Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
2-4.新狩祭のはじまり
『新狩祭』
Dランク以下の冒険者パーティの大会だ。パーティ内にひとりでもCランク以上の者がいれば参加できないことになっている。内容は、ダンジョンにもぐってモンスターを倒す――というものだ。
モンスターというのは魔界からやって来る。そのたびに冒険者が迎撃するのだが、討ち漏らしたモンスターたちが巣をつくる。それがダンジョンとなる。
モンスターの繁殖力というのは異常に強い。ネズミ算なんて比ではない。スライムは1匹いれば分裂して増えてゆく。ゴブリンやオークも負けず劣らない。なにより食物連鎖の天敵がいない。モンスターを倒すのは、冒険者ぐらいなものだ。
眼窩。大きな穴が開いていた。これがモンスターの巣。つまりダンジョンだ。
穴の周囲には木の杭が打ち込まれており、縄で囲んでいる。間違ってダンジョンに落っこちないようにするための柵だ。このダンジョンの周囲に、観客のテントが大量に張られているような構図だった。
「けっこうな規模のダンジョンだな」
と、オレが言う。
小さい村ぐらいならスッポリと入るんじゃないかと思われるような、巨大な穴である。生魚が腐ったような臭いが、深淵の底から吹きつけてきた。髪が吹き上げられた。まるでダンジョンそのものが呼吸しているかのようだ。
「『新狩祭』用に置かれてたんでしょうね」
と、アリルが応えた。
覗きこんで見ていると、大穴はいくつかの層になっていた。縁沿いに足場があった。完璧なすり鉢状ではないのだ。下に掘ってゆき、横に足場を広げて、さらに下へ掘ったような案配だった。段々に重ねられたケーキを逆さにしたような形状――とでも言うべきか。
「『新狩祭』って参加したことないから、ルールがよくわからないんだけど」
「簡単よ。モンスターの素材を多く持ち帰ったパーティが優勝よ」
と、オレの問いにアリルが応えてくれた。
「じゃあ、ゴブリンの爪とかを大量に持ち帰れば良いわけか」
「でも、モンスターによって点数が違うから、強いモンスターなら1匹でも高得点を狙えるわ。たとえば、ミノタウロスの角なんか持ち帰ったら、それはもう最高得点間違いなしよ」
ポイントは、実際、冒険者組合で買い取ってくれる値段で計算されるということだ。
冒険者はモンスターの素材を剥ぎ取って、それを冒険者組合に買い取ってもらうことを収入のひとつにしている。冒険者組合は各地の商業組合と手を組んでおり、その素材を商人たちに流す仕組みになっている。
「ミノタウロスなんか、いるのか?」
「さあね。わからないけれど、居てくれると良いわね」
「居てくれると良い?」
そんなバケモノに出てこられても困る。Dランク以下の大会なんだから、そんなレベルのモンスターはいないと思いたい。
「だって、そしたらレイが倒してくれるでしょ。私たちのパーティが優勝じゃない。他のパーティにミノタウロスを倒せるような冒険者は参加してないわよ。なにせ、Dランク以下の大会なんだから」
「いや、オレは……」
「頼んだわよ」
と、アリルが背中をたたいてきた。
「おわっ」
と、あやうくダンジョンのなかに落っこちそうになった。木の杭のおかげで落ちずにすんだ。
