Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
5.覚醒
「あ、あんた、生きてたの?」
レイ・アーロンが、アリル・クラインの前に立っている。驚愕。死んだはずの人間が立っているのだ。
ミノタウロスの角で、腹を貫かれていたはずだ。その驚愕によって、アリルを縛り付けていた恐怖が吹っ飛んだほどだ。もしやよく似た別人なんじゃないかと疑った。しかし、さきほどまでレイが倒れていた場所には、死体がなくなっている。
(死んだと思ったのは、見間違いだったのかしら?)
レイ・アーロンの背中を確認した。着衣していた布の鎧。穴が開いている。ミノタウロスの角に刺し貫かれた痕に違いない。そこからレイの肌が垣間見える。傷がふさがっていた。鎧が血で濡れているのに、傷がない。世の中には治癒と言われる魔法が存在しているが、それをもってしても致命傷まで治せるわけではない。
(生き返ったの?)
生き返ったことには驚きだが、しかしレイ・アーロンが生き返ったからと言って、状況が好転したわけではない。
依然としてモンスターには包囲されている。ミノタウロスは戦意に燃えている。助けがやってくる気配もない。
「ぶぉぉ――ッ」
と、ふたたびミノタウロスが猛進してきた。
「オレの前で醜い叫び声をあげるな。虫ケラどもめ。魔王ドヴォルハイドの御前だ。ひれ伏せ」
レイはそう言って、魔法陣を展開した。六芒星の赤黒い光が地面から浮きあがった。アリルとレイのふたりを囲む程度の大きさの魔法陣だった。
「あんた魔法が使えたの?」
返答はない。
2重3重と魔法陣が増えてゆく。そして、気づいたときには見渡すかぎりの地面に、魔法陣が浮かび上がっていた。あたり一帯が赤黒くかがやくさまは壮観とすら言えた。こんなに大きな魔法陣を、アリルは今まで見たこともなかった。そのかがやきに魅入られた。
魔法陣の張られた地面から、巨大な蛇のような生き物が生えてきた。大樹のような大きさの蛇だ。しかも目も鼻もない。ただ、大きな口だけが開いていた。モンスターよりも不気味な風体をしている。
その蛇が、周囲のモンスターを食い散らかして行く。モンスターだけではなく、樹木もかまわず貪っていった。モンスターたちは、緑色の血を撒き散らしていった。蛇から逃げようと必死に逃げ回っているが、蛇はどこまでもモンスターたちを追いかけて行く。捕えられたゴブリンは、四肢を引きちぎられたり、食い破られたり――と凄絶たる最期をむかえていた。
モンスターにたいして、かすかな同情をいだいてしまうほどの情景であった。
「な、なによ、この魔法……」
思わずレイの背中にしがみつくようなカッコウになった。
人間が使える魔法は、第3階層魔法までとされている。階層があがるほどに、優れた魔法ということになる。たまに突出した天才とはいるもので、第4階層魔法を使う冒険者をアリルは1人知っている。父のクランに所属している魔術師だ。名をケルニアルと言って、人は彼のことを『神に近き者』と呼ぶ。
しかしこの魔法は――。
そういう次元の人たちに匹敵するレベルなのではないか? いや。あるいはそれ以上……! まさかマホ教の教皇レベルの魔法? もっと上? 神話に登場する神レベルの魔法なのではないか。
無数に生えてくる蛇は、ミノタウロスすら簡単に貪りつくしてしまった。ミノタウロスが装備していたハルバードすら食ったようだ。
(何が起きてるの?)
