Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
2-8.師匠
「ん?」
どうやらオレは、まだ気をうしなっていたようだ。何かやわらかい感触が後頭部にあった。
ノウノのフトモモであることを知って、あわてて跳び起きた。
「ゴメン。痛かっただろっ」
ノウノはかぶりを振った。
「痛くない。これぐらいなんてことはない。ノウノは平気」
「アラクネは……え?」
周囲。見渡して状況を把握しかねた。大量のアラクネの死骸が散らばっているのだった。緑色の血が、池のように広がっていた。ノウノもその血の池の上に正座をしていた。白い法衣のすそが緑色にそまってしまっている。
「レイが、アラクネから私を救ってくれた。ノウノは状況説明」
「は?」
「覚えてない?」
と、ノウノは首をかしげた。
「覚えてないどころか、オレは死んだと思ったけど……」
また――だ。
ミノタウロスのときと同じだ。
自分の覚えていないうちに、チカラを発揮している。夢遊病とか、そういった類の病気なんじゃないかと自分の身が心配になる。
「凄まじい魔法だった。アリルがレイのことをパーティに勧誘した意味が理解できた。そしてレイを連れてきてくれたアリルにも、私は感謝しなくてはならない」
ノウノの言葉には喜怒哀楽の色がないために、その言葉の意味を理解しにくいときがあるのだが、たぶん喜んでいるのだろう。
「ノウノを助けることが出来たのは良かったけど、ヤッパリ思い出せないよ」
「レイは自分で言っていた。自分を思い出したくないから、意識を封印してる――と」
「なに? オレは魔法を使っただけじゃなくて、ノウノとしゃべったの」
「そう」
と、ノウノはこくりとうなずく。
「マジか」
尋常ではない。
自分の意識のないところで、変なことを口走ってるんじゃないかと思うと、心配でたまらない。それはもう夢遊病ではなく、二重人格である。
自分のなかに、もう1人の自分がいる。そう思うと、この身体が別の存在にのっとられたかのようで不気味だった。
それにしても――。
意識を封印しているというのは、どういう意味だろうか。自分の口から出た言葉なのに、意味が理解できない。
「レイ」
ノウノは両手の指をそろえて地につけていた。何をするのかと思うと、やんわりと頭を下げていた。白銀色の髪さきが、地面に垂れて、緑色の血で濡れてしまっている。
「なにをしてるんだ?」
「今日から私はレイのことを、お師匠さまを呼ぶことにする。これは決定」
「よせって、頭をあげてくれよ。魔法を使ったのかもしれないけど、覚えてないんだ。教えることなんて出来ないよ」
「大丈夫、お師匠さまの近くにいるだけで、強くなれる気がする。私は教皇を殺す。そのためには強力な師が必要」
抑揚のない声音で、ずいぶんと刺激的なことを言うので、ドキッとさせられた。
「お母さんを殺すつもりなのか?」
「そう。私は復讐のために生きている。私を捨てたことを後悔させる」
「そんなこと、あまり人前では言わないほうが良いよ」
教皇を殺すなんて聞かれたら、マホ教に何をされるかわからない。マホ教は邪教徒狩りと言って、多宗教を武力で弾圧したりする。いまやイズラ王国の国王よりも強い権威を持っている。
「わかってる。人前では言わない」
「……そうか」
復讐なんてやるもんじゃないよ――と月並みなセリフが口を吐きかけたが、そんなことを言っても、なんの慰めにもならないだろう。
事情すら良く知らないのに、ノウノの気持ちをいさめられるとは思わなかった。波紋ひとつないような顔をしておきながら、胸裏ではそれほど強烈な思いを抱いていることに驚かされた。
「それにお師匠さまも何か思い出すかもしれない」
と、ノウノは頭をあげた。
「出来れば、オレも思い出したいんだけどな」
と、コメカミのあたりを親指で押しこんだのだが、そんな刺激では何も思い出せない。何度振り返ってもオレの記憶は、アラクネの群れのなかに落ちていったところで途切れているのだ。
でも良かった。
あのままだと、オレはアラクネに食われて、ノウノもまた助からなかっただろう。自分ひとりでノウノを助けに行ったのは判断ミスだっかもしれない。アリルたちと合流してから、ノウノを助けに来る選択肢もありだった。
結果的には――これで良かったんだけど。
もしかしてオレは、無意識のうちに自分が強い存在だという自覚があるのだろうか? だから咄嗟にひとりでノウノを助けようとしてしまったのかもしれない。次からは、気を付けようと思った。
「レイーっ。ノウノーっ」