「こんなコワッパが、ミノタウロスを倒したなんて信じられんのぉ」
と、ピピが首をかしげていた。
そりゃ信じられないだろう。オレ自身が信じられないのだから。
ピーッ
試合開始の笛が鳴る。
穴の周囲には各パーティが並んでいた。笛の音を合図に、「うぉぉッ」と、冒険者たちの鬨の声があがった。
我さきにと冒険者たちが縄梯子を投げてゆく。どうやら梯子をつたって下りて行くようだ。その勢いたるや、死を決して戦場へ身を投じる騎士のそれだ。実際、ダンジョンは冒険者にとっては戦場である。ここが自分の墓場になるかもしれないという覚悟は必要だった。
「お先ィ」
と、さきほどアリルに厭味を言いにきた大男が、梯子も使わずにダンジョンへと跳び下りて行った。ダガーのようなものを壁に突き刺しながら下りて行く。大柄な体躯のわりには、敏捷な動きだった。
「あれってさっきの……」
「『かがやける暁』の連中。そしてあの男はそのリーダーよ。名前は、ガルダリア・ゴルゴン。役回りはタンク」
『かがやける暁』
今大会でもっとも注目されているチーム名だ。見物に来ている人たちの会話で、何度か耳にした。
「訊きたいんだけど、さっきの大男とアリルはどういう関係なんだ?」
たずねても良いのか迷っていたのだが、見て見ぬフリをするわけにもいかないので、ヤッパリたずねることにした。
アリルは言いたくないような素振をチラッと見せたが、肩をすくめて口を開いた。
「私も以前まで『かがやける暁』に所属してたのよ。前衛の剣士としてね。でも、追い出されたの。あんまりにも弱いから。要するにクビね」
と、アリルは自分の首を親指で斬るような仕草をして見せた。
「そっか」
気にしていない素振をしているが、内心では酷く傷ついていることがわかった。だから、ほかに応じる言葉が出なかった。
冒険者パーティと言っても、一枚岩ではない。使えない人材がいれば捨てられるし、使える人材は引く手あまたとなる。
そういう話は聞いていた。
「レイがションボリすることないじゃない」
「勇者がどうこう言ってたけど」
「私のお父さんが勇者なのよ。冒険者のなかでも最上位の者におくられる称号よ。私はその娘」
お父さんのように上手くはいかないんだけどね――とアリルは苦笑した。
話の流れからなんとなく察しはついていたが、本人の口から聞くとひとしおの驚きがあった。
勇者。
ドラゴンを一刀両断にしたことがあるとか、モンスターの軍勢をたった1人でなぎ払ったことがあるとか、いろいろと伝説は聞いている。雲のうえの人の話だと思って現実感がなかった。アリルの父親なのだと思うと、はるか遠くにいたはずの人が、目の前まで迫ってきたような緊張感をおぼえた。数々の勇者の冒険譚が、よりいっそう色濃く感ぜられて息苦しさをおぼえるほどだ。
大丈夫、とアリルは大きくうなずいた。
「私は運が良い。だってレイに出会えたんだもの」
と、なんの躊躇いもなく、オレの手をにぎってきた。自分の手汗がアリルの手を汚してしまわないか心配だった。
「オレは、アリルを勇気づけるセリフのひとつも思いつかないよ」
「レイには魔法があるじゃない。この大会で優勝してギャフンと言わせてやるわ」
そう言えば、アリルが負けたら裸踊りをするという約束をしていた。あれは本気なんだろうか? 冗談なんだろうか?