見ている現象がしんじられなかった。
何度もかぶりを振った。何度も目をコスった。
見間違いではなかった。
あのSランク相当と言われるミノタウロスが、無抵抗に食い尽くされていった。つまりこの魔法を発現しているレイは、Sランク相当の冒険者ということになるのではないか。
さきほどまで頼りなかった背中が、いつの間にかこの上なく頼りがいのある背中になっていた。こうしてしがみついていれば、ゼッタイに安心だという気持ちに満たされた。レイから伝わってくるカラダの温もりが、アリルの恐怖を溶かしてくれた。逆に言うと、レイの背中から身を離せなくなった。この不気味な蛇たちが、いつ、こちらにキバを向けるかわからない。
ついぞ、蛇はモンスターを平らげてしまった。肉も爪も骨も血も残されていなかった――というのはオオゲサな表現ではない。周囲をよくよく見てみると、骨片やら肉片やらが散っているのだが、残りカスのようなものだ。
周囲の木々すら食い尽くされて、まるで焼野原のような案配になっていた。ただ、モンスターの生臭いにおいだけが残っていた。
「ぜ、全員倒した……?」
モンスターの気配がひとつもなくなっていた。
「ぐぅ」
と、うめくような音をたてて、レイがアリルにもたれかかってきた。
「チョ、チョットっ」
あわてて抱きかかえる。
どうやらレイは眠っているようだった。その穏やかな寝顔は、モンスターの大群を迎撃した勇姿の顔とは思えなかった。
しかし、見た。
見間違いではない。
この男は、S級相当のモンスターと言われるミノタウロスをはじめに、オークやゴブリンをたったひとりで倒してしまったのだ。それも、跡形も残らぬほどに。焼野原のようになったこの森の一部がなによりの証拠だ。俯瞰して見たときには、このあたりだけハゲているように見えることだろう。
「ありがとう、ね。助けてくれて」
と、アリルは心の底からそう言った。
レイの腰からつるされている銅色のカギが、目についた。アリルと同じく、Fランク冒険者の証である。
(なんでこの人が、Fランク冒険者なの?)
レイ自身も「Fランク冒険者だ」と名乗っていた記憶がある。しかしどう考えても、Sランク相当の実力がある。
欲しい。
そう思った。
足手まといは必要ないと、あえてパーティに誘うことはしなかった。けれど、この実力ならばパーティに是非とも欲しい人材だ。パーティに入ってくれるなら、何度だって頭を下げる。
(入ってくれるかしら?)
失礼なことを言ってしまった気がする。レイの気分を害するようなことを言ったんじゃないか……とレイとのヤリトリを思い出してみた。たいして辛辣なことは口にしなかったはずだ。
周囲。
まだ周囲にはモンスターが残っているかもしれない。そう何度も奇跡は起こらないだろう。さっさとここから逃げたほうが良い。
レイのことを背負って、森を抜けることにした。レイのカラダから発せられる汗の匂いが、アリルの鼻腔から肺腑にえぐりこんできた。これがアリルを助けた男の匂いなのだ。そう思うと、腹の底が熱せられるような不思議な感覚をおぼえた。
レイ・アーロンが、アリル・クラインの前に立っている。驚愕。死んだはずの人間が立っているのだ。
ミノタウロスの角で、腹を貫かれていたはずだ。その驚愕によって、アリルを縛り付けていた恐怖が吹っ飛んだほどだ。もしやよく似た別人なんじゃないかと疑った。しかし、さきほどまでレイが倒れていた場所には、死体がなくなっている。
(死んだと思ったのは、見間違いだったのかしら?)
レイ・アーロンの背中を確認した。着衣していた布の鎧。穴が開いている。ミノタウロスの角に刺し貫かれた痕に違いない。そこからレイの肌が垣間見える。傷がふさがっていた。鎧が血で濡れているのに、傷がない。世の中には治癒と言われる魔法が存在しているが、それをもってしても致命傷まで治せるわけではない。
(生き返ったの?)
生き返ったことには驚きだが、しかしレイ・アーロンが生き返ったからと言って、状況が好転したわけではない。
依然としてモンスターには包囲されている。ミノタウロスは戦意に燃えている。助けがやってくる気配もない。
「ぶぉぉ――ッ」
と、ふたたびミノタウロスが猛進してきた。
「オレの前で醜い叫び声をあげるな。虫ケラどもめ。魔王ドヴォルハイドの御前だ。ひれ伏せ」
レイはそう言って、魔法陣を展開した。六芒星の赤黒い光が地面から浮きあがった。アリルとレイのふたりを囲む程度の大きさの魔法陣だった。
「あんた魔法が使えたの?」
返答はない。
2重3重と魔法陣が増えてゆく。そして、気づいたときには見渡すかぎりの地面に、魔法陣が浮かび上がっていた。あたり一帯が赤黒くかがやくさまは壮観とすら言えた。こんなに大きな魔法陣を、アリルは今まで見たこともなかった。そのかがやきに魅入られた。
魔法陣の張られた地面から、巨大な蛇のような生き物が生えてきた。大樹のような大きさの蛇だ。しかも目も鼻もない。ただ、大きな口だけが開いていた。モンスターよりも不気味な風体をしている。
その蛇が、周囲のモンスターを食い散らかして行く。モンスターだけではなく、樹木もかまわず貪っていった。モンスターたちは、緑色の血を撒き散らしていった。蛇から逃げようと必死に逃げ回っているが、蛇はどこまでもモンスターたちを追いかけて行く。捕えられたゴブリンは、四肢を引きちぎられたり、食い破られたり――と凄絶たる最期をむかえていた。
モンスターにたいして、かすかな同情をいだいてしまうほどの情景であった。
「な、なによ、この魔法……」
思わずレイの背中にしがみつくようなカッコウになった。
人間が使える魔法は、第3階層魔法までとされている。階層があがるほどに、優れた魔法ということになる。たまに突出した天才とはいるもので、第4階層魔法を使う冒険者をアリルは1人知っている。父のクランに所属している魔術師だ。名をケルニアルと言って、人は彼のことを『神に近き者』と呼ぶ。
しかしこの魔法は――。
そういう次元の人たちに匹敵するレベルなのではないか? いや。あるいはそれ以上……! まさかマホ教の教皇レベルの魔法? もっと上? 神話に登場する神レベルの魔法なのではないか。
無数に生えてくる蛇は、ミノタウロスすら簡単に貪りつくしてしまった。ミノタウロスが装備していたハルバードすら食ったようだ。
(何が起きてるの?)