と、アリルの呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやらオレは、まだ気をうしなっていたようだ。何かやわらかい感触が後頭部にあった。
ノウノのフトモモであることを知って、あわてて跳び起きた。
「ゴメン。痛かっただろっ」
ノウノはかぶりを振った。
「痛くない。これぐらいなんてことはない。ノウノは平気」
「アラクネは……え?」
周囲。見渡して状況を把握しかねた。大量のアラクネの死骸が散らばっているのだった。緑色の血が、池のように広がっていた。ノウノもその血の池の上に正座をしていた。白い法衣のすそが緑色にそまってしまっている。
「レイが、アラクネから私を救ってくれた。ノウノは状況説明」
「は?」
「覚えてない?」
と、ノウノは首をかしげた。
「覚えてないどころか、オレは死んだと思ったけど……」
また――だ。
ミノタウロスのときと同じだ。
自分の覚えていないうちに、チカラを発揮している。夢遊病とか、そういった類の病気なんじゃないかと自分の身が心配になる。
「凄まじい魔法だった。アリルがレイのことをパーティに勧誘した意味が理解できた。そしてレイを連れてきてくれたアリルにも、私は感謝しなくてはならない」
ノウノの言葉には喜怒哀楽の色がないために、その言葉の意味を理解しにくいときがあるのだが、たぶん喜んでいるのだろう。
「ノウノを助けることが出来たのは良かったけど、ヤッパリ思い出せないよ」
「レイは自分で言っていた。自分を思い出したくないから、意識を封印してる――と」
「なに? オレは魔法を使っただけじゃなくて、ノウノとしゃべったの」
「そう」
と、ノウノはこくりとうなずく。
「マジか」
尋常ではない。
自分の意識のないところで、変なことを口走ってるんじゃないかと思うと、心配でたまらない。それはもう夢遊病ではなく、二重人格である。
自分のなかに、もう1人の自分がいる。そう思うと、この身体が別の存在にのっとられたかのようで不気味だった。
それにしても――。
意識を封印しているというのは、どういう意味だろうか。自分の口から出た言葉なのに、意味が理解できない。
「レイ」
ノウノは両手の指をそろえて地につけていた。何をするのかと思うと、やんわりと頭を下げていた。白銀色の髪さきが、地面に垂れて、緑色の血で濡れてしまっている。
「なにをしてるんだ?」
「今日から私はレイのことを、お師匠さまを呼ぶことにする。これは決定」
「よせって、頭をあげてくれよ。魔法を使ったのかもしれないけど、覚えてないんだ。教えることなんて出来ないよ」
「大丈夫、お師匠さまの近くにいるだけで、強くなれる気がする。私は教皇を殺す。そのためには強力な師が必要」
抑揚のない声音で、ずいぶんと刺激的なことを言うので、ドキッとさせられた。
「お母さんを殺すつもりなのか?」
「そう。私は復讐のために生きている。私を捨てたことを後悔させる」
「そんなこと、あまり人前では言わないほうが良いよ」
教皇を殺すなんて聞かれたら、マホ教に何をされるかわからない。マホ教は邪教徒狩りと言って、多宗教を武力で弾圧したりする。いまやイズラ王国の国王よりも強い権威を持っている。
「わかってる。人前では言わない」
「……そうか」
復讐なんてやるもんじゃないよ――と月並みなセリフが口を吐きかけたが、そんなことを言っても、なんの慰めにもならないだろう。
事情すら良く知らないのに、ノウノの気持ちをいさめられるとは思わなかった。波紋ひとつないような顔をしておきながら、胸裏ではそれほど強烈な思いを抱いていることに驚かされた。
「それにお師匠さまも何か思い出すかもしれない」
と、ノウノは頭をあげた。
「出来れば、オレも思い出したいんだけどな」
と、コメカミのあたりを親指で押しこんだのだが、そんな刺激では何も思い出せない。何度振り返ってもオレの記憶は、アラクネの群れのなかに落ちていったところで途切れているのだ。
でも良かった。
あのままだと、オレはアラクネに食われて、ノウノもまた助からなかっただろう。自分ひとりでノウノを助けに行ったのは判断ミスだっかもしれない。アリルたちと合流してから、ノウノを助けに来る選択肢もありだった。
結果的には――これで良かったんだけど。
もしかしてオレは、無意識のうちに自分が強い存在だという自覚があるのだろうか? だから咄嗟にひとりでノウノを助けようとしてしまったのかもしれない。次からは、気を付けようと思った。
「レイーっ。ノウノーっ」
と、アリルの呼ぶ声が聞こえてきた。
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