Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

3-7.幕間Ⅱ

 ガルダリア・ゴルゴンをリーダーとする『かがやける暁』は、野宿をしていた。盾役ゴルゴン。魔術師マフマット。射手ベベ。そして戦士ニャルニャルの4人でたき火を囲んでいた。


 ゴルゴンの胸裏は屈辱に煮えたぎっていた。あの『黄金のたまご』の後塵を拝することになった。のみならず、蛇の王バジリスクから助けてもらうことになったのだ。『新狩祭』から逃げ出してきたのは、せめてもの矜持を保つためだった。


「まさか、勇者の娘アリルが、あんな魔術師を見つけ出してくるなんて思いませんでしたよ」
 と、重苦しい沈黙をマフマットが破った。


 たき火。
 ばちっ、と火が爆ぜる。


「不正だ」
 と、ゴルゴンはうめくように言った。


「え?」
 と、マフマットが疑問の声を発した。


「あれほどの魔術師がFランクなわけがない。あれは不正だ。『新狩祭』はDランク以下の冒険者しか参加できないはずだ」


 不正じゃないニャ――とニャルニャルが言葉をかえした。


「あの人は、たしかにFランク冒険者の証である、銅色のカギを持っていたニャ。吾輩はそれをこの目で見たニャ」


「Fランクのくせに、あの強さは納得がいかん」


「冒険者としての経験が浅いだけかもしれないニャ。魔術師として、きっと修行していたに違いないニャ」


「くそっ」
 と、木っ端をたき火に投げ入れた。


 Dランク以下のみの参加と決まっている勝負で、あきらかにDランク以上の実力を見せつけられたのだ。納得がいかない。それに、今回の大会は個人戦ではなく、パーティ戦なのだ。レイという個人のチカラに頼りきりだったアリルたちには、釈然としない思いがあった。


 とはいえ、いくら不満に思っても『新狩祭』の結果に変わりはない。


「こうして鬱々としているのは、リーダーらしくありませんわね」
 と、ベベが言った。


 ベベの言うとおりだった。
 なんでも行動に移すのがゴルゴンの癖だった。アリルのような使えないと判断したものはすぐに切る。使えるものはどんどん引きいれる。勝てぬ相手がいるなら、努力して越える。


 しかし。
 レイという存在は、あまりにも大きすぎる。


 いまだに網膜の裏にバジリスクを完封したレイの魔法がよみがえる。感心を通り越して、怖ろしいとすら感じる。あれほどの魔術師が、いったいどこに隠れ住んでいたのか。このヴェルワールドに名をとどろかしていても不思議ではない。


「あの男を、引きいれるのはどうだニャ?」
 と、ニャルニャルが提案した。


「なに?」


「レイを、『かがやける暁』に引きいれるニャ。あれほど優秀な人材を、『黄金のたまご』なんてところに置いておくのは、宝の持ち腐れニャ。是非、うちに来てもらうべきニャ」


 ニャルニャルが熱く訴えた。


 ニャルニャルの紅色の双眸がうるんでいるように見えた。なんとなく察しはついた。ニャルニャルはレイに助けられている。ゴルゴンが見捨てようとした命を、レイが助けたのだ。その分、ニャルニャルの心がレイに傾いているのだとわかった。さっきからニャルニャルはレイをかばうようなことばかり言っているのが、その証拠だった。


「考えておこう」
 と、はぐらかすことにした。


 このパーティは、ゴルゴンをリーダーとするパーティである。レイがやって来れば、実力的にリーダーを交代させられるかもしれない。なにより、自分を負かしたレイを招くのは、矜持がゆるさなかった。


「失礼」
 と、ふいに声がかかった。


 ふつふつと煮えたぎる怒りに意識を向けていたせいか、すぐ近くにまで第三者が近づいていることに気づかなかった。己の注意不足かとも思ったが、どうやら他3人も気づかなかったようだ。


「なんだろうか?」


 話しかけてきた相手は、暗紅色の法衣を着衣していた。胸元には六芒星の首飾りがされてあった。


 マホ教の者だとわかった。


 マホ教の者ならば、マフマットの知人だろうかと思った。マフマットに目を向けると、マフマットは口をあんぐりと開けていた。


「あ、あなたさまは、カーディナル卿!」
 と、マフマットが声をあげた。


 マフマットは目を包帯で隠しているくせに、周囲の様子がハッキリとわかっているようだ。


 魔法を神々からの贈り物として信仰を広げるマホ教。その頂点にいるのが教皇だ。教皇に次ぐ立場の人間は、枢機卿と呼ばれる。話しかけてきたカーディナルは、どうやらその枢機卿にあたる人間らしかった。


「失礼。驚かせてしまいましたか」


 カーディナル卿はフードを目深にかぶっており、顔には鳥のクチバシが伸びたような仮面が装着されていた。よって、その人相は不明だ。マフマットがよく、この男をカーディナルという人物だと認識できたものだ。


「いったいその枢機卿が何のようだ?」
 と、ゴルゴンは邪険にたずねた。


 今は、ソッとして置いて欲しかった。


 たとえ相手が立場のある人間でも、態度をあらためる気はなかった。何者の手先にも隷属者にもならぬ孤高をつらぬくのが冒険者組合であり、冒険者である。すくなくともゴルゴンはそう思っている。


「いえね。今日おこなわれた『新狩祭』に、あなたがたも参加していたのでしょう」


「そしてミジメに2位という結果になった。そのことを笑いに来たか?」


「そうではありませんよ。その『新狩祭』に参加していた、とある男のことを調べているのです」


「とある男?」


 はい、とカーディナルはうなずいた。


「常人とは思えぬ魔法を発する者はおりませんでしたか? 常識外れの魔法。ひと目でわかるような異様な魔力の持ち主なのですが」


 曖昧な尋ね方だった。
 それでも誰のことを指しているのか、イッパツでわかった。つい今しがたその男のことを考えていたところだ。


「レイ・アーロンのことか」


「レイ・アーロン? ほお。その男はそう名乗っているのですね」
 と、カーディナルは何度もうなずいていた。


「その男について教えれば、何かくれるとでも言うのか?」


「情報量ならお渡ししますよ。情報の内容しだいですが」
 と、カーディナルは布袋からプラチナ硬化を何枚か出して見せた。『新狩祭』を逃げ出してきたために、結局、2位の賞金はもらい損ねた。金がもらえるのは、素直にありがたい。


「たいしたことは知らんがな」


 Fランク冒険者であること。アリルという娘とともに『黄金のたまご』というパーティにくわわっていること。バジリスクをまるでミミズでも潰すかのように、簡単に倒してしまったことを話した。


 そう言えば、魔法陣の色が奇妙でした――と口をはさんのはマフマットだ。魔法というのは使うさいに、魔法陣を展開する必要がある。ふつうは青なのだが、レイの発した魔法陣は赤黒かった。そこに関しては、カーディナルは強く興味をしめしたようだった。


「なるほど、なるほど。おおいに参考になりました。これはほんのお礼ですよ」


 そう言うと、カーディナルは布袋をゴルゴンの手にわたした。中にはプラチナが20枚も入っていた。


『新狩祭』で『黄金のたまご』の連中が手に入れた金額よりも多い。そのことがわずかながらにも、ゴルゴンの気持ちを落ちつかせた。


「ありゃ? さっきの人は?」
 と、ニャルニャルが疑問を口にした。


 気が付くと、カーディナルの姿は消えていた。

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