Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
3-2.最下層
「さっきは、ありがとうね」
縄梯子をくだって、ふたたびダンジョンに潜った。今度は最下層だ。日が軽く沈みはじめたせいもあるだろうが、最下層までくだると、空から降り注ぐ陽光が頼りなく見えた。
暗闇がカラダにまとわりついてくる。辛うじて自分の足元が見えるという程度だ。冒険者の死体が、いくつか転がっている。
この『新狩祭』のあいだに出た死体なのか、あるいは、それ以前に潜った冒険者が死んだのかはわからない。
どちらにせよ不気味である。
「アラクネのことは、オレは自分でも覚えてないから、べつにお礼を言う必要はないよ」
「そうじゃなくて、ゴルゴンとのあいだに割って入ってくれたでしょ」
「あれは……いきおいというか、なんというか」
「嬉しかったわ」
と、アリルはオレのほうを向いてほほえんだ。
アリルは少年らしい顔立ちをしている。冒険者であることを意識しているのか、髪も短くしている。が、笑うといっきに華やかになった。普段は隠している、女、を見た気がして、ドキッとしてしまった。
「いや。口だけで、結果が出せなかったら意味ないし」
「そうね。あいつらがCランク相当のミミックを倒したのなら、こっちはBランク相当のモンスターを倒すまでよ」
「あんまりムリをするのは良くないよ。オレだっていつもチカラを発揮できるわけじゃないんだし」
魔法のチカラは、オレの無意識のあいだに発揮されるものだ。そう何度も都合良く、チカラが発揮できるとは思えない。毎度毎度、チカラを行使するさいには命の危険があるときだ。そんな状況には陥りたくない。
「だけど『かがやける暁』の成績は、3プラチナよ。たいして私たちは1プラチナと50ゴールドでしょ。もう一回、あのアラクネの群れを倒して持ち帰るぐらいのことはしなくちゃ」
とアリルが指折り数えながらそう言った。
「マジか……」
ふたたびアラクネの群れに跳びこむような危険は、おかしたくない。さっきも一歩間違えれば、オレもノウノもアラクネのエサになっていた。
「大丈夫よ。レイのチカラに頼ろうってわけじゃないから。私だってオンブに抱っこじゃ、納得できないわ」
「秘策が?」
「いくつか戦闘用にアイテムを持ちこんでるわ。投げナイフに魔法爆弾。それに痺れ茸を塗りこんだ毒針」
「っと、その前にゴブリンだ」
横穴から3匹のゴブリンが跳びだしてきた。いそいで陣形をととのえる。オレとアリルが前衛の剣士。ノウノとピピが後衛だ。
「ってか、なんでレイは前衛の剣士なのよ。魔術師なんだから後衛で良いんじゃないの?」
と、アリルが顔をしかめて言う。
「魔法なんて使えないからだってば。期待に背くようで悪いけど、オレはFランク冒険者で、ただの剣士なんだから」
剣士というか、今までろくにモンスターと戦い経験すらない。
「わけがわからないわね」
「オレもそう言いたい気分だ」
ゴブリンが1匹跳びかかってきた。ケサ切りに斬り伏せようとしたが、かわされた。オレの顔めがけて跳びついてくる。
「うっ」
顔に抱きつかれて視界をさえぎられた。ゴブリンの生臭い体臭が鼻腔をついた。吐き気をもよおす。
不意にゴブリンが、オレの顔面から離れてくれた。どうやらピピが撃ち抜いてくれたらしい。
そのあいだに残る2匹はアリルが仕留めていた。
「アラクネの大群を倒した男とは思えんほど弱っちぃのぉ」
と、ピピが不思議な生物でも見るような目で見てきた。
「ゴメン」
「べつに謝らんでもよいが、なんというか強くなったり弱くなったり、不思議な男じゃな。別にアリルやノウノのことを疑うわけではないが、コワッパが魔法を使うところを、ワッチも見てみたいわ」
「うん」
とした答えることができなかった。
赤面をおぼえる。
魔法を使うところを見てみたいのは、オレも同じだ。オレはいったいどうやって魔法を使ってるんだろうか。
ははは――と笑い声が跳んできた。
ゴルゴンだ。
どうやら今の戦いを見ていたらしい。
「その程度で、オレたちに張りあおうなんて、よく思えたもんだな。たかがゴブリンに苦戦するとはな」
ゴルゴンの後ろには、『かがやける暁』の連中がいた。身の丈ほどもある大槌をかかえたネコ耳の少女。目元を包帯で隠して、錫杖を持っているスラッとしたイデタチの青年。ロングボウを装備している女性。そこにゴルゴンをくわえた4人で構成されているようだ。
「うるさいわねッ。調子の良いときと悪いときがあるのよ」
と、アリルが言いかえした。
「相変わらず口だけは達者なことだ。お先に失礼するぜ」
さすがにダンジョンのなかで、口ゲンカをはじめるつもりはないようで、『かがやける暁』の4人は横穴へと入って行った。
彼らにバカにされるキッカケをつくったのはオレだ。そう思うと、みじめな気持になってきた。さきほど大口をたたいたこともあって、よりいっそう屈辱的だった。
「気にしちゃ負けよ。結果的にこの『新狩祭』で勝てば良いんだから」
というアリルの言葉に、勇気づけられた。
どうしてオレは――。
思うように魔法をあつかうことが出来ないんだろうか。
自分のなかに眠っているはずのチカラを引きだすことが出来ないことに、隔靴掻痒の思いがこみ上げてくるのだった。
