目を覚ましたときに男たちの毛むくじゃらの脚が、胸に乗っているなんてこともない。
むしろ――。
と、他3人を見渡した。
3人とも薄いシャツを着ているだけで、肩や胸元をあらわにしていた。男のオレをマッタク意識していないのか、あるいは昨日の興奮によってもたらされた光景かもしれない。
直視するのも気恥ずかしいのだが、目を奪われずにはいられない。別に誰に咎められるわけでもないのだし……と不埒な思いにながされた。
3人のなかではノウノがイチバン肌が白かった。白銀色の髪ともあいまって儚げな印象をおぼえる。腕や脚も細い。チョット心配になるぐらいだが、昨晩の食べっぷりを思い出すところ、無用の懸念であろう。
つづいて目を奪われたのは、ピピである。ピピは葉っぱでつくられた胸当てと腰巻をしているだけだった。その葉っぱは、いったいどういう材質なのかわからないのだが、何かの間違いで破れたり脱げたりしてしまいそうだ。肌はどちらかと言うと褐色肌に近く、髪は森を思わせる緑色だ。髪のあいまからは、長い耳がだらりと伸びている。
これで80歳なんだもんなぁ。
と、その幼児体型に感心してしまう。
で――。
最後に目を移したのはアリルだった。
アリルは寝相によるものか、豪快に脚を広げていた。腕も脚も少女と言うには筋肉質だった。ブロンドの髪を短く切ってあるが、すこし伸ばすと気品すらある美女となるかもしれない。アリルの素肌は、昨日に見てしまったアリルの裸体を彷彿とさせてしまう。
さすがに照れ臭くなってきた。
しかしそれよりも、オレを悩ませるのは3女の香だった。甘ったるいような、水っぽいような芳香が部屋に満ちているのだ。
まぎれもなく3人の少女から発散される、女の香にちがいなかった。一晩シッカリと熟成されたことによって、よりいっそう濃厚な匂いになっていた。
気が変になってしまいそうだったので、窓を開けることにした。朝の澄み切った風が心地良かった。
ここ数年ほど味わったことのない幸せのなかにいるような気がした。女に囲まれているからといった、そういった単純なものではなく、自分にもようやく仲間を得ることが出来たのだという感慨だった。ともに『新狩祭』という大きなイベントを乗り越えた仲間なのだ。
しかし、はたしてその幸せを享受する資格が、自分にあるのかどうかを怪しく思った。
活躍したのは、オレの知らぬオレだ。また、アリルやノウノやピピが求めているのも、もうひとりのオレだ。「もうひとりのオレ」という形容が正しいのかどうかわからない。
剣士であるはずの自分の意識が途切れたときに、魔術師のオレが現われるらしいのだ。アリルの弁では、「とんでもなく強い魔術師」ということである。
それはオレと言えるのか? わからない。今までこんな現象に見舞われた覚えもないのだった。もうひとりの自分を、頼もしいと思う。同時に、怖いとも思う。
自分の意識のないところで、我が5体が勝手に動いていたら、誰だって怖いだろう。
「オレとは、何だ?」
と、自問した。
「うーんっ」
と、アリルが目を覚ましたようだ。
袖のないシャツを着ているうえに、思いきり手を挙げるものだから、ツルリとした腋窩が見えていた。下手をすると胸元まえ見えそうだったので、あわてて目をそらした。
アリルの伸びに合わせてノウノやピピも目を覚ましていた。
「おはよう」
「レイはもう起きてたのね。待って、すぐに朝支度をするから。準備がととのったら冒険者組合に行きましょう」
「ワッチはもうすこし寝る」
と、ピピはふたたび寝入ろうとした。
「こらっ。いつまで寝るつもりなのよ」
と、厭がるピピをアリルが強引に起こしていた。
「厭じゃー。働きとうない」
怠け者の権化みたいなことを言う。
ピピとアリルがたわむれているあいだに、ノウノはすくっと立ち上がると、外に出て行った。しばらくすると戻ってきた。手には水の入ったバケツをかかえていた。
オレの前に置く。
「お師匠さま。お水」
「え? オレのために持ってきてくれたのか?」
水売りから買ったとは思えないから、給水泉でくんできてくれたのか、宿の店主に言って用意してもらったのだろう。
「私は弟子。レイはお師匠さまだから」
と、淡々と述べる。
「悪いな。でも、今度からは気を遣う必要はないよ。重たかっただろうし」
ノウノから「お師匠さま」と慕われるのは、どこか悪くないという気持ちがある。一方で、ノウノから「お師匠さま」と慕われてもその気持ちにこたえることが出来ないことに申し訳なさを感じていた。
「うん」
と、ノウノはうなずいた。
今度から気を遣う必要はないということを了承したのか、重たかったことに首肯したのか判然としなかった。
「ちょっと、ノウノッ。以前まではそんなに働かなかったじゃないッ」
「お師匠さまだから」
と、ノウノはアリルの怒気から隠れるようにして、オレの背中にすっと隠れた。アリルが、うっ、と言葉につまっていた。
「まぁ、たしかに、レイは必要な戦力だけどね。うん」
と、納得してくれていた。
こんなに騒がしい朝を迎えるのも、オレにとっては、はじめてのことかもしれない。
目を覚まして、周囲を見渡した。
アリルもノウノもピピもまだ、眠っていた。『新狩祭』での優勝がよほどうれしかったようで、遅くまで起きていたようだ。
オレは普段、宿をとるといっても、木賃宿の大広間で雑魚寝をするていどだった。ときおりマホ教の教会を頼ることもあった。
今日は違った。