出来ればアリルのチカラになってあげたいのだが……。
「オレは魔法なんて使えないんだってば」
「他の冒険者に遅れは取れないわ。私たちも行くわよ」
聞いちゃいない。
アリルの手がオレから離れた。アリルの体温がオレの手元にのこっていた。アリルの手はただの少女の手じゃなかった。豆だらけで、皮膚がかたくなっていた。まぎれもなく勇者の娘の手だと思った。
木の杭に結びつけた縄梯子を、アリルは率先して下りて行く。
「くふふっ。アリルに目をつけられちまったら、もう逃げられん。ま、死なんていどにガンバることじゃな」
と、ピピが憐れむかのように、オレの肩をやさしく叩いて縄梯子をおりて行く。
「はぁ」
いちおうパーティに誘われた身だ。
やれるだけやってみようと思った。
つづいてピピ、ノウノの順番に下りてゆく。最後にオレがくだった。薬草を摘んだり、虫を捕まえたり……といったクエストしか普段やっていないオレは、ダンジョンに潜るのがはじめてだった。寒いわけではないのだが、全身があわ立つような厭な空気のなかに入り込むのがわかった。
Dランク以下の冒険者パーティの大会だ。パーティ内にひとりでもCランク以上の者がいれば参加できないことになっている。内容は、ダンジョンにもぐってモンスターを倒す――というものだ。
モンスターというのは魔界からやって来る。そのたびに冒険者が迎撃するのだが、討ち漏らしたモンスターたちが巣をつくる。それがダンジョンとなる。
モンスターの繁殖力というのは異常に強い。ネズミ算なんて比ではない。スライムは1匹いれば分裂して増えてゆく。ゴブリンやオークも負けず劣らない。なにより食物連鎖の天敵がいない。モンスターを倒すのは、冒険者ぐらいなものだ。
眼窩。大きな穴が開いていた。これがモンスターの巣。つまりダンジョンだ。
穴の周囲には木の杭が打ち込まれており、縄で囲んでいる。間違ってダンジョンに落っこちないようにするための柵だ。このダンジョンの周囲に、観客のテントが大量に張られているような構図だった。
「けっこうな規模のダンジョンだな」
と、オレが言う。
小さい村ぐらいならスッポリと入るんじゃないかと思われるような、巨大な穴である。生魚が腐ったような臭いが、深淵の底から吹きつけてきた。髪が吹き上げられた。まるでダンジョンそのものが呼吸しているかのようだ。
「『新狩祭』用に置かれてたんでしょうね」
と、アリルが応えた。
覗きこんで見ていると、大穴はいくつかの層になっていた。縁沿いに足場があった。完璧なすり鉢状ではないのだ。下に掘ってゆき、横に足場を広げて、さらに下へ掘ったような案配だった。段々に重ねられたケーキを逆さにしたような形状――とでも言うべきか。
「『新狩祭』って参加したことないから、ルールがよくわからないんだけど」
「簡単よ。モンスターの素材を多く持ち帰ったパーティが優勝よ」
と、オレの問いにアリルが応えてくれた。
「じゃあ、ゴブリンの爪とかを大量に持ち帰れば良いわけか」
「でも、モンスターによって点数が違うから、強いモンスターなら1匹でも高得点を狙えるわ。たとえば、ミノタウロスの角なんか持ち帰ったら、それはもう最高得点間違いなしよ」
ポイントは、実際、冒険者組合で買い取ってくれる値段で計算されるということだ。
冒険者はモンスターの素材を剥ぎ取って、それを冒険者組合に買い取ってもらうことを収入のひとつにしている。冒険者組合は各地の商業組合と手を組んでおり、その素材を商人たちに流す仕組みになっている。
「ミノタウロスなんか、いるのか?」
「さあね。わからないけれど、居てくれると良いわね」
「居てくれると良い?」
そんなバケモノに出てこられても困る。Dランク以下の大会なんだから、そんなレベルのモンスターはいないと思いたい。
「だって、そしたらレイが倒してくれるでしょ。私たちのパーティが優勝じゃない。他のパーティにミノタウロスを倒せるような冒険者は参加してないわよ。なにせ、Dランク以下の大会なんだから」
「いや、オレは……」
「頼んだわよ」
と、アリルが背中をたたいてきた。
「おわっ」
と、あやうくダンジョンのなかに落っこちそうになった。木の杭のおかげで落ちずにすんだ。
「こんなコワッパが、ミノタウロスを倒したなんて信じられんのぉ」
と、ピピが首をかしげていた。
そりゃ信じられないだろう。オレ自身が信じられないのだから。
