Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

3-4.バジリスク

「ニャッ」
 と、小さく悲鳴をあげたニャルニャルが倒れこんだ。どうやらバジリスクに噛みつかれたらしい。バジリスクの黄金のタテガミが不気味に揺れるのが見えた。その剛毛のせいで見ようによっては巨大な毛虫にも見える。


 ニャルニャルが洞窟の奥へと引きずり込まれてゆく。


「リーダーッ」
 と、ニャルニャルは助けをもとめる声を発した。


 その顔は恐怖にひきつっていた。ニャルニャルの悲壮感に満ちた顔を見ると、助けに戻りたい気持ちに駆られるのだが、冷静にかんがえてバジリスクと戦って勝てるわけがない。バジリスクがエサにしたグリフォンですら、苦戦させられたのだ。


 なにより――。
(オレには盾がない)
 捨ててきてしまった。
 ゴルゴンは、心のなかでそれを言い訳にした。


「行くぞ」
「ですが、リーダーっ。このままではニャルニャルがッ」
 と、マフマットが声をあげた。


「見捨てるしかない。オレたちまで殺されるぞ。弱い者が死ぬのは当たり前のことだ」


 マフマットもベベもどこか納得していない雰囲気だったが、逃げる脚を緩めることはなかった。


「リーダーッ。マフマット! ベベ!」
 と、ニャルニャルの助けを求める声が、ゴルゴンの心臓を槍でつらぬくかのようだった。振り返る。もうニャルニャルは、暗闇のなかに引きずり込まれて見えなくなっていた。助けてニャァァァッ……というニャルニャルの痛烈な声だけがひびいていた。聞こえないフリをすることにした。


 冒険者にとっては、めずらしくも何ともないことだ。こういった危険がつねに隣り合わせであるからこそ、冒険者、なのだ。


「仲間を見捨てて逃げ帰ってくるとは、『かがやける暁』とは思えない失態ね。いえ。仲間を捨てるのは、あんたたちのお家芸かしら」


 正面。
 洞窟の出口には、アリルがニオウダチで構えていた。まさかここでアリルと鉢合わせると思わなかった。「ちっ」。舌打ちが漏れた。アリルにバカにされたことが腹立たしかった。状況がわかっていないバカに、この事態を説明するのがメンドウだった。


「敵はバジリスクだ。オレたちの敵う相手じゃない」


「あんたたちは、目をかっぴらいて、レイの戦いを見ていると良いわ」


「レイ?」


 ゴブリン相手に苦戦していたあの男のことか――と思い至った。あの程度の男に何ができるのかと落胆と嘲る気持ちが同時に湧いた。


「オレをそう何度も目覚めさせてくれるな」


 アリルの後ろから、レイと呼ばれた男が出てきた。黒髪に黒目の青年だ。あまり見かけぬ髪色をしているが、さきほどと変わったものは見受けられない。しかしゴルゴンには感じられないものを、マフマットは何か感じ取ったようだ。


 マフマットは歯をカチカチと鳴らして、寒気に堪えるような言動をしていた。ニャルニャルのことでショックを受けているのかと思ったが、まるでレイという男に怯えているようにも見えた。


「どうした、マフマット」
 と、ゴルゴンはたずねた。


「強烈な魔力を感じます。同じ魔術師だからこそわかる。これほどの魔力はいままで見たことがありません」


「それほどか?」


 たしかレイという男を、さきほど見たときは剣をにぎっていたはずだ。そしてゴブリン相手にブザマなマネをさらしていた。と――いうことは、剣士であることは仮初の姿ということか。


「バジリスクか。しょせん魔族の足元にも及ばぬモンスターだ」


 レイはゴルゴンを横切って、洞窟へと深入りしていく。


 細い洞窟全体にいくつもの魔法陣がかがやいた。魔法陣の赤黒い光のおかげで、洞窟の奥まで見通すことができた。見るだけでもゾッとするようなバジリスクが、ニャルニャルの脚に噛みついて、奥へ奥へと連れ込んでいる姿が見えた。ニャルニャルは引きずられまいと地面に爪をたてて必死に抵抗している。だが、その爪が折れたのだろう。指が血だらけになっていた。引きずられたせいで、顔も擦り傷だらけになっていた。


 直視するには、あまりに惨い光景だった。


 レイが、指を鳴らす。


 洞窟内を埋め尽くした魔法陣から、岩でできた手のようなものが何本も伸びてきた。それが、バジリスクのことを地面におさえつけた。バジリスクの口が岩の手によって強引に開けられた。ニャルニャルが解放される。そのニャルニャルのカラダにレイが触れた。レイが触れた場所の傷が、たちまち回復していった。


 レイがニャルニャルのことを抱き上げると、まるで何事もなかったかのように連れ戻した。


 バジリスクはというと、岩の手によってペチャンコに潰されていた。グリフォンがバジリスクによって、簡単に食いつぶされていた光景を思い出した。今度はそのバジリスクが、いとも簡単に潰されたのだった。それを見ていたゴルゴンは、しばらく何が起きたのか理解できなかったほどだ。


(あ、ありえん……)


 気が付くとゴルゴンは、シリモチをついていた。いつ自分がその場に座り込んだのかすら、わからなかった。


 これほどの魔術師が、アリルのパーティにいるということが驚きだった。


「マフマット。いまの魔法は、どれぐらいのものか、わかるか?」


「おそらくは、第6階層以上かと思われます」


「だ、第6ッ……」


 言葉がつづかなかった。
 人間の限界が第3階層魔法と言われている。その限界を破って第4階層魔法を使うものは天才と呼ばれる域となる。第6階層魔法ともなると、それはもはや人間の領域をこえている。


 しかも、それ以上かもしれない――というのだ。


「疲れた」


 レイはそう言うと、その場に倒れ伏した。地面に倒れる直前にアリルが抱きかかえていた。

「Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く