『新狩祭』の優勝金があったので、個室をとったのだ。ベッドはないが、窓のある良い部屋だった。
窓からは、朝日がもぐりこんでいる。
(うーん)
と、他3人を起こさぬように伸びをした。
宿で個室をとるなんてはじめてのことだった。物品を盗まれる心配もなければ、目を覚ましたときに男たちの毛むくじゃらの脚が、胸に乗っているなんてこともない。
むしろ――。
と、他3人を見渡した。
3人とも薄いシャツを着ているだけで、肩や胸元をあらわにしていた。男のオレをマッタク意識していないのか、あるいは昨日の興奮によってもたらされた光景かもしれない。
直視するのも気恥ずかしいのだが、目を奪われずにはいられない。別に誰に咎められるわけでもないのだし……と不埒な思いにながされた。
3人のなかではノウノがイチバン肌が白かった。白銀色の髪ともあいまって儚げな印象をおぼえる。腕や脚も細い。チョット心配になるぐらいだが、昨晩の食べっぷりを思い出すところ、無用の懸念であろう。
つづいて目を奪われたのは、ピピである。ピピは葉っぱでつくられた胸当てと腰巻をしているだけだった。その葉っぱは、いったいどういう材質なのかわからないのだが、何かの間違いで破れたり脱げたりしてしまいそうだ。肌はどちらかと言うと褐色肌に近く、髪は森を思わせる緑色だ。髪のあいまからは、長い耳がだらりと伸びている。
これで80歳なんだもんなぁ。
と、その幼児体型に感心してしまう。
で――。
最後に目を移したのはアリルだった。
アリルは寝相によるものか、豪快に脚を広げていた。腕も脚も少女と言うには筋肉質だった。ブロンドの髪を短く切ってあるが、すこし伸ばすと気品すらある美女となるかもしれない。アリルの素肌は、昨日に見てしまったアリルの裸体を彷彿とさせてしまう。
さすがに照れ臭くなってきた。
しかしそれよりも、オレを悩ませるのは3女の香だった。甘ったるいような、水っぽいような芳香が部屋に満ちているのだ。
まぎれもなく3人の少女から発散される、女の香にちがいなかった。一晩シッカリと熟成されたことによって、よりいっそう濃厚な匂いになっていた。
気が変になってしまいそうだったので、窓を開けることにした。朝の澄み切った風が心地良かった。
ここ数年ほど味わったことのない幸せのなかにいるような気がした。女に囲まれているからといった、そういった単純なものではなく、自分にもようやく仲間を得ることが出来たのだという感慨だった。ともに『新狩祭』という大きなイベントを乗り越えた仲間なのだ。
しかし、はたしてその幸せを享受する資格が、自分にあるのかどうかを怪しく思った。
活躍したのは、オレの知らぬオレだ。また、アリルやノウノやピピが求めているのも、もうひとりのオレだ。「もうひとりのオレ」という形容が正しいのかどうかわからない。
剣士であるはずの自分の意識が途切れたときに、魔術師のオレが現われるらしいのだ。アリルの弁では、「とんでもなく強い魔術師」ということである。
それはオレと言えるのか? わからない。今までこんな現象に見舞われた覚えもないのだった。もうひとりの自分を、頼もしいと思う。同時に、怖いとも思う。
自分の意識のないところで、我が5体が勝手に動いていたら、誰だって怖いだろう。
「オレとは、何だ?」
と、自問した。
「うーんっ」
と、アリルが目を覚ましたようだ。
袖のないシャツを着ているうえに、思いきり手を挙げるものだから、ツルリとした腋窩が見えていた。下手をすると胸元まえ見えそうだったので、あわてて目をそらした。
アリルの伸びに合わせてノウノやピピも目を覚ましていた。
「おはよう」
「レイはもう起きてたのね。待って、すぐに朝支度をするから。準備がととのったら冒険者組合に行きましょう」
「ワッチはもうすこし寝る」
と、ピピはふたたび寝入ろうとした。
「こらっ。いつまで寝るつもりなのよ」
と、厭がるピピをアリルが強引に起こしていた。
「厭じゃー。働きとうない」
怠け者の権化みたいなことを言う。
ピピとアリルがたわむれているあいだに、ノウノはすくっと立ち上がると、外に出て行った。しばらくすると戻ってきた。手には水の入ったバケツをかかえていた。
オレの前に置く。
「お師匠さま。お水」
「え? オレのために持ってきてくれたのか?」
水売りから買ったとは思えないから、給水泉でくんできてくれたのか、宿の店主に言って用意してもらったのだろう。
「私は弟子。レイはお師匠さまだから」
と、淡々と述べる。
「悪いな。でも、今度からは気を遣う必要はないよ。重たかっただろうし」
ノウノから「お師匠さま」と慕われるのは、どこか悪くないという気持ちがある。一方で、ノウノから「お師匠さま」と慕われてもその気持ちにこたえることが出来ないことに申し訳なさを感じていた。
「うん」
と、ノウノはうなずいた。
今度から気を遣う必要はないということを了承したのか、重たかったことに首肯したのか判然としなかった。
「ちょっと、ノウノッ。以前まではそんなに働かなかったじゃないッ」
「お師匠さまだから」
と、ノウノはアリルの怒気から隠れるようにして、オレの背中にすっと隠れた。アリルが、うっ、と言葉につまっていた。
「まぁ、たしかに、レイは必要な戦力だけどね。うん」
と、納得してくれていた。
こんなに騒がしい朝を迎えるのも、オレにとっては、はじめてのことかもしれない。
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