ピーッ
試合開始の笛が鳴る。
穴の周囲には各パーティが並んでいた。笛の音を合図に、「うぉぉッ」と、冒険者たちの鬨の声があがった。
我さきにと冒険者たちが縄梯子を投げてゆく。どうやら梯子をつたって下りて行くようだ。その勢いたるや、死を決して戦場へ身を投じる騎士のそれだ。実際、ダンジョンは冒険者にとっては戦場である。ここが自分の墓場になるかもしれないという覚悟は必要だった。
「お先ィ」
と、さきほどアリルに厭味を言いにきた大男が、梯子も使わずにダンジョンへと跳び下りて行った。ダガーのようなものを壁に突き刺しながら下りて行く。大柄な体躯のわりには、敏捷な動きだった。
「あれってさっきの……」
「『かがやける暁』の連中。そしてあの男はそのリーダーよ。名前は、ガルダリア・ゴルゴン。役回りはタンク」
『かがやける暁』
今大会でもっとも注目されているチーム名だ。見物に来ている人たちの会話で、何度か耳にした。
「訊きたいんだけど、さっきの大男とアリルはどういう関係なんだ?」
たずねても良いのか迷っていたのだが、見て見ぬフリをするわけにもいかないので、ヤッパリたずねることにした。
アリルは言いたくないような素振をチラッと見せたが、肩をすくめて口を開いた。
「私も以前まで『かがやける暁』に所属してたのよ。前衛の剣士としてね。でも、追い出されたの。あんまりにも弱いから。要するにクビね」
と、アリルは自分の首を親指で斬るような仕草をして見せた。
「そっか」
気にしていない素振をしているが、内心では酷く傷ついていることがわかった。だから、ほかに応じる言葉が出なかった。
冒険者パーティと言っても、一枚岩ではない。使えない人材がいれば捨てられるし、使える人材は引く手あまたとなる。
そういう話は聞いていた。
「レイがションボリすることないじゃない」
「勇者がどうこう言ってたけど」
「私のお父さんが勇者なのよ。冒険者のなかでも最上位の者におくられる称号よ。私はその娘」
お父さんのように上手くはいかないんだけどね――とアリルは苦笑した。
話の流れからなんとなく察しはついていたが、本人の口から聞くとひとしおの驚きがあった。
勇者。
ドラゴンを一刀両断にしたことがあるとか、モンスターの軍勢をたった1人でなぎ払ったことがあるとか、いろいろと伝説は聞いている。雲のうえの人の話だと思って現実感がなかった。アリルの父親なのだと思うと、はるか遠くにいたはずの人が、目の前まで迫ってきたような緊張感をおぼえた。数々の勇者の冒険譚が、よりいっそう色濃く感ぜられて息苦しさをおぼえるほどだ。
大丈夫、とアリルは大きくうなずいた。
「私は運が良い。だってレイに出会えたんだもの」
と、なんの躊躇いもなく、オレの手をにぎってきた。自分の手汗がアリルの手を汚してしまわないか心配だった。
「オレは、アリルを勇気づけるセリフのひとつも思いつかないよ」
「レイには魔法があるじゃない。この大会で優勝してギャフンと言わせてやるわ」
そう言えば、アリルが負けたら裸踊りをするという約束をしていた。あれは本気なんだろうか? 冗談なんだろうか?
出来ればアリルのチカラになってあげたいのだが……。
「オレは魔法なんて使えないんだってば」
「他の冒険者に遅れは取れないわ。私たちも行くわよ」
聞いちゃいない。
アリルの手がオレから離れた。アリルの体温がオレの手元にのこっていた。アリルの手はただの少女の手じゃなかった。豆だらけで、皮膚がかたくなっていた。まぎれもなく勇者の娘の手だと思った。
木の杭に結びつけた縄梯子を、アリルは率先して下りて行く。
「くふふっ。アリルに目をつけられちまったら、もう逃げられん。ま、死なんていどにガンバることじゃな」
と、ピピが憐れむかのように、オレの肩をやさしく叩いて縄梯子をおりて行く。
「はぁ」
いちおうパーティに誘われた身だ。
やれるだけやってみようと思った。
つづいてピピ、ノウノの順番に下りてゆく。最後にオレがくだった。薬草を摘んだり、虫を捕まえたり……といったクエストしか普段やっていないオレは、ダンジョンに潜るのがはじめてだった。寒いわけではないのだが、全身があわ立つような厭な空気のなかに入り込むのがわかった。
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