Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
2-2.ピピとノウノ
都市イズェイルンの周囲は、イズェイルン丘陵と言われる土地になっている。なだらかなデコボコがひたすらつづいている。緑の大地が波打っているようにも見える。
その丘陵の一部に多くの人があつまっていた。さまざまな色のテントが大量に張られており、ラッパや弦楽器の音色にあわせて、人々の笑い声や囃し立てるような声音がひびいていた。
冒険者と思われる者たちが、酒を飲みかわしている。
「ここが『新狩祭』の会場よ」
オレたちは馬車の荷台に乗ってやって来た。
「もっと早く走ってちょーだい」と、アリルが御者を急かしたおかげか、それほど時間はかからなかった。アリルは荷台からピョコンと軽快に跳び下りた。
「はぁ。ワッチはこんな見世物に参加する気分ないんじゃがなぁ」
と、荷台にグッタリともたれかかっている少女がいる。エルフのピピだ。
彼女がアリルのパーティの射手らしい。たしかに背中にはロングボウと矢筒を背負っていた。右手には妙な手袋のような防具をしている。弦を引くための弽だろう。
髪は緑色をしており、目も同様だ。
どことなく森の葉っぱを思わせられるのは、彼女がエルフだからかもしれない。エルフの証拠として、長い耳が髪のあいだから跳びだしていた。着ている服も、葉っぱを継ぎはぎしたような変わった服をしていた。
「のお。コワッパもそう思うじゃろう」
と、ピピはオレに話を投げかけてきた。
ピピの目つきは人の心を穿つかのような鋭さがある。そのせいか、大人びた色気があった。
「え? いや、オレはどっちでも良いんだけど、アリルに誘われたから」
「どうせ『新狩祭』に参加したいから、数合わせで入れられたんじゃろう。断れば良かったものを」
違うわよッ――とアリルが声をあげた。
「レイはただの数合わせじゃないわよ。あのミノタウロスを倒したほどの冒険者なんだから」
アリルの言葉を受けてピピは胡乱な表情でオレを見てきた。値踏みされるような視線がくすぐったい。
「ホントかのぉ。こんなコワッパがミノタウロスを倒せるとは思えんのじゃがなぁ。だいたいミノタウロスを倒せるなら、Fランクなわけなかろう」
もっともだ。
「期待のホープよ。この『新狩祭』でみんなの度肝を抜いてやるんだから」
アリルの興奮とはウラハラに、オレの気持ちは冷めてくる。
いったいオレの何に期待をしてるんだろうか……という気持ちである。実力以上のことを期待されても困る。
オレに魔法の才能があるとアリルは思いこんでいるのだが、そんな才能などカケラもないことはオレが承知している。
「ワッチはパスじゃ。こんな祭りなぞ参加する気もないわ」
と、ピピはソッポを向いた。
「じゃあ、どうしてここまで付いて来たのよッ」
「見物するぐらいなら良いかと思うてな。それに、祭りと言うからには美味いもんが売られてるんじゃろ」
と、ピピは舌舐めずりをした。
真っ赤な舌が唇を這う仕草は、まるで獲物を狙う蛇のようだ。
「いいから来なさいってば!」
と、アリルが嫌がるピピのことを、荷台から強引に引きずりおろしていた。ホントウにパーティを組んでるんだろうか? いったいどういう関係なのか気になる。
「うん?」
と、もうひとりの少女が声をあげた。
ノウノ・ウーレイン。
魔術師らしい。
白銀の髪を長く伸ばしている。目にもまた、髪と同じく白銀の光があった。
荷馬車に乗っているあいだ、正座をしたまま微動だにしなかった。どうやら眠っていたらしい。
「『新狩祭』の会場についたらしいけど」
と、機嫌をうかがうようにオレは声をかけた。
まだ初対面みたいなものなので、あまり気安く声をかけることはできない。
「……」
と、黙したまま動かない。
