Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

4.アリル・クライン

(まぁ、Fランク冒険者にしては、勇気だけはあったわね)
 と、アリル・クラインは思った。


 もう少し強ければ、パーティに誘ってもよかった。だが、足手まといを仲間にくわえる気はなかった。ただでさえ、問題児だらけのパーティなのだ。


 レイ・アーロンと名乗った男の肉体は、ミノタウロスの突進をマトモに受けた。ミノタウロスの角がレイの腹にふかぶかと突き刺さった。死んだな。確認する間でもない。レイの肉体が宙に放り投げられていた。放り捨てられたと言うべきか。血を宙に撒き散らしていた。


 ミノタウロスが、勝鬨をあげるかのように吠えた。それにあわせて、周囲にいたゴブリンやオークもけたたましく叫んだ。血なまぐさい喧騒である。
みじかい付き合いだったが、レイの死には静かな痛みがあった。


「ふーっ」
 と、恐怖を吐きだすかのように、呼吸を吐きだした。


 全身が逃げ出したいという気持ちに駆られている。


 間違いなく勝てない。挑むのはバカらしいことだ。だが、逃げることすら許してはくれなさそうだ。オークたちは性欲が強く、女を殺す前に凌辱すると聞いたことがある。逃げるどころか、楽に殺してくれるかすらわからない。


 それでも――。


「敵に背中を向けることだけは、私の矜持に反するッ。せめて勇者の娘に恥じぬように散って見せるッ!」


 剣を向けた。
 父――勇者。


 冒険者のなかで最強の称号を冠する者につけられる称号だ。アリルは父にあこがれて冒険者になった。


 その道は順風満帆とは言えなかった。すこし前には、とある冒険者パーティから役立たずと追放されたところだ。ひとつ、父の顔に泥を塗ってしまった。


 だから、名誉を挽回したかった。


 此度の『新狩祭』を、その機会にしようと思っていたのだが、出場すらかなわなかった。


「ぶぉぉ――ッ」
 と、ミノタウロスが突進してくる。


 その角先には血が付着していた。レイ・アーロンのものだろう。ミノタウロスが1歩踏み出すたびに、土砂が派手にしぶきをあげていた。大地そのものが揺れているようにしら感じる。


(どうする?)


 右に転んでかわすか? 左に転んでかわすか? それともジャンプしてミノタウロスの頭上を跳び越えるか? しかし、そのどれも出来なかった。自分でも思いのほか恐怖に駆られていたのだ。


 足が震えている。
 死が、正面から迫ってくる。


(私は勇者の娘、私は勇者の娘。ブザマなマネだけは出来ないッ)


 心のなかでそう叱咤してみるものの、剣先が恐怖で震えるのを止めることはできなかった。


「厭だ」


 死にたくない、死にたくない、死にたくない。


 勇猛であることをかたく誓ったにもかかわらず、ミノタウロスの突進を前にすれば、その決意はもろくも崩れ去った。


 自分よりもはるかに強大な存在が、禍々しい存在が、突っ込んでくるのだ。怖れ怯えることを、誰が責められようか。アリルの怯懦をあざ笑うがごとく、周囲のモンスターたちが不気味な声をあげていた。


 こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
 父に――。
 お前は立派な冒険者だ、とホめてもらうまでは、死にたくない。


「お父さんっ」
 そう呟いて、目を固く閉ざした。


 来るべき痛みにそなえて、身を固くしていた。しかし、いつまでたっても痛みは襲って来ない。よもや慰み者にするために、人質にするつもりなのだろうか、オークに弄ばれることをかんがえると、身の毛がよだつ。マブタひとつ開けるのにも、気持ちを鼓舞する必要があった。


 信じられない光景が跳びこんできた。


 アリルの目の前にあったのは、ミノタウロスの角でもなければ、オークの下卑た顔でもなかった。


 レイ・アーロンの背中だった。

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