Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
1.魔界門
「ふぅ」
と、袖でひたいに浮いた汗をぬぐった。
指先は青くなっていた。布袋。人の顔ぐらいの大きさがある。ドッサリと青々しい葉っぱが詰め込まれている。鼻がもげるかと思うほど青臭い。回復草だ。
これを冒険者組合に持ち込めば、5シルバーぐらいにはなるはずだ。パンとジャガイモぐらいは買える。欲を言えばバターも欲しい。もうすこし回復草を摘んで帰ったほうが良いかもしれない。
「あ、痛たた……」
ずっと屈んで回復草を摘んでいたせいで、腰に痛みをおぼえた。右手の甲で背中をさすった。もう少し稼ぎが欲しいところだが、持ち帰ることをかんがえると、今日はこれぐらいで引き上げたほうが良さそうだ。
立ち上がる。
「うーんっ」
と、思いきり伸びをした。
全身の筋肉がほぐれていく感覚があった。
周囲。森。
このあたりだけ陽光がさしこんでいるのは、湖があるからだ。こんな森のなかに湖があるなんて、つい最近まで知らなかった。ひと気がない。あまり人に知られていないのだろう。回復草が生い茂っているということは、いまだ冒険者たちに踏み入られていない証拠でもある。
「ふふん」
と、思わず笑みがコボれる。
良い場所を見つけた。
回復草は水辺に茂る。Fランク冒険者にとっては、貴重な資金源だ。いずれ他のFランクも群がってくることを思うと、ヤッパリもうすこし摘み取っておいたほうが良いかもしれない。
ガサガサ……
すぐ後ろで、茂みの揺れる音がした。モンスターか。脇に置いていた、ロングソードを手に取った。冒険者になってからコツコツと貯めて買ったものだ。
ヒョウシヌケ。
出てきたのは全裸の少年だった。湖で水浴びでもしようとしていたのだろうと察しがついた。
「すまない。モンスターかと思ったんだ」
抜いたロングソードを革の鞘にしまった。
「……」
少年のほうも、まさか人がいるとは思わなかったようで、唖然とした様子でその場に立ち尽くしていた。
おのずとその裸体を、オレはマジマジと見つめることになった。少年? いや。よく見ると少年にしては肌がキレイすぎる。まるで牛乳の表面のような肌をしていた。体躯も筋肉質ではあるが、肩や腕には独特な丸みがあった。しかもよくよく見てみると、胸元がつつましくふくらんでいる。
「あ……」
少年ではない。
これは――。
少女だ。
見てはいけないものを見てしまったような気になった。背中に冷たいものがつたう感触をおぼえた。
少女のほうも何が起きたのか理解が遅れたようで、しばし立ち尽くしていた。
「きゃっ」
事態を把握したようで、サッと顔を赤らめると、茂みのなかに身を引っ込めていた。
「いや、ゴメンッ。な、なにも見てないからッ」
「ウソ! ぜったいウソ! ガン見してたじゃないッ!」
と、茂みから怒声が跳んできた。
勝手に全裸で出てきておいて、怒られるのは不本意ではあるが、たしかにガン見してしまったことは否めない。女性の肌というのは、あんなにもキレイなものなのかと思い起こすと感動すらおぼえる。
「見てたけど、でも、わざとじゃないし、事故だから」
「湖に入ろうと思ってただけなんだからッ。べつに変な意味で脱いでたんじゃないからねッ。そこは誤解しないでよッ」
「わかってるって」
少女は服を着なおすと、ふたたび茂みから出てきた。
布の鎧を身にまとっていた。厚みのある布だ。冒険者たちがよく装備しているもので、オレも同じものを身に着けている。
一見したときに、どうして少年だと思ってしまったのかフに落ちた。
ブロンドの髪をみじかくしていた。その双眸にやどる青い虹彩は見惚れるほどだが、男らしい威勢の良さが顔立ちに出ていた。クッキリとした二重まぶたや、つりあがった眉には凛然としたものがあった。裸を見ていなければ、少年だと勘違いしたままだったろう。
照れ臭くてマトモにその顔を見かえすことが出来なかった。おのずと視線を下げることになるのだが、少女の腰にぶらさがっている銅色のカギが目についた。Fランク冒険者の証。
「私はアリル・クライン。そっちは?」
憮然とした調子でたずねてきた。
「オレはレイ・アーロン」
「いつも人がいないのに、どうして今日にかぎっているのよ」
と、少女――アリルはとがめるような口調でたずねてきた。
短くしてあるブロンドの髪を弄るさまは、気恥ずかしさを紛らわせるための所作に見えた。
「つい最近、この場所を見つけたんだ。回復草を摘んでいたところだ」
「そっちもFランク冒険者なのね」
「お互いさまだろ」
どうやらオレ以外にも、この場所を知っている冒険者がいたらしい。すこしガッカリしてしまった。
「さっき見たことは、忘れなさいよ」
顔を合わせると、少女は顔を赤らめてうつむき気味にそう言ってきた。居たたまれなさそうに左右にゆれている。
「忘れるよ」
たぶん二度と記憶から消せないだろうが、そう言っておいた。
イキナリ全裸で出てきたのはそっちなんだ。オレは悪いことをしたわけじゃないだろ――と弁解しようと思ったがヤめた。潔くないような気がした。
「何してたの?」
「見ての通りだよ。回復草を摘んでたんだ」
オレがかつぎあげた布袋の中身を、アリルは覗きこんだ。
「Fランク冒険者なら、早く帰ったほうが良いわよ。日が暮れるとモンスターの残党が出てくるから」
「今から帰ろうと思っていたところだよ」
ホントウはもうすこし回復草を摘んで帰ろうか迷っていたのだが、これ以上は、居たたまれない。
バシャーンッ
トツゼンだった。
水しぶきが盛大に吹き上がった。篠突く雨のごとくオレの頭上に水がふりかかった。全身が濡れる。
湖のなかから巨大なトビラが生えていた。そのトビラの大きさたるや、まるで城門棟である。門は黒々としており、装飾のないツルリとした外観をしていた。湖のあたりには茂みに天を隠されていないため、日差しがさんさんと降り注いでいた。その陽光をまっこうから受けて黒々とかがやいている。
門。
ギィィィ……ッ
と死神の叫び声のような音をあてながら、両開きに開いてゆく。
「ウソ……。まさかここに魔界のトビラが開くなんてッ」
「逃げるぞッ」
と、オレはアリルの腕をつかんだ。
と、袖でひたいに浮いた汗をぬぐった。
指先は青くなっていた。布袋。人の顔ぐらいの大きさがある。ドッサリと青々しい葉っぱが詰め込まれている。鼻がもげるかと思うほど青臭い。回復草だ。
これを冒険者組合に持ち込めば、5シルバーぐらいにはなるはずだ。パンとジャガイモぐらいは買える。欲を言えばバターも欲しい。もうすこし回復草を摘んで帰ったほうが良いかもしれない。
「あ、痛たた……」
ずっと屈んで回復草を摘んでいたせいで、腰に痛みをおぼえた。右手の甲で背中をさすった。もう少し稼ぎが欲しいところだが、持ち帰ることをかんがえると、今日はこれぐらいで引き上げたほうが良さそうだ。
立ち上がる。
「うーんっ」
と、思いきり伸びをした。
全身の筋肉がほぐれていく感覚があった。
周囲。森。
このあたりだけ陽光がさしこんでいるのは、湖があるからだ。こんな森のなかに湖があるなんて、つい最近まで知らなかった。ひと気がない。あまり人に知られていないのだろう。回復草が生い茂っているということは、いまだ冒険者たちに踏み入られていない証拠でもある。
「ふふん」
と、思わず笑みがコボれる。
良い場所を見つけた。
回復草は水辺に茂る。Fランク冒険者にとっては、貴重な資金源だ。いずれ他のFランクも群がってくることを思うと、ヤッパリもうすこし摘み取っておいたほうが良いかもしれない。
ガサガサ……
すぐ後ろで、茂みの揺れる音がした。モンスターか。脇に置いていた、ロングソードを手に取った。冒険者になってからコツコツと貯めて買ったものだ。
ヒョウシヌケ。
出てきたのは全裸の少年だった。湖で水浴びでもしようとしていたのだろうと察しがついた。
「すまない。モンスターかと思ったんだ」
抜いたロングソードを革の鞘にしまった。
「……」
少年のほうも、まさか人がいるとは思わなかったようで、唖然とした様子でその場に立ち尽くしていた。
おのずとその裸体を、オレはマジマジと見つめることになった。少年? いや。よく見ると少年にしては肌がキレイすぎる。まるで牛乳の表面のような肌をしていた。体躯も筋肉質ではあるが、肩や腕には独特な丸みがあった。しかもよくよく見てみると、胸元がつつましくふくらんでいる。
「あ……」
少年ではない。
これは――。
少女だ。
見てはいけないものを見てしまったような気になった。背中に冷たいものがつたう感触をおぼえた。
少女のほうも何が起きたのか理解が遅れたようで、しばし立ち尽くしていた。
「きゃっ」
事態を把握したようで、サッと顔を赤らめると、茂みのなかに身を引っ込めていた。
「いや、ゴメンッ。な、なにも見てないからッ」
「ウソ! ぜったいウソ! ガン見してたじゃないッ!」
と、茂みから怒声が跳んできた。
勝手に全裸で出てきておいて、怒られるのは不本意ではあるが、たしかにガン見してしまったことは否めない。女性の肌というのは、あんなにもキレイなものなのかと思い起こすと感動すらおぼえる。
「見てたけど、でも、わざとじゃないし、事故だから」
「湖に入ろうと思ってただけなんだからッ。べつに変な意味で脱いでたんじゃないからねッ。そこは誤解しないでよッ」
「わかってるって」
少女は服を着なおすと、ふたたび茂みから出てきた。
布の鎧を身にまとっていた。厚みのある布だ。冒険者たちがよく装備しているもので、オレも同じものを身に着けている。
一見したときに、どうして少年だと思ってしまったのかフに落ちた。
ブロンドの髪をみじかくしていた。その双眸にやどる青い虹彩は見惚れるほどだが、男らしい威勢の良さが顔立ちに出ていた。クッキリとした二重まぶたや、つりあがった眉には凛然としたものがあった。裸を見ていなければ、少年だと勘違いしたままだったろう。
照れ臭くてマトモにその顔を見かえすことが出来なかった。おのずと視線を下げることになるのだが、少女の腰にぶらさがっている銅色のカギが目についた。Fランク冒険者の証。
「私はアリル・クライン。そっちは?」
憮然とした調子でたずねてきた。
「オレはレイ・アーロン」
「いつも人がいないのに、どうして今日にかぎっているのよ」
と、少女――アリルはとがめるような口調でたずねてきた。
短くしてあるブロンドの髪を弄るさまは、気恥ずかしさを紛らわせるための所作に見えた。
「つい最近、この場所を見つけたんだ。回復草を摘んでいたところだ」
「そっちもFランク冒険者なのね」
「お互いさまだろ」
どうやらオレ以外にも、この場所を知っている冒険者がいたらしい。すこしガッカリしてしまった。
「さっき見たことは、忘れなさいよ」
顔を合わせると、少女は顔を赤らめてうつむき気味にそう言ってきた。居たたまれなさそうに左右にゆれている。
「忘れるよ」
たぶん二度と記憶から消せないだろうが、そう言っておいた。
イキナリ全裸で出てきたのはそっちなんだ。オレは悪いことをしたわけじゃないだろ――と弁解しようと思ったがヤめた。潔くないような気がした。
「何してたの?」
「見ての通りだよ。回復草を摘んでたんだ」
オレがかつぎあげた布袋の中身を、アリルは覗きこんだ。
「Fランク冒険者なら、早く帰ったほうが良いわよ。日が暮れるとモンスターの残党が出てくるから」
「今から帰ろうと思っていたところだよ」
ホントウはもうすこし回復草を摘んで帰ろうか迷っていたのだが、これ以上は、居たたまれない。
バシャーンッ
トツゼンだった。
水しぶきが盛大に吹き上がった。篠突く雨のごとくオレの頭上に水がふりかかった。全身が濡れる。
湖のなかから巨大なトビラが生えていた。そのトビラの大きさたるや、まるで城門棟である。門は黒々としており、装飾のないツルリとした外観をしていた。湖のあたりには茂みに天を隠されていないため、日差しがさんさんと降り注いでいた。その陽光をまっこうから受けて黒々とかがやいている。
門。
ギィィィ……ッ
と死神の叫び声のような音をあてながら、両開きに開いてゆく。
「ウソ……。まさかここに魔界のトビラが開くなんてッ」
「逃げるぞッ」
と、オレはアリルの腕をつかんだ。
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