着衣している白い法衣は、たしかマホ教と言われる教会のものだったように思う。全身をすっぽりと覆うようなカッコウだ。テルテル坊主みたいだな……と思った。教会の関係者なんだろうか? アリルのような凛然とした雰囲気はなく、だからといってピピのような色気のある感じでもない。可憐な人形みたいだ。動かないから、ますますそう見える。
「あ、あのー」
聞こえていないのかと思って、もう一度そう声をかけた。
「祭りには美味しいものが売られているの? ノウノは質問」
と、尋ねてくる。
人間味のない抑揚のない声音をしていた。
「たぶん」
いままで『新狩祭』に参加したことがないから、わからない。でも、さっきからあちこちから食欲をそそる匂いが流れてきている。
「これで足りる?」
と、ノウノは布袋を開けて見せてきた。なかには金貨が2枚入っていた。
「2ゴールドあるなら、けっこう食べれると思うけど」
「うん。ノウノはうれしい」
ノウノはうなずくと、布袋をたいせつそうに抱きしめて、荷馬車を下りた。アリルに引きずられているピピをハタメに、ノウノは祭りのなかへと入り込んで行く。
「あ、チョットッ」
と、アリルがピピのことを投げ出して、ノウノのことを引きとめていた。なんなんだろうか、このパーティは。
見るかぎり、あまり上手くいっているようには見えない。
アリルのパーティ『黄金の卵』は、前衛剣士のアリルをリーダーに、魔術師とノウノと射手のピピの3人で構成されているらしい。
そこに加えられたのが、オレである。Fランク冒険者のオレが、これに加わったらさらに大変なことになるんじゃないかなぁ……。『黄金の卵』に誘われたのはうれしいが、ヤッパリ辞退しようかなどと考えていた。
アリルはオレのチカラを誤解しているようだし、女性3人のなかにひとり男が入るのは気まずいものがある。
そこに――。
「まさかここに来ているとはな、アリル・クライン。勇者の恥さらしめ」
と、声をかけてきた者がいる。
アリルのことを小馬鹿にするような笑みを浮かべた男だった。
その丘陵の一部に多くの人があつまっていた。さまざまな色のテントが大量に張られており、ラッパや弦楽器の音色にあわせて、人々の笑い声や囃し立てるような声音がひびいていた。
冒険者と思われる者たちが、酒を飲みかわしている。
「ここが『新狩祭』の会場よ」
オレたちは馬車の荷台に乗ってやって来た。
「もっと早く走ってちょーだい」と、アリルが御者を急かしたおかげか、それほど時間はかからなかった。アリルは荷台からピョコンと軽快に跳び下りた。
「はぁ。ワッチはこんな見世物に参加する気分ないんじゃがなぁ」
と、荷台にグッタリともたれかかっている少女がいる。エルフのピピだ。
彼女がアリルのパーティの射手らしい。たしかに背中にはロングボウと矢筒を背負っていた。右手には妙な手袋のような防具をしている。弦を引くための弽だろう。
髪は緑色をしており、目も同様だ。
どことなく森の葉っぱを思わせられるのは、彼女がエルフだからかもしれない。エルフの証拠として、長い耳が髪のあいだから跳びだしていた。着ている服も、葉っぱを継ぎはぎしたような変わった服をしていた。
「のお。コワッパもそう思うじゃろう」
と、ピピはオレに話を投げかけてきた。
ピピの目つきは人の心を穿つかのような鋭さがある。そのせいか、大人びた色気があった。
「え? いや、オレはどっちでも良いんだけど、アリルに誘われたから」
「どうせ『新狩祭』に参加したいから、数合わせで入れられたんじゃろう。断れば良かったものを」
違うわよッ――とアリルが声をあげた。
「レイはただの数合わせじゃないわよ。あのミノタウロスを倒したほどの冒険者なんだから」
アリルの言葉を受けてピピは胡乱な表情でオレを見てきた。値踏みされるような視線がくすぐったい。