見ている現象がしんじられなかった。
何度もかぶりを振った。何度も目をコスった。
見間違いではなかった。
あのSランク相当と言われるミノタウロスが、無抵抗に食い尽くされていった。つまりこの魔法を発現しているレイは、Sランク相当の冒険者ということになるのではないか。
さきほどまで頼りなかった背中が、いつの間にかこの上なく頼りがいのある背中になっていた。こうしてしがみついていれば、ゼッタイに安心だという気持ちに満たされた。レイから伝わってくるカラダの温もりが、アリルの恐怖を溶かしてくれた。逆に言うと、レイの背中から身を離せなくなった。この不気味な蛇たちが、いつ、こちらにキバを向けるかわからない。
ついぞ、蛇はモンスターを平らげてしまった。肉も爪も骨も血も残されていなかった――というのはオオゲサな表現ではない。周囲をよくよく見てみると、骨片やら肉片やらが散っているのだが、残りカスのようなものだ。
周囲の木々すら食い尽くされて、まるで焼野原のような案配になっていた。ただ、モンスターの生臭いにおいだけが残っていた。
「ぜ、全員倒した……?」
モンスターの気配がひとつもなくなっていた。
「ぐぅ」
と、うめくような音をたてて、レイがアリルにもたれかかってきた。
「チョ、チョットっ」
あわてて抱きかかえる。
どうやらレイは眠っているようだった。その穏やかな寝顔は、モンスターの大群を迎撃した勇姿の顔とは思えなかった。
しかし、見た。
見間違いではない。
この男は、S級相当のモンスターと言われるミノタウロスをはじめに、オークやゴブリンをたったひとりで倒してしまったのだ。それも、跡形も残らぬほどに。焼野原のようになったこの森の一部がなによりの証拠だ。俯瞰して見たときには、このあたりだけハゲているように見えることだろう。
「ありがとう、ね。助けてくれて」
と、アリルは心の底からそう言った。
レイの腰からつるされている銅色のカギが、目についた。アリルと同じく、Fランク冒険者の証である。
(なんでこの人が、Fランク冒険者なの?)
レイ自身も「Fランク冒険者だ」と名乗っていた記憶がある。しかしどう考えても、Sランク相当の実力がある。
欲しい。
そう思った。
足手まといは必要ないと、あえてパーティに誘うことはしなかった。けれど、この実力ならばパーティに是非とも欲しい人材だ。パーティに入ってくれるなら、何度だって頭を下げる。
(入ってくれるかしら?)
失礼なことを言ってしまった気がする。レイの気分を害するようなことを言ったんじゃないか……とレイとのヤリトリを思い出してみた。たいして辛辣なことは口にしなかったはずだ。
周囲。
まだ周囲にはモンスターが残っているかもしれない。そう何度も奇跡は起こらないだろう。さっさとここから逃げたほうが良い。
レイのことを背負って、森を抜けることにした。レイのカラダから発せられる汗の匂いが、アリルの鼻腔から肺腑にえぐりこんできた。これがアリルを助けた男の匂いなのだ。そう思うと、腹の底が熱せられるような不思議な感覚をおぼえた。
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