縄梯子をくだって、ふたたびダンジョンに潜った。今度は最下層だ。日が軽く沈みはじめたせいもあるだろうが、最下層までくだると、空から降り注ぐ陽光が頼りなく見えた。
暗闇がカラダにまとわりついてくる。辛うじて自分の足元が見えるという程度だ。冒険者の死体が、いくつか転がっている。
この『新狩祭』のあいだに出た死体なのか、あるいは、それ以前に潜った冒険者が死んだのかはわからない。
どちらにせよ不気味である。
「アラクネのことは、オレは自分でも覚えてないから、べつにお礼を言う必要はないよ」
「そうじゃなくて、ゴルゴンとのあいだに割って入ってくれたでしょ」
「あれは……いきおいというか、なんというか」
「嬉しかったわ」
と、アリルはオレのほうを向いてほほえんだ。
アリルは少年らしい顔立ちをしている。冒険者であることを意識しているのか、髪も短くしている。が、笑うといっきに華やかになった。普段は隠している、女、を見た気がして、ドキッとしてしまった。
「いや。口だけで、結果が出せなかったら意味ないし」
「そうね。あいつらがCランク相当のミミックを倒したのなら、こっちはBランク相当のモンスターを倒すまでよ」
「あんまりムリをするのは良くないよ。オレだっていつもチカラを発揮できるわけじゃないんだし」
魔法のチカラは、オレの無意識のあいだに発揮されるものだ。そう何度も都合良く、チカラが発揮できるとは思えない。毎度毎度、チカラを行使するさいには命の危険があるときだ。そんな状況には陥りたくない。
「だけど『かがやける暁』の成績は、3プラチナよ。たいして私たちは1プラチナと50ゴールドでしょ。もう一回、あのアラクネの群れを倒して持ち帰るぐらいのことはしなくちゃ」
とアリルが指折り数えながらそう言った。
「マジか……」
ふたたびアラクネの群れに跳びこむような危険は、おかしたくない。さっきも一歩間違えれば、オレもノウノもアラクネのエサになっていた。
「大丈夫よ。レイのチカラに頼ろうってわけじゃないから。私だってオンブに抱っこじゃ、納得できないわ」
「秘策が?」
「いくつか戦闘用にアイテムを持ちこんでるわ。投げナイフに魔法爆弾。それに痺れ茸を塗りこんだ毒針」
「っと、その前にゴブリンだ」
横穴から3匹のゴブリンが跳びだしてきた。いそいで陣形をととのえる。オレとアリルが前衛の剣士。ノウノとピピが後衛だ。
「ってか、なんでレイは前衛の剣士なのよ。魔術師なんだから後衛で良いんじゃないの?」
と、アリルが顔をしかめて言う。
「魔法なんて使えないからだってば。期待に背くようで悪いけど、オレはFランク冒険者で、ただの剣士なんだから」
剣士というか、今までろくにモンスターと戦い経験すらない。
「わけがわからないわね」
「オレもそう言いたい気分だ」
ゴブリンが1匹跳びかかってきた。ケサ切りに斬り伏せようとしたが、かわされた。オレの顔めがけて跳びついてくる。
「うっ」
顔に抱きつかれて視界をさえぎられた。ゴブリンの生臭い体臭が鼻腔をついた。吐き気をもよおす。
不意にゴブリンが、オレの顔面から離れてくれた。どうやらピピが撃ち抜いてくれたらしい。
そのあいだに残る2匹はアリルが仕留めていた。
「アラクネの大群を倒した男とは思えんほど弱っちぃのぉ」
と、ピピが不思議な生物でも見るような目で見てきた。
「ゴメン」
「べつに謝らんでもよいが、なんというか強くなったり弱くなったり、不思議な男じゃな。別にアリルやノウノのことを疑うわけではないが、コワッパが魔法を使うところを、ワッチも見てみたいわ」
「うん」
とした答えることができなかった。
赤面をおぼえる。
魔法を使うところを見てみたいのは、オレも同じだ。オレはいったいどうやって魔法を使ってるんだろうか。
ははは――と笑い声が跳んできた。
ゴルゴンだ。
どうやら今の戦いを見ていたらしい。
「その程度で、オレたちに張りあおうなんて、よく思えたもんだな。たかがゴブリンに苦戦するとはな」
ゴルゴンの後ろには、『かがやける暁』の連中がいた。身の丈ほどもある大槌をかかえたネコ耳の少女。目元を包帯で隠して、錫杖を持っているスラッとしたイデタチの青年。ロングボウを装備している女性。そこにゴルゴンをくわえた4人で構成されているようだ。
「うるさいわねッ。調子の良いときと悪いときがあるのよ」
と、アリルが言いかえした。
「相変わらず口だけは達者なことだ。お先に失礼するぜ」
さすがにダンジョンのなかで、口ゲンカをはじめるつもりはないようで、『かがやける暁』の4人は横穴へと入って行った。
彼らにバカにされるキッカケをつくったのはオレだ。そう思うと、みじめな気持になってきた。さきほど大口をたたいたこともあって、よりいっそう屈辱的だった。
「気にしちゃ負けよ。結果的にこの『新狩祭』で勝てば良いんだから」
というアリルの言葉に、勇気づけられた。
どうしてオレは――。
思うように魔法をあつかうことが出来ないんだろうか。
自分のなかに眠っているはずのチカラを引きだすことが出来ないことに、隔靴掻痒の思いがこみ上げてくるのだった。
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