「ホントかのぉ。こんなコワッパがミノタウロスを倒せるとは思えんのじゃがなぁ。だいたいミノタウロスを倒せるなら、Fランクなわけなかろう」
もっともだ。
「期待のホープよ。この『新狩祭』でみんなの度肝を抜いてやるんだから」
アリルの興奮とはウラハラに、オレの気持ちは冷めてくる。
いったいオレの何に期待をしてるんだろうか……という気持ちである。実力以上のことを期待されても困る。
オレに魔法の才能があるとアリルは思いこんでいるのだが、そんな才能などカケラもないことはオレが承知している。
「ワッチはパスじゃ。こんな祭りなぞ参加する気もないわ」
と、ピピはソッポを向いた。
「じゃあ、どうしてここまで付いて来たのよッ」
「見物するぐらいなら良いかと思うてな。それに、祭りと言うからには美味いもんが売られてるんじゃろ」
と、ピピは舌舐めずりをした。
真っ赤な舌が唇を這う仕草は、まるで獲物を狙う蛇のようだ。
「いいから来なさいってば!」
と、アリルが嫌がるピピのことを、荷台から強引に引きずりおろしていた。ホントウにパーティを組んでるんだろうか? いったいどういう関係なのか気になる。
「うん?」
と、もうひとりの少女が声をあげた。
ノウノ・ウーレイン。
魔術師らしい。
白銀の髪を長く伸ばしている。目にもまた、髪と同じく白銀の光があった。
荷馬車に乗っているあいだ、正座をしたまま微動だにしなかった。どうやら眠っていたらしい。
「『新狩祭』の会場についたらしいけど」
と、機嫌をうかがうようにオレは声をかけた。
まだ初対面みたいなものなので、あまり気安く声をかけることはできない。
「……」
と、黙したまま動かない。
着衣している白い法衣は、たしかマホ教と言われる教会のものだったように思う。全身をすっぽりと覆うようなカッコウだ。テルテル坊主みたいだな……と思った。教会の関係者なんだろうか? アリルのような凛然とした雰囲気はなく、だからといってピピのような色気のある感じでもない。可憐な人形みたいだ。動かないから、ますますそう見える。
「あ、あのー」
聞こえていないのかと思って、もう一度そう声をかけた。
「祭りには美味しいものが売られているの? ノウノは質問」
と、尋ねてくる。
人間味のない抑揚のない声音をしていた。
「たぶん」
いままで『新狩祭』に参加したことがないから、わからない。でも、さっきからあちこちから食欲をそそる匂いが流れてきている。
「これで足りる?」
と、ノウノは布袋を開けて見せてきた。なかには金貨が2枚入っていた。
「2ゴールドあるなら、けっこう食べれると思うけど」
「うん。ノウノはうれしい」
ノウノはうなずくと、布袋をたいせつそうに抱きしめて、荷馬車を下りた。アリルに引きずられているピピをハタメに、ノウノは祭りのなかへと入り込んで行く。
「あ、チョットッ」
と、アリルがピピのことを投げ出して、ノウノのことを引きとめていた。なんなんだろうか、このパーティは。
見るかぎり、あまり上手くいっているようには見えない。
アリルのパーティ『黄金の卵』は、前衛剣士のアリルをリーダーに、魔術師とノウノと射手のピピの3人で構成されているらしい。
そこに加えられたのが、オレである。Fランク冒険者のオレが、これに加わったらさらに大変なことになるんじゃないかなぁ……。『黄金の卵』に誘われたのはうれしいが、ヤッパリ辞退しようかなどと考えていた。
アリルはオレのチカラを誤解しているようだし、女性3人のなかにひとり男が入るのは気まずいものがある。
そこに――。
「まさかここに来ているとはな、アリル・クライン。勇者の恥さらしめ」
と、声をかけてきた者がいる。
アリルのことを小馬鹿にするような笑みを浮かべた男